大平原の決戦―決着―
思った以上に早い!一瞬のうちに『魏武将』のタツマに距離を詰めたバリーは,
真っ赤なオーラを爪の様に凝縮させて襲い掛かっていた。
「ハァァァァァァ!!」
タツマは、何時でも迎撃出来る体制を取っていた様で、その爪を槍で防ぐが、威力が高すぎてタツマの後ろ足の地面が割れて沈んだ。ただの兵士なら、あの時点で即死なんだろうが、異世界人のタツマは何とか堪えることが出来た様だ。だが、片腕の爪を押さえるのに、タツマは槍を両腕で握って堪えている。
「死ねっ!!」
バリーは更に、もう片手でタツマの胴を刈り取ろうとしている。あのままでは即死だ!
俺が踏み込むよりも早く、一人の影がその手に木刀を突き立てた。タツマの一番近くにいたハヤトだ。
「オラアァァァァ!!」
ハヤトが両手で木刀を突き刺して攻撃を防げたみたいだ。だが、ハヤトの力を持ってしても手を貫けず、拮抗するだけで精一杯か!どんだけ馬鹿力なんだよ!
「フハハハハ!!異世界人とこうもやり合えるとはな!素晴らしい!これこそ【英雄】!これこそ俺に相応しい力だっ!」
こいつ、英雄という言葉に溺れてるみたいだが、どう見ても化け物にしか見えない。ハヤトもタツマも元のMMOでもトッププレイヤーの筈。力も装備も相当強化しているはずなのに二人を相手に押すか!
このままでは、二人ともやられると思った俺は、限界まで加速してバリーに向かって波動剣を発動して剣を振う。
「ちっ!偽の英雄が!小賢しい!本物の英雄である俺の前に立ちふさがるとは!」
感覚も鋭くなっている所為か避けられたか。だが、避けるってことは腕以外にはダメージは通るみたいだな。俺みたいな『無敵』はないようだ。しかし、自分で英雄とか言ってて恥ずかしくないのか、こいつは。
「偽物だとか本物だとかどうでもいいだろ。ハヤトと…確かタツマといったか。こいつは俺が抑える」
「何っ!?」
「さっきの力を受けてわかってるだろ。こいつは、相当ヤバい。それよりも、生き残りがいるかもしれないから街を見てこい。他の皆も頼む」
「勝手な事を…!」
勝手な事を言ってるのは解る。だが、このままいては巻き添え喰らうんだよ。それに…俺は目の前のこいつを許せない。殺さなくていい命まで殺した。戦争で、死ななくても良い民の、子供の、女の命まで殺した。
「タツマ、マサキの言う通りだろ。それにだ、救える命をこのまま失わせるのは、お前の主義に反するだろうが」
「それに、俺等はあの街には詳しくない。本陣にしてたタツマの方が地理には詳しいだろ」
「ちっ…!」
俺とハヤトの説得でタツマも納得してくれたようで、渋々街へと向かってくれたな。少しでも生き残ってる奴が、居ればいいんだが。だが、俺はまずは目の前の化け物となった自称英雄を相手だ。
「逃がすか!」
「それはこっちのセリフだ。自称英雄」
タツマを追おうとしたバリーを俺が剣を振って妨害して、奴の目の前に立ちふさがる。このまま行かせては皆の身が危ない。こいつだけは俺がしっかりと抑える必要があった。
「くそっ…まぁいい。まずは貴様から殺してやる!王国の英雄!」
「俺は、勝手に英雄にされたんだがなっ!」
バリーは両腕の爪を俺に振い、襲い掛かってきた。『無敵』により攻撃が通じないと気づけば、こいつは俺を無視して街の方へと向かうかもしれない。可能な限りで防御して、回避に努めなければな。当然、隙さえあったら反撃もするが。
こいつの動きは単調だ。あるのは力と速度だけだが、その二つだけでも十分に恐ろしいだろう。タツマもハヤトも、速度に目が慣れれば、倒せるかもしれないが一発当たっただけでも、致命傷になりかねないこいつとは戦わせるわけにはいかない。
俺はこいつの動きを見つつ動きを見切っていく。ついでに挑発してヘイトをあげておくか。
「単純な動きだな。英雄が聞いてあきれる。もっとかかってこいよ」
「貴様ァァァァ!!!無礼者が…万死に値するっ!死ねぇぇぇぇえ!!」
簡単に乗ってくれた。これなら他の皆の所に行く心配は無いだろう。飛びかかってきたバリーを、俺は爪を避けつつ腕を握り、思いっきり一本背負いしてやった。
「ぐはあっ!」
勢いが付いたまま俺に投げられた所為で、バリーは思った以上のダメージを受けたみたいだ。威力が高かったのは地面が割れている。起き上がられる前に更に追撃だ。身体に向かって剣を一閃!すると、追加攻撃で3回の斬撃がバリーの身体に刻まれる。4つの傷がつくが直ぐにその傷が塞がり修復していく。こいつも再生持ちか、しかも、ウィルム以上の!
バリーも、されるがままにならず、足にも鋭い角のようなオーラを纏わせて反撃してきた。俺は、後ろに飛びのいて避ける。
「糞ッ!避けるなっ!」
「無理言うな」
避けなくても良いんだが、顔に向かって足が来たら避けるだろ。バリーは、立ち上がって直ぐにこちらへと突進してくる。鋭すぎる爪や足にクロークが削られるが、俺自身には『無敵』でダメージは通っていない。
俺は単調な攻撃が増えたバリーを切り刻むが、リヴァイアサン戦と同じようにバリーを包み赤く禍々しいオーラが、セブンアーサーの攻撃を激減させて中々効率よくダメージが通らない。攻撃が激しい以上、魔法を発動させる暇もないな。
俺は持久戦になり、少しずつバリーの身体を削り、体力を奪っていく。バリーも必死に攻撃してくるが、俺は徐々に速度に目が慣れて回避もしやすくなってきた。
「はぁ…はぁっ!何故だ!何故当たらないっ!」
バリーは血走った目で、俺を睨みながら爪を俺に振うが、血を流し過ぎたのか動きが遅くなった。再生は出来るみたいだが、血までは取り戻せないみたいだな。それでも、力は洒落にならない程の怪力だ。俺の周囲はバリーの攻撃で大きく抉れたり、クレーターも出来ている。
「そうだ!まだ…まだ俺は完全な【英雄】になれてないからだ!もっと…もっと喰らえばっ!」
ヤバい、こいつ標的を自分の兵士に向けやがった!!
今迄より早く、飢えたバリーは帝国の兵士に向かって飛びかかっていく。後ろに向かって走り出したバリーに、俺は追いつくのがやっとだ!
「うあぁぁぁぁぁあ!?」
「血を…肉を寄越セェェェェェェ!!」
バリーは口から涎を垂れ流しながら兵士に向かって襲い掛かろうとしたが、――ドンッ!と一発の大きな音でバリーが弾き飛ばされる。続いてバリーに向かって太く、鋭い魔力の槍が腹に突き刺さった。これは、秋葉とアデルか!街の入口で避難誘導していたから攻撃が届いたみたいだな。
「間に合ったようだな」
「うん、備えてて良かった。皆っ!今のうちにもっと下がって!」
「あ…ああ!ありがとうありがとう!」
帝国の兵士が、二人に向かって礼を言いながら下がっていく。だが、俺は直ぐにバリーへと視線を戻す。
腹に突き刺さった魔力の槍が身体を串刺しにし、鵙のはやにえの様だが…これでもまだ生きてる。なんだ、様子がおかしい。身体が痙攣して、赤かったオーラが黒くなっていく!? なんだこの威圧感……!!
「肉……ニク……ハラ減っタ……チヲ……イノチヲ……チカラヲヨコセェェェェエ!!!」
次の瞬間、バリーだったモノは身体を大きく膨張させて、まるで筋肉の化け物のような巨体になった。その姿は巨人と言うのが正しいだろう。
大きさは10mに届きそうな位で『超合金』と同じサイズ位だ。
よく見てみると、筋肉と思っていたのは大きな樹の様になっていて、それらが筋肉の代わりになっているみたいだな。
これはもうバリーとはいえないな……ただの化け物だ。英雄に憧れて、傲慢に、力に溺れて、堕ちた化け物。
その化け物は、身体に刺さっていた魔力の槍を摘まみ、力を込めればパキリと小枝の様にへし折れ消滅した。
バリーは口から涎を流しながら視線を……アデル達の方に向けてる!
嫌な予感がした俺は『ウィング』を使って、化け物となったバリーの目の前に立ちふさがる。そして、顔面に向けて『波動剣』を最上段から垂直に振った。
「やらせるかっ!!」
全力でセブンアーサーを振うが、植物の筋肉を纏ったバリーはリヴァイアサンの鱗よりは固くはないが驚異的な速度で再生した。だが、そのお蔭でバリーは俺に再度、注目してくれるようになったか。
「ガァァァァァ!!!」
獣の様な咆哮を上げながら、バリーは巨大な手を俺に叩き付けるが、知性がなくなったのかまるで獣のような動きに回避もしやすくなった。バリーの腕が俺を捕え損ねると、振りぬいた風圧だけで突風が巻き起こり、その威力を見せつけた。マトモに当たったら思いっきり吹っ飛ばされるな。
「ウガアアァァァ!!!」
バリーは、一際大きく咆哮を上げると、背中から多数の蔓を生やして俺に向かって振りかざし、突きこんできた。もうなんでもありだなこいつ!
俺は蔓を切りながら、本体にも斬りつけるが、最大の7回の追加攻撃が出ても、直ぐに再生してしまう。魔法で焼き殺そうと思ったが、魔力を込めていないフレイムジャベリンでも薄皮を焦がすだけの結果になった。
「厄介すぎるぞっ…!」
強い魔法を放とうと魔力を練るが、攻撃が苛烈過ぎて魔力が練りづらい。蔓はともかく、太い拳はマトモに当たれば衝撃が俺を襲い、ダメージや痛みは無いが溜めていた魔力が四散する。避けながら徐々に魔力を練っていると、―――ドン!ドン!ドン!ザシュッ!と音と共に、目の前の蔓が幾つかはじけ飛んだ。
(聞こえますか?マサキさん、アデルさんと一緒に援護します!)
秋葉からの念話が頭に届いた。tell機能はやはり念話として通用するみたいだな。対物ライフルによる射撃と、リング状にした魔力の刃で俺に向かってくる攻撃が減り、少し余裕が出てきた。
今のうちに俺は、地面に降りて限界ぎりぎりまで魔力を練る。アデルと秋葉が攻撃をある程度軽減してくれるおかげで、吹き飛ぶことなく練ることが出来そうだ。使うのはフレイムジャベリンよりももっと威力がある魔法だ。今から使うのは、ブリタリアオンラインの中でもトップクラスの威力を持つ対ギルド攻城戦魔法だ。今まで撃つ相手が居なかったが、こいつなら消し飛ばしても問題は無い。
「…消し飛べっ!クリムゾン・ノヴァ!!」
俺は両手から深紅のレーザーをバリーに直撃させると、バリーが極炎の渦に包まれ、植物の鎧を焼き尽くしていく。城門すら蒸発させる最強最大呪文!再生が追いつくならやってみやがれ!!
「ガぁアA嗚呼aaaa!?!?!?−−−−−!!」
さっきまで聞こえていたバリーの声が聞こえなくなった。喉を焼き潰されたようだ。俺は、極大の魔法を使い、意識を朦朧とさせているがとっておきのハイMPポーションを飲みほし、魔力を補充する。まだだ、これだけでは不安だ。そう思った俺は、更に追撃を与えるべく、前々から考えていたことを実行する。
この世界では魔法はイメージによって威力が変わると学んだ。パドルやぺドルの風魔法の操作も同じだ。ならば、スキルはどうなんだろうか。アデルも魔法とは違ったスキルの様なモノ、魔力凝固を使い投擲や剣にして使っている。これもイメージだと聞いた。それなら、俺が使っているスキルもイメージによって形を変えるのでは無いかと考えた。
使うスキルは『波動剣』『六道千塵』相性が悪いとされたこの二つだ。イメージするのは、『六道千塵』を『波動剣』の様に、放たず、全ての武器を凝固して一つの太刀へと変えるイメージ。天まで貫きそうな、巨大な太刀。
―――『複合スキル:波動の太刀』――――『スキル融合』を覚えました。
頭の中でメッセージが流れ、二つのスキルが出てきた。今迄、こんなスキルは見た事が無い。スキルの欄も見てみると、一番上に増えていた。これは、スキルをセットせずに使えるモノだと、何故か頭が理解した。これは閃いた!と言えばいいのだろうか。
俺はセブンアーサーを天に向けて構え…『波動の太刀』を発動させる。HPとMPを両方とも使うスキルの様で、体力と精神力の両方が削れるのを体で感じた。だが、俺の剣には次々と槍、刀、剣、薙刀、矢、突撃槍などが光るオーラとなって取りつき、一本の歪な太刀と変化した。
どう動けばいいのか、頭に流れてくる。俺は『波動の太刀』の思う通りに身体を動かし、極炎の渦ごと断ち切って、バリーの後ろまで通り過ぎた。
「−−−−!!?!?!?!?!−…………」
バリーは巨大な身体を極炎に内部すら焼き尽くされ、身体を斜めに両断されてその身を崩した。手ごたえはあった。
じっと、崩れ落ちるバリーの身体を見つめ続ける。炎が収まればそこにあったのは、大地すら焼き尽くされ、黒こげになったバリーの身体があった。
「…ぅ……ぁ……ぁ…」
まだ生きてるが…これはもうダメだろうな。下半身が砂となって崩れ落ちていた。過剰すぎる力を得た代償なんだろう。だが、俺はこいつにまだ聞くべき事がある。
「おい、その力。どこで手に入れた?」
「……ぁ…力……よこ……せ…俺は……英雄……まま……痛い……力……英雄…王…」
ダメだな。心が壊れてる。ならば、こいつの過去に聞くしかない。GMの力の一つを使う。
『過去ログ解析』
俺は、バリーの身体に手を触れると、バリーの身に何が起きたのかを探るべく、過去のログを探る。以前、物に対して試したがログは取れなかった。だが、人ならば取れるはず。
バリーの過去を探った俺は、とある人物に目を付けた。いや、これは人と言っていいのか解らない。顔が認識できず、モザイクになっている。何だこいつは?更に過去ログを遡ると、魔族との停戦協定の決裂、会議での自己推薦、…ここだ。バリーがフードの奴から何か薬のようなものを受け取っている。何を受け取ったか調べたいところだが…ここでが画面が砂嵐になった。
俺は意識を過去ログから元に戻すと、バリーの身体が端から崩れ落ちて砂になっていく。完全に死体になった奴からは過去ログを取れないみたいだな。
バリーの身体だった砂は、グランド大平原の風に流されて消えて行った。
こうして、グランド大平原における帝国と複合軍の戦いは帝国の本陣壊滅、及び総司令官、アルフレッド王子の死亡により、王国の勝利となった。
だが、俺はバリーの後ろに居た黒幕の存在に晴れやかな気持ちになれず、心の中に黒い靄を残しながらラーフの街で歓声を上げる皆の元へと歩いて行った。
バリー戦はこうなりました。本当ならここに海賊団もつれてこようかと思いましたが…彼らのフィールドは海という事なので断念。その代り、海では思う存分暴れてもらいます。