5 仮説
人が雷なんか出せるわけがないだろ。
谷岡香織は上司に何度も説明したが、それと類似した言葉しか返ってこなかった。はじめから期待していたわけではなかったが、予想以上に疲労がたまった。
鑑識があの灰を調べた結果、三人の人間がそうなったのだとわかった。
灰を発見したあと、警察官が現場を調査した。あの教室からわかったことは、窓ガラスは外側から何か強いものでたたかれて割れたらしい、ということと、現場にナイフが落ちていたことぐらいだ。
それと同時に、香織は教師たちに、生徒全員の家に電話をかけさせた。香織の予想通り、三人の生徒がまだ帰宅していないということだった。
彼らの髪の毛と、灰は同じ人間のものだと確定された。
警察では捜査が困難を極めていた。もうあの事件から1ヶ月は経過していた。現場に残された物のつながりがほとんどないからだ。
後の調査でわかったが、彼ら三人は仲がよく、いつも行動をともにしていたようだった。現場のナイフからそのうちの一人の指紋が見つかった。
そのことから、三人が仲間割れしてナイフまで出てきたと仮定すると、なぜ、彼らは灰になったのか。なぜ、窓ガラスが割れたのか。現場で目撃された強い光は何だったのか。一貫性がまったく見えない。そのほかの説も同じ道をたどった。
そこで香織は雷の能力者の仕業だと上司に訴えたのだった。
香織の仮定はこうだ。三人の少年と能力者とナイフの関係はわからない。だが、確かなのは、能力者が三人を深く憎んでいたことだ。そして、能力者は未熟で力が暴発したに違いない。そして、窓ガラスまで割ってしまったのだろう。もし、使い慣れた人間なら、三人を殺すのに音もなく殺す道を選ぶだろう。この仮定ならばつじつまが合う。
だが、上司はこれを夢物語だと解釈して、香織をのけ者扱いにしてしまった。
こうなったら、一人でやるしかない。そう思い立って、地道に聞き込みを続けていた。学校の近くの家の人を中心にあの事件に関する、目撃情報を探っていたのだ。
きっと、未熟な能力者は殺人犯が自分だということがばれるのを恐れて、急いで逃げ出したに違いない。
だが、収穫はゼロに等しかった。
改めて、その能力者の立場になって考えてみたが、すぐに吐き気がしてきた。
彼女のことが脳裏をよぎるからだ。
――その人が嫌いだな。と思ったらすぐにやっつけちゃえるんだよ。――
え、すごい。
――でもね、今は雷が私の言うことを聞くけどね、昔はよく爆発してた。――
かみなり?ゆりちゃん。それは、雲の静電気がなんとかして起きるんだよ。
――私、出せるよ?それで親に嫌われてたの。いないように扱われてたの。――
ゆりちゃん、バカじゃない?雷なんかだせないの。
――………………。――
ゆりちゃん。
彼女に助けを求めるのはどうだろうか?
香織は自分が馬鹿げた考えを巡らせていることに気づいた。彼女が今どこにいるかもわからないのに。しかも、自分の大切なものを奪った悪魔なのに。彼女が自分のことをうらんでいるかもしれないのに。
香織は黙々と聞き込みを続けるしかなかった。
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