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恋愛仲介部
作:MOR



恋愛仲介部の活劇1


ついにやってきた文化祭一日目だが…。
眠さが限界地を振り切っている俺は
部室のパソコンデスクに座って転寝をしていた。
栄治や神崎さん、池上などにも一緒に文化祭を見て回ろうとか言われたが
明日のことを考えて俺は午前中を睡眠時間に費やすことに決めたのさ。

それでまぁ…三時間ちょっと夢の世界に滞在していた俺だったが
やっと脳内の睡眠ゲージがフル充電されたらしく。
さっきまで永続的に俺を苦しめていた眠気が覚めてしまった。
このまま部室でぐうたらしていようとも思ったが
せっかくの文化祭なのでちょっとだけでも見に行くか…。
なんて考え、俺は部室を後にした。

さすが祭りとつくだけあって文化祭ってのは盛り上がるらしい。
廊下に張られたポスターや各教室の滅茶苦茶な事態を見れば誰がここは学校だと思えよう。
朝、先生から配布された校内の案内図を見てから
適当に飲み物でも買ってグラウンド脇のベンチにでも腰掛けていよう。

グラウンドでは色々な出店が出ていた。
三年生は優先的に出店を出し物にできるので大半が三年生のクラスだろう。
みんなオリジナルなユニフォームで大忙しのご様子だ。
ちなみに各クラスで記念にTシャツなんかを作ってもOKらしい。
そんな訳で無駄金を叩いてクラスオリジナルのTシャツを作ったが俺は着てくる気が起きなかった。
まぁ…酷いデザインでもなくて微妙に地味な紺色のTシャツだったからな。
ジャケットを着たときのインナー程度の活躍をしてくれれば元を取ったようなもんだ。
だから一人虚しく制服を着込んでいるのさ。
暇…いや平和な時間が続くのはとってもいいことだと思うね。

余談だが、体育館ではミス・ミスターコンテストが始まっていた。
まぁ結果を予想するのは容易いので俺は別に見に行かなくてもいいのさ。
にしても…腹が減ったな…。
そろそろ昼時だしな…。
かと言って一人虚しく昼飯を食いに行くのも面倒だ。
いつも昼を一緒に食っている爽やか少年は今頃ミスターコンテストで忙しいだろうし
「あっ、こんな所にいた」
声をかけてきたのは池上だった。
近づいてきて俺の隣に座る。
「ミスコンはどうした?」
確かお前も出場予定じゃなかったか?
「えっと、抜け出してきちゃった」
「おいおい…」
確かに…こいつはじっとしてるのが嫌な奴だもんな
「で、なにしてたの?」
「別に…昼飯どうするかな〜なんて考えていたところさ」
「そうなんだ、じゃあどこか食べに行く?」
「そうするか」
俺は立ち上がり池上についてゆく。

とりあえず、ありきたりの焼きそば辺りで落ち着いておこう。
二人してベンチに座り食べる。
「味薄いね…」
「仕方ないだろ、学生が作ったんだ本職が作るより味は落ちる」
出店なんてそんなもんさ。
なんて喋りながら焼きそばを食い終わったが…次はどうしたもんか
「お前は午前中なにしてんたんだ?」
池上の午前中の動向でも聞いておくか
「栄治君たちと学校の隅から隅まで見て回ったよ」
「なるほど」
つまり、これ以上行く所は無いってことか
「で、栄治はどうした?」
「笹枝さんと一緒にどこか行っちゃったよ」
栄治め…もしかして笹枝とつきあってるんじゃないか?
「それで、一人になったお前は俺を探しに来た…ってことか?」
「うん」
俺といたところで大した暇は潰せんだろうけどな。
まぁやる事も無いので
「じゃあ、明日の練習するか?」
なんて聞いてみた。
「いいよ」
完結に返事が返ってきたので
俺と池上は部室に戻ることにした。

まぁ…今さらだが、なぜ部室で楽器練習ができるかというと
微妙に防音処理ができているらしい。
いつの間にそんな改築を行ったんだかねぇ…。
とりあえず、楽器を持ってスタンバイ
「おい、早く準備しろよ」
「ねぇ、お願いがあるんだけど」
「なんだ?」
「一度だけ、ボーカルやってもいい?」
「なんでだ?」
「だって…その…バンド活動するならボーカルが必要だから…」
ああ…そうか、つまり池上は俺たちのバンド活動を見越して練習がしてみたいって言ってるのか
「いいぞ」
「本当に?」
「ああ、お前の歌声を最近聞いてなかったし」
聞いておいて損は無いだろう。
こいつと最後にカラオケに行ったのは中学の頃だからだいぶ前だし。

最初にリズムを合わせて俺がギターを弾き始めると池上は曲を歌いだした。
ちなみに、曲を歌詞付きで聴くのは初めてだ。
しかし、池上は初めてとは思えないくらいに歌えている。
「なぁ…もしかしてお前練習したりしてたか?」
演奏が終わって聞いてみる。
「うん、ちょっとだけね」
このまま池上が歌たった方がいいのではないか…?
なんて思わせるほどの歌声だったのさ。
「これなら安心だな、バンド活動も」
「えっ」
「こんだけの美声ならボーカルにぴったりだろ」
「あ、ありがとう…」
最近素直に褒めると池上は照れているのか微妙に可愛らしい表情を見せる。
…って、いかん…また色ボケに走るところだった。

そんな感じで、一日目は練習で幕を閉じた。
俺としても平和的に終了してくれて一安心さ。
ちなみに、後で栄治に聞いたのだが
ミスコンの一位は紀野里先生だったらしい…。
そしてミスターは叶野。
結局はコメントに困る結果に安定したのさ。

しかし二日目はそうも簡単には行かないらしい。

朝のホームルームが終わり、文化祭開始の九時まで微妙な時間が残った俺は
早速部室に向かうとしよう。
池上に一声かけると
「先に行ってて」
と言われたので一人虚しく行くとしよう。
ああ、それと予想できていたことだが
部長は今日も学校には来ていなかった。
なにをやってるんだかねぇ…。

部室のドアを開くと同時に
「おはよう」
と満面の笑みで俺に挨拶してくれる神崎さんがいた。
「お、おはようございます」
部室内には影島と叶野がいたがノーリアクション。
俺は鞄をパソコンデスクの横に置き
暇つぶしもかねてパソコンの電源を入れる。
「お茶です」
と俺に湯飲みを渡す神崎さん。
「どうも」
なにやら妙に積極的である…。
う〜ん、一昨日の事もあるので妙に意識してしまうのは気のせいではないらしい。
お茶を飲んで適当に我が部のホームページのアクセスカウンタを回していると
「ごめん、遅くなって」
と池上が部室に入ってきた。
「どうも」
と叶野は一礼。
影島は会釈をしたが…。
神崎さんは無反応だった…なぜ?
いつもなら「おはようございます、池上さん」とか可愛らしいボイスを聞かせてくれるのだが…。
先日の一件、つまり部室内での睨み合いから
お互いに敵対心を露にしているらしい。
ま、いいか…。
ちなみにバンドの演奏は吹奏楽部の休憩時間に行われるため。
午後三時からとなっている。
それまで練習に励もうと思ったのだが…。
「すみません、ちょっといいですか?」
よくない、ちっともよくないぞ叶野。

場所を変えて屋上に連れてこられた俺なのだが
「何の用だ?」
大体お前が俺だけを呼ぶ時は大変な事態なのだろう。
そろそろこのお決まりパターンを抜け出したいのだが…。
「部長さん、今日も学校に来ていませんでしたね」
「ああ、ずる休みじゃないのか?」
「いいえ、ちゃんとした欠席理由がありますよ、そして困った事にボーカルがいませんね」
「…なにが言いたい?」
「つまり、代役を立てなくてはなりません」
「そうかい、じゃあ池上にでも頼めばどうだ?」
「池上さんですか、そうですね、彼女には万が一の時にために歌の練習をしておいて貰いましたから」
「それを先に言えよ」
「いえいえ…あなたが誰を名指しするか興味があったもので」
「…お前なぁ」
「では、代役は池上さんで、三時から始まりますので二時半には大講堂へ来てください」
「おい、練習はいいのか?」
「ええ、既に完璧と言えるほどの技術をあなたは身につけています、僕も驚いていますよ、この短期間でそれほどの技術をつけたのですから」
「お前に褒められても嬉しくない」
「そうですか」
叶野は微笑する。
「それと、もう一つ」
「なんだ?まだなにかあるのか?」
「神崎さんの精神状態ですが、今日も不安定です…それなりの対処をお願いします」
「お、おい…それは解決したんじゃ…」
「バランスが崩れただけで問題の解決にはいたっていません、つまり、今は定期的な感覚ですが裏と表が逆転します」
「…マジかよ」
「ええ、今日は裏ですが明日は表かもしれません、精神科医によりますと彼女の睡眠が切り替わるスイッチになっているとのことです」
「じゃあ、一日交代なのか?」
「いいえ、最初にも言った通り、バランスが崩れただけです、少し表寄りになったので表が常時、裏がたまに出てくると考えてください」
「複雑だな」
「ですが、ショックなので反転する以前よりは対策が打ちやすくなっています、僕はこれら全てはあなたのお陰だと思っています」
「俺の?」
「ええ、前回の一件で吹っ切れたのでしょう、彼女も迷いを感じなくなったのでしょうね」
「で…結局俺にどうしろと?」
「僕からは忠告だけです、どうするかはあなたに任せますよ」
それだけ言って叶野は俺に背を向けて屋上から姿を消した。
やれやれ…。

それでこのまま部室に戻るのも気が引けたので俺は休憩所である自分のクラスで一息ついている。
「池上さんは一緒じゃなかったのかい?」
「ああ、部室にいるんじゃないか」
栄治と一緒にのんびりしている。
「やっと見つけた」
と池上の様に教室のドアから入ってきたのは神崎さんだった。
「あれ、神崎さん?」
「ほら、早く行きましょうよ」
俺は神崎さんに引きずられていく。
「あ、あの…行くってどこに?」
俺には見当がつかないんだが…。

連れて来られたのは体育館だった。
イベントの最中の様で騒がしかった。
「さぁベストカップル選手権もいよいよ中盤です、もう飛び入り参加の方はいませんか?」
ベストカップル選手権?
ああ…そんなイベントもあったなぁ。
…って、この展開は
「おっと、飛び入りの方ですね」
違う、と言う前に体育館の壇上に乗せられてしまった。
でまぁ…良く分からん内に番号がついた札を貰ったのだが…。
「それでは次は5番のカップルどうぞ」
「私たちの番ですよ」
神崎さんに手を引かれ俺達は司会の隣へと歩き出す。
「本日五組目のカップルです」
いや、まて…俺と神崎さんは恋人じゃないぞ。
「それでは選択してください」
と、言われて司会の指差す方向を見た俺だったが…。
…まぁ、その…カップルならできるだろう…項目が書いてあった。
膝枕だのお姫様抱っこだの…。
いや、できないことは無いんだが…。
「それじゃあキスで」
「おおーっと出ましたキス!!!」
な、なんですと…。
恋愛率100%のところに書いてあるのは…キス
こ、こんな人前でしろと言うのか…。
いや、落ち着け俺…。
別に神崎さんは恋人じゃないんだぞ。
だから、無理にする必要なんて…。
が…周囲のオーディエンスたちはそれを望むかのように盛り上がってきている。
「それではどうぞ」
司会よ…勝手に進めるな。
心の準備が…って…出来る訳無いだろ。
ああ…なんとかしないと。
パニック状態の心理状態だが
俺を冷静にさせる人物が一人観客席にいた。
彼女の髪の色は黒や茶に比べると比較的目立つ。
よって一番に見つける事ができた。
しかし…彼女は俺に背を向けて出口に向かって走り出す。
くっ…絶対アイツ勘違いしてやがる。
「ごめん…神崎さん」
「えっ…?」
神崎さんの腕を振り解き。
体育館の壇上から飛び降りて走る。
観客は俺の行く手を阻まないように両サイドに寄ってくれるのはありがたい。
俺は…その一筋の道を走りぬける。
俺のことを見て困惑する観客達なんて気にならない。
「池上っ」
手を掴み引き寄せる。
いつもなら「離してっ」とか返ってくるが
「………」
彼女は無言のまま涙を流していた。
「誤解だ」
違う…俺が言いたいのはこんな言葉じゃない。
「…なにが…誤解…なの…?」
「これには色々と事情があってだな」
バカか俺は…なんで…こんな大衆の前でこんな行動をとった。
「……」
「…信じてくれ」
なにを根拠に…俺はなにを根拠にこいつに信じてもらおうとしているんだ…。
そもそも…こいつになんと思われても俺は別にいいやって思ってたはず。
なのにどうして俺はこいつのこと…。
静まり返る体育館。
「もう、わかんない…だって…あなたの気持ち…全然わからないんだもん…」
そうだ…誤魔化してる。

自分の気持ちをこいつにはバレない様にしてきた。

自分でも気付かないフリをしていた。

でも、なんで…?
こいつはこんなにも素直で…。
自分を変えてまで努力して同じ学校に通う様にして…。
そして…バンドの活動。
俺が物事を本気になれないのを知ってて…。
それでも誘ってくれた。

俺は…池上の事が…。

「っ…」
人間、本当に大事なものを失いたくない場合、心にセーフティをかけるらしい。
俺はそれが結構強かったのかもな。
現在の立ち位置に満足して変化を求めなかったのさ。
でも…もう迷う必要は無い。

俺は…こいつが…池上が好きだ。

恥ずかしさなんて関係ない。
ただ…その気持ちを彼女に伝えたかったから。
俺は…彼女を抱きしめ…キスをした。

「パシィン」
と音がして俺の頬が叩かれた。
思いっきり叩いたのだろうか
赤い跡が残ってるんじゃないかと思うくらいの痛さだった。
そりゃそうか…。
池上の気持ちを確かめずにこんなことをしたらこうなるよな…。
「バカ…みんな…見てる…のに…」
ふてくされた様に言った池上を見て微妙に安心できた。
「…だからって叩くことないだろ」
頬に残る痛さがこれが夢でない事を教えてくれた。
「だって…」
池上の意見を聞かずに俺は彼女の手を引いて走り出す。
「ちょ、ちょっと…」
「この場にお前は長居したいのか?」
周囲の女子からは黄色い歓声があがっているが…。
男子諸君からは殺気だったものを感じ取れる。
さぁて…エスケープと走りますか。

壇上にいる神崎さんに叶野が話しかける。
「あれで良かったのですか?」
「ええ、今は負けといてあげる」
「それで転校の件はどうするつもりですか?」
「そうね…彼には私から言うわ、まぁ裏の私だと思うけど」
「そうですか、ではしばらく僕も休業ですね、寂しくなります」
叶野は微笑すると
行き場の無くなった少女を送っていった。

とりあえず、走るだけ走って部室まで来てしまった。
「ねぇ…さっきの」
「その…告白か?」
「あれ…本気?」
「…ああ」
今になってかなりの恥ずかしさが込み上げてきた。
「その…もう一度…」
「ん?」
「もう一度言って」
「勘弁してくれ…」
これ以上俺に恥ずかしい思いをさせないでくれ。
「お願い…」
そんな目で見ないでくれ…。
まぁそんな微妙な雰囲気の中、ふと時計に目をやると
「あ、もう、二時半じゃないか」
「え…あ、本当だ」
「早く大講堂行かないと」
「う、うん」
忙しいな俺…まぁいいや、演奏が終わったらちゃんと言おう。

大講堂に来ると既に楽器はスタンバイされていた。
「どうも」
爽やかな笑顔で叶野が俺たちの到着を待っていた。
「凄い騒ぎでしたね、あなたがあれ程の大胆な行動を起こすとは思いませんでした」
「ほっとけ」
まさか見ていたとはな…。
「それより…神崎さんを見なかったか?」
「彼女は体調不良とのことで先程帰りましたが」
「な…本当か?」
さっきのこと…ショックだったのかな…。
「それよりも、始まりますよ、スタンバイしてください」
「あ、ああ…」
壇上へと上がり。
ギターを持ってスタンバイ完了。
影島は既にドラムの前に居て
池上はボーカルとして中央に立ち。
叶野は池上の変わりにギターを持つ。
観客席を見るとそんなに客はいなかった。
助かった…と言っておこう。
それで影島のドラムが鳴り出したと思うと
演奏が開始された。

……………。

結果はそれなりだった。
そりゃそうだろう…。
素人集団の簡易的なライブなんてたかが知れている。
だが、これからライブをやろうという俺と池上には
良いスタートを切れた気がした。

「ふぅ…」
部室に戻り、一息をつく。
「お疲れ様です」
叶野が労をねぎらってくれたが嬉しくもなんとも無い。
さて…俺にはやらなきゃならんことが一つ残っていたな。
「…池上」
池上を呼び出して
俺は部室を後にした。

池上を連れてきたのは…まぁベタであるが…体育館裏。
ここなら告白には持って来いだろ。
「………」
頬を赤く染めて無言で下を向いている池上。
う…面と向かうと言い辛いな。
「その…なんだ…えと…」
やばい…上手く声が出ない。
こんな時まで不甲斐無ぇな…俺。
「…ごめんね」
池上が口を開いた。
「えっ…?」
「さっき…体育館で叩いちゃって…」
「ああ、別に大丈夫、もう痛くない」
「私…本当は凄く嬉しかったのに…でも、恥ずかしくて…」
「確かにな…明日学校でなにを言われるか分かったもんじゃない」
「…バカ」
俺に抱きついてくる池上…。
いつものツンツンした態度はそこには無かった。
「本当はもっと…もっと、ロマンチックにしたかったのに…」
拗ねた様に言う池上。
「…キスのことか?」
「…うん」
そうだよな…池上だって女の子だ。
思い描いていたシチュエーションだってあった筈だ。
だけど俺は池上の気持ちも考えずに…。
「だから…もう一度…言って」
ああ、分かってるさ。
「…好きだ」
俺はありのままの自分の素直な気持ちを彼女に伝えた。

それから微妙な雰囲気に流されて俺と池上は学校を後にした。
二人して帰り道を歩く…。
「ねぇ…」
「ん?」
「私…彼女ってことでいいのかな…」
不安げに訊ねる池上。
「………」
「ちょっと…黙らないでよ…」
「すまん、お前がそんなこと聞いてくるなんて思わなかったから…」
「……」
池上はジト目で俺を見る。
「なんだよ?」
「…また、お前って言った」
「は?」
「だから……「お前」…って言った…」
「あ…」
そういうことか…。
「名前で…呼んでよ…」
「…無理」
「なんで?」
「…なんつーか…恥ずい」
「そうなの?」
「今まで苗字だったんだぞ…それをいきなり名前で呼べるかよ」
「…じゃあ、いつ名前で呼んでくれるの?」
「…その内な」
「その内っていつ?」
「…その内はその内だ」
「誤魔化した…」
頬を膨らませている池上は可愛らしいというかなんというか…。

家に帰ってきても池上の唇の感触がまだ口に残ってる…。
うーん…俺ってこんなキャラだったっけ?
自問自答も馬鹿馬鹿しい…。
「学校でなにか良い事あったの?」
「別に」
家に帰ってきて早々母さんに聞かれたが適当に流しておこう。
そんなに顔が緩んでいたのだろうか…。
まぁいいや
とりあえず、文化祭の疲れを取るために風呂にでも入ろう。

なんて…悠長な事を言っていたのは俺の気の緩みが原因な訳で…。
風呂から上がって携帯を見ると着信が
嫌な予感がする。
「もしもし」
恐る恐る電話に出ると
「夜分遅くにすみません」
はいはい…わかってましたよ。
「何の用だ?」
できるだけ棘を持って接する。
「………」
「重要なことか?」
「直接、お話したほうがいいと思います、玄関まで出てきてはもらえませんか?」
仕方なく、自室を後にして玄関へと向かう。

玄関の扉を開けると叶野が制服姿のまま立っていた。
「性質の悪いストーカーか?」
「いえいえ、それよりも車を用意していますので、そちらへ」
俺を車に招き入れる。
車に乗ると運転席には西沢さんが座っていて
後ろの客席には神崎さんがいた。
「こんばんわ」
俺に寄ってくる神崎さん。
「……どうも」
そっけない態度を取っておく。
裏の彼女と無理に親しくする必要は無い。

そのまま車に乗って連れて来られたのは神崎邸だった。
「ここです」
客間に案内されたので俺は叶野と向かい合い座る。
「で、用件はなんだ…?」
「神崎さんのことです」
「神崎さんの…?」
俺は座っている神崎さんを見る。
「ええ、彼女は近日転校します」
「なっ…」
そんな…いきなり…。
「まぁ、引っ越すのは表の私だし、もう、あなたには関係ないじゃない」
裏の神崎さんが言う。
「関係ない訳ないだろ…」
「あらそう」
そっけない態度…表とは逆に性格ゆがんでるんじゃないのか?
「一時的ですので、来年の4月には戻ってくる予定です」
「…そうか、じゃあ一時的でまた帰ってくるんだな」
「はい、それで僕もお供をすることになりまして」
「…お前も?」
「元々、僕の役目は神崎さんの警護ですよ、お忘れになりましたか?」
いや…忘れてはいなかったが…。
「でも…恋愛仲介部はどうする…?」
「その辺は大丈夫です、代役を数名、用意していますから」
「…マジかよ」
「ええ、わざわざ、他の高校からね、私にはこんな部活に存在意義はないと思うんだけど」
神崎さんが皮肉るように言う。
「帰ってきたときに居場所がないと困るので、一応、念のためですよ」
そうか…でも少し寂しくなるような…ならないような…。
「ですが、取って置きのサプライズがありますので期待していてください」
「…新メンバーのことか?」
「ええ、驚くと思いますよ」
「…はぁ」
でもまぁ…部長以上の変人じゃなきゃ大丈夫だろう。

それから少し話をして俺は神崎邸を後にした。
帰りの車の中、叶野が話しかけてきた。
「少し…寂しくなりますね」
「ああ…そうだな」
「…でも、いいじゃないですか、あなたには池上さんがいる」
「…まぁな」
「おや、否定はしないんですね?」
「お前が言いたかったこと…わかった気がするよ」
「そうですか…それはよかったです」

車から降りて家に入ろうとする俺に叶野は
「では、来年、新しい学年になった時にお会いしましょう」
「ああ…その頃まで部活があったらな…」

次の日…叶野と神崎さんは転校して行った。
そう、まるで元から存在が無かったかのように誰にも告げることなく…。


とりあえず…次は新展開ですかね…。直しもあるので時間がかかりそうです。あと、前話に記したホームページもよろしくお願いします。








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