物理耐性の対策
3/16に最後の展開を修正しました。展開のミスという事に気付いたのが感想をもらった後でした。申し訳ございません。
うまく分断できたみたいだな。部屋が植物で覆い尽くされているのは好都合だ。
これならステルスを使ってもタツマ達にバレることはなさそうだ。吹き飛ばした奴が起き上がる前に姿を消しておこう。
「グ……ルル?」
獣のような声を出して俺を探しているが、ステルスによって見つけることは出来ない。その間に俺は、兵士の後ろに回り、首を狙って剣を振りぬく。
――ザシュ!―ゴトッ―
不可視の攻撃を受けた兵士は防御も回避も出来るわけがなく、無抵抗に首を刎ねられて崩れ落ちた。気分は宇宙人の捕食者だが、この芸当はあまり見られていいものじゃない。
暗殺を容易に行える能力を持った存在なんて恐怖にしかならないだろう。
攻撃したことによりステルスが解除されたが相手がいないので問題ない。
他の皆の援軍にいくべきか……と見たが春香が蔓を育てて相手に絡みつかせていた。
こっちはもう決着がつくな。タツマは……あれは割り込むのは無粋か。やめておこう。
時間の余裕が出来たところで、攻撃範囲強化を外し、鑑定のスキルをセットする。
目標は当然、フィリアだ。
フィリア・ドル・グランファング
種族:人
HP:30/100
MP:200
状態異常:呪い(樹木化) 精神浸食
マズイな。思った以上に弱っているうえに、薬じゃ治らないタイプの状態異常か。
解呪の魔法なら解除できるかもしれないが、今はまだ魔法が使えない。体力だけでも回復させておくべきだな。
ハイポーションを持ちながらフィリアに近づくが、足元に微かな振動を感じた。すると気配感知により視界の真下が真っ赤になっていて、足元から危険が迫っていることをスキルが知らせていた。
「うおおお!?」
『無敵』のお蔭でダメージは受けなかったが、大きく弾き飛ばされた。さっきの杭はイーロからではなく、フィリア……というかこの樹からかっ!
さっきはイーロが指示したのかもしれないが、近づくだけでも攻撃してくるか。厄介だが……ハイポーションを投げるくらいなら出来る!
床から針山のように繰り出される杭を避けつつ、ハイポーションを投げつけるとフィリアに当たる直前に蔓に叩き割られた。
中身がフィリアに掛かるとHPがわずかに回復した。
直接飲まない上に加え、半分以上が蔓に取られてしまったが多少なりとも回復できたのでよしとしよう。
後は……アデル達がうまくやってくれることを祈るしかないな。魔法が使えるようになるまで粘ろう。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ハヤト君! 足元だ!」
ネメアーが大声を上げると、ハヤトの足に忍び寄ってきていた泥が円錐状に伸び、貫かんとしていた。ネメアーの声で気づいたハヤトはとっさに後ろに飛びのき難を逃れる。
「危ねぇっ! ネメアー助かった!」
「しかし、マッドゴーレムなら戦ったことはあるが、このような亜種なんてものは初めてみたよ。実に厄介だ」
自分に襲い掛かってくる泥の拳を受け流し、腕の根元に剛腕を振るうと粘り気のある泥と弾力のある蔓でできた芯がネメアーの拳の威力を殺してダメージを防いでしまう。
「それでもやりようはある」
弾力がある蔓が表に出てくるとアデルが魔力を鋭利な円形状に変化させ蔓を切り落とす。
ボトリと鈍い音を立てながら短くなった腕を拾おうとマッドゴーレムは泥を伸ばしてくるが
―――ズドン! ズドンドンッ!――
伸ばした泥は大きな銃撃により腕だった蔓の回収を妨害された。マッドゴーレムは太い首を妨害者へと向ける。そこにいたのは普段使っているマグナムではなく、デザートイーグルを両手で持った秋葉がいた。
「皆さん、部屋を隈なく探しましたが魔法封印の媒体になりそうなものは見つかりませんでした」
「となると……やはりこのゴーレムが媒体になっているというわけか。確かに物理攻撃が通じにくいこのゴーレムなら魔法封印の番人にするには打ってつけだろう。核を破壊できればいいのだが……厄介な相手だ。どうするべきか……」
床に這わせた泥で腕を回収したマッドゴーレムを睨みながらアデルは悩む。泥による物理攻撃を軽減、更にこの城の状況が影響しているのか植物が絡みつき、弾力性のある蔓を芯に持っている。その上に再生能力まで身に付いたゴーレム。
今まで見たことも聞いたこともない亜種だ。魔法抜きでどうやってこのゴーレムを倒せばいいかとアデルが悩んでいる時に、無造作にハヤトとネメアーがゴーレムに歩み出た。
「どうするべきって難しく考える必要はねぇだろ」
「そうだね。物理が効きにくいだけであって効いていないわけではない。それなら」
「「効くまで殴ればいい。それだけだ(よ)」」
脳筋ともいえる考えを導き出し、二人はゴーレムに向かって走る。その姿にアデルは唖然としていたが、ポンっと秋葉が肩に手を置き、気を取り戻す。
「たまにこういう人達っているんですよ。でも、今は急いだ方がいいのも本当だから下手に悩むよりこういった単純な方がいいかもしれません。それより、アデルさん。ちょっと試したいことがあるんですけど協力してくれませんか?」
「協力?」
「はい、アデルさんの協力があれば……きっとアレが使えるので」
アデルと秋葉が話をしている頃にはネメアーとハヤトはマッドゴーレムに接敵していた。
自分の懐に飛び込んできた侵入者を排除しようと、マッドゴーレムは泥と蔓を集めて巨大な拳を振り下ろした。
その巨大な拳は当たれば大型モンスターであっても大ダメージを受け、人ならば耐えることが不可能とされる威力だった。だが、亜種であるマッドゴーレムの目の前にいる二人はそれ以上の存在だった。
振り下ろされた拳に向けて、ネメアーは腰を深く落とし、腕を引いてタイミングを計っていた。
巨大な腕が振りぬく直前に、ネメアーの拳が光り、神速ともいえる速度で拳を突き出した。
「聖拳突き!!」
巨大な腕が完全に力を振り切る直前に繰り出されたネメアーの技。拳同士がぶつかり、激しい衝撃音が周囲に響く。
「ウオオオオオォォォォ……!」
マッドゴーレムが呻き声を上げながら仰け反った。
その腕は激しく打ち砕かれ、ダメージを軽減される泥も、頑丈で柔軟性を持った蔓の芯もすべて消し飛び片腕をマッドゴーレムは失った。
仰け反る隙を見逃さず、背後にハヤトが回り込んで残った片腕に木刀……ではなく、交通標識を打ち付けた。
「一時停止!」
ハヤトが武器に潜在した力を発動した。
番長都市独特のスキル『潜在必殺』。
特定の武器にのみに存在する必殺技。相手をはるか遠くに飛ばすバットの技や与えたダメージの数割を自分の体力に変換するハヤト愛用の『鮮血の木刀』などもそれに当たる武器だ。
今使ったのは一時停止が記された交通標識。
効果は標識に記された通り相手の動きを3秒間封じるというもの。その時間はハヤトにとっては十分すぎる時間だった。
「消し飛べやオラァ!!」
固まったマッドゴーレムの腕めがけて垂直に交通標識を振り下ろすと、鋭利な刃物で切れたように腕が両断された。
一時停止の効果が切れるとマッドゴーレムは自分の身に何が起きたか理解しておらず、残った腕を動かそうとしても動かない。何が起きたかと残っていたはずの腕を見てようやく理解した。
自分は既に両腕を奪われてしまったことに。
「オオオォォォォ!?」
両腕を失った嘆きなのか、怒りなのかとも付かない大声をマッドゴーレムはあげた。
今の今まで、柔軟な体に自信を持っていた。それを武器であった両腕を打ち砕かれ、切断されたことに驚きを隠せなかった。
それ故に、まだ自分が持つ泥という武器を使用するという考えが遅れ、その遅れが致命的となった。
「二人ともこっちまで下がってください!」
秋葉の声にマッドゴーレムの左右にいたネメアーとハヤトは壁際まで飛びのいた。そこまで離れたのには理由がある。
アデルが作ったと思われる魔力の塊が、無数の手の形をしてマッドゴーレムに襲い掛かっていた。魔力で作られた手には白い塊を持たされ、マッドゴーレムの体に大量につけられた。
「ネメアー! 秋葉たちの方まで下がれぇぇ!」
ハヤトは知っていた。あの白い物体がなんなのか。その威力や危険性を。
必死な声にネメアーも急いで下がると秋葉たちの前に何やら黒い壁が出現していた。
壁を作ったのはアデルだった。魔力の腕を作り、今度は同時に巨大な魔力で壁を生成したのだ。
有り余る魔力を武器としてしか今まで使ってこなかったアデルは秋葉の提案により変化を遂げた。
黒い壁の向こう側からアデルが手招きするとすべり込むようにネメアーとハヤトは飛び込んだ。
秋葉は全員が壁の裏側まで回り込んだのを確認すると、手元に握っていたスイッチを押した。
―――――――ズドオオォォォォォン!! ―――――
巨大な爆発がマッドゴーレムを中心に巻き起こり広い地下室内を揺らした。その振動は城全体にまで広がり、地下室が崩れるかと思うほどの威力だった。
秋葉が使ったのはC4というプラスチック爆弾だ。ダイナマイトより威力が高く、多数接着すれば頑丈な戦車ですら破壊する威力を持つ高性能爆弾。
それを無数につけられたマッドゴーレムはというと……跡形もなく粉みじんに吹き飛び、地面が大きく破損していた。
粉塵が収まると、部屋の隅の光が失われていくのが見え始めた。
「どうやら、これで魔法が使えるようになったみたいだな」
アデルが試しにと炎の初級魔法を念じると小さな炎が掌に灯った。今まで魔法封印が働き、マナのゲートが妨害されていたがこの炎が出たということは魔法封印が消滅したことを示していた。
「よし、急いで上まで登るぞ!」
ここでの用事が済み、アデル達は決戦を繰り広げているマサキ達の下へと向かうべく、螺旋階段を駆け上った。誰もいなくなった地下室には元通りの静寂が取り戻され、大樹が地中に深く深く根を伸ばしている事に誰も気づかなかった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
玉座の間の一角では、イーロがタツマに槍を突き付けられ、おびえた様子を見せていた。今の今まで優勢になると思っていたところ、薬により強化したはずのシュヴァルツが倒され、身の危険に晒されていた。
武官ではなく、文官として城に勤めていたイーロは策謀や謀略は得意としたが、こういった実践というのは全く経験したことが無く、異形の体を得たとしてもどうやって戦えばいいのかが全く分かっていなかった。
「痛めつける趣味はないから安心しろ。すぐにあの世へ送ってやる」
怒気を孕んだタツマの声にイーロは恐怖を感じ、じりじりと後ろへ後ずさりした。
まだ後ろには手がある。タツマといえども姫を人質にとれば身動きが取れなくなるとイーロは考えていた。
だが、その考えもすぐに霧散することになった。
「解呪」
後ろで聞こえた何者かの声、その声の方を見ると、フィリアが光をまといながら大樹から拒絶され、吐き出されるように外へと押し出されていた。そのそばにいたのは先ほど自分を挑発し、兵士を吹き飛ばして姿を消したマサキだった。
普通の薬では治らないはずの呪い、それをいとも容易くマサキは異世界の魔法でフィリアを救い出してしまった。
この瞬間、イーロは悟ってしまう。先ほどのマサキの行動を。
自分達に注目を集め、フィリアから意識を逸らし人質として扱わせないようにするためだったという事。
タツマがフィリアを助けるために来ているということは明白で、フィリアを人質にとることさえできればタツマもこちらに付けることが可能だったかもしれない。
だが、マサキの挑発で頭に血が上ったイーロはその選択肢を選ばず、無謀にも突撃を命じてしまった。
後悔後先立たず。イーロは人質というカードすら切ることが出来ずにタツマから槍を更に突き付けられた。
「姫を人質にしようとしていたのは分かっていた。この外道が……!」
鼻先まで槍を突き付けられるとイーロは腰が抜けたように崩れ落ち、見っとも無く尻もちをついた。
「ひっ……! す……すまなかった! そ……そうだ! タツマ。おま……貴方にこの帝国を授けよう! 私は宰相としてそれを支える! だ……だから助けてくれっ! 何でもするから!」
異形の力を得たとしても心までは強くなれず、イーロは土下座しながらタツマへと懇願する。そのイーロの姿を氷より冷たい瞳でタツマは見下ろした。
「貴様から貰うのは何もない。奪い返すだけだ。貴様の命ごとな」
「ヒィィィ!?」
土下座したままのイーロに槍を一閃。
ドゴォ! と鈍い音が響き、イーロは地面に突っ伏したまま動かなくなった。
その様子をみてマサキがフィリアを抱えたまま駆け寄ってきた。
「……まさか殺したのか?」
「こいつから色々情報を聞き出さねばならんだろう。殺すのはその後だ」
「そうか。ほら、受け取れ。お前のお姫様だ。助け出す役目を奪ってすまないな」
タツマに向けてマサキがフィリアを差し出す。
「物語みたいなものにあこがれる歳ではない。フィリアを助けてくれるのならば誰でも良かった。……助けてくれてありがとう」
タツマは両手でフィリアを受け取り、安らかに眠る彼女を眺めた。
「回復魔法はかけておいたから怪我とかは完治させてある、体力までは回復する魔法とかは俺は覚えてないから後は安静にだな。あの樹は……燃やすか?」
「そうですねぇー。燃やしたら街中まで火災が広まりそうですしー……沢山の除草剤を使って根元から枯らす方がいいかもしれませんねぇ」
いつの間にかに駆け寄ってきていた春香が眠るフィリアの顔を覗き込みながら笑顔で答えた。その隣にはレオンもいて、フィリアの寝顔を見るとこの決戦の決着がついたという事を理解し、微笑みを浮かべて大きく頷いた。
「皆に報告せねばな。この戦、我らの勝利だ」
レオンの宣言に全員が大きく頷いて帰路へと就こうとした。その時、城全体が大きく揺れ、大樹が脈動し始めた。
DBの音楽を聴きながらやるものじゃないですね。思ったよりマッドゴーレムを強くしすぎる所でした。