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カザブの野望編 第5話

「え?カザブから結婚式の招待状?」


魔法石の作り方を記した本を王宮の書架に納めてから数日後、アレクから呼び出しを受けたマーガレットは再び王宮の彼の部屋を訪れていた。

二人は応接室のソファに向かい合って座っている。


「はい。昨日届きました」


アレクはそう言って、手元の招待状をマーガレットに差し出す。


マーガレットはそれを受け取ってアレクに聞いた。


「中身を確認してもいいですか?」


アレクが「もちろんです」と頷くのを見ると、マーガレットは封筒から中身を出して目を通す。


「第三王子殿下につきましてはごきげん麗しく・・・この度我が国の第二王女が結婚する運びとなり誠にめでたきことなれば、第三王子殿下とその婚約者殿を結婚式にご招待いたしたく存じあげますって、えっ?婚約者ってもしかしてわたし、ですか?」


驚いたマーガレットはそう言ってアレクを見る。

アレクは深く息を吐くと言った。


「どうやらそのようですね。どこから情報が漏れたのかはわかりませんが、カザブが我々の非公式な婚約について知っていることは間違いないようです」


軍事大国カザブからの招待状。

どう考えてもきな臭い。


「どうやら向こうはなんとしてでもあなたを手に入れたいようです」


アレクはそう言うとその顔に暗い影を落とした。

マーガレットはその言葉を聞いて、やはりと思う。


(カザブはわたしに魔法石を開発させることを諦めてないんだ)


「やはりここは、自分に婚約者はいないと言いましょう。まだ非公式ですし、問題はないでしょう」


そう言ったアレクに、彼の側近であるフォルが口を挟んだ。


「それはやめたほうがいいですよ。アレックス」


そう言ったフォルをその場にいた全員が見る。


「あなたが彼女との婚約を否定すると、次にカザブが打ってくる手は目に見えています」


アレクはその言葉にハッとなった。


「まさか、カザブの王族がマーガレットとの婚姻を打診してくると?」


その言葉にフォルがうなずく。


「その通りです。あの国はそこまで狙って、この招待状を出してきたのでしょう」


マーガレットはそれを聞いて青ざめた。

彼女の家は侯爵家で貴族ではかなり位が高いが、所詮はただの貴族。

隣国の王族から婚姻を打診されてしまえば、まず間違いなく断れない。


「むしろ彼女はあなたと非公式とはいえ婚約をしていて運が良かったですよ。そうでなければとっくに隣国行きの馬車の中です」


アレクはその言葉に複雑な表情をする。

婚約を認めるならマーガレットを連れて隣国へ行かなければならない。

婚約を否定するならほぼ間違いなくマーガレットに向こうの王族から婚姻の打診がくる。

どう転ぼうともマーガレットはカザブに行かなければならないということだ。


「そんなの、体調不良で行けませんって言っちまえばいいんじゃないの?」


部屋のドアのそばにもたれて話を聞いていたジョシュアはそう言った。

だがそれに対してフォルは首を振る。


「得策ではありませんね。かの国はアレックスとマーガレットの非公式の婚約を聞きつけるぐらい良い耳を持っています。嘘がばれた日には友好的な式典の招待を無下にしたとして、こちらの国に攻め入る口実にされかねません」


うう〜ん、とジョシュアはうなる。


部屋の中に沈黙が落ちた。


そこにマーガレットの声が上がった。


「わたしカザブに行きます」


皆が驚いてマーガレットを見る。

アレクがありえないと言う表情で首を振って言った。


「ダメです。あなたは行ってはなりません。危険すぎます」


それを聞いたマーガレットは微笑んで言った。


「どの道、彼らが開発した兵器を壊さないといけないんです。それならカザブに行ってチャンスに賭けたほうがいいと思います」


それでもなおアレクは首を横に振る。


「いいえ、あなたはこの国に残ってください。兵器の破壊は私たちでやります」


マーガレットはそんなアレクに言った。


「所長たちだけでどうやって破壊するんですか?彼らは兵器のありかなど絶対に教えてくれませんよ」


「それは、隙を見て探すしかありませんが・・・」


そう言うアレクにマーガレットは言った。


「わたしなら兵器を見せてもらえる自信があります」


その言葉に全員がマーガレットを見る。


「わたしにいい考えがあるんです」


そう言うと、マーガレットは皆に自分の考えを説明した。



***



それから1ヶ月後のカザブへと出発する当日。

マーガレットは家族に見送られながら、王宮の外でアレクとフォルと一緒に馬車に乗り込んだ。

ジョシュアは外で馬に跨り待機している。


リチリアの王都からカザブ首都までは馬車で一週間ほどかかる。

この国の王都から国境まで三日、国境からカザブの首都まで4日だ。


(その間に何もなければいいけど)


馬車がガタゴトと動きだす。

マーガレットは妙な胸騒ぎを感じていた。


「不安ですか?」


マーガレットはそう聞いたアレクを見る。


マーガレットはあるひとつの懸念があった。


ーーー道中、もしアレクに何かあったら


アレクは国内最強の魔術師だ。

そして、そのアレクの強さこそが諸外国への抑止力となっている。

6年ほど前、カザブがリチリアに侵攻しようとしたことがあった。

それをアレクがほぼ一人で敵国数万の兵士を国境の水際で食い止めたという。

その時所長は若干17歳。


アレクがいる限り、周辺諸国はおいそれとリチリアには手を出してこないだろう。

だが、もし彼がいなくなったとしたら?


マーガレットは体をブルリと震わせた。


この旅の途中に、アレクにもし”不慮の事故”が起こったとしたら、リチリアは最強戦力を失い、さらにマーガレットは彼女の庇護者を失う。


そこでカザブがマーガレットを”保護”し、王族、または有力貴族の結婚を打診。

もしマーガレットが世を儚んで命を絶ったとしても、最強の魔術師を失ったリチリアを攻略することは彼がいた時よりもずっとやさしくなるだろう。


(そして、それこそがリチリアの本当の狙い・・・・?)


「マーガレット?」


考え込んでしまったマーガレットにアレクは声をかける。

マーガレットは目の前の心配そうに曇った綺麗な顔を見つめた。


(絶対にこの人を失うわけにはいかない)


「所長、お話があります。フォルも聞いてください」


そう言って、マーガレットは話を切り出した。

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