褒賞
羞恥の刑を受けた俺は、アデルと一緒にゆっくりと自分の海賊船へと戻った。
流石にアデルも恥ずかしかったらしく少し距離を置いている。
船の上には海に落ちた者が大勢回収されていて、全員が温かいスープを飲んでいる。
用意したのはローハスだろうな。あんな荒波の中で調理できるのは凄いと思う。
降りてきた俺達に伯爵が駆け寄ってきた。
「マサキ殿、王国の危機を救って頂き感謝する。まさかリヴァイアサンが操られることになろうとは…」
「今後は同じような事は起きないでしょう。リヴァイアサンも人の供物には懲りたと言ってましたし」
「なんと!?あのリヴァイアサンと話をしたというのか!」
「ええ。意外と気さくでしたね。それとこれを貰いました」
俺はリヴァイアサンから貰った腕輪を伯爵に見せる。
腕輪なら腕装備とも重複しないし問題なかった。
「これはなんと素晴らしい……」
「とんでもない魔力篭ってるんだけどこれ…」
伯爵もいつの間にかに近寄ってきてたクローディアもじっと腕輪を見ている。
「リヴァイアサンはこれを渡すとともに帝国は人に任せると言ってましたね。自分では被害が大きくなりすぎると懸念してました」
流石にニート神という事は伏せておいてやろう。威厳の為にも。
「そうか…。一先ず城に向かおう。王にもいろいろ報告しなければ」
「俺らは?」
「海賊団の頭であり異世界人でもあるマサキ殿と、アーデルハイドの二人のみ城に出向いてもらいたい」
部下の皆は城に行くのも嫌がりそうだしな。
魔法が使える3人と念話が取れるからその3人と固まって自由に動いてもらおう。
集合場所は宿屋でいいか。
「解りました」
「解った」
俺とアデルは二人とも了承して傷跡が残る軍港へと向かった。
「大親分。それじゃあっしらは街に居やすんで!先に宿とってやすね」
「解った。何かあったら念話で連絡する」
俺とアデルは軍港で降りて、円卓の海賊団の皆は崖の中を通る運河を渡っていった。
この先にある湖に停泊する事になっている。
「ここから上がれば真っ直ぐ城に入れる。街ではもう君らの噂でもちきりだぞ。蒼き英雄と深紅の姫騎士とな」
「英雄扱いされてもな…海賊と知られたら幻滅するだろうな」
「私も姫ではないのだがな…」
俺とアデルは余り目立ちたくないというところは同じらしく、出来ればそっとしてほしかった。
リヴァイアサンとまともに戦い、呪縛から救うという伝説的な所業をしてしまったから仕方ないのだがな。
俺とアデルは伯爵と共に明りが点いた階段を上がっていく。
スロープ状になっておりしばらく歩くと壁の色が白く、これは大理石だろうか。
やがて煌びやかな王宮が目の前に現れた。
俺とアデルは伯爵に連れられ、王宮をあるいていると道の先から兵士が小走りに走ってきた。
その兵士は伯爵に何かしら告げると伯爵が紙の束を兵士に手渡し、受け取ると一礼してから立ち去った。何かあったのだろうか。
「どうやら王が二人に会いたいとの事だ。望遠鏡で丁度リヴァイアサンの一戦を見ていたらしい」
って事は俺とアデルのあのシーンも見られてるってことじゃないかー!やだー!
やだーといっても王が会いたいというのだから会わなくてはいけない。ちくせう。
「王様と謁見ですか…貴族のような礼儀作法とか俺は出来ないのですが…」
「私の動きを真似しておけば大丈夫だ。この国の王はさほど礼儀作法には厳しい方ではないお方だからな」
「それなら有り難い」
アデルの動きを真似か。それなら何とかなりそうだ。
「最初から王には二人を紹介するつもりだったが手間が省けたな。こちらだ。付いてくると良い」
最初は来賓室で待ってもらう予定だったようだが、このまま謁見の間に向かうとの事。
俺達はそのまま真っ直ぐに謁見の間に向かっていたが、アデルが何か懐かしそうにあたりを眺めていた。
王とも知り合いのようだし昔にここに来たことがあるのか?
伯爵に連れられたまま俺とアデルは謁見の間に到着した。
謁見の間は大理石の石畳で真っ赤な絨毯が敷きつめられている。
玉座には分厚い赤いマントを羽織り、頭には重厚そうな豪華な冠を被った王様がいた。
王様の周りと壁際には王族直属の近衛騎士だろう。
特に王の隣にいる騎士は伯爵より良さそうな装備をしている。
礼儀作法なんて知らないものだからアデルの後に少し遅れて膝を突いて頭を下げる。
「面を上げよ」
王にそう告げられると合わせて顔を上げてからやっと王様の顔を直視できた。
緊張しすぎて王を見過ぎると不敬にならないかドキドキだったのだ。
パッとみた年齢は60を過ぎたくらいかな。白髪に白い髭が良く目立つ。
「アラン伯爵、この度は王国の窮地に心強い援軍を伴ってやってきたこと、まことに大義であった」
「はっ!お褒めに与り恐悦至極でございます!」
伯爵が深く頭を下げてから今度はこっちを王様が見てくる。
ガチガチに緊張してきた。状態異常無効で緊張も無効出来ないものか。
「余はローラン・エル・セントドラグだ。そなたが海神リヴァイアサンを止めてくれた者か。見事な戦いぶりであったぞ。食われた時はダメかと思ったが生きて戻ってきた時はこの余も驚いたものだ」
やっぱり一部始終見られてたか。
「勿体なきお言葉です」
「謙虚な事だが、そなたはそれに相応しき活躍をしている。何といってもこの国を救ってくれたも当然だからな」
「父上の言うとおりだぞ。海神リヴァイアサンと戦い無傷で生き残れた人間なぞ伝説でも聞いた事がない。お前は歴史に残る偉業を作った。立派に誇るが良い」
「はっ!これからその誇りを汚さぬよう日々精進致します」
深く頭を下げて返事をする。多分これでいいはずだ。二人とも不機嫌そうな顔をしてないから大丈夫そうだな。
隣にいるのは王子だった。道理で立派過ぎるわけだ。髪は黒色で顔つきはイケメンだ。体つきも良くて細マッチョな感じがする。
「久しぶりだな。アーデルハイド。ヴァレンタイン皇国の窮地に助けられず申し訳ない」
「王国とヴァレンタイン皇国は距離があります故、そのお言葉だけで十分です。散ってしまった者達も報われましょう」
「前に来た時は何年前だったか…末の弟に連れられてやってきた時はまだ小さい娘だったのに本当に立派になったものだ。元気よく王宮を走り回っていたな」
「そ…そのことは言わないでください。ローラン陛下。幼き頃の事です。今は違います」
昔の事をいいだされてアデルが真っ赤になっている。
可愛らしいが今、何ていった?末の弟?
俺は小声で伯爵に尋ねてみた。
(もしかしてアデルって陛下の弟の娘ですか…?)
(そうだぞ?知らなかったのか?)
(知りませんでした…アデルも言いませんでしたし)
(昔から親の七光りにならないようにと言わないようにしていた子だったからな)
親が他の国の王族だとそれ相当の色眼鏡で見られてたんだろうな。
だから俺等にもそれを言わずにいたと。それなら俺もそれを尊重しよう。
今更アデルをお姫様扱いなんてしたくないしな。
「それも今は立派に…マサキとの抱擁はまるで劇のようだったぞ」
「本当に劇にしたいと陳情も上がってきそうですな。父上」
「ローラン陛下…!レオン王子!ううう…」
あの王子の名はレオンというのか。
王子と王様が楽しそうに言ってるがこっちはあの時の事を思い出して真っ赤になる。
劇とかマジで止めて!
アデルの顔も見えないがきっと赤くなっているのだろう。
「さて、3人に褒賞を渡さねばな。まずは王国の窮地に駆けつけてきてくれたアラン伯爵にはアンドラ―の領地を授けよう」
「ハッ!」
アラン伯爵は新しく領地が増えた様だ。
領地が手に入れば税収や色んな事業に手を出せそうだが、今の俺には関係がないか。
「続いて蒼き英雄。マサキ・トウドウ。そなたにはセントドラグ勲章と準男爵の位を授けるとする。並びに多くの船団を壊滅させたことにより別報酬で100万フランを授けよう」
国公認で蒼き英雄なんて決まったっぽいな。
勲章と爵位来ちゃったよおい!確か準男爵って騎士より上だったよな。
だが船団の方は報告だけで確認は取れてないはずだが?
「申し訳ございませんが陛下。船団が壊滅したとの報告はマサキ殿の報告だけでしてまだ確認の方が出来てないはずですが…」
「帝国に放っていた密偵により確認は出来ておる。マサキは顔を数度合わせているはずだぞ」
「え?俺…じゃなかった。私がですか?」
「左様。入って参れ」
陛下が声を掛けると同時に隣に騎士の方々が来ているような鎧を着ている男が上から降りてきた。
俺が顔を合わせてる?不思議に顔を見つめるが見覚え有るような無いような…これでも記憶力は良い方なんだが不思議と思いだせない。
スタイルも身長もそうだ。腕や手足の筋肉も普通。身長も居たって普通。年齢は50くらい?どこにでもいそうな奴だった。
不思議そうに俺が首を傾げていると陛下が楽しそうに笑っている。
「はっはっは。見覚えがあるような無いようなという顔をしているな」
「陛下、お戯れが過ぎます。マサキ殿、俺は朝食を運ぶ見張り番をしていた帝国の兵士…そしてセントドラグ王国の密偵ですよ。お蔭で腹も少し凹みました」
「ああっ…あの!」
思い出した。極わずかに会話が出来たあの兵士だ。
短い雑談だが、あれでも精神的に助かったんだよな。
「改めて自己紹介を。私はセントドラグ王国、王直属の密偵。そして…貴方と同じ異世界の者。MMO【戦国侍戦記】の『忍頭』。ジロウ・タナカといいます」
「同じ世界の…!」
初めて同郷の人と出会った。だがMMOが違う。
おぼろげになっていた記憶を思い出すと確か色々なオンラインで行方不明に…。
つまり俺のやっていたMMOだけではない。
多種多様な人達がこの世界に飛ばされた可能性がある…?
「ジロウ、積もる話もあるだろうがそれは後にしてもらえるか?先に受賞をしておこう。勲章を」
「ハッ!」
ジロウが消えたと思ったら直ぐに表れる。その手には小さな小箱を持っていた。
受賞の仕方が解らずに座ったままでいると念話でアデルがアドバイスをくれた。
≪立ち上がり、陛下が左胸に勲章をつけやすいようにすると良い≫
その通りに従って勲章を蒼龍のクロークに付けてもらう。
刺さらないというハプニングもなく無事についてくれた。
「本来ならば領地も与えたいところだが…」
「父上、貴族となったばかりのマサキ準男爵にそれは酷かと。ですので代わりに住む家を与えては如何でしょうか?マサキ準男爵に相応しい屋敷がありますし」
はい。領地より住む家が有り難いです。日本円1億相当の金があっても相場次第であっという間に無くなってしまう。
「あの屋敷か…アーデルハイトもいるのであれば確かにそうだな。後に相応しき働きぶりを見せた時にでも領地を与えるとしよう」
「それならば貴族の方も兵士も納得するでしょう」
働けば働くほど領地が近づいてくるのか。あの海神じゃないが働きたくないと言いたい。
「最後にアーデルハイド・ベルンシュタイン。多くの眷属を倒し、我らが兵士を護った報酬として騎士爵を与えよう。出来れば王宮に仕えさせたいが…既に使えるべき主がいるようだな」
「ハッ!私はマサキ殿に二度も助けられた身。貴族となられた今、マサキ殿に仕えようと思います」
「父上、他の貴族ではアデルを手籠めにしようとする輩もいるかもしれないのでマサキ殿の下が良いと私も思います」
「確かに、それが良いであろう。励むが良い」
アデルも世襲は出来ないがセントドラグ王国貴族の称号を貰った。
確かに王家の血を継いだアデルを狙おうとする男は多いだろうな。
ならば俺の家臣にした方が安全だ。
海賊団は俺独自の私兵として扱うことに陛下も了承してくれた。
遊撃で臨機応変に動ける要員も欲しかったと後で王子が教えてくれた。
親切で結構気さくな王子だ。好感が持てる。
こうして俺は大金と家を手に入れアデルと共にこの国の貴族となった。
これから貴族のゴタゴタに巻き込まれるかと思うとうんざりするが、これも帝国を倒すためだ。我慢しよう。
ああ、ジロウと話もしなければ。先に来た先達から今この世界の事を少しでも聞いておきたい。
ジロウの他にも同じ世界の者がいるかもしれない…その可能性が出てくると仲間としては頼りになり、逆に…敵としては下手するとリヴァイアサン以上の脅威を感じつつ俺は謁見の間を後にした。
現実でも騎士爵を得た海賊がいるので妥当な所でこういう所に落ち着きました。