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2年3組・オブ・ザ・デッド  作者: 東山神兵
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#01 おわる、はじまる。 -In The Wake of Poseidon-

挿絵(By みてみん)


ええ、はい。

最初は自分でも何が起きたのかよくわからなくて。


「事故だっ」てのは覚えているんですよ…

突然体が投げ出されて、

視界が上も下もグチャグチャになったと思ったら

前のめりの形で窓に叩きつけられたんです。


巨大なハンマーで

全身をブン殴られる感じっていうのかな…

ありえない衝撃が肩から首に突き抜けて。


プツっと意識が途絶えました。


で、目が覚めたわけです。


ホント、意味がわかりませんでした。

とんでもない事故だってのはわかっていたんですが

自分が無事だってのが、なんていうか……

ありえないことだって……。


変な話ですけど、目が覚めた瞬間、

自分が「死んだ」って事実が……

明白に、理解できたんです。


首の骨が折れてて。

左手が変な方向に曲がってて。


幸い、出血はほとんど無かったんですが、

おなかの中が色々滅茶苦茶になってる感じがして。


ホント、これはもう、死んだな、と。


正直、今でも理由はわかりません。

ただ、その事故の犠牲者の中で、私だけ、

ゾンビとしてよみがえっちゃったわけなんです。


そりゃ驚きました。

ゾンビですよ、ゾンビ。

幽霊とかならまだしも、

ゾンビになっちゃったんですよ?

ありえなくないですか?


で、ちょっとだけポカーンとしてたと思います。

どうしよう、

どうすればいいんだろう、

どうなっちゃうんだろう、

なんて、とにかく、頭の中の整理がつかなくて。


あーとか、うーとか、

うなってたかもしれません。


そしたら、お腹が減ってきたんです。


笑っちゃいますよね。

死んだんですよ?

死んだのに、お腹が減ったんですよ?


ゾンビって、

人を襲って食べるっていうじゃないですか。

ひょっとして、これがそういうことなのかって。


納得したような、情けなくなるような、

そんな気持ちでゆっくりと体を起こすと、

ようやく、バスの惨状が視界に入ったわけです。


崖下に落っこちたバスはもう滅茶苦茶に壊れてて、

車体は大きく歪み、窓という窓は全部割れ、

座席も土台ごとはがれてたり、ねじ切れてたり。


当然、みんなも、

凄まじいことになってまして…。


かすかにうめき声は聞こえましたが、

無事な人がいるとは、到底思えませんでした。


投げ出されてだらしなくぶらさがった手足。


血まみれのままガラスに突っ伏した顔。


椅子に潰されてちぎれかかった腕。


阿鼻叫喚の地獄絵図とか書かれた記事もみましたが

どちらかといえば、阿鼻叫喚が過ぎ去った後の

かつての地獄絵図って感じでした。


猛烈に悲しくて、

猛烈に空しくはあったんだけど、

不思議と気持ち悪いってことはなく、


とりあえず、生きてる人を探そうと

ゆっくり起き上がりました。


でもバスの中は予想以上にグチャグチャで、

壊れた椅子が邪魔で、

一メートルも中に進めませんでした。


足元には瀕死の佐村さん。


口からヒューヒュー音がするばかりで、

意識も無かったと思います。


これはダメだ。

私一人じゃ誰も助けられない。


この状態で生きてる人がいたとしても、

こんな山奥じゃ、

助けが来るまで時間がかかりすぎる。


もう、実は、結局、全滅を待つしかない。


正直あきらめました。

あきらめかけました。


あきらめてもお腹が減ってました。

佐村さんが一瞬おいしそうに思えて、

ゾンビになった自分が情けなくなりました。


で、ひらめいちゃったんです。


ゾンビって、伝染るんだって。


ゾンビって、死んだ人間を仲間に出来るんだって。


ごめんねごめんねって言いながら……

たぶん泣いてたと思います……

私は佐村さんの手を、血がにじむぐらい軽く、

かみました。


隣りでもう事切れていた上寺さんもかみました。


東辺さんや、

椅子の間から腕だけ突き出していた

疋田さんもかんだと思います。


正直、

ちょっとだけおいしいなんて思ったりもしました。

たぶん混乱してたんだと思います。


三分ほどで、効果は現れました。


はじめに上寺さんがゆっくりと起き上がり、


まもなく東辺さんも目を覚ましました。


佐村さんは遅かったです。

正確にはわかりませんが、

三十分以上はかかったと思います。


幸い、上寺さんも東辺さんも状況を受け入れ、

私の意図を汲み取ってくれました。

三人で協力して、壊れた椅子をおしのけて、

疋田さんを助けました。


それからは、みんなで協力です。


念の為かむ担当は一人が良いということになり、

上寺さん、東辺さん、疋田さんが助けた人たちを、

私が順にかんで回りました。


息のある人は出来るだけ

そのままにしようともいいましたが、

結局救助がくるまでには間に合わず、

全員がゾンビになりました。


みんな悲しんで、怒って、

私を責めたてるんじゃないかとも思いましたが、


「死ぬかとおもった…でも死ぬよりマシだよね」


そんな佐村さんの一言で、


何故か、みんな、大笑いしました。

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