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決勝戦

少々遅れましたが、あけましておめでとうございます。年末年始も忙しい身でしたが、インフルの影響でそれよりも忙しい状態に陥ってます。皆さまもインフルには気を付けて……!

 決勝戦とはいってもすぐに始まるわけではない。ニ十分の小休憩を挟んだのちに、決勝戦が始まる。

 決勝戦で戦う選手同士が万全のコンディションで戦う為、というのもあるが、賭けや飲み物の補給など十分に余裕を持たせるためらしい。建前というのは大事だよな。

 そうしてニ十分の小休憩を終えた後、ドラが大きく鳴らされ、聞きなれた司の声が響いた。


『ついに決勝戦や! もう御託は要らんやろ。この試合の勝者こそが、獣王国最強の称号を手にする。さぁ、いざ参れ! 歴戦の戦士の中から、勝ち残った真なる強者よ!』


 西の門からネメアーが、東の門から聡さんが出てくる。

 ネメアーは十分コンディションを整えることが出来たらしく、黒帯を締め直し、気力が満ち溢れている。

 対する聡さんも黒のスーツを身に纏い、何時もと同じ様子で舞台に上がる。こちらは手に黒い革手袋を付けており、冷静沈着、水面の如く、平静を保っている。


―――オオオォォォォォ!!!


 二人が舞台に上がると、大歓声が二人を出迎える。

 互いに拳を構えたその瞬間、全身の毛が逆立ちそうなほど強烈な気迫が全身にぶつけられた。

 おいおい。マジか。

「何という……!」

「すっご……なにこれ」

「今の……って。正樹さん」

「ああ……聡さんだな」


 ガル・カンとネメアーの試合でも感じた気迫。それが子供だましと思えるほど強力な気迫だ。

 全身を圧迫されるような、それだけで倒れそうな迫力。

 よくある格闘漫画だと、気を当てるとでもいえばいいだろうか。それに近い感覚を会場にいる全員が受けていた。

 騒めき立っていた観客たちはシンっと静まり返り、気圧されたように沈黙してしまった。

 それもそのはずだ。俺にはしっかりと、とある状態異常をレジストしたというメッセージが流れていた。


 ――萎縮!! レジスト発生!!


 状態異常:萎縮。これは【ブリタニアオンライン】では、強力な武人系の敵が使ってくる特殊な状態異常だ。

 派手なエフェクトと共に、萎縮の状態異常を食らったプレイヤーは短時間、ひるんでしまい極わずかな時間、行動不能になってしまう。

 その状態異常を聡さんはスキルを使わず、己の持つ闘気だけでやってのけた。

 放たれた闘気は会場全体に及び、殆どの人が萎縮してしまっている。


 急いでフェンの様子を見てみるが、何が起きたか分かっていないように首を傾げていた。

 フェンもレジストした!?

 俺が驚いていると、レヴィアが俺の方を見て口元に指をあてて黙ってるようにと伝える。

 ああ、レヴィアが守ったのか。レヴィアならそういう事が出来ても何ら不思議じゃない。

 アリスもフェンの肩にいたので同じように無事なようだ。

 

 パッと見て、耐えたのは俺達と、獣王夫妻、四大公爵家の面々、決勝トーナメントに残った連中と、予選で良い所まで行った連中も数人耐えてるな。ネメアーとやりあったガル・カンも耐えている。

 司もレジストには成功してるが、余りの気迫に飲まれてしまったようだ。

 それでも直ぐに、気を入れなおした司がマイクを手に取る。


『あかんあかんっ……! シャレならん気迫に一瞬飲まれてもうたわ。皆! 気合をいれぇや!』


 司の激で会場全体に人の声が戻り始める。

 スキルも使わず、声だけ会場のペースを取り戻す司も大概だと思う。


『二人共、準備は万全のようやな。それでは、獣王国、闘技部門決勝戦……始め!!』


―――ジャァァァァン!!


 大きくドラが鳴り響き、それに合わせるように二人が同時に駆けた。


 ◆◇◆


 同じタイミングで掛けたネメアーと聡だが、人族と獣人には決定的な身体能力の差がある。本来なら、闘獅子族が先手を打つだろう。だが、聡はネメアーよりも早く駆け抜け、瞬く間に間合いを詰める。

 あまりの速さに、観客達の目には一瞬で移動したように見えるだろう。

 ネメアーは度重なる地獄のような訓練でこの動きを予想していた。師の動きの速さは異常の一言。この速さを上回る事は今の自分では不可能であると。

 ならばと、ネメアーは己が放つことが出来る最速の攻撃にて先手を取る。


(防がれるのは承知の上! 攻めなければあっと言う間に押しつぶされる!)


 目の前の聡から発せられる気迫は、今まで感じたことがない本気の気迫だ。

 殺気を感じないのは、ここは戦場ではないからだろう。

 聡は巧みにその領域を分ける技術を身に着けていた。

 聡から放たれる気迫は、竜でさえも至近距離から浴びてしまえば怯え、ひるんでしまう程強力な物だ。

 ネメアーは持ち前の強靭な精神力でそれを払いのけているが、一瞬でも気を抜けば飲み込まれてしまうだろう。もし飲み込まれてしまえば、後に待つのは無様な結果だ。


 聡が攻撃するよりも早く、ネメアーは己が用いる最速の一撃を振るう。

 矢のように放たれた最速の鉄拳は、寸分の狂いもなく人中を狙っていた。

 聡はそれを、腕をしならせるように振るい上げ、ネメアーは弾き飛ばされぬようにと力を籠める。

 だが、聡は高速で迫るその腕をつかみ取った。


「しまっっ!?」

「速度、狙いともに良い。ですが、狙いが素直過ぎる上に、少々に力を籠めすぎですよ」


 ネメアーが気づいた時には既に遅く、聡はネメアーの腹部に手を添えると、ネメアーは気づけばふわっと身体が浮いていた。

 身長二メートルを超える巨体が、五十を差し掛かった高齢の男性の手によって投げ飛げ飛ばされる。しかし、それだけで終わる聡ではない。

 ネメアーが咄嗟に腕を交差し、体全体に力を込めて防御の態勢を取る。

 ずんっと強力な一撃がネメアーの両腕に繰り出される。

 その勢いでネメアーは大きく吹き飛ばされるも、空中で態勢を整えて滑りながら舞台に降り立つ。


(深く、重い一撃だった。何とか防御が間に合ったが、もし間に合わなければ一撃で倒されていたかもしれない)


 ネメアーは両腕に軽く痺れを感じながらも、戦いに支障はないと判ると、追撃を仕掛けてきた聡の回し蹴りを地面すれすれまで身を低くして躱す。

 ネメアーは着地の瞬間を狙い、足払いを繰り出すが聡は空中で身をひるがえし、そのまま二段目の蹴りをネメアーへと振り降ろす。

 足払いを避けられたネメアーは、そのまま車輪のように回転し、振り下ろしてくる蹴りに向けて回し蹴りを打ち込む。

 ズンッと、縦と横の蹴りがぶつかり合う音が鳴り響き、聡が高く跳躍して舞台に軽く着地する。


『お、お分かりいただけただろうか。今、一瞬の内に繰り広げられた攻防! 巨漢のネメアー選手に対し、中年を過ぎた人族の聡選手が、圧倒的な速度、技、力で迫る! しかし、ネメアー選手も負けてへん! その剛腕から繰り出される一撃は、鋭く早い一撃や! 先の試合で敗退してもうたシーザー選手に負けず劣らずの一撃を繰り出しとる! これは一瞬も目が離せん試合や!』


 司が興奮した様子で解説をするが、戦いに集中しているネメアーには全く届いていない。

 今ネメアーに聞こえるのは、自らの鼓動と呼吸の音、聡から発せられる音だけだ。集中力が極限にまで高まり、戦いに邪魔な雑音は全て聞こえなくなっていた。


「今の動きは良かった。よくぞ反応したものだ。私の下を離れても鍛錬は欠かさなかったようだね」

「師の教えと、友人に恵まれましたので」

「確かに、良い友人には恵まれているようだ」


 聡は喋りながらも、ネメアーに向けて足を数回素早く振るう。〈斬鉄脚・飛燕〉だ。

 強靭な足から放たれた鉄をも切り裂く衝撃の刃が、幾重にも舞台を切り裂きながらネメアーへと迫る。

 広範囲に、矢のように速いこの技を避けるのは至難の業。ならば、ネメアーは最も手薄な所を見極め、自慢の技を放つ。


「〈斬鉄脚〉!!」


 斬撃の刃同士がぶつかり合い、ズンっと衝撃波が巻き起こる。ネメアーはこじ開けた。

 身を屈めて残りの〈斬鉄脚・飛燕〉を避けるが。聡はその間にもネメアーとの距離を詰めていた。

 あれ程の技を放ったというのに、隙がない。

 ネメアーは期待もしていなかったが、予想通りの動きに内心舌打ちをする。

 しかし、予め予想はしていたので、動揺することなく繰り出された蹴撃を両腕を盾にして防ぐ。

 強力な一撃に、両腕のガードが崩されそうになるが、歯を食いしばりながら堪え、そのままの態勢で体当たりをぶちかます。

 闘獅子族という体格にも恵まれた種族に生まれたこともあり、成人男性ほどの身長しかない聡は吹き飛ばされる。


(軽い! 咄嗟に後ろに飛びのき自ら飛んだか!)


軽々と吹き飛ばされた聡は、空中で態勢を整えながらも、大きく足を振り上げてた。

ネメアーもまた、足を大きく踏みしめ、腰を深く落とし、右拳を引く。右腕は青白い光で覆われている。


「〈斬鉄脚・豪断ごうだん〉」

「〈聖破拳せいはけん〉!!」


 〈斬鉄脚・豪断〉を向かうつべく、力強く光る右腕を振り抜く。

 〈聖破拳〉はネメアーが用いる技・魔法を組み合わせて生み出した新しい技だ。

 ネメアーや聡が多用している〈斬鉄脚〉は、足に気と呼ばれる力を集め、極限まで圧縮して放つ技で、それをネメアーが独自に改良し、腕で放つ技にしたのが〈聖破拳〉だ。

 だが、拳に集めると極限まで薄くするのは非常に難しく、速度も非常に遅い〈斬鉄脚〉が剣とすれば、〈聖破拳〉は緩やかに落ちる砲弾のようなものだ。

 戦場ではそのような物は使い物にならないが、ネメアーはそれを克服した。

〈聖破拳〉は腕にだけ短時間強化魔法と回復魔法を掛け、痛みによるリミッターを完全に外し、用いる力を十全を超えて引き出し放つことにより、〈斬鉄脚〉と遜色のない速度とそれを上回る威力を生み出した。

 更に強化魔法によりブーストが掛かった一撃は、聡の〈斬鉄脚・豪絶〉を貫き、空を飛んでいた聡に向かう。


「ぐっ!!」


 その時、ネメアーは聡を視界に収めながらも右腕に激痛を感じ顔を歪ませる。

 それもそのはずだ、人にせよ獣人にせよ、十全の力を振るう事は不可能。身体が壊れぬよう、頭がリミッターを掛けているからだ。リミッターを外してしまえば、筋肉の断裂、脱臼の危険性もある。

 ネメアーはそれを回復魔法で痛覚を麻痺させ高速治療することで、そのリミッターを強引に外すことに成功するが代償は反動による激痛だ。後遺症はないにせよ、魔法を解いた瞬間一定時間激痛がネメアーを襲う。

 ネメアーは激痛をこらえながら目を反らさずに聡を見る。

 ネメアーは知っていた。聡との戦いでは、一瞬でも目を離したら命取りになりかねない。

 普段は使用しない〈斬鉄脚・豪断〉まで使用した聡は本気だ。

 殺気まで籠っていないのは、ここが戦場でないからと、殺すような相手ではないからだが、今、聡は『格闘家』として本気で戦っている。


 ネメアーの放った〈聖破拳〉が聡へと迫り、直撃――と、会場の殆どの観客は思った。聡が持つ、特有の能力を知る者以外は。

〈聖破拳〉が当たる瞬間、聡はまるで空中で地面を蹴ったように真横へと移動し、攻撃を避けた。


『はぁっ!? ちょいまち! 空中で避けたぁ!?』


 ありえない動きに、司が思わず呆けた様な声を響かせてしまう。だが、それは観客達の心の声でもあった。

 聡が使ったのは、格闘ゲーム特有の空中ダッシュだ。ここぞという時に回避や攻めにも使える。しかし、その欠点もネメアーは熟知している。だてに弟子をやっている訳ではない。

 空中ダッシュした聡に向け、ネメアーが持ち前の俊敏さを生かし、追いすがる。

 空中ダッシュは連続使用が出来ない。再度使うには、地面に着くことが必須となる。

 ネメアーは聡に身体を捻りながら飛び、身体を脚を鞭のようにしならせ、後ろ回転回し蹴りを振るう。

 聡は何処か嬉しそうに笑みを浮かべながらも、カァンっと音を立てて回し蹴りを完全に防ぐ。

会心防御クリティカルガード〉だ。

 ネメアーが聡の動きを知っているように、聡はネメアーの動きをよく知っている。攻撃のタイミングもしっかりと目と身体に刻み込んでいる。タイミングが命の〈会心防御クリティカルガード〉を合わせるのはそう難しくない。

 聡はネメアーの攻撃を完全に無力化すると、空中でネメアーの足と胴着の襟首を掴み、腕の力だけで地面へと投げつける。


「かはっ!?」


 ダァンッ! と巨体が叩き付けられる音が響く。その威力はネメアーを中心に、ヒビが入った舞台を見れば一目瞭然だろう。

 そこで終わるような聡ではない。


「〈雷爪蹴撃らいそうしゅうげき〉!」


 聡は倒れたネメアーに向け、雷を纏った蹴りを繰り出す。

 ネメアーは痛む体を押して、急ぎ転がりながら起きて、追撃を避ける。

 ズガンッ! とヒビが入った舞台が砕け、小さなクレーターが出来ていた。

 避けなければ今の一撃で決着がついていただろう。


「はぁっ……! はぁ……!」

「よく避けたものだ。だが、そろそろ限界ではないかな?」

「まだ……まだです……!」


 血を吐き捨て、ネメアーは再び拳を構える。

 ネメアーが拳を振るえば、聡が払い、作り出した隙を狙って的確に一撃を加えようとする。

 ネメアーはそれを持ち前の身体能力、獣人としての直感、今まで聡との地獄のような修行の経験を生かし、直撃を避け続ける。

 


 だが、それも時間の問題だった。

 直撃は避けたとしても、避けきれないダメージが幾重にも重なり、ネメアーの体力を削り取っていく。

 それだけではない。ネメアーが聡の動きを覚え、生かした様に聡もまた、ネメアーの動きを学習していく。

 聡の拳をネメアーが紙一重で避け、反撃の拳を打ち込んだ瞬間、フリーになっていた足で二の腕を蹴り上げられた。


「しまっ!?」


 今の一撃は避けられることを計算に入れての一撃だったのだ。まんまと誘い込まれ、腕を蹴り上げられたネメアーは決定的で、致命的な隙をさらした。

 大きく空いたネメアーの胸部に、聡の拳がめり込む。


「〈猛打もうだ〉!」

「ぐぅっ!」


 鍛え抜かれた腹筋に、突き刺さるように抉りこまれた拳。

 ネメアーは歯が砕けそうなほど強くかみしめ、痛みとこれから来る連携に備える。


「〈四連撃しれんげき〉!」

「ぐぉっおおっ! おおぉっ!」


 素早く拳を引き抜いたかと思うと、右肩、左肩、腹部、胸部と四か所に鋭い痛みが走る。

既にネメアーの足は震え、立っているのもやっとだ。だが、まだ聡の攻撃は終わらない。


「〈竜顎掌りゅうがくしょう〉!」

「ぐあ…あぁぁっ……!」


 光る拳が、ネメアーの身体を持ち上げるように宙へと吹き飛ばす。

 ついには踏ん張る事すら出来なくなったネメアーに、聡は容赦のない止めの連撃を与えた。


「〈双哭紫電掌そうこくしでんしょう〉!!」


 紫電の光を纏った両腕による掌底がネメアーの腹部へとめり込み、大きく吹き飛ばした。

 一回、二回、三回と跳ね、あと少しで場外という所でネメアーの手ががっちりと舞台を掴み、すんでのところで食いとどまる。


『流れるような連携! 強烈な一撃! もはやダメかと思いきや、ネメアー選手! 耐え負った! 耐えおったでコイツ! 何という執念や!』


 司の声が会場に鳴り響く。観客の目が一斉にネメアーへと降り注ぐ中、ネメアーは震える脚に力を籠め、血反吐を吐き、歯を食いしばって立ち上がる。

 満身創痍なのは誰の目から見ても明らかだ。一方、聡は全くダメージを受けておらず、息すら上がっていない。

 絶望的な状況。だが、それでもネメアーは諦めず、闘志を燃やす。

 その凄まじい執念ともいえる姿に、獣人達はネメアーへと歓声を送り、目を離せなくなる。


 ネメアーは飛び掛かるように聡へと襲い掛かるが、その猛攻が悉く受け流され、避けられる。

 繊細さを欠いた攻撃にも見えるが、狙いや速度は申し分ない。相手が聡でなければ、押し切る事も出来るだろう。

 聡は冷静にさばき続け、ネメアーの大ぶりの攻撃を受け流すと、右腕に紫電の光を纏わせてがら空きの懐に向けて拳を穿つ。


 回避不可、体力も枯渇寸前、これで決着かと思われた一撃は――。


「むっ!?」


 聡が初めて浮かべた驚愕の表情と共に、空を切る。

 ネメアーは聡から一歩離れた所に移動していた。

 今さっきまでネメアーが立っていた場所には、大きなヒビが入っており、青白い輝きがネメアーの足を覆っていた。

 ネメアーは〈聖破拳〉の応用で、足に回復魔法をかけて強引に足のリミッターを外し、一瞬の間に後ろへと下がったのだ。

 そして、初めて生まれた聡の決定的な技の硬直。

 ネメアーはその隙を逃さず、両手、両足に青白い輝きを纏わせ、四肢のリミッターをこじ開ける。


「師よ! これが私の全力だ! 〈|双哭聖破拳(そうこくせいはけん〉!!」


 ネメアーの光り輝く二つの拳が聡の懐へと迫る。

 ずんっと鈍く、重い一撃が鳴り響き、大きく聡を弾き飛ばす。


「私の予想以上だ。見事です。ネメアー」


 聡は両腕を交差させ、ネメアーの攻撃を寸でのところで防御した。

 防御した聡の両腕はスーツの袖が大きくはじけ飛び、赤い痣が出来ていた。

会心防御クリティカルガード〉が間に合わない程の一撃。ネメアーは防御の上からでも大きなダメージを聡へと与えていた。

 もし、直撃したら聡でも危うかった一撃。その一撃を弟子であるネメアーが放ったことに、聡は師として喜び微笑んだ。

 ボロボロになった両上の袖を破り捨て、ネメアーへと拳を構える。

 対するネメアーは、四肢の激痛で立っているのがやっとだ。


「さぁ、ネメアー。構えなさい。今の貴方では、扱えませんが、未来の貴方ならこの技を扱えるでしょう」

「は……はい……!」


 激痛が走る手足に力を振り絞り、拳を構える。

 聡は全身に紫電の光を纏わせ、左足を踏み込み、瞬く間にネメアーとの距離をゼロにする。


「〈|瞬雷殺(しゅんらいさつ〉」


 雷光のように輝く無数の拳が、ネメアーの身体に打ち付けられる。

 放たれた一発一発が、〈紫電掌〉並みの威力を持った拳が、的確にネメアーの急所を避けて放たれる。

 そう易々と見せない、聡の超必殺技。

 屋敷前で放たれた、闘獅子族の騎士相手と違うのは、〆の一撃だ。

 雷の束を纏った手刀がネメアーの肉体を吹き飛ばし、舞台を大きく割る。

 その攻撃の余波は、観客席まで及び、観客席に張られた強固な防御結界にヒビが入る。


 吹き飛ばされたネメアーは、場外こそは免れたものの、もはや立ち上がる力もなかった。

 それでも、残った魔力で回復魔法をかけ、ゆっくりと上半身だけ起こす。


「師よ……ありがとう……御座いました」


 ネメアーはそれだけ言うと、どさりと身体を沈ませ、倒れこんだ。

 この瞬間、獣王国闘技部門、優勝者が決定した。



感想、評価ポイントを頂けると大変励みになりますのでありがたいです。


決勝戦は、四苦八苦しながらこのような結果に落ち着きました。最後のしめは決めてたのですが、そこに向かうまでの戦闘というのは中々難しくもあり、楽しかったです。

次で獣王祭はラストとなります。思えば獣王国編だけで一年以上……時間かけすぎましたね。

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最近はこちらの方も日曜更新で頑張ってます。 宜しければこちらの方も感想や評価諸々を下さると大変喜びます。 TSさせられた総帥の異世界征服!可愛いが正義! re:悪の組織の『異』世界征服記~可愛い総帥はお好きですか~
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