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恋愛仲介部
作:MOR



恋愛仲介部の設立1



何事も無く一日を終えて後は帰るだけという状況になり、特にすることも無いので
俺はそそくさと帰ることにする。鞄を持ち教室を出ようとした時、そいつは俺の前に立ちふさがった。
「話がある」
剣幕な顔つきでそいつはそう言い放って俺のブレザーを掴み走る。
「ちょっ、ちょっと待て…なんなんだよ」
いきなりクラスメイトを捕まえて、どこへ連れて行こうというのだ。
えっと…こいつの名前は……わからん…ちゃんと自己紹介を聞いておくべきだったな…。
そいつは俺を引っ張ったまま校門を出て、グランド脇の部室練へとやって来た。
「部室練…?」
一体ここで何よしようってんだ…まさか俺を拉致って家族に高額な身代金を請求する訳ではなかろうな…。

止まる暇も無く、俺はそいつの後をついて行く、と言うか引っ張られてるんだけどな…。
部室練に入り、古ぼけた階段を上がり、一番端の部屋にたどり着く。
この部屋だけ妙に古ぼけた感じがする。
どうやら新校舎を建築する前に出来た建物らしい。
「入れ」
俺は言われるままに(半ば強引に)その部屋に入る。

中は俺の予想を上回る以上に汚い空間が広がっていた。
部室と言うか既に物置状態。
「……なんだこりゃ…」
これが部室と言える部屋なのだろうか?
俺が呆気に取られていると
「見ての通り、物置だ…だが片付ければ部室として使えるそうだ」
奴は部屋を一通り見渡してから俺に視線を戻してそう言った。
部室ねぇ…そりゃまた何の?
「片付けを手伝ってくれ」
話がまるでかみ合っていない、奴はどこからか箒とチリトリを取り出し俺に手渡す。
「片づけなら自分でやれ…俺は忙しいんだ…じゃな」
俺は奴に背を向け部屋を出ようとするがドアが開かない…。
「立て付けが悪いんだ…」
そう言って奴は近くにあった教員用と思われる椅子に腰掛けた。
お前が手に持ってる鍵はなんなんだ…。
くそう…掃除をしないと帰れないってことか…。
「…わかった、掃除を手伝ってやってもいい…でも何で俺なんだ?掃除なら他の奴にでも頼めばいいだろ」
真面目な文科系少年とかにな。
「お前は俺が実行するプロジェクトの人員に大抜擢されたんだ」
頭がおかしいのだろうか…。
そんなことを思っていると奴は近くに備えてあったホワイトボードに
黒マジックで字を書き始めた。
「何々…恋愛仲介部」
奴は誇らしげに胸を張る。
「そう…今の日本は少子化が問題とされている」
「それで?」
今のこの状況と何の関係があるんだか…。
「だから…我々の手でそれを解決してやろうと言う訳だ…どうだ、画期的なアイデアだろう」
…我々?それって俺も入ってるのか?つーかそれで一攫千金でも狙う気かお前は…。
「…千歩譲ってその恋愛なんたらの部活を作ったとしよう…で、具体的には何をするんだ?」
「………」
奴は黙り込んでいる、もしかしてノープランだったのか?
「それをお前が考えるんだろ」
とってつけたように言うが、俺はそもそも無関係だ…それなのに俺にそんな主権を握らせていいのか?
「まぁ…それは後で考えよう、とりあえず部室の片付けは後回しにして、まずは部員を勧誘しに行くか」
奴はそそくさと去っていてしまった、俺は放置ですか?
鍵も開いたことだし俺は帰るとしよう…これ以上ここにいる理由は無いからな。
鞄を持ち、部室を後にする、どうかもうこの部室に来ることがありませんように…一応、神に祈っておこう。

翌日、俺が布団の中で寝息を立てていると騒々しく携帯が鳴り出した。
時計を見ると現在時刻は六時。
…おかしいな、目覚ましが鳴るには少し早いだろ…。
寝ぼけ眼で携帯を手に取ると着信だった、しかも知らない番号
少し放って置けば切れるだろうと思い、俺は再び眠りの中へ…。

…………。

あれから十分たった…携帯は鳴り続いている。
しつこい奴だな…仕方なく通話ボタンを押し電話に出る。
「もしもし…」
「やっと出たか…遅刻だぞ、早く学校へ来い」
声から察するに昨日のあいつだ…こんな朝早くから何の用だ…?
「何言ってやがる…今は六時だぞ…全然余裕だ」
登校に費やす時間は約20分程度…普通に間に合う。
「…朝練だ」
…俺の耳がおかしいのか奴の頭がおかしいのかは分からないが…朝練…何の?
「恋愛仲介部のだ…昨日の部室にいる…早く来いよ」
言いたいことを言い終えると奴は電話を切ってしまった。
てか…なんで俺の携帯番号を知ってるんだ?

学校に着くと奴は机に突っ伏して寝ていた。
よかった…朝練とやらに行かなかったことをどうこう言われるんじゃないかと思っていたからな。

やがて先生が到着し、朝のホームルームが始まった。
今日も午前授業で午後には帰れるらしい…今日は昨日みたいに奴に捕まる前にさっさと帰ってしまおう。

…が、帰りのホームルームが終わり、帰る準備をしようと配布されたプリントを鞄に入れようと思ったが
机の横に掛けて置いたはずの鞄が無い……まさか
案の定と言うか予想通り、俺の鞄は例の恋愛仲介部の部室にあった…。
なぜ…?、まぁ考えなくても犯人に心当たりはあるのだが…
しかし、部室に入ると昨日とは景色が一変していた。
「なっ…」
「どうだ、驚いたか?」
俺が唖然としていると奴が俺の後ろから現れた。
「今日の朝に部室改造計画を行ったのだ」
なんだその「参加できなくて悔しいだろ」と言ってる様な態度は…
「…それよりもこの豪華っぷりは何なんだ?学校の備品じゃ無いだろ」
座り心地の良さそうなソファー、液晶テレビ、パソコン、冷蔵庫、冷房機器…
ここで暮らせるんじゃないかと思うくらいの豪華さだ…。
「昨日、部員勧誘のついでにそろえてきたんだ」
ついでって…そんな簡単に言うけど、これ一式揃えるのにいくらかかったんだ?
「お前の席はあそこだ」
奴は俺をパソコンデスクに座らせる。
随分座り心地のいい椅子だ、このもたれる感じがたまらない…。
こんな椅子が家にもあれば良いんだけどな…って何くつろいでんだよ俺は…。
「…帰る」
付き合ってられん。
俺は鞄を持ち、ドアノブに手を掛ける。
「キャッ」
ドアを開けると女の子が立っていた。
「遅かったな神崎、集合は放課後になって直ぐの筈だぞ」
奴は困ったように腕を組み溜息をつく。
「すみません…掃除があったので…」。
茶髪で長い髪の彼女は恐縮そうに頭を下げる、きっと良い子だ…誰かと違って。
「まったく…」
奴はそう言ってソファーに腰掛ける。
「……えっと…」
彼女は俺のことを不思議そうに見ている、そりゃそうか、こんな変な場所に居る学生は珍しいよな。
…って、ちょっと待て…彼女は何でここに来たんだ?
あいつとも知り合いみたいだし。
「紹介しよう、副部長だ」
俺をさっくりと説明する。
「…ああ、副部長さんだったんですね…」
…いや、違うんですけど…と、言う暇も無い、まぁ言ったところでややこしくなるだけだが…。
「初めまして…神崎です…えっと…一年生です」
彼女は少しはにかみながら自己紹介をする。
「…なぁ、このお嬢さんとは一体どういう関係なんだ?」
一応、聞いておこう、彼女だったら俺は即時撤退しよう、邪魔するのもなんだし…第一ここに長居はしたくないしな…。
「部員」
はて…?聞き違いかな?このなんとも清楚で可愛らしいお嬢さんがお前の恋愛なんたら部に入ったって事か?
「まさかさらって来た訳では無いだろうな…」
そんなことしてたら俺まで共犯にされかねん。
「違うぞ、ちゃんと了解を得てつれた来たんだ」
お前のことだろうから、その了解とやらも自分の心の中で勝手に済ませたのだろう。
「あのぉ…お茶入れましょうか?」
彼女は言い合っている俺らに向かい遠慮がちにそう言った、遠慮なんかしなくてもいいですよ…悪いのは全部こいつですから。
「大丈夫だ、そんなことはそこの家政婦がやってくれる」
そうそう…って誰が家政婦だっつーの…

何故こうなってしまったのかわからないが俺はお茶を入れている。
俺…本当に何やってんだ?
「あれ…湯飲みが五つあるぞ…俺と神崎さん、それとお前で三つでいいんじゃなかったのか?」
「何馬鹿な事言ってるんだ?さっきから居るだろ」
部屋の端を指差す。
部屋の隅には一人の男子学生が体育座りで座っていた…。
「まったく…気づかなかった」
男子学生はゆらりと立ち上がる。
「いいんです…気にしてないですから…」
男子生徒はパッとしない顔で微笑む。
「…いつからここに居たんだ?」
とりあえず聞いておこう…もしかしたら自己紹介の手間が省けるかもしれん。
「……最初からです…」
影が薄いのか、この部屋が豪華すぎて君が目立たないのか…どちらにせよ暗い少年だって事は分かる。
「彼は影島、地味すぎて、いても居なくても気づかない奴だ」
その言い方は酷過ぎだろう…まぁ間違って無いのが悲しいなぁ…。
彼は自分の湯飲みを取ると部屋の隅っこへと戻っていった…隅が好きなのか?
それと…なんか帰れる雰囲気じゃ無くなって来たな。
とりあえず定位置と言われたパソコンデスクの前に腰掛ける
「全員そろって無いが…まぁいい取り合えず会議を始める」
何の会議だか俺に予想がつくわけが無いのは言わなくても分かるよな…
「まず我々の事を全学年に伝えるために活動申請書を委員会に提出したい」
ちょっと待て…部活とか言ってるのに申請書を提出してなかったのか?
奴は俺に申請書を渡す。
「これは?」
「申請書、明日までに書いておいてくれ」
どうして俺がそんなことをせねばならん。
「それが副部長の務めだ」
好きでなったんじゃないけどな…て言うか了承した覚えは無い。
しかしこいつの脳内では既に俺は副部長として認識されているのだろう。
俺が何を言っても無駄そうなので仕方なく鞄から筆箱を取り出しシャーペンで下書きをする。
えっと…活動目的か…。
「この部活の活動って何なんだ?」
俺が知るわけも無いので自称部長に聞いてみることにしよう、俺が奴に尋ねると。
「恋愛仲介」
そのままの答えが返ってきた、そもそもそんなことはどこぞの結婚相談所とかに任せて置けよ
高校生がいちいち取り組む奉仕活動じゃ無いんだからさ。
でもまぁ適当に書いておけば先生方も承認しないだろ。
部活さえ出来なければもうこんな所に来る必要も無い。

俺は適当に書き終えて用紙を奴に渡す。
「よし…じゃあこれは俺が提出して置こう」
奴は自分の鞄に申請書をねじ込んだ。
「今日はこれで解散だ、また明日」
そういい終えると奴は自分の責務をまっとうしたかのように部室を後にした。
取り残された俺と神崎さんと影島…。
「えっと…どうしましょう」
神崎さんは俺を見る、どうしましょうかね…。
「僕は帰ります」
聞こえるか聞こえないかはっきりしない声で影島が呟いた。
そしてのそっと立ち上がり部室を後にした。
「俺達も帰りましょうか…」
ここにこれ以上長居する理由も無いので俺も鞄を持ち部室を後にすることにしよう。
でも、鍵は閉めなくていいのか?

俺と神崎さんは二人で通学路を歩いていた。
周りから見れば恋人同士に見えるんじゃないか?
と、思うくらいのベストな位置取りだ。
「あっ…待ってください」
歩幅を調節しないと置いていってしまう。
俺は少し立ち止まり彼女の歩幅に合わせる。
「しかし、以外ですね…あなたみたいな人がこんな部活に入るなんて」
疑問に思っていたことを聞いて置こう。
「…その…昨日、部長さんに誘われたんです…一緒に部活をやらないかって…」
彼女は意外なことを聞かれて戸惑っているようだった。
でも、よかった…拉致って無かったんだな…。
「それで了承したんですか?」
「えぇ…家に帰っても暇ですし…それなら部活でもしようかなって…」
でも、この部活は…普通の部活とは思えませんよ。
「でも、面白そうじゃないですか…恋愛仲介って」
男の俺では微妙だが、やっぱり女の子はそういうのが面白いのかな…?
男と女の感受性の違いに驚きを垣間見る。
「そうですか…」
「貴方は何でこの部活に入ったんですか?」
神崎さんは上目づかいに聞いてくる。
その聞き方は反則ですよ、そういうのは二人きりの時にしてください、あ…今がそうか。
「無理やりと言うか…何と言うか…」
実際無理やりだしなぁ…。
「?」
彼女は不思議そうに首を傾けている。
「まぁ面白そうだからってのもありますけどね…」
普通の部活と比較した場合だが。
「これからよろしくね」
彼女は俺に握手を求める、とりあえずフレンドリィに。
「はい」
俺は握手を返す。
こんな可憐な少女となら仲良くしといて損は無いだろう。
でも、これで後戻りは出来なくなってしまった…。
まぁ少しくらいなら奴の茶番に付き合うのも良いだろう。
「じゃあ私こっちなんで…」
彼女は交差点を右に曲がる。
「また明日」
手を振りながらサヨナラだ…小学生以来だよ、こんなことをする人を見るなんて
また明日と言われたからには明日も部活に行かないとなぁ…。
ま、しばらくは楽しませてもらうさ、申請書が却下されるまでの間だけだけどな


二日後、俺は愕然としていた…なぜならば俺の書いたつっこみ所満載の申請書が
生徒会に承認されてしまったからだ。
俺は自分の目を疑い、そして事実にただ呆然とするだけだった。
これはなんかの陰謀か?
「どうしたんですか?…貴方の番ですよ」
「あ、すいません…」
俺達は奴が来るまで部室で待機するように言われていた。
することも無いので影島がトランプを持って来た、時間つぶしにやることにしよう。
と、言うわけで定番のババ抜きをやっている。
俺は神崎さんの手からトランプを一枚引く。
おっと…ジョーカーだ…。
俺は手持ちのカードの適当な所に混ぜる。
「考え事ですか?」
神崎さんは影島からトランプを引き、俺に尋ねる。
「まぁ…」
考えもするさ…一体どういうカラクリなんだ?
あんな適当な申請書が承認されるなんて…。
「やったぁ、あがりです」
神崎さんは引いたカードと自分の手持ちを照らし合わせ嬉しそうにしている。
よかったですねぇ…そして勝負は俺と影島の一騎打ちとなった。
影島は俺からカードを引く。
よしっ…。
影島はジョーカーを引き当てて浮かない顔をしている。
顔に出すぎだろ…引いたカードがジョーカーってすぐにわかるぞ。
そして手持ちと混ぜる。
さて…右か…左か…。
その時、勢い良くドアが開かれた。
「待たせたな」
奴は鞄を置き、自分の机に座る。
「茶」
奴は単語だけを言う、偉そうだな全く…。
俺は仕方なく立ち上がりお茶を入れてやる。
奴は茶を一気に飲み干すと。
「トランプなんかやってる場合じゃないぞ」
そう言って俺からトランプを取り上げた。
やれやれ…決着は次に持ち越しだな。
「すみません、急を要するもので…」
そして俺の後ろに何やら美青年が立っていた…誰だ?
「叶野、準備だ」
叶野と呼ばれた美青年はマジックボードにサラサラと字を書き込んでいく。
何々…目標?
叶野と呼ばれた美青年はマジックを置き説明を始める。
「これから目標を決めたいと思います」
なんだ?いきなり入ってきたと思ったら仕切りだしたぞ…。
「ちょっと待て…目標ってなんだ?…それにお前は一体…?」
すると彼は爽やかな笑みを見せて。
「これは失礼しました…僕の名前は叶野この部の書記を勤めさせてもらってます、以後お見知りおきを」
書記?
「そういうことだ」
奴は腕を組みながら椅子に座っている。
そういうこと?一体どういうことなんだか…。
お前はもう少し人に分かりやすく物事を説明することを覚えた方が良いぞ。
「続きをしてもよろしいですか?」
叶野が割って入る。
どうぞどうぞ…ご勝手に。
「では説明します、目標と言うのは活動内容のことなんですが…貴方の書いた申請書には確か恋愛仲介と書いてありましたね」
ああ…だって恋愛仲介部だからな。
具体的に何をすれば良いのかは知らんが。
「それで具体的にはどういった形で仲介をなさるおつもりですか?」
そんなことを考えてるわけが無い、元々却下覚悟で申請書を書いたんだからな。
「やはりそうですか…」
叶野は悟ったかの用に微笑する。
なんかこいつとは仲良くなれる気がしない…。
「それで僕からの提案なんですが、依頼を募集したらどうでしょうか?」
叶野は俺ではなく、奴に向かい言う。
「よし、それでいこう」
…ちょっとは考えてから返答しろ。
「考えている間に手遅れになったらどうする」
一体何が手遅れになるんだ…。
「話を戻してもよろしいでしょうか?」
いちいち敬語を使うな…同じ一年の癖に…。
それと話は俺を無視して勝手にやってくれ。
「募集はポスターを校内に貼ればいいでしょう…どの道、仲介と言っても依頼者の気持ちを我々が伝えればいいだけだと思うんですが」
「気持ちは自分で伝えるのが一番じゃないのか?」
「内気な方はどうしろと?気持ちを伝えられないほうが酷なのではないですか?」
くっ…ああ言えばこう言う奴だ…。
「どちらにせよ活動をしなければいけないのは確かです…それとも貴方はこの部活が潰れた方がいいのですか?」
一向に構わんよ…潰れようが潰れまいが俺には関係ないね。
叶野は肩をすくめ。
「最終決断は部長に委ねるとしましょう」
そして奴の反応を見る。
「叶野の意見でいこう、それで目標ノルマは二人の仲介、実績を立てて我が部の存在を知らしめるのだ」
奴は真面目な顔でそう言った。
と、言ってもなぁ…。
「では役割を分担しましょう、神崎さんと影島君はポスター作成をしてください」
確かに…この二人は事務向きかもな…。
叶野は持っていた画用紙と油性マジックを神崎さんに手渡す。
「お前達は何をやるんだよ」
まさか、何もしないとか言うんじゃないだろうな。
「僕はポスターの告知のために放送部に掛け合ってきます、部長は印刷室の使用許可を貰ってきてください」
まぁテキパキと…出来た少年だねぇ…。
「では各自仕事にかかれっ」
奴の号令とともに奴と叶野は部室を後にした。
神崎さんは戸惑った表情で。
「どうしましょう…?」
どうしましょうかねぇ…俺も聞きたいですよ。

俺は特にやることを言われてなかったので神崎さんを手伝うことにした。
「その…黄色のマジックを取ってください…」
神崎さんは遠慮がちに言う。
俺は黄色マジックを取り神崎さんに手渡す。
「ありがとう…」
神崎さんはカラフルなマジックを使い可愛らしいポスターを書いている。
さすが女の子…それに比べて…。
影島のポスターは白と黒の二色だ…地味すぎる。
「なぁ…もう少しカラフルにした方がいいんじゃないか?」
「…わかりました」
彼は赤いマジックを取り字を書いていく。
……ちょっと…怖い色使いになってるけど…わざとなのか?
一瞬の沈黙が続いた後、扉が開き、叶野が入ってきた。
「どうですか?ポスターの方は?」
「えっと…もう少しで完成です…」
神崎さんは叶野に聞かれ少し戸惑って答える。
何か微妙に叶野のことを怖がってるみたいだ…。
「そんなことより、放送部との交渉はどうなったんだ?」
俺は叶野に問う。
「交渉はしてきましたよ、明日の昼休みに放送室を貸してくれるそうです」
そうか…。
「部長は許可を取った後、用事があるとのことで帰りました」
あの野郎…自分だけ帰るなんて…。
「じゃあポスターが出来たら今日の部活は終わりか?」
「いえ、貴方には出来上がったポスターを印刷室で印刷してきてもらいたいのですが」
「…わぁったよ」
面倒だが何もしていないんだ…それくらいは貢献するべきだろう。
「その…ポスターが出来ました」
神崎さんはポスターを叶野に手渡す。
「……では、これを印刷してきてください、そうですね…全部で二十枚くらいでしょうか」
奴は俺にそのポスターを渡す。
「あの…僕のは…?」
影島がポスターを叶野に渡す。
「……これではあまり目立ちませんね…まぁいいでしょう」
そして俺に手渡す。
俺はその二枚を持ち部室を出る。
「あの…」
そんな俺を神崎さんが呼び止めた。
「どうしたんですか?」
「えっと…行ってらっしゃい…」
はい、行ってきます。
「鍵は僕が閉めておきましょう…貴方は印刷後帰っても構いません」
「ああ…そうするよ」
俺は部室を後にした。

印刷室でポスターを刷り、俺はそれを自分の教室のロッカーに入れて昇降口へと向かう。
時間は既に六時…俺が印刷室に着いたのが五時…。
印刷のやり方が良く分からず、一時間もやり直していたからだ。
「はぁ…こんなことなら叶野に使い方を聞いておけばよかったなぁ…」
後悔、後の祭りである。


昇降口に来ると神崎さんが待っていた。
「あれ?先に帰ったんじゃ…」
「…一緒に帰ろうと思いまして…」
わざわざ待っていてくれたのか…。
「そうですか、すみません…時間かかっちゃって…」
「いえ…大丈夫です」
なんて良い子なんだ、どっかのバカに爪のアカでも煎じて飲ませやるべきだな。
そして俺達は通学路を歩き出す。
「叶野や影島はもう帰ったんですか?」
「はい、叶野君は用事があるとかで…影島君は気づいたら居ませんでした」
影島…せめてさよならくらい言ってから帰れよ…。
しばらく歩き、交差点へと差し掛かる。
「じゃあまた明日」
「はい」
神崎さんは右へ曲がり俺は真っ直ぐに歩いてゆく。
明日か…面倒なことにならなきゃ良いけどな…。

翌日、午前六時半…俺はまだ肌寒い学校の校門前にいた…。
なぜだろう…俺はなぜこんな所に居るんだろう?
話は三十分前にさかのぼる。

……………。

早朝、俺はベッドの中で熟睡を堪能していた…。
すると携帯が鳴りだした…。
奴だろう…俺は知らん顔して布団を頭まで被る。
鬱陶しいな…早く鳴り止め…。
しかし、携帯は一向に鳴り止む気配が無い。
あー分かったよ…出ればいいんだろ出れば…。
俺は仕方なく携帯の通話ボタンを押す。
「もしもし…」
「おはようございます…叶野です」

………。

一瞬切ろうと思ったが話だけは聴いておこう。
「何の用だ?俺の家は二十四時間配達可能なピザ屋じゃ無いぞ…」
「知っていますよ…それよりも、朝練です、今から三十分後、昇降口で待っています」
何ふざけたことを言ってやがる…。
「俺は行かん」
「おや?来ないのですか?」
「ああ、俺はもう少し寝ていたいんだよ」
「そうですか…それは残念です…既にもう皆さん集まって居るんですが」
「皆さん?それって神崎さんも来てるのか?」
「ええ…部長以外は全員集合です」
…なんであいつは来ていないんだ…。
「では、お待ちしております」
そう言い終えると叶野は電話を切ってしまった。
しょうがないか…叶野や影島はともかく、神崎さんが来ているのなら行かないわけには行かないな…。
俺は寝ぼけ眼で征服に着替え、適当な菓子パンを口に頬張り、家を後にする。
外は少し曇っていた…春なのに少し肌寒い。
天気予報によると今日は午後から雨らしい、今日から本格的な授業があるので帰りは午後になる。
「傘、必要だな…」
俺は玄関の折りたたみ傘を鞄に入れて家を後にした。
……………。
で、現在、学校で奴の到着を待っているという訳だ。
すると叶野が自分の腕時計に目をやり。
「時間がありませんね…部長は来る前に僕たちだけでやって置きましょう」
「何をだ?」
俺は急に呼び出された挙句、やることすら聞かされてなかったからな。
「ポスターの掲示です、皆さんが登校してからでは遅いと言う事なので」
なるほどな…てか、昨日のうちに貼り付けて帰ればこんな朝早くに学校に来ることは無かっただろうに。
「さっさと貼り付けて終わりにしよう」
そして教室でもう一眠りするか。
俺達は各々で目に付きそうな所にポスターを貼り付けていった。
俺は一階の三年生の教室の掲示板に貼り付けて行く。
こんなポスターを先生方が見たら何て思うんだろう…いい反応が期待できないのは確かだ。
各教室に張り終えて俺は部室へと帰還する。
「お疲れ様です」
ドアを開けると神崎さんが迎えてくれた、彼女の笑顔で疲れも吹っ飛ぶ…。
それにしても部室がやけに暖かい、空調設備が整ってるのっていいね。
自分の部屋じゃこんな贅沢は味わえないね、まさに至れり尽くせり。
俺は定位置のパソコンデスクに座る。
「どうぞ」
神崎さんが俺にお茶を入れてくれた、すいませんねぇ…わざわざ。
部室には俺と神崎さんの他に隅で座り込んでいる影島が居た。
「叶野はどうしたんです?」
俺が尋ねると
「告知放送用のテープを録音しに放送室に行きました」
「そうですか…」
大変だねぇアイツも、俺はそんなに一生懸命にはなれないね。
俺はお茶を一口飲み、椅子にもたれかかる。
そしてうとうとした後、眠りの世界へと旅立った。

目が覚めると部室には神崎さんと影島の姿は無かった。
時計を見ると8時20分、そろそろ教室に行った方が良いな。
俺は鞄を持ち部室を後にしようとドアノブに手を掛ける。
するとドアが勝手に開き、そこには叶野が立っていた。
「放送のデモテープとやらの録音は終わったのか?」
「ええ、滞りなく済みました」
爽やかな笑みで答える、朝早くからそんな爽やか笑みを見せるな…。
「じゃあな」
俺は叶野に背を向けて部室を後にする。
「すこし貴方にお話があります、今日の昼休みに時間をいただけないですか?」
叶野が俺を後ろから呼び止める。
「俺に言ってるのか?それなら無理だ、昼休みは屋上で昼寝をする予定だからな」
「時間は取らせません」
「……わかった」
俺は渋々了承する。

教室に着き、することも無いので机に突っ伏していると奴がやってきた。
「いいご身分だな、重役出勤か?」
皮肉をたっぷり混めて言うと
「ああ、部長権限だ」
…どうやら奴には皮肉が通用しないらしい…。
奴は自分の席に着き、机から何やらノートを取り出した。
そのノートには「恋愛仲介部活動記録ノート」と書かれていた。
そしてそれを俺に手渡す、…まさか
「副部長の仕事としてこれを書いておいてくれ」
「こういうのは部長がやるもんだ、何でもかんでも俺にやらせるな」
迷惑極まりない、こいつの思い浮いたことを俺がやる義理も無いしな。
と、言うわけで俺はノートをロッカーに入れる、二度と日の目を見ないように
おっと…一時間目は体育だったな、そろそろジャージに着替えないと
俺はジャージに着替え体育館へと移動する。

体育館へ着き先生方の軽いリクリエーションの後、軽スポーツをすることになった。
各々がバスケやサッカーなどをやりだす中、俺は壁に寄りかかり物思いに老けるとしよう
すると良く知った顔が話しかけてきた。
「そんな所に居ないでなんかスポーツしないのか?」
そいつは美形とも不細工とも言えない顔つきで俺に問いかける。
「ああ、俺はやるよりも見てるほうが好きなんだ」
適当に流しておこう、ちなみにこいつは俺の中学からの友達の井上栄治
仲良くも悪くも無い、実際に喋る回数は数えるほどしかなかったような…。
「相変わらずね、でも少しは運動しないと体力が落ちるわよ」
俺に話しかける活発そうな女子、えっと…誰だっけ…?
「…もしかして自己紹介聞いてなかったの?」
ああ…ちゃんと聞いとけばよかったな…。
「もう…笹枝よ…栄治君の言った通りの人ね」
「栄治…俺のことを何て言ったんだ?」
「無頓着」
…まぁ間違っちゃいないけど
「そういう訳だ、俺は何事にも無頓着だから」
「だから、授業にも無頓着って訳ね」
「ま、そう言う事さ」
適当にあしらい。
俺は何か居づらい雰囲気になったので場所を変えるとしよう…

体育館を出てグラウンドへとやって来る。
人工芝なので座ることも可能だ、さすが私立、無駄なところに金を掛けてるな。
俺は隅っこへと来て座り込む、日差しが心地よい、昼寝でもするかな
すると俺に向かい走ってくる人影が一人…神崎さん?
「探したんですよ」
俺をですか?
神崎さんの手にはバトミントンのラケット二つとシャトルが一つ
「あの…一緒にやりませんか?」
申し訳なさそうに聞いてくる。
他にやる相手が居ないのだろうか?それともそれを断ってまでも俺とやりたかったのか?
真実は定かでは無いが断る理由も無いので
「良いですよ」
俺は神崎さんからラケットを受け取る。
神崎さんは俺と適度に距離を取る。
「いきますよ」
そう言ってシャトルをポーンと上に放り、ラケットを振る。
ブゥンと音を立ててラケットが空を切る。
「………」
シャトルは俺の方へは飛んで来ていない。
「あれ…空振っちゃいました…」
恥ずかしそうにして神崎さんはシャトルを拾い上げる。
「えいっ」
そしてまたしても空振り…。
「その…俺がやりましょうか?」
このままでは先に進めそうも無いので俺が最初に打つことにしよう。
俺は神崎さんからシャトルを受け取り、軽く神崎さんの方へと打つ。
「あ…」
神崎さんがシャトルを打ち返そうとすると、またしてもラケットが空を裂いた。
そしてシャトルは神崎さんの額へと落下した。
「あいたっ…」
頭にシャトルを受けて神崎さんは頭を抑える。
俺は神崎さんに近づき問う。
「神崎さん…バトミントン…やったことありますか…?」
「いえ…みんなさんがやっていたので…私もやってみようかと…」
「…つまり初めてなんですね…」
「はい…」
なるほど…それなら仕方が無いな
「神崎さん…バトミントンはまた今度にしましょう…」
「…はい」
俺は再び人工芝に腰掛ける
しばらく黙っていると
「その…一つ聞いてもいいですか?」
無垢な瞳が俺に問いかける
「なんでしょう?」
「今日は部活あるんですか?」
「さぁ…俺は一応副部長ですけどそういうのは叶野に聞いた方がいいんじゃないですか?」
「叶野君にですか…」
なんだろう?神崎さんは叶野をやけに気にしているようだ。
「キーンコーンカーンコーン」
チャイムが鳴ったので俺達は立ち上がる。
「じゃあ部室で」
「はい」
神崎さんはぺこりと会釈をして自分のクラスの集団に混じっていった。
さて、俺も戻るかね。

体育を適当にこなし、後に控えていた世界史と数学を睡眠時間に費やした俺は
授業初日から要注意人物として先生方に認識されていることだろう
それもこれも全部朝練のせいだな、明日からは真面目に授業を受けよう…だから今日のところは見逃してほしい。
俺は弁当を鞄から出して屋上へと向かう、叶野の面倒な話を聞かなければならないからな
階段を上がり屋上のドアを開ける。
辺りを見回すと叶野が鉄格子のところに寄りかかかっていた。
「よう」
俺は叶野に一声かけて近くに座る。
「どうも、時間をとらせてしまってすみません」
丁寧に叶野は答える。
「能書きはいい、それより用件はなんだ?」
簡潔に述べてくれ、早く飯を食べたいからな。
「わかりました、では、簡潔に述べさせていただきます、貴方を信頼できる方と見込んで…ね」
叶野は気取った風に髪をかき上げる。
「いいから早く喋れ」
こいつは喋るときにいちいちモーションをつけなければダメなのか?
「はい、実は貴方にも知って置いてもらいたい事があるのです」
ほぅ…そりゃ一体何なんだ?金の問題なら願いさげだぞ。
「部活のことです、貴方は少なからず恋愛仲介部設立はを無理だとお思いですね」
「そりゃな、そんなふざけた部を学校が許可するわけ無いだろ」
俺の書いた申請書だって不備があり過ぎたぐらいだ、それに活動目的があやふや過ぎる。
「その通りです、普通ならこんな部活の設立を許可するわけが無い、でも、部活の申請書は通ってしまった…なぜだと思いますか?」
「俺が知るか」
「あはは…そうですね、では真相を語りましょう」
真相でも何でも勝手に喋ってくれ。
「僕と部長さん、神崎さんと影島君の4人は元々同じ中学だったのです」
それで顔見知りだったという訳か…それが設立に関係あるのか?
「部長さんは中学生の頃から恋愛仲介部を作ろうとしてました、しかし、中学で部活を作るのは大変難しかった…」
「高校ほど自由でもないしな」
「そうです、それに部員も部長と僕と影島君しかいませんでしたから」
「だったらお前が副部長をやったらいいだろ…」
「いえいえ…遠慮して置きますよ、僕は書記の方が性に合ってますから」
「ん…?神崎さんはいなかったのか?同じ中学だったんだろ」
「ええ…彼女は訳あってスカウトしたんです」
訳?
「彼女の父親はこの学校の理事長なんですよ」
「えっ…」
「彼女をメンバーに取り込めば部の設立どころか優遇な部室に恵まれる…」
「…つまり、お前らは部のためにあの無垢な少女をこんな怪しい集団に引き入れたのか?」
「そう言う事になりますね、僕は部長の命を受け、彼女の勧誘に一役買ったと言う訳です」
「何をした…?まさか弱みでも握って脅してるんじゃないんだろうな」
そんなことをして見ろ、俺が黙っちゃいないぞ。
「そんなことはしませんよ、あくまで合理的に、僕は交渉を持っていったはずですが」
「合理的だと?どんな条件を出したんだ?」
「……すみません、これは部長に口止めされていますので」
だんまりを貫こうって事かよ、肝心なとこは喋らないんだなお前は。
「まぁいい…彼女に危害を加えないなら俺は別に構わん」
俺は弁当の蓋を開ける。
「話は以上です。では、僕は放送室に用があるのでこれで失礼させてもらいます、それと今日は部活はお休みです」
「来週は朝練はあるのか?」
「いえ…特にそのような事は聞いていませんから…無いのではないでしょうか」
叶野はそれではまた、と手を振ってバタンと屋上の扉を閉めた。
うるさいのが居なくなったので俺は弁当を食べ始める。
これを食い終わったら昼寝でもしよう…。

授業開始時間五分前に目を覚ました俺は空の弁当を持ち教室へと戻ることにした
階段を下りて一番端の七組の教室へ入る。
すると俺の机はとんでもない事になっていた…。
なんと手紙と思われる封筒の束が大量に置いてあったからだ…。
一体これは何の嫌がらせだ?それとも俺は学校開始三日目にしていじめの標的にされてしまったのか?
一瞬不安が過ぎったが、俺は席に着き、とりあえず手紙の中身を確認する。
何々…恋愛仲介部さんへ………………〜〜より
ざっと見たところクラスの女子やらが仲介をして欲しいとの依頼書に思えるが…。
大体三十通くらいかな…このままでは授業を始める事が出来ないな…。
俺は手紙を十通ほど鞄に入れた後、残りの二十通をロッカーに押し込んだ。
ふぅ…何なんだ一体、しかも妙にクラス全員の視線が俺に注がれているような…。
しかも奴は俺に親指を立てている、こんなに依頼書が来るなんて…叶野、お前はどんなテープを流したんだ?

放課後、今日は部活が無いらしいので 俺はさっさと帰ることにしよう。
今日の疲れを早く取っておきたいからな。
鞄を持ちクラスを後にする。
昇降口に来ると既に雲行きが怪しかった。
折り畳み傘を持ってきて正解だったな、この様子だと帰ってる途中に雨にやられるだろう。
俺は傘をスタンバイして長ったらしい通学路を歩くことにした。
すると案の定、自宅と学校の中間辺りで雨が降り出した。
傘を差し、家までの道のりを少し早足で歩く。
十分ほど歩き、家についた頃にはズボンの裾はびっちょりと濡れていた。
俺は征服を脱ぎ、私服に着替え、濡れた頭をタオルで拭きながら自室へと戻る。
「さて…」
本当ならこのまま横になりたいところなのだが…そういう訳にも行かないな。
俺は鞄から手紙を適当に一通取り出す。
その手紙はピンク色の封筒だった、いかにも女の子が書いたものだろう。
中を見ると便箋に丁寧な丸文字が書かれていた。
その内容はこうだ。
「始めてお手紙を出します、私は三組の沢渡と言います、今日のお昼の放送で恋愛仲介部の事を知り、早速お手紙を書かせていただきました、私には好きな人が居ます…それを仲介してはくれないでしょうか?」
なんとも簡潔な内容で悪戯なのか本気なのか判断しにくい…。
とりあえず見てしまった物は仕方ない…来週の月曜日にでもこの沢渡さんとやらに会いに行くとするか。
俺は携帯を取り出し叶野に電話をかける。
「もしもし」
するとワンコールで叶野が電話に出た。
「…貴方ですか…偶然ですね…僕も今、貴方に電話をかけようとしていたところです」
電話に出た叶野は少し驚いたかのように答える。
「なんか用か?」
俺はただの報告なので叶野の用とやらを聞いてやることにしよう。
「えぇ…少し困った事態です…」
叶野は本当に困ったような声を出す。
嫌な予感がする。
「実は…神崎さんがまだ帰宅していないようなのです…」
えっ…。
「先ほど理事長から僕の方に連絡が来ました…」
まさか誘拐?確かにあの人は希に見る隙がとても多すぎる人間だからなぁ。
「ですから、貴方に聞けば何か分かると思いまして…」
「えっ?」
何で俺に聞けば分かるんだ?その根拠はどこから来る。
「貴方は神崎さんと一緒に帰る約束をしていたのではなかったんですか?」
「あっ…」
そういえば…彼女はまだ部活が無いことを知らなかったけ…て、ことは…まだ。
「分かりました…彼女はまだ学校のようですね、ありがとうございます、では…」
「ちょっと待て…」
俺は電話を切ろうとする叶野を呼び止める。
「なんでしょう?」
「俺も行く、学校だな…」
「…僕達にはあまり関りたくないのではなかったのですか?」
「神崎さんは別だ、それに部活が無いことを伝えなかったのは俺の責任だし…」
叶野は少し微笑して
「そうですか実に貴方らしい…分かりましたでは二十分で学校まで来れますか?」
「ああ」
自転車を飛ばせば十分くらいで着く、歩いても二十分あれば
「では、二十分後に校門前で待ち合わせと言うことで」
俺は電話を切り、上着を着て外に出る
空を見ると雨雲は無く、既に雨は上がっていた、これなら自転車で行けるな
俺は自転車に乗り、学校に向かった。

出来るだけ早く自転車をこぎ
学校に着くと既に叶野が門の前で待っていた。
「待ったか?」
フォーマルな私服を着こなしている叶野
時間道り来たが一応聞いておこう。
「いえ、僕も今来たところですよ」
爽やかに答える。
「では行きましょう、鍵は僕が持ってますから、中から鍵をかけられていても開ける事は可能です」

俺は叶野の後を歩き、部室練へとやってきた。
案の定、部室には電気が灯っていた。
「やっぱり…」
「ですが、アレが神崎さんとは限りませんよ」
「どういうことだ?」
「もしかしたらお化け…なんてことも」
叶野が少し冗談ぽく言う
「俺はお化け否定派だ」
まったく…こいつは何が言いたいんだか
「だと思いました、安心してください僕もそんなオカルトを信じるほど現実を逃避していません」
そうかい…聞いても居ないことをペラペラと良く喋るねぇこの男は
それに現実を逃避しているのは奴か影島だろうよ、根拠は無いが何かそんな気がする。
俺達は部室のドアをノックする。
返事が無いのでドアノブを回してみる、すると回った…どうやら鍵は開いてるらしい
ドアが開き部室の中へと入る。
部屋は適度に暖かかった、その部屋の真ん中、つまりソファーで横になって寝ている少女が一人。
「神崎さん…」
神崎さんは無防備にもその破壊力抜群の寝顔をさらけ出している。
起きる前に写真でも取っておこう。
俺は携帯を取り出しカメラモードにして神崎さんの寝顔を撮る。
「パシャ」
「貴方も物好きな方ですね」
叶野はやれやれと言わんばかりに方をすくめている。
そんなこと言うんなら、この画像は送ってやらんぞ。
「う、ううん…」
おっと神崎さんが起きそうだ、俺は携帯をポケットにしまう。
「あれ…どうしたんですか?なんでみんな私服なんですか?」
どうやら神崎さんはまだ状況を判断できていないようだ。
「すみません…今日部活は無かったんです…」
俺が申し訳なく言うと
「そうだったんですかぁ…よかった、誰も来なくて心細くて…私、そのまま寝ちゃったんですね…」
やっと状況を把握したようだ。
「神崎さん、理事長が心配なさっています」
叶野が携帯をどこかにかけ、神崎さんに渡す。
「えっと…もしもし…お父さん…、うん…えっ?、あ、ああ…うん」
何かぎこちなく喋ってるな…家族の仲が悪いのかな…?
「なぁ神崎さんって携帯持ってないのか?」
俺は神崎さんに聞こえないように叶野に聞く。
「ええ…ですから連絡等は僕が一任されています、まぁお目付け役のようなものですが」
なるほど…だから神崎さんの叶野に対する態度が少しおかしかったのか…。
「それと神崎さんは今日は僕らと一緒に居れるように手は打ってありますから」
「なんだそりゃ…」
「あの…これ…」
神崎さんは叶野に携帯を返す。
「で、理事長は何と仰ってましたか?」
「えっと…あまり夜更かしはするなよと…」
夜更かし?一緒に暮らしているんじゃないのか?
「では、そろそろ行きましょうか」
どこに?俺はこれ以上の用事を思いつかないんだが
「実は神崎さんがまだ帰っていないと聞いたときに合宿をすると誤魔化したんです」
合宿だぁ?
「えぇ、もし本当のことを言っては今頃大問題ですよ、僕にも貴方にも、そして恋愛仲介部にもいい結課にはならなかったでしょうね」
「そうかい…そりゃご苦労だったな」
「ですので、僕の苦労を分かっていただけるのなら貴方の家を合宿場所として提供していただきたいのですが」
「待て、話が急すぎるぞ、第一、俺の家には今は誰も居ないんだ」
「心得ています、両親は先週から実家に戻ってらっしゃってるのですよね」
何で知ってるんだ?こいつの情報網はストーカークラスか?
「良いじゃないですか、僕としても貴方には興味があります、部長さんに選ばれるなんてよほど特殊な人間なのでしょう」
そんなわけ無いとも言い切れない自分がいた…。
「わかったよ…」
仕方なく了承することにした、屁理屈論争で叶野に勝てる気がしないからな
それで俺と説明好きの男との間での論争は終了し
俺達は俺の家へと向かうことにした。


基本的にかなり昔に書いたので…もう、文書とか滅茶苦茶です…。とりあえず黒歴史ってことで…。








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