帝国の異変
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マサキ達が治療を懸命に行っている頃、『超合金』のパイロットはヨーコのゴーレムに閉じ込められたまま、薄暗く何も聞こえない空間を過ごしていた。
「くそったれ…リセットもねぇ!バグってやがる…!あんの女っ…絶対犯し孕ませてやる!おい!運営!早く修正しろ!!」
男は未だ、この世界がゲームと思い込みリセットできると信じていた。リセットさえすれば好き勝手に出来ると。閉じ込められてなお、無様にゴーレムの中で叫び続ける。本来ならば誰にも聞こえなかっただろう。だが、それを聞いていた者がいた。
「無様だな、『超合金』。回収しに来たぞ」
土の中から『ハンター』が穴を開けて現れた。手には頑丈なドリルを手にし、掘削してゴーレムの中に入ってきたのだろう。黒いスーツは泥まみれだ。
「『ハンター』か…うるせぇよ。やり直せばあんな奴等雑魚だろ」
助けに来てくれた『ハンター』に対しても邪見に言い放ち、薄暗い空間の中、睨みつける。
「まぁ、いい。さっさと出て反撃だ。ここからヒーロータイムだ!」
「それはありえないな」
「何だと…?」
「行っただろ…回収と」
薄暗い中、『ハンター』は瞬時に『超合金』へと距離を詰め、素手で『超合金』の身体を貫いた。その手刀は肺に穴を開け、大きく傷つけていた。
「ガハッ…!て…てめぇ…何…しやが…る…。俺は…味方…」
「お前如きを味方と思った事は一度もない。屑が」
ハンターは無造作に素手を引き抜く。その手の中には残された肉塊の他に、ただ一つ、薄く輝く種が残っていた。
「回収と言っただろう。エクスマイザーも盗られたお前に利用価値などない。次の召喚を行うためにこれは回収しておく」
「そ…そんな…リセット……リセ…助け……ひっ…息が…!息っ………――――」
『超合金』は自分が吸った空気を吐き出させず、吸い込み続け、肋骨を軋ませる。バキバキと折れても息が吸えたのは強靭となっていたゲームキャラの身体のお蔭だ。だが、それは逆に『超合金』を余計苦しめるだけになっていた。『ハンター』はそんな男を振り向きもせず、ゴーレムを素手で破壊して姿を消した。
『超合金』の男は、とうとう呼吸が出来なくなり、泡を吹きながら窒息死した。それを看取る者は誰もおらず、嘆く人すら誰一人居ない、異世界で孤独な死を迎えた。
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『ハンター』は種を手に持ったまま、戦場から離れ、一つの巨大な木の洞の中に入る。そこにはマサキやバリーが見たフードの人物がいた。
「回収してきた。これ位、お前がやればいいだろう?」
『ハンター』の男は光る種をフードの人物に手渡すと大事そうに懐に仕舞う。
「「そういう訳にもいきません、あの場所には厄介な御仁が居ますので私が近づけば感づかれるでしょう。私の存在は極力秘密に。『英雄』の力も未知数ですしね」」
「…あいつか。確かにな…魔族を率いてやってくるとは思わなかったが、打ち取った方が良かったか?」
『ハンター』の言葉にフードの人物は首を横に振る。
「「今はまだ時期尚早でしょう。後は帝国に綺麗な華を咲かせて、この大陸でする仕事は終わりです。『大提督』もこちら側に回ってくれました。『ハンター』…いえ『物まね師』あなたのお蔭ですよ。そろそろ、その顔は要らないでしょう。いつもの顔に戻ったらどうですか?私はそっちの方が好みですよ。ふふふ」」
「お前に好かれても嬉しくない」
『ハンター』の男は顔に手をやると、べりべりと音を立てて顔が剥がれる。それを地面に投げ捨てると呻くように剥がれた顔が蠢いていた。本当に生きてるように。ピクピクと顔は数度痙攣した後、『ハンター』の顔は動かなくなった。
「中々、良い面だったがもうこの大陸では使う必要ないな。能力はあらかたコピーし終えた」
「「実力は良い方でしたね。さて、お祭りに『物まね師』あなたも付いてきますか。苗床は見つけました。綺麗な華を咲かせるでしょう」」
「趣味じゃない。俺は先に『大提督』の重巡の下に行くから足を出せ」
「「残念。後で私も向かいますのでお茶を用意して待っていてくださいね」」
「誰が用意するか。さっさと出せ」
「「つれないですね…ふふ。では…」」(働きかけに対して何の反応もない。無関心であるという意味なら)
フードの人物はローブから虚ろな目の飛竜を取り出すと洞の外に座らせる。『物まね師』の男は飛竜に跨り、空へと消えていく。
一人、残されたフードの人物は暗闇に溶けるように消え、洞の中は静寂に包まれていった。
時間は進み、帝国が大軍を使った決戦に大敗したことと、王位を継ぐはずだった王子が死亡という事実に帝都は大騒ぎになった。一部の貴族は我先にと逃げ、徹底抗戦だという貴族や将軍は私兵をかき集め、城内へ集まっている。
アルデバラン・ドル・グランファング帝王は混乱極める貴族や重鎮を押さえるので精いっぱいだった。何故、どうしてこうなったのだろうと頭に何度も過るが帝王として混乱を押さえねばならなかった。
出陣を望んだ将軍を押さえ込んで帝都の護りに付かせるように側近に命じた。複合軍はラーフで軍を再編成した後、この帝都に乗り込んでくると判断しての指示だ。ラーフの街とは帝都と街道で繋がっており、早馬であれば2日もあれば、軍であれば4日もあれば辿り着く距離だ。その限られた時間の間に防衛の備えをしなければならない。
頼りの異世界人は『魏武将』は捕虜となり、『超合金』は死亡、『ハンター』は姿を消した。残った一人の『大提督』は遠方に出したまま連絡が途絶え、援軍は絶望的だった。
「くっ……種さえあれば……」
執務室に一人、アルデバラン皇帝は悔しげにつぶやく。
戦争を行う前に訪れた一人の魔術師がもたらした召喚技術。そして奴隷を扱うために編み出した従属の首輪。強靭な異世界人を従属させて戦争し、近隣の国々を滅ぼして支配下に。南の小国は滅ぼし、強力なヴァレンタイン皇国でさえ、屈服させた。魔術師の力を借り、リヴァイアサンすら支配下に置いた。南の大国は時間の問題、後は北方のセントドラグ王国だけだった。
だが、主力だった海軍は壊滅、リヴァイアサンも解放。一大決戦の大敗で、敵は目の前までやってきている。船は『大提督』の力が無ければ量産が出来ない。今ある力は最低限の防衛戦力だけだった。召喚を行おうにも異世界人を宿す種が無ければ出来ない。その種が何の種なのか長年調べてみたが成果はゼロだった。
「おじい様…」
執務室で頭を抱えていた所に、帝王の溺愛する大事な孫娘が訪れてきた。この子は侵略戦争という物を教えずに育てた息子夫婦の忘れ形見だ。
「兄様が亡くなったというのは本当でしょうか?」
「それは………本当だ。アルフレッドは立派に戦い死んだ」
帝王は嘘をついた。バリーが暴れ虐殺し、王子も無残に殺された事を孫娘には知られたくなかった。せめてアルフレッドが立派に戦ったと言う事にはしておきたかった。この孫娘には現実は辛すぎる。戦争も国を護る為の戦争で、侵略した事は伝えなかった。重鎮や貴族にもその事は強く命じ、反したモノは処刑するとまで伝えた。
「立派に……そうですか…兄様はお父様とお母様の元に旅立ったのですね…」
必死に泣かない様に堪えているが、小さな手がフルフル震えている。この少女はまだ15歳だ。泣きたくて仕方がないのだろう。だが、それでもこの少女は姫なのだ。帝王であるアルデバランの目の前で孫娘としては泣いてはいけないと自覚していた。
「…フィリア、帝国はもうダメだろう。信頼できる騎士を集め逃がすよう手配する。今なら逃げ切れる」
「おじい様…!?」
帝王は残り数万の兵では籠城しても勝ち目はないと解っていた。だからこそ、大事な孫娘だけは逃がしたかった。孫娘であるフィリアの前で初めて弱気を見せたが、後悔はしてない。自分は老い先短いが、フィリアだけは何が何でも生き延びてほしいと心の底から思っていた。
「おじい様…ダメです。それではおじい様が…」
「「そう…ダメですよ。帝王陛下」」
幾度と聞いた不気味な声に帝王は声の方に顔を向けると、フィリアの後ろに静かにフードの人物が立っていた。扉は開けた形跡がなく、神出鬼没。だが、種を授けてくれる貴重な人物として大変重宝していた。
「お…おお!貴殿か!良かった…一大決戦に負け…我が国は滅亡の危機にある!頼む!あの種を譲ってくれ!金はいくらでも出す!!」
老人とは思えないほどに勢いよく椅子から立ち上がり、衝撃で椅子が倒れる。そして帝王は孫娘の前で頭を下げた。
「お…おじい様?この方は…?」
「ああ、この人はな。今まで何度も我が国の窮地を救ってくれた方なのだ」
「そうなんですか……でも……私…怖い…」
フィリアは今まで感じた事がない気配をフードの人物から感じていた。人ではないナニカ別の気配というモノを感じていたのだ。それは恐怖として感じ、足がすくみ今にも倒れそうだった。
「「帝王陛下、頭をお上げください。種よりもっと良い物を差し上げましょう。これさえあれば、大陸全てを支配する事さえ夢ではないでしょう」」
「なんと!そのようなものが!」
大陸のすべて、夢まで見た大陸統一が出来るほどの力を授けてくれる!帝王はその言葉を全く疑わずに信じ喜んでいた。フィリアはそんな祖父を驚きながら見ている。だが、フィリアにとってはこの言葉は何よりも恐怖を感じさせた。戦争とは無縁の生活をしていたフィリアはそんな力が有ることが何より怖かった。
「あ…ぁぁ…おじい様…私……あのっ…お邪魔だと思いますので失礼しますね」
恐怖に駆られフィリアは震えながら出口に駆け足で走り出した、後で怒られるかもしれないと思ったが、一秒でもあのフードの人物と一緒に居たくなかった。
「「ダメですよ。貴方が一番……華に適してるのですから」」
「えっ……」
フードの人物が小さな黒い靄がかかった種をフィリアに放ち、フィリアの身体に鋭い痛みと共に、小さな体が宙に舞った。フィリアが何が起きたのか理解する前に胸に一つの華が咲き、そこから多数の茨がフィリアの身体を覆いつくし部屋中に侵食し始めた。
「フィリアァァァ!!?貴様ァァァ!!」
帝王は壁に掛けてあった国宝の剣をフードの人物に振りかざす。その剣の速さと力強さ、覇気は老人とは思えない程で、かつて王国のローラン王と死闘のやり取りをした全盛期さながらの剣速だった。その剣は鋼鉄すら容易く斬れるほどだ。
だが、その剣はフードの人物の指先ひとつで止められてしまう。帝王は命を絞るような力強さで剣に力を込めるがびくともしなかった。
「「言ったではありませんか。大陸を支配する力をと。この華は命を糧として、大地を喰らい、瞬く間に大陸全土を支配するでしょう」」
「そんな…そんな力なぞ要らぬ!フィリアを解放しろ!!」
「「出来ない相談ですよ。だって……貴方ももう餌ですから」」
「な…ゴフッ…!…そ…ん……国が……フィリア……………」
フィリアを侵食していた茨は執務室全体に広がり帝王の後ろまで侵食していた。その事に気づくのが遅れた帝王は背中から茨で出来たモンスターに貫かれ絶命し、血も、肉も、骨さえもモンスターに吸い取られ死体すら残らず吸収し尽くされた。
茨は執務室のドアを破壊し、王城を恐るべき速さで侵食していく。茨のモンスターは大量に発生し、メイドも、騎士も奴隷も、捕虜も全てを喰らい付くし。王城だけでなく、侵食は帝都にまで広がった。
「うわぁぁぁ!!」「助けてぇぇぇえ!!」「数が多すぎる!援軍を!うわっぐあがぁ」「だずげてぇぇぇぇ!!命ががずいどられ…」
人を喰らえば喰らうほど、侵食は速くなり、瞬く間に帝都を茨が埋め尽くしていく。頑丈な結界を貼った教会は茨とモンスターを防ぐことが出来たが、その他は壊滅。防衛の為に待機をしていた凄腕の兵士達でさえ圧倒的な物量の前に押しつぶされ喰われていく。
港で作業をしていた兵士や商人、漁師などは危機を察し急いで船に乗り難を逃れた。
海に逃げ込むことが出来た兵士は、今まで住んでいた帝都を眺め、絶句した。王城があった場所には、帝国が終焉を迎えた事を記すように、禍々しく光る巨大な樹がそびえ立っていた…。
超合金に関しては拷問する価値すら無しという事で。こういう結末に。今回でストックが切れたので明日の更新が出来るかは未定です。