#04 どこまでも、いける。 -Lady of the Dancing Water-
ゾンビになって得したことですか?
んーそうですね…まぁ色々あるけど…
普段出来ないことが出来るようになってったことかな?
私、元々水泳部だったんですよ。
ただし下手の横好きって言うか…大会では万年控えみたいな、
パッとしない方の代表選手的ポジションだったんです。
運動神経や筋肉力もそうだったんですけど、特にブレスが弱くて。
肺活量がダメだったんですよね。
息継ぎがどうこうって話じゃないんです。
ブレスの回数は定番化されてますし、
そもそも、それでスピードが変わるようなレベルには達してませんし。
ただ一回の呼吸量が少ないんで、自然、スタミナが弱いんですよ。
持久に必要な酸素が肺に送りきれていない。
正直、ジレンマでした。
遠泳が徹底的にダメで、かといって短距離も向いていない。
元々、総合的な体力をつけるためにって母が薦めてくれた水泳だったんですが、
実際だいぶあきらめてました。
やめようって思ったことも何度もあります。
でも、ゾンビになっちゃうと関係ないんですよね。
驚きました。
呼吸の必要が無いんです。
いくらでも水に潜っていられますし、それでいて疲れることもまったくない。
ブレスの悩みから、全部開放されちゃったんです。
幸い、死んだときは内臓破裂だったんで、手足に障害はありませんでした。
体をひねるときに少し違和感がありますけど、たいした問題じゃありません。
もう、泳ぎたい放題です。
復帰早々にタイムを計ったら、休養明けということもあって、
短距離こそ落ち込んだんですけど、
八百メートルあたりから見違えるようにタイムが縮みはじめて。
三千メートルでは市の記録にコンマ差です!
今までは小学生記録にも追いつけなかった私がですよ!
もう、死んで初めて、神様に思いっきり感謝したくなりました。
でも落とし穴って言うか、当たり前っていうか……。
死ぬと、筋肉量って変わらないじゃないですか。
成長しないんです、これ以上。
常に今がベストなんだけど、その先が無いんです。
記録にコンマ差かもしれませんが、そのコンマは努力じゃ絶対に埋まらない。
ああ、ゾンビって、そういうことなんだって。
いや、別に絶望したわけじゃないんです。
これでも前に比べたらはるかにマシ。
あのまま無駄にあがき続けるより、ずっと満足してます。
で、結局、水泳部はやめました。
……ええ、実は部員からクレームがきまして…。
ゾンビと一緒のプールは感染しそうで怖いって……。
当然の要求だと思います。
そりゃ納得できますよ。
私だって、生きてたら、絶対同じコト言ってますもん。
だから、今はもっぱら海で泳いでます。
ホラ、今の季節、誰も泳いでいないし。
楽しいですよ!
いくらでも潜っていられるし、どこまでも泳いでいける。
これはもう、ゾンビの特権です!
エサだと思うんですかね、小魚が寄ってきてかわいい。
指先削ると、そこに集まってくるんです。
海の底にいくつかステキなポイントを見つけたんですよ。
座礁した船とか、不思議な形の岩とか、ホント、面白い!
クラスのみんなにも見せてあげたいって誘ったんですけど、
お肌が塩っぽくなるのがイヤみたいですね。
サメが怖いってやんわり断られました。
まぁそのうちサメに食べられるかもしれませんが、
ある意味本望ってことで。
…どうだろ?
ゾンビ食べたサメもゾンビになるのかな?
小魚たちは大丈夫そうだったけど。
泳いでる場所は内緒にさせてください。
漁業やってる方が良く思わないでしょうし。
もし捕まえたサメのお腹から私が出てきたら、
お手数ですが、笑って海に捨ててやってくださいね。