―何処までも澄みきった空なんて、大嫌いだった。
あの日の空は何時にも増して、青かった。そして、その空に浮かぶ白い入道雲は、恐い程くっきりとその姿を浮かびあがらせていた。
しかし、それを遮る様に張り巡らされた電線も、そこにはあって…
『まるで、空が囚われているみたい』
僕の横を歩きながら、彼女はそう呟いた。その瞳は何処か暗い影を落として…
けれど口下手な僕は、何時もの様に気のない返事を返しただけだった。
そんな僕に、彼女は少し寂しげに笑っていた。
彼女と僕は小学校からの幼なじみだった。
出会いは三年生の秋。転校してきた僕に、初めて声をかけてくれたのが彼女だった。
『椎名敬くん…?私、葛木紫乃よろしくね』
ずっと友達のいなかった僕に向けられた、優しい微笑み。僕はすぐに彼女と打ち解けた。
彼女は不思議な人だった。明るくて、でもどこか寂しげで…
僕はそんな彼女に惹かれていたのかもしれない。陰と陽とを兼ね備えたその雰囲気に。
けれど口下手な僕は、なかなか素直になれなかった。でも彼女は、そんな僕でも相手にしてくれた。
『椎名くんらしくて良いよ』
無口な僕に彼女は何時も、そう言って笑ってくれた。
周りから何処か冷たい目で見られる僕を、初めて認めてくれた人。
―嬉しかった
僕を真っ直ぐに見て、話をしてくれるその存在が。
―救われたんだ
僕は何時も孤独だったから。
―なのに
僕は気付けなかった。
君は僕を理解して、僕を支えてくれたのに。僕は君を理解していなかったんだ。いや、しようとしていなかった。
そんなやつが、支えになんてなれるはずもなくて…
あの日。君が本当に言いたかった事を、僕は気付いてあげられなかった。
いや、多分僕は気付いていた。
『まるで私のよう…』
君はそう言いたかったんだよね。囚われた空を自分自身に重ね合わせて。
そして僕は、気付かないふりをして君を傷付けた。
もし僕が気付いてさえいたならば、君はあんなに苦しむ事はなかっただろう。
―ごめん。
謝ってももう遅いけれど、でも、謝るしか今の僕には出来ないから…
―ごめんね
分かってるよ。
優しい君の事だから、僕に謝って欲しいわけじゃないんだって。
―でも…
そんな君だからこそ、僕は謝りたいんだ。
もう過ぎ去った過去の出来事で、取り返しのつかない事だけれども。それでも僕は…
あの日、君が居なくなった踏み切りで僕は唯、見つめている。
君が可哀想だと思っただろう、電線に囚われた空を。
そして考えるんだ。
君がどんな思いで生きてきたのか。
あの冷たい家庭の中で。血の繋がりのない孤独に怯えながら。
君はずっと辛かったんだね。だから僕の中の孤独に気付いて、傍に居てくれたんだね。
そして最後まで、僕を助けてくれたんだ。
そんな優しい君に、謝る以外にしてあげられる事。
それは…
―ありがとう
在り来たりだけど、これが素直な僕の気持ち。
―そして誓うよ。
もう二度と、君の様な可哀想な子を生み出してはいけない。僕逹の様な孤独な子を生み出してはいけないから。
―だから僕は戦うよ
―そして精一杯生きるんだ。
君が助けてくれたこの命。無駄にするわけにはいかないから。
―それに、
僕はもう
―孤独じゃない
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