『狙撃姫』『農家』
ラーフ北東砦が陥落した数日後。
『狙撃姫』こと如月・秋葉は彼女に撃たれたのが原因で亡くなった者も少なからずおり、腕や足が無くなり絶望に陥った者がいたので帝国が新たに呼び出した異世界人という事にして今は捕虜扱いにしている。
兵士はまだ『狙撃姫』という名称を知らずにいたので相手が男か女かは解っていないのが幸いだった。
という事なのでそれとなく噂話で俺が
「部屋にいたゴルンとかいう異世界人とやり合い、苦戦しながらもそれを撃破した。彼女はその時に保護した」
という噂を作り上げてジロウに噂を流してもらい『狙撃』した者は事実上死んだことにした。
『農家』こと如月・春香は王子が入れ込んで今は捕虜というよりも賓客扱いになっている。
春香は相変わらずマイペースだが恐ろしいのはその力だった。
少し食料が足りないと兵士が呟くのを聞いたらしく。
「あら~、それじゃぁ…ちょっと作りますね」
「え?作るって何をですか?」
「ごはんです」
彼女はポケットから一つの種を植えて。
「スキル『豊穣の光』」
植えた地面に向けてスキルを放つを植えた種がみるみるヤシの樹のように育ち、あっという間に実が育った。
それだけでも凄いのに更に凄いのは…。
「これってとっても美味しく出来たんですよぉ。ちょっとー、秋葉ちゃんアレ撃ってー」
「良いけど…これって…あ、兵士さん。撃つからちょっと実の下で待機してて下さいね」
兵士が?という感じで素直に移動すると高速の早打ち『クイックドロウ』でヤシの実っぽいのを兵士の手元に落とした。
兵士は軽いかと思ったら意外とずっしりとした中身に落としかけるが何とか拾う事にできた様だ。
「あ……あのー……これは?」
「これはねー……カレーの実です♪」
春香が包丁で素早く切れ込みを入れると、あら不思議、中身がカレーライス。
春香は猫型ロボットの道具かという物を俺達の目の前で一瞬で育て作り上げた。
辺りに広まるカレーの香ばしいスパイスの香り、中身は流石に冷えているが、それでもカレーの匂いはしており早速その日の昼食は皆で焚火でカレーの木の実を温めカレーとなった。
「これも勿論帝国は手に入れてたんだよな?」
「はいー。皆喜んでましたよー。これは私の力がないと育ちませんけどー……実が倍くらい大きいお芋さんや数が凄く多い稲とか麦を提供してましたよー」
俺はカレーを食べながら、とんでもない力の持ち主を拾ったものだと思ってしまった。
食料面では非常に助かるが、これはどの国も喉から手が欲しがるほど貴重過ぎる人だぞ。
カレーが美味い。木の実から出てきた時は不安だったが中辛で美味い。
「すみません、春香殿、カレーのお代わりを……」
王子が此度3度目のカレーのお代わりを所望してました。
カレーの王子様かと思ったが、そういえばこの人本物だった。
「いいですよぉ。王子様も沢山カレーを食べて頑張ってくださいね♪」
優しげな母性溢れる笑顔で温めたカレーの実を王子に差し出す春香。
あ、王子が顔赤くして天を仰いでる。これ撃沈したっぽいな。
「レオン王子も優秀な人を見つけた様だな…」
「そうねぇ…ちょっとこれ辛い…水ぅ…」
アデルは兄的な王子が思い人を見つけれたようで朗らかに眺めていてヨーコはカレーの辛さでちょっときつそうだった。
「辛いならこっちを飲んでおいた方が良い。水だとより酷くなるからミルクだな」
「そうなの?ありがと」
カレーと聞いていたので一応牛乳も用意してたのが幸いだったな。
嫁さん二人に囲まれながら砦前の駐屯地で少しのんびりとした昼食を俺を取り、兵士達もカレーの美味さと久々の満腹感で充実した昼を取った。
「さて、レオン王子。如月姉妹についてですが今後どうします?」
今はルームの中で今後の如月姉妹をどうするかを王子達と話し合っている。
彼女たちは今は捕虜のままだ。捕虜を連れたままこの先へは進めない。
だが俺のルームに居れば無事だがそれはそれで快適だが軟禁状態ともいえた。
「そうだな…出来れば春香殿と秋葉殿には我が国へと送り届けたいところだが」
「それは今は止めた方が良いですね。先ほど連絡が入りました。『番長』がこちらに兵を率いてやってきてるようです。この先のラーフを落とすための追加戦力としてやってきてますので誰か一人国へ戻るのは戦力低下か作戦の遅延のどちらかを強いられます。それに春香殿と秋葉殿を私達抜きで王国に置いておけばよからぬことを考える貴族が手を出そうと考えた時に守ることが出来ませんね」
「春香殿に手を出せばその者の首を…」
「王子、抑えて下さい。ジロウのはたとえ話です」
王子が国の宝剣に手を掛けていた。あぶねぇよ!
しかももう春香殿って隠す気ねぇなこの人。
春香は至ってのんびりとしてて「あらあら」と言った感じだった。
秋葉は自分は入ってないことに何処かしら不満げだった。
「秋葉も可愛いから貴族どころか兵士達が良からぬことを考えるだろうしな。二人を国に戻すのは俺も反対です。幾ら秋葉が『狙撃姫』であっても撃てない状況を利用されてはどんな目に合うか解りませんしね」
「確かにな。どこの兵士もだが全てが清廉潔白だなんてありえないものだ」
「帝国でも同じでしょうね。悪い人がいればいい人もいるし。こっそりだけど小さな子供を逃がす帝国の人もいたわよ」
俺の言葉に婚約者二人も頷いて同意してくれている。
秋葉の方を見たら何か顔が赤い。なんでだろう?
「それならこのままマサキ殿のルームに居てもらう方が一番安全か?」
「退屈だけど食料もベットもあるしそれがいいかもなぁ」
ルームなら襲撃も誘拐も無いし飯は作れる。
植木鉢もあるから春香の料理の種も使えて食事のレパートリーも豊富になる。
これで決定かと思った所に秋葉が手を上げてきた。
「あの…実はお姉ちゃんと話し合ったんですけどいいですか?」
「ああ。構わないぞ」
「実は……私達も貴方たちの仲間になろうと思うんです」
「はい〜。秋葉ちゃんとじーーーっくりとお話ししました♪」
実力がある二人が仲間になってくれるのは嬉しいが…。
「いいのか?かつての仲間だった帝国とやりあうことになるんだぞ?」
「構いません。そもそもお姉ちゃんを人質として扱って無理やり撃たせてた帝国なんて仲間とも思ったことはありません」
「それにぃ……私も秋葉ちゃんが襲われたことにはすーーっごく……怒ってるんです♪だ か ら……仕返しはしたいなーって。王子さんいいですかぁ?」
「はい!喜んで!」
「王子、即答しないでください。春香殿、そこで身を王子に寄せないで」
春香は上目づかいで身体を寄せながら王子に頼み込んでいた。おっとりとしてるが女性の武器をしっかりと使ってやがる。
王子には‘ こうかはばつぐん ’だぞ。
「お姉ちゃんっ……もうっ」
そんな姉を秋葉が引きはがすように引っ張り自分の隣の席へと引き戻した。
実に苦労してるな。
だが二人とも帝国に対して攻撃するのには躊躇はないか…。
「それなら二人の意見も重視して…他の部隊に預けれないから俺の部下ということにしておいた方がいいかな?いきなり王子の部隊となるとやっかみもあるかもしれないですし」
「………致し方ないか」
王子が凄く渋々頷いてた。
貴方立場というのがあるんだから我慢してください。
「二人ともそれでいいか?」
「私は構わないわ。マサキさんにも恩があるし、同じ世界の人なら安心も出来るわね」
「それじゃあぁ…末永くおねが」
「お姉ちゃんそれ以上いけない」
本当にやめてくださいお願いします。
王子からの殺気を籠った視線が飛んできてます。
「冗談よぉ。全く秋葉ちゃんったら冗談も通じないんだから」
「お姉ちゃんねぇ…」
「改めてぇ、みなさん宜しくお願いしますねぇ♪」
「あ…ああ。宜しく頼む」
「ふふっ、面白い人ね。こっちこそ宜しくね」
深々と如月姉妹は礼儀正しくお辞儀をし、こうして俺等の仲間に『狙撃姫』如月・秋葉と『農家』如月・春香が仲間になった。
しかし俺の家臣に4人も女性が来るとは思ってなかった…。戦争が終われば王子にも春が来ればいいと思うな。秋葉の為にも。
ある意味主人公に注ぐチートかもしれない春香さん