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カザブの野望編 第7話

応接室で領主と歓談した後は、各自部屋に戻り晩餐の支度をする。

ここでマーガレットはメグの準備を手伝ったのだが、ちょっと困ったことになった。


ーーードレスの着せ方がわからなかったのだ。


いつも着せてもらっているので頭でわかっているつもりだったが、いざやってみるとできない。


メグに口で説明してもらうが、補正下着からして通す紐やら穴やらが多すぎてお手上げだった。

そこへ王宮侍女のエレナが中々出てこない二人を心配してやってきてくれた。

マーガレットが彼女に泣きつくと、エレナはお任せくださいと言ってあっという間にメグの支度を整えてしまった。


(さすが王宮侍女。侍女のトップに位置するだけあるわね)


マーガレットは彼女に心から賞賛を送った。


その後、無事に領主との晩餐を終え各自部屋に戻る。

マーガレットはメグの部屋で彼女にお茶を出していた。


「やめてください、お嬢様!」


最初メグは焦って自分がマーガレットにお茶を出そうとしたが、マーガレットはいつ誰か来るかわからないから演技は続けたほうがいいと言ってメグをソファに座らせた。

メグも渋々それを受け入れる。


「それにしてもお嬢様、似合いますねえ」


メグはマーガレットの侍女服姿を見てそう言う。

黒を基調にしたふんわりとしたくるぶし丈のワンピースに、腰に巻いた白いエプロン、黒の革靴を履いて、頭には服に合わせたカチューシャをしている。

それを聞いたマーガレットは自信なさげに笑った。


「そう?ありがとう。メグも似合ってるわよ」


メグはその言葉に照れ臭そうに笑う。

メグはマーガレットのドレスを即席で手直ししたものを着ていた。

二人はよく似た背格好ではあるが、マーガレットは出るとこの出た体型をしており、メグは凹凸の少ない平らな体型をしていた。


なのでマーガレットのドレスを着るとある部分がダボついてしまうのだ。

だがメグはまったく気にしていない。

彼女曰く、”胸は戦うときに邪魔”なのだそうだ。


「でもエロいんですよね」


メグがマーガレットを見て彼女に聞こえないようにそうつぶやく。

マーガレットは平らなメグに合わせて仕立てられた侍女服を着ているため胸のあたりがはちきれんばかりなのだ。


マーガレットが自分の侍女服姿に自信がないのには理由があった。


一行はリチリア国内での最後の滞在先で服も交換して着替えたのだが、メグの侍女服を着て部屋から出てきたマーガレットを見てアレクは絶句した。

そして片手で口元を覆って横を向いてしまう。

耳まで赤くなっている。

ジョシュアは尻上がりの口笛を吹いた。


「今すぐ服を買いに行きましょう」


「えぇ!?」


そう言って真剣な目でマーガレットの肩を掴むアレクに、時間がないしサイズの合う侍女服など急には用意できないだろう、到着が遅れるのはまずいと説得してそのまま出発した。


(そんなに似合ってなかったのかな?)


マーガレットはアレクの反応にしゅんとしてしまう。

マーガレット以外の全員は、なぜアレクがマーガレットを着替えさせたかったのかわかっていたが何も言わなかった。

いや、言えなかった。


まさか当の本人に、あなたの格好がエロすぎるからですよなどとは口が裂けても言えない。


よって誰も彼女をなぐさめることができないまま、一行は旅程を進めたのだった。


メグの就寝の時間になり彼女の着替えを手伝って就寝の準備をしたあと、マーガレットは彼女の部屋から退室する。

メグの部屋の前にはリチリアから連れてきた騎士の一人が見張りに立っていた。


マーガレットは「よろしくお願いします」と騎士に言うと、騎士は若干赤くなりながら「はい。お任せください」と胸に手をあて騎士の礼をして答えた。


マーガレットが割り当てられた侍女の部屋へと戻るため廊下を進んでいると、ひとつの扉が開いた。

そしてそこから領主であるリガールが顔を出す。

リガールはマーガレットを見ると手招きしていった。


「君、ちょっとこちらへ来なさい」


マーガレットは領主が自分に何の用だろうと首を傾げつつも彼について部屋に入った。


「晩酌に付き合ってもらってもいいかね?一人で飲んでもつまらなくてね」


見るとソファの前に置いてあるテーブルには、飲みかけのワインとグラスがひとつ置いてあった。

彼の侍女は下がっているのか部屋にはリガールとマーガレット以外誰もいない。


リガールは自分の向かいの席にグラスを一つ用意すると、そこにワインを注いだ。

どうも、マーガレットに飲めと言っているらしい。


「あの、わたしお酒は・・・」


そう言って辞退するマーガレットにリガールは、「一口ぐらい構わないだろう、さあ飲みなさい」と勧めてくる。


「いえ、本当に結構です」


そう言って固辞するマーガレットに、リガールは急に不機嫌になった。


「私の勧める酒が飲めないとでも言うのかね?一口だけでもいいから飲みなさい」


マーガレットは小さく息をつくと、「じゃあ一口だけいただきます」と言って立ったままグラスに口をつけた。

今の自分は一介の侍女だ。

あまりこの屋敷の主人の機嫌を損ねるのも得策ではないだろうと考えたのだ。


ワインを口に含んだマーガレットにリガールは嬉しそうに言った。


「どうだ、うまいだろう。この領地で取れる最高級のものでね」


マーガレットは饒舌に語るリガールの言葉に耳を傾けながら、ふわりふわりと足元がふらつくのを感じた。


(おかしいわ。一口しか飲んでないのに)


マーガレットはついに立っていられなくなり、その場にへたり込む。


「おや、どうした。気分でも悪いのかね?そこのベッドで休んで行きなさい」


リガールは立ち上がれないマーガレットの腕を掴む。

その瞬間、しびれるような感覚がマーガレットの身体中を駆け抜けた。


「・・・っ」


マーガレットは唇を噛み締め、漏れそうになる声を抑える。

リガールはマーガレットを立ち上がらせ腰を支えると、ベッドまで引きずるようにして彼女を連れて行きそこに彼女を放り出した。


必死に起き上がろうとするマーガレットの目の前で、リガールがシャツの襟元をくつろげ出す。

マーガレットは事態のまずさに青ざめてあせるが、にげだそうにも体に力が入らない。


そんなマーガレットに覆いかぶさりリガールはやすやすと彼女を両手首を掴んでベッドに縫い付けた。


「侍女にしておくのはもったいないぐらい、いい女だな」


そう言うと、顔を背けるマーガレットの首筋に唇を押し当てた。


「ああっ」


感じたことのないような感覚がマーガレットの体を突き抜けていく。

そんなマーガレットを見てリガールは薄く笑うと言った。


「この領地で最高級の()()の効果はどうだ?」


(媚薬・・・?)


そう言いながらリガールは彼女の首筋にあてた唇をゆっくりと下へ向かって這わせていく。


「やっ」


痺れるような感覚が彼女の思考力を奪っていく。


「おかげでうちの領地経営は毎年黒字さ」


そう言って、マーガレットの胸元のボタンにリガールが手をかけはずし始めた時、覆いかぶさっていた彼が音もなく彼女の上にドサリと崩れ落ちた。


「わっ!」


マーガレットは驚き、自分の上に力なく横たわるリガールの下から必死に這い出す。


「お嬢様」


わずかに開いた扉から音もなく入ってきたのは夜着の上から厚いガウンを羽織った、マーガレットの腹心の侍女メグだった。


「遅くなって申し訳ありません」


マーガレットは狐につままれたような表情で自分の侍女を見る。

そして、ピクリとも動かないリガールを指差して言った。


「これ、あなたが?」


そういうと、メグはうなずく。


「はい。麻酔針で昏睡させました」


見ると男の首筋に一本の針が刺さっている。


「お嬢様。この家のものに見つかるとまずいので、今すぐお部屋に戻りましょう」


メグはそう言うと、リガールの首に刺さった針を回収し、マーガレットを助け起こすと彼女をベッドから降ろす。


マーガレットはメグに助けられながらもつれそうになる足を叱咤してリガールの部屋を出てメグの部屋へと戻った。

部屋に入るとアレクとフォルがいた。


「マーガレット!」


部屋に入るなりアレクが彼女に駆け寄る。


「大丈夫ですか?」


そう言いながらマーガレットの全身を見回したアレクは、彼女の乱れた胸元を見て殺意を目に宿らせる。


「・・・殺す」


そう言って部屋から出て行こうとするアレクをマーガレットはふらつく足取りで慌てて止めた。


「所長落ち着いてください!わたしは大丈夫です」


アレクはふらりと足をもつれさせたマーガレットを慌てて支える。


「〜〜〜っ」


マーガレットは何かに耐えるように唇を噛み締めた。


「マーガレット?」


アレクは様子のおかしいマーガレットを心配そうに覗き込む。

が、メグが歩み寄ってくるとそんなアレクからマーガレットをベリっと引き離した。

本来ならかなり不敬なのだが今そんなことを気にする者はここにはいない。


メグはマーガレットを支えながらソファまで連れて行きそこへ座らせる。

ほっと息を吐きメグにお礼をいうマーガレットにアレクは訳が分からず困惑するばかりだ。


「お嬢様は媚薬を盛られました」


そんなアレクにメグが淡々とそう言い放った。



***



フォルは再び殺意を目に宿らせたアレクをなだめてソファに座らせると、「このようなことの後に申し訳ないのですが」とマーガレットに何が起こったのか説明を促した。


マーガレットはメグの部屋から自分の部屋へ帰る途中、領主のリガールに呼ばれたこと、彼の部屋でワインを勧められて断ったが機嫌が悪くなったので仕方なく一口だけ飲んだこと、そのあと体の様子がおかしくなったことなどを説明した。


それを聞いたフォルがいった。


「話を聞いた限りでは、リガールはあなたの正体を知って襲ったわけではなさそうですね」


マーガレットはそれを聞いて頷く。


「ええ。侍女にしておくのがもったいない、というようなことを言っていたので私が誰かわかってした訳ではないようです」


その言葉にアレクが苛立ちを隠さずに言う。


「やはりこの作戦は中止しましょう」


マーガレットが驚いてアレクを見る。

正体がばれたわけでもないのになぜ中止するのか。


「そんな格好でウロウロしていたら、またいつ襲われるかわかりません」


それを聞いたマーガレットはきょとん、とアレクを見返す。


「この格好のどこがいけないんですか?ただのメイド服ですよね?」


そう聞かれた男たちはそれぞれあさっての方向に目をそらしたのだった。



***



結局作戦は続行、夜はメグと一緒のベッドで寝る、一人で部屋の外を出歩かないということで落ち着いた。

アレクも今回のメグの実力を見て、彼女と一緒なら大丈夫と踏んだのだろう。


「それにしてもよくわたしの居場所がわかったわね、メグ」


マーガレットは彼女とひとつのベッドに横になりながら聞いた。

それを聞いたメグは言った。


「お嬢様がお部屋を出られたあとすぐ後をつけたのです」


「えぇっ」


(全然気づかなかった・・・)


マーガレットは驚いて自分の隣に横になるメグの小さな横顔を見つめた。


「それでお嬢様が領主の部屋に入るのを見たので、ひとまず殿下に報告に行きました。万が一わたしが不覚をとったときのための保険です」


メグはそこでなぜかムッとした表情になる。


「ところが、王子殿下が自分が助けに行くと言って聞かないのです。事を穏便に運びたいのでわたしが行くのが適任だと申し上げたのですが聞き入れられず・・・仕方がないので近くにいたジョシュアを針で昏倒させ実力をわかっていただいてからお嬢様を救出に向かいました」


それでお嬢様をお助けするのが遅くなってしまいました、と心底悔しそうにいうメグをマーガレットはなんとも言えない表情で見つめた。


(ジョシュア・・・それでさっきいなかったのね)


彼の姿が見えないことを不思議には思ったのだ。

普段騎士である彼が敵陣ど真ん中で爆睡するとも思えないし、なぜいないのだろうかと。

だが誰もそのことに触れないので、マーガレットも話題に出せないままになってしまっていた。


マーガレットは訳も分からずいきなり昏倒させられたであろうジョシュアに心の底から同情したのだった。

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