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亡霊葬稿ダイホーン だれが変温の哺乳類を操っているのか/コリカンチャとカト●チャはインカに違うのか 作者:烏田かあ

第七章『どうぶつ奇想天外』

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箸休め 語源百景 神話・宗教篇① 言葉に潜む神々

 番外編です。
 今回は神話に由来する言葉を紹介しています。
 作中で紹介した通り、コカコーラの「コカ」や「アルパカ」はケチュア語です。他にも「ピューマ」や「リャマ」など、我々の周りには意外とケチュア語が存在しています。

 最近、音楽番組でよく聞くようになった「インティライミ」も、ケチュア語で「太陽の祭り」と言う意味を持ちます。
 インティライミはインカ帝国にとって重要な宗教的儀式で、太陽神インティに感謝を示す場でした。毎年六月下旬(南半球における冬至とうじ=太陽が出ている時間が一番短い日)に行われていた祭礼の際には、断食し、身を清めた皇帝自らが神殿に立ったと言います。太陽神への供物には、その年に収穫されたトウモロコシから作った酒が使われていたそうです。

 現在でもペルーのクスコ郊外では、インティライミが開催されています。開催日の毎年6月24日は、「農民の日」と言う祝日になっているそうです。伝統的な衣装を着た人々が舞い踊る様子は、有名なリオのカーニバル、ボリビアのオルーロで行われるカルナバルと共に、南米三大祭りの一つに数えられていると言います。

 このように我々が普段使っている言葉には、思いも寄らない語源を持つものが数多くあります。そこで今回の箸休めでは、身近な言葉の意外な来歴を紹介していきたいと思います。

 語源の宝庫と言えば、何と言っても宗教や神話でしょう。
 古くから人々の傍らにあったそれは、様々な言葉を生み落としてきました。仏舎利ぶっしゃりが白米を指す「シャリ」の、ストゥーパが「卒塔婆そとば」や「塔」の語源になったのは、以前の箸休め(『骨とアレの関係性』参照)で解説した通りです。

 中でも紀元前16世紀頃からヨーロッパに存在したギリシア神話は、今日こんにちの言語に多大な影響を与えました。そもそもヨーロッパの語源となった「エウロペ」も、ギリシア神話に登場する女性の名前です。
 英語で大海を意味する「オーシャン」は、ギリシア神話に登場する大河の神「オケアノス」に由来します。また「混沌」を意味する「カオス」と言う言葉は、原初の神々を生み出した空間を語源にしています。「パニック」は牧羊ぼくようしん「パン」に、「サイレン」は上半身が女性、下半身が鳥(魚とも)の怪物セイレーンに由来します。
 性愛の神エロースは、「エロ」と言う偉大な……ゴホン、いかがわしい検索ワードを生み出しました。対照的にローマ神話版のエロースであるクピドは、キューピッドと言うロマンティックな単語を誕生させています。

 反響を意味する「エコー」は、ギリシア神話に登場する精霊から作り出されました。ナルキッソスと言う青年に想いを寄せた彼女は、報われない恋に溺れた挙げ句、声だけの存在になってしまいます。
 一方、エコーをないがしろにしたナルキッソスは神の怒りに触れ、自分以外愛せない身体にされてしまいました。水面に映った自分に見取れ続けた彼は、日に日に衰弱し、やがて命を落としてしまったと言います。後世、自分自身を偏愛する彼の姿は、「ナルシスト」や「ナルシシズム」と言う単語を誕生させました。

 死後スイセンに変わったと言う伝説から、彼の名はスイセンの英訳である「narcissus(ナルキッソス)」にも採用されました。自分しか愛せない男が姿を変えたスイセンには、「自己愛」や「うぬぼれ」と言う不名誉な花言葉が与えられています。
 スイセンと同じく美しい花を咲かすアイリスも、ギリシア神話に登場する虹の女神イーリスを語源にしています。更にイーリスの名は、原子番号77番の「イリジウム」にも採用されています。

「アイリス」と言えば、ミステリーの女王アガサ・クリスティの作品に「黄色いアイリス」と言う推理小説があります。劇中に登場する名探偵エルキュール・ポワロの「Hercule(エルキュール)」は、ギリシア神話の英雄ヘラクレスをフランス語にしたものです。
 ポワロが登場する作品には、「ヘラクレスの冒険」と名付けられた短編集もあります。また長編「ビッグフォー」には、彼の兄であるアシルが姿を見せます。ネタバレを防ぐためにこれ以上は語りませんが、「アシル」と言う名もまたギリシア神話の英雄「アキレス」をフランス語にしたものです。

 余談ですが、ポワロはイギリスのTV局によってほぼ全作品が映像化されています。日本でもNHKで放送され、2016年現在はBSプレミアムでリマスター版が放映されています。
 デビッド・スーシェさんが演じ、熊倉くまくら一雄かずおさんが吹き替えを担当したポワロは、原作以上に魅力的です。DVDも出ていますので、興味のある方はぜひご覧になってみて下さい。
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