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亡霊葬稿ダイホーン だれが変温の哺乳類を操っているのか/コリカンチャとカト●チャはインカに違うのか 作者:烏田かあ

第八章『死外』

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条件その③ 一兆分の一の権利を掴み取ること

「そりゃ、姫君はケルン大聖堂級の世界遺産だけどね、改ちゃんはみんなのものだったり。独りの子に熱を上げちゃったら、世界中の女子が首に縄掛けちゃうよ」
「産婦人科の景気が悪くなるだけだ」
 醒ヶ井小春って、ノストラダムス以上の予言者かも知れない。

「にしても、見られちゃってたとはなぁ。本命に他の女子と一緒のトコ目撃されちゃうなんて、改ちゃんもまだまだだったり」
「私、真面目に訊いてんだけど」
 からかわれた小春は低い声を出し、頬を膨らます。
「んじゃま、真面目にお答えしちゃいましょう」
 出来る限り厳粛に咳払いすると、改は小春の前に卒塔婆そとばを突き出した。突然目の前に手を出された彼女はけ反り、鼻先の卒塔婆そとばに目を寄せる。
「俺が戦ってるのは俺のためだよ」
 公言するのを見届けた瞬間、持ち主の言動を監視していた卒塔婆そとばが改に語り掛けてくる。

 上出来だ。
 他人を理由に使うようになったら、お前は力を捨てなければならない。
 再び身体に穴を増設し、墓穴に帰れ。

 相変わらずの厳格さに、改は鉛の箱へ押し込まれたような息苦しさを感じてしまう。
 とは言え、殺人を犯す前のように何の制限もなく息を吸っていたら、厚かましく響く心音に耐えられない。何かの間違いで優しい言葉を掛けられた日には、確実に疑念が鎌首をもたげる。甘やかされた梅宮改が増長し、また暴挙に及ぶのではないかと。
 凶悪な化け物を野放しにしてはおけない――。
 使命感に駆られた改が、自分の眉間に銃口を向けるのは間違いない。

「ほら、反社会的な皆さんと戦ってる組織には、美少女が揃ってるのがお約束じゃない? ウチもそーなわけ。F乳(えふちち)とか姫君――さっきの『絶壁』とか見ちゃっても一目瞭然でしょ?」
「顔で構成員選んでるみたいだった」
 一も二もなく賛同し、小春は深く頷く。
「一緒に修羅場潜ってたら、吊り橋効果とか種の保存本能とかで、オトナな展開になっちゃうかも知れない。男子にとってこれ以上魅力的な労働環境は、『男優さん』しかなかったり」
 実を言えば、改は下半身のテトリスをするどころか、『着替え中にバッタリ』のCGも回収出来ていない。あの白髪は上着一枚脱ぐのにも、連続殺人犯の標的ばりに施錠する。

「割とパンティラとかもあるし」
 ピィー! と洋画のチンピラっぽく口笛を吹き、改は小春のスカートをめくる。ハーフなパンツを丸見えにされた小春は、「七年目の浮気」のマリリン・モンローっぽくスカートを押さえた。耳まで真っ赤にした彼女は、小さくつま先を振り、いたずらな手を振り払おうとする。
 ぎにゃーっ! と、尻尾を掴まれたネコのような悲鳴に呼ばれたのだろうか。
 小春が改の手を掴んだその時、 校舎へと続く曲がり角から遠慮がちに人影が出る。
 佳世だ。
 なかなか昼食が届かないのを不思議に思って、小春を捜しに来たのだろう。
 ホの字の相手と親友が、人通りのまばらな中庭で二人きり――。
 しかも、赤い顔で手を取り合っている――。
 衝撃的な場面に遭遇した佳世は、一瞬表情を凍り付かせ、今にも崩れそうな笑みを浮かべる。

「邪魔、しちゃったかな……」
「ち、違う! 違うよ、これは!」
 あらぬ誤解を受けた小春は、狼狽するあまり九官鳥のようにわめき散らす。慌てて改の手を投げ捨てた彼女は、佳世に駆け寄り、意味もなく四肢を振り回し始めた。
 人気のない場所で手を握られていただけなら、強制わいせつ……ゴホン、セクハラと強弁きょうべんすることも出来るだろう。だが最悪なことに、小春は今日、授業中に改の名前をシャウトしている。NTR的な嫌疑を晴らすのは不可能だ。

 さて、どう動くべきか?
 気まずそうな二人を前に、改は思考を巡らせる。
 通信簿の残念そうな小春に弁解させていても、二人の関係にヒビが入るのは避けられない。悪い結果が目に見えているのに、みすみす成り行きに任せるのは忍びない。「あわよくば胸の一つも揉んじまおう」とスカートめくりしながら皮算用していた改にも、責任がないとは言えない。

 最適解を見出した改は、いかにも恥じらっているように顔を隠し、佳世に背を向ける。
「あー、めっかっちゃったあー! せーっかく佳世ちゃんのこと聞いちゃおうって、こんなとこまで小春ちゃんを呼び出しちゃったのに」
「え?」と口を真四角に開いた佳世は、無意味に空中の一点を見つめだす。略奪愛と言う最悪の可能性が薄らいだからか、強張こわばっていた表情が少しずつやわらいでいく。
 この辺り、恋愛の若葉マークはやりやすい。仮に佳世が小学生の頃から彼氏のいた女子なら、とっくに日本語の基本を学んでいただろう。男の口から真実が出ることなどあり得ないと。

「あのー、そのー、食堂でお会いした時から気になっててー、特定の男性がいなければー、小春ちゃんに佳世ちゃんを紹介してもらいたいなーって」
 改は左右の人差し指をもじもじ突き合わせながら、上目遣いに佳世をチラ見する。若干、口調が子供の頃の貴乃花たかのはなっぽい。
「え、え!?」
 急変する状況に思考の追い付かない佳世は、声とも言えない高音を連呼し、辺りを見回す。もしかしたら、「ドッキリ」の看板を持った人を捜しているのだろうか。
「けど、お友達に噂とかされると恥ずかしーし、人目のない場所まで来てもらったのー」
 しれっときらめき高校的な発言をかます改に、片故辺かたこべ入学以来、若人わかとアキラ状態だった良心がツッコミを入れる。
 お前、この一年で何百回路チューした?
「は、春ちゃん!?」
 歓喜の悲鳴を校庭中に響かせ、佳世は忙しく跳ね回る。
 名前を呼ばれた小春はと言えば、ただ呆然と立ち尽くし、改を凝視していた。スマートに悪魔回路を働かせ、ウブな女子を手玉に取った鮮やかさに、尊敬の念を抱いているのかも知れない。

「でも小春ちゃんがー、佳世ちゃんと仲良くしたらダメだってー。どうしても教えて欲しかったからー、お手々握ってお願いしてたらー、真っ赤な顔で怒られちゃったー」
 悪魔回路で算出した言いわけを披露した改は、小春に視線でパスを送る。
「二度と佳世に近付くな!」
 つっけんどんに宣告し、小春はストーカー予備軍を睨み付ける。
 普段はストレートに感情を出すばかりだが、やはり小春も女子と言う名の名優だ。TPOが求めれば、「レインマン」級の名演を見せる。
「こんな奴に構ってたって汚れるだけだよ! 行こう!」
 何かの拍子に疑念が再燃するのを恐れたのか、小春は慌ただしく佳世の手を掴み、足早に去っていく。悲願の瞬間から引き離される佳世は、曲がり角に消えるまで改を見つめていた。
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