恋愛仲介部の活劇2
さて…叶野、そして神崎さんという二代主要メンバーを失い
勢いを無くしかけていた恋愛仲介部だったが…。
最後に叶野が言っていたサプライズ…という言葉が妙に引っかかった。
でも、気にしていても仕方ないし。
俺は…今まで通りにやっていくさ。
布団から重たい体を起き上がらせてパジャマから制服に着替える。
あぁ…少し肌寒いな…。
もう、そろそろ冬も近づいて来たからなぁ…。
一階に下りて顔を洗う。
冷たい水のお陰で何とか精神を眠りの世界から切り離す。
そしてそのままリビングへと向かう
「おはよ」
「……なんでいるんだ?」
リビングの椅子には池上が座っていた。
「あら、いいじゃない。私が朝ごはんに招待したのよ」
「母さん…?」
「それにしても…隠してるなんてズルイわよ」
「なにをだ…?」
「もう、とぼけちゃって」
母さんは池上に視線を送る。
「………」
池上は頬を赤く染めた。
ああ…そっか。
俺、池上とつき合い始めたんだっけ…。
「で、どこまでいったの?」
「えと…キスまでです」
「…答えるなよ」
恥ずかしいってのに…。
「…若いわねぇ」
「あんたよりはな」
「もう、母さんには冷たいんだから」
「はいはい…」
食パンを口にくわえてリビングを後にする。
「あ、ちょっと待ってよ」
「奥さん追いてっちゃダメじゃないの」
「誰が、奥さんだ…」
やれやれ…朝からこのテンション…先が思いやられる。
二人して学校への道を歩いていると学生の視線が痛かった。
「なぁ…さっきから色んな生徒に注目されてないか?」
「…うん」
まぁ…アレだけ盛大に体育館でやらかせば嫌でも有名になるか…。
教室に着くと…。
「で、つき合ってるの?」
第一声がそれかよ笹枝…。
「ああ」
「へぇ…まぁ前から仲良さそうだったしね」
「…まぁな」
適当にあしらって席に座る。
しばらくして先生がやってきた。
「みなさん、おはようございます」
先生が教室に入ってきた途端に男子生徒の七割が拍手をしていた。
そっか…確か先生ミスコンで一位になったんだっけ…。
「えと…嬉しいけど、ホームルームが始められないので止めてくださいね」
先生は見事に男子一同を黙らせた。
「今日は転校生を紹介します」
転校生…だと…?
まさか…叶野の言っていたサプライズか…?
「小葉月さん、入ってきて」
と言われて入ってきたのは、肩まで伸びた茶髪の髪が印象的な女の子だった。
「小葉月です、よろしくお願いします」
冷淡な口調で言い自己紹介を終えた。
「えっと小葉月さんは急な転校で…」
先生が小葉月さんの説明をしている。
まぁ…恋愛仲介部と関係があればホームルームが終わった後…本人からなんらかのアプローチをかけてくるだろ。
それにしても…部長の奴はどこにいったんだか…。
俺の予想通り、彼女、小葉月さんは放課後になった直後
俺に声をかけてきた。
「あなたが、副部長さんですか…?」
「ああ、そうだけど」
そう、冷静な口調で聞かれると…対応に困る。
「そうですか…ではあなたが叶野の言っていた…」
「ん…?」
「失礼しました…私は小葉月。生徒指導係であなたの身の安全を守る係りです」
はて…なにを言ってるんですかこのお嬢さんは?
「ええと…」
「あなたのことは叶野から良く聞いています。なんでも叶野が頼れると言っていた殿方ですから、相当な器をお持ちなのでしょうね」
「え…いや…そんな…」
叶野め…この人に俺のことなんて説明したんだよ…。
「ご謙遜はやめてください、分かっています」
「いや…謙遜してる訳じゃなくて…」
「それはそうと…部室へ行かれるのですか?」
「まぁ…一応」
「では、お供します」
「あ、ああ…」
なんか調子くるうなぁ…。
部活に行くまでの間、小葉月さんは俺に色々と話してくれた。
「叶野は今、お嬢様の警護のため不在です、よって私が代役として選ばれました」
「じゃあ、あなたも生徒指導係なんですか?」
「はい、ですから、叶野と接する時と同じようにしていただくとありがたいです」
と、言われても…叶野ほど邪険にできる訳ないだろう。
「ここが部室」
部室練の一番奥まで案内する。
「…覚えました。案内してくれて、ありがとうございます」
「いや…そんなお礼を言われる事じゃ…」
ないんだけどな…。
部室のドアを開けると池上、影島、部長が揃っていた。
「遅いぞ」
奴は俺に言う…。
「今までどこに行ってたんだ?」
文化祭から全然姿を見せなかったじゃないか…。
「ちょっと用事があってな、暫く留守にしていた」
どんな用事なんだか…せめて言いだした事の責任は取るべきだと思うが
「ん…その人は誰だ?」
小葉月さんを見て部長が問う
「ああ…この人は」
「初めまして小葉月と申します、叶野の代役でこの部活に貢献したいと思うのですが…」
「…………」
部長は10秒程悩み。
「いいだろう、叶野不在は正直辛いからな。それでは小葉月これから部活の為に頑張ってくれ」
「はい、お任せください」
小葉月さんはそう言い終えると
俺たち全員分のお茶を用意してくれた。
とりあえず…最終下校時間になった。
今日は小葉月さんの歓迎会をやっただけだったな。
帰り道。
小葉月さんが俺に
「明日からよろしくお願いします、それと…私のことですが、小葉月では言いにくいので月とお呼び下さい」
「あ…はい」
そういうと小葉月…いや、月さんは俺たちと反対側の道へと帰って行った。
「じゃあ俺らも帰るか」
「うん」
池上と一緒に下校。
恋人になったはいいが相変わらずの距離感である。
「ねぇ」
「ん?」
「プールのチケットあるんだけど…一緒にいかない?」
「プール…この次期にか?」
寒くて凍死するっての。
「新しく出来た温水プールだよ、室内プールだから年中やってるんだって」
「へぇ…」
あ…そうか。
池上は二回とも俺と海やプールに行ってないんだっけ…。
「…わかった、行こう」
「本当?」
「ああ、日時はいつだ?」
「うん、今週の日曜なんてどうかな?」
「いいぞ」
「…それと」
「ん?」
「…二人っきりで行こうね」
「…ああ」
そうだな、そんな楽しそうなイベントを他の連中に邪魔されたくないしな…。
次の日。
池上がリビングにいなかったことに安心しつつ玄関のドアを開けると
「おはようございます」
と、満面の笑みで…しかも、メイド服を着た月さんがいた…。
「えと…ど、どうしたんですか…」
「お迎えに上がりました」
後ろには西沢さんと車が控えていた。
「どうぞ、お乗りください。学校までお連れします」
まぁ…そこまで言われりゃ乗らないわけにはいかないだろう。
車の中で月さんは俺の隣に座っている。
「あの…なんで…送迎を?」
「はい、お嬢様から、あなたの安全は死守しろと言われてますので」
「…お嬢様って神崎さん?」
「はい、叶野も私も、お嬢様専属の執事、メイドなのです」
へぇ…だからそんな服を着てるんですね…。
…コスプレじゃなかったのかぁ…。
「昨日はまだ転校初日でしたので…色々忙しく…送り迎えが出来なくて…申し訳ございません」
「え…いや」
「こらこら、困っているだろう、あくまでも普通に接するんだ」
西沢さんから一言。
「そうですね…すみません」
月さんはちょっと頬を染めて照れていた。
学校まで送ってもらい俺は車を降りた。
「では、私も後ほど、教室に向かいます」
「え…?」
あ、ああ…服ね…着替えないと目立つもんね。
「では、お気をつけて」
そう言って車のドアを閉め。
西沢さんの車は行ってしまった。
「おはよう、どうしたんだい車で登校するなんて?」
後ろから追いついた栄治が聞いてくる。
「いや…俺にもさっぱり分からん」
その後…わかった事だが。
月さんは頭が良く、しかも運動神経も抜群に良い…。
しかも気配りとか出来るのであっと言う間に人気者。
「それにしてもすごいよねぇ、小葉月さん」
池上も認めるほどか
「ああ…完璧人間だな」
圧倒されて少し…遠くに感じる人だな…。
さっき聞いた話によると今日は部活がないらしい。
思ったんだが…2学期に入って一回も仲介してないのは仲介部として不味いんじゃないか?
だから、池上と一緒に学校を後にした。
月さんが帰りの送迎を進めてきたが…断っておいた。
自室に帰り
することも無いのでくつろいでいる。
普段ならここら辺で叶野から電話が入るんだけどな。
でも、今はそんな心配をしなくてもいい。
「たまには…一人で駅前にでも行ってみるか…」
考えたら最近一人の時間がなかったからな。
「………」
「お出かけですか?」
玄関を開けたところに月さんはいた…。
「あのさ…もしかしてずっといた?」
「はい、何があってもすぐに駆けつけられる様にと」
「…疲れない?」
「いえ、仕事ですから」
「…そっか」
「それで、どちらへ?」
「ああ、駅前」
「では、お送りしますね」
「いいよ…歩いていく」
「そうですか、ではお供します」
正直、かなり注目を浴びている。
そりゃそうだろ…。
だってメイド服を着込んだ女性を後ろにつけて歩いてるんだからな。
これがRPGパーティなら敵とエンカウントし放題だぞ…。
「あのさ…神崎さん俺のことなんか言ってた?」
「はい、勇敢で優しい御方だと聞いています」
ああ…多分それ80%誤解だよ…。
「…なるほどね」
しばらく歩いていると小腹が空いてきたな…。
「月さん、お腹減ってない?」
「なにかご用意しますか?」
「いや…そうじゃなくて」
「?」
「なにか食べたくないかなってこと」
「………」
月さんは暫く考えるようにして
「そうですね…少し…だけ」
と控えめに答えた。
「じゃあなんか食べようか、おごるよ」
「そ、そんな…ダメですよ」
「いいって、丁度コンビニあるな…買ってくるからちょっと待ってて」
「あ……」
まぁ秋くらいになると肉まんとかが美味しい季節で
二つ買って月さんに一つあげる。
「?」
「どうしたの…?」
「いえ…これは…なんですか?」
「肉まんですよ、おいしいから食べてみてください」
「はい、では…その、いただきます」
一口、はむっと月さんが肉まんをかじる。
「どう?」
「美味しいです」
「そっか、よかった」
俺も一口。
うん、美味しいね。
「その…私、怒られてしまいます」
「なにが?」
「警護を命じられたのに…その…」
「じゃあ、黙ってればいいんじゃないの?」
「えっ…?」
「別にここに監視する人なんていないんだしさ」
「…でも」
「大丈夫、神崎さんはこんなことで怒る人じゃないよ」
「ふふっ…そうですね」
月さんは柔らかく微笑んだ。
次の日…。
俺が放課後部室に到着すると…奴が俺に近づいてきて。
「仲介するぞ」
と言って俺を引っ張っていく。
「い、いきなりかよ…」
「ああ」
「で、誰を仲するんだ?」
「隣のクラスの奴だ」
「で、俺達はどこに向かってるんだ?」
「教室」
やれやれ…。
放課後の隣のクラスには一人の女の子がいた。
「恋愛仲介部参上!」
いや…恥ずかしいからやめてくれ。
「え…と、恋愛仲介部さんですか」
「はい、恋愛仲介部です」
いや、会話おかしいだろ。
とりあえず…落ち着いて…。
「で、仲介して欲しい相手は誰だ?」
「…同じクラスの…男の子に」
「君の名前は?」
「宮内です」
「じゃあ意中の男性の名前は?」
「長谷川…くんです」
「そうか…なるほど」
なにがなるほど…なんだか俺にはさっぱりだ。
「前もって調べておきました」
と月さんが俺に生徒名簿を渡す。
「…あれ?」
俺の後ろでそれを見ていた池上が何かに気がついたらしい。
「どうした?」
「これ…」
池上が指を指したところ
それは出身学校だった。
小学校、中学校、全て同じ。
しかも、住所もかなり近い。
「もしかして…幼馴染…?」
池上が彼女に問う。
「…はい」
なるほどね…幼馴染か。
「あのさ…」
「はい?」
「幼馴染って凄く、脆い位置にいると思うの」
池上が語りだす。
「現在を維持したくて動けなかったり…もし、振られたらってことを考えて恋愛に臆病になったり」
さも、自分の事のように池上は言う。
「でも、伝えた方が良いよ。私も…伝えたから…ちゃんと言えば大丈夫だから」
「…はい、…ありがとうございます、少し勇気がでました…私、頑張って告白してみます」
「うん、頑張って」
池上の総締めか?
でも…彼女に足りないのは本当に少しの勇気なのだろう。
だから、背中を押してくれる人が欲しかったのかもしれない。
でも、こんな部活に…頼まなくてもな。
池上もこんな気持ちで…俺のこと…思っていてくれたのかな…?
それだったら俺は…あいつの気持ちに精一杯に答えたい。
それで日曜日がやって来た。
とりあえず、水着を用意して家を後にする。
「今日は泊まり?」
「いや…帰ってくるって…」
「なんだ、つまらないの…」
母さんよ…あんたが期待しているようなことは一切無い、安心してくれ。
玄関を開けると定例のように
「おはようございます。お出かけですか?」
と、月さんがお出迎え。
「ああ、ちょっとプールまで」
「お送りしますか?」
「いや、今日はいいや」
「では、お供は?」
「あ…えっとさ、池上と一緒に行くからさ…その、着いてこられるとちょっと困る」
月さんは暫く考えた後
「はい、では、お気をつけて」
と、俺を見送ってくれた。
それにしても…今日はやけに素直に引き下がったな…。
ここ数日、俺が一人で出かけると言うと
「お供いたします」
が…口癖の様に帰ってきたんだが…。
もしかして気を使わせてしまったのだろうか?
叶野と同じ役職なら俺と池上のことも知っているだろうし…。
待ち合わせの公園まで来ると既に池上は到着していた。
「すまん、待ったか?」
「ううん、私が早く来ただけだから、大丈夫」
時計を見ると待ち合わせの5分前。
「そっか、じゃあ行くか」
「うん」
池上は俺の隣に来て腕を絡めてくる。
「お、おい…」
「ダメ?」
「いや…いいけどさ…」
恥ずかしいっての…。
プールに到着したが…新しく出来た割には客足は少なかった。
まぁこの時期だし、当たり前だけどな。
入り口でチケットを見せて中へと入る。
「じゃあ、またね」
「ああ」
男女更衣室に別れ、着替えるとしよう。
うーん…そろそろ10分くらい待ってるんだが…。
一向に池上が来る気配が無い。
なにかあったのだろうか?
まぁいいや…ベンチにでも座って待っていよう。
それにしても…広いな。
室内プールであるが流れるプールやウォータースライダーまで完備しているとは…。
でも、客の大半は家族連れが多いか…。
「ごめん、遅くなっちゃって」
「ホントだぞ…待ちくたびれて…」
……。
「ん?どうしたの?」
「いや…別に…」
なんていうか…池上…結構プロポーションがいいんだな…。
「…見とれてた?」
「な、そんなわけあるかっ!」
…図星だよ。
池上に遅れた理由を聞くと
どうやら先日依頼に来た宮内さんと偶然あったらしい。
彼女も恐らく告白できたのだろうか…彼氏と一緒に来ているらしい。
「なるほどな、まぁよかったんじゃないか?」
「うん、それで、お礼言われちゃった…」
「お手柄だな」
池上の頭を撫でてやる。
「あっ…」
頬を赤くする池上…。
「偉い、偉い」
なんか嬉しそうだし…よかったかな?
プールに来た、と言っても泳ぐ目的じゃない。
池上と一緒に何かをしたかっただけだしな。
「なぁ…バンドはどうするんだ?」
休憩中に池上に聞く。
「路上ライブとか…してみよっか?」
「ああ、いいかもな」
「…でも、私たちだけで大丈夫かな?」
「ん〜そうだな、影島とか月さん誘ってみるか?」
「そうだね」
部長はともかく、あの二人は心強い。
「じゃあ二人には俺から行っておくよ」
「うん、お願いね」
5時くらいまで遊んだ後、疲労感が出てきたので俺達は帰ることにした。
「送ってくよ」
「いいの?」
「ああ」
俺は池上を家まで送ることにしよう
「あのさ…」
「ん…?」
「小学校の頃作った秘密基地覚えてる?」
「ああ、雑木林に作ったやつだろ」
なつかしいな、今はもう、雑木林自体が無い、その場所には現在マンションが建っている。
「それがどうかしたのか?」
「えっとね…内緒」
「なんだよ…言えよ、気になるから」
「やだよ」
「なんでだよ」
「内緒だから」
「答えになってないぞ」
なにが言いたいんだかねぇ…。
純粋に昔の事を俺に覚えているかを聞きたかったのかもしれないな…。
池上を送り終えて家に帰ってきた俺を月さんは迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、池上さんとはどうでしたか?」
「ああ、楽しかったよ」
「そうですか、夕食の準備はしていますのでどうぞ」
「ああ、ごめんないつも」
「いえ、仕事ですので」
母さんが月さんの料理を気に入ってしまったので最近は夕食まで作ってもらってる。
まぁ味も一級品だけど…。
ただ単に…母さんが楽をしたいだけなんじゃ…。
夕食中、バンドの話を月さんに持ちかけてみる。
「それで、池上たちとバンド活動をしようと思ってるんだけど…月さんもどう?」
「…わかりました。楽器は何をすればいいでしょうか?」
「そうだなぁ…特に決まってないんだけど…何か得意なのある?」
「…そうですね、キーボードなら」
「じゃあキーボードお願い」
「はい」
後に聞いた話だと、月さんが神崎さんにピアノとかを教えていたらしい。
しかも、路上ライブの手続きは全部月さんがやってくれるらしい。
まさに、叶野以上の働きっぷり…。
とりあえず、許可が下りたら練習を開始するか…。
俺もみんなに笑われないくらいには弾けないとな。
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