100のお題:淡雪
「おい、雪が降ってきたぞ」
悪友の平井がそういいながら店に入ってきた。
「ああ、さっきニュースでやってたよ」
「もうすぐ春だってのに、雪はないよなぁ。あ、俺生ビール、大ジョッキ」
はいよ、と大将が答える。
「寒い時期だってのに、毎回ビールから始めるおまえもな」
熱燗を手酌しながら、俺は突っ込む。
「そりゃ、最初はとりあえず生、だろ?」
「夏ならわからなくもないけどな。枝豆、追加するか?」
「ああ、頼む」
大将に枝豆と、それからとり串の盛り合わせとサラダも追加注文する。
「ところで平井、今日は何の日かわかってるか?」
「え?」
平井は手元のスマートフォンを開いてスケジュールを確認し始めた。
「いや、彼女の誕生日はまだ先だし、おまえのでもないよな。父親でもないし。なんだっけ?」
「今日は何月何日だ?」
「えっと、三月十四日、だよな?」
「一ヶ月前は?」
「二月十四日……あれ、バレンタイン? うおっ、今日ってホワイトデーか?」
「……だろうと思った。とっとと帰って彼女にお返し渡してこい。百貨店ならまだ開いてるだろ?」
「すまん、恩に着る。大将、ごめん、また明日来るわ」
まいどありー、と大将の言葉に送られながら、平井はばたばたっと出て行った。
「はいよ、お待ちどうさま」
目の前に生ビールの大ジョッキと枝豆の追加、とり串の盛り合わせとサラダが並べられて、俺は途方に暮れることになった。