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亡霊葬稿ダイホーン だれが変温の哺乳類を操っているのか/コリカンチャとカト●チャはインカに違うのか 作者:烏田かあ

第四章『闘牛入門』

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どーでもいい知識その⑪ 痴漢はほぼ100㌫有罪になる

 今回もまた、ヒーロー側とは思えない発言をするミケランジェロさん。
 次回からは場末のスナック的なパフォーマンスを披露します。お楽しみに。
「退学になるぞ! 受刑者だぞ! 一生後ろ指だぞ!」
 転落の度合いが深まるごとに語勢を強め、小春は改との距離を詰めていく。
「え、冤罪……」
「誰も信じないぞ♪」
 アイドルの宣材写真ばりにスマイルし、ミケランジェロさんは改の肩を叩く。

 無罪判決を期待出来なくなってきた改は、手にモザイクが掛かった後を想像してみる。
 真っ先に浮かんで来たのは、プライバシーの都合で映像と音声を加工された同僚たち。「いつかやらかすと思ってました」と口々に語るばかりか、率先して日々の行いを暴露している。中でも、前後不覚になるほど酩酊した(エム)ケランジェロさんは、一割のないことと九割のあることを世間様に言い触らしていた。もはや歩くセンテンススプリングだ。
 確かに、無罪を勝ち取るには心象が悪すぎる。
 って言うか、ハードディスクやばい。
 リアルで同意を得られる分、映像作品にはついファンタジーを求めてしまう。せめてこの間、マンネリ打破に駆使しただん鬼六おにろく的ツールだけは処分しなければ。

 スポンサーに頭を下げれば、小春の訴えくらいもみ消せないわけではない。現に今までも、ミケランジェロさんの傷害や傷害や恐喝や恐喝を、六法全書以外の手段で処理してきた。世界第二位の個人資産をもってすれば、殺人すら失踪に出来る。
 ――が、金持ちの資本主義的権力を使い、いたいけな少女の訴えをもみ消すなんて、なんか人として駄目な気がする。
「……どうせ収監されるんだ♪ 手ごめにしなきゃ損だぜ♪」
 悩む改に悪魔が耳打ちする。もう羨ましい。どうすればここまで人の心を失えるのか。

「私、本気だからな! 痴漢は九九㌫有罪になるって、テレビで観たぞ!」
 高らかに勝ち誇り、小春は思い切り地面を踏んだ。彼女のローファーが鐘の破片を強打し、木槌in法廷っぽい音色が響く。
 さて、どうする?
 得意げな小春を眺めながら、改は自問する。
 まさか本当に交番へ駆け込んだりはしないだろう。男に「記念撮影」されたなんて言ったら、家族が悲しむし、彼女の人生にも傷が付く。第一、少し調べれば狂言だと判る話だ。被害をでっち上げ、同級生を陥れようとしたことが露見すれば、友人や家族の信頼を失い、社会的にも抹殺される。
 かと言って、大人しく引き下がる剣幕でもない。宣言した通り、ヒーローの目撃談を吹聴ふいちょうすることくらいはやるだろう。

 突拍子もない話を熱弁する小春が、冷笑とさげすみにさらされるのは疑いようもない。真実を語っているのに嘘つき呼ばわりされる姿を見るのは、改にしても気分のいい話ではない。
 何より小春の唇は冷え切り、紫に染まっていた。
 溢れ出た鼻水は、口との間に粘っこい糸を引いている。早く服を着せないと、週末を寝床で潰す羽目になりそうだ。

「冤罪で人生棒に振らされちゃったんじゃ、笑えないからなあ」
 結論を出した改は、パーカーを拾いながら簡単に埃を払い、小春の背中に掛ける。
「な、何だよ、急に優しくして!」
 動揺のせいか高い声を出すと、小春はチラチラと改をうかがいながら、すり足で距離を取っていく。恐る恐るパーカーを受け取ったかと思えば、彼女はそれを何回も振り、裏返し、麻酔針もクロロホルムも仕込まれていないのを確認する。
「女子に風邪引かせたんじゃ、男の子失格だったりしちゃうの」
 足跡を拭いながら小春のブレザーを拾った改は、クシャクシャのそれを丁寧に畳み直していく。本当は畳むとシワが付くのだが、丸めたティッシュのような状態よりはマシだ。

「ここじゃ寒いし、もうすぐ人も来るから、場所変えちゃうよ」
 念願叶った小春はツリ目を広げ、大きく口を開く。声のない歓声だ。
「た・だ・し! ブレザーはリュックにしまっちゃうこと! スカートも脱ぐ! 制服のまま夜歩きしてると、お巡りさんに声掛けられちゃうからね」
「脱ぐ! すぐ脱ぐ!」
 快諾した小春は、パパパとスカートを脱ぐ。
 少しエサをちらつかされただけで服を脱ぐ――この子、本当に九時以降は出歩かないほうがいい。

「寒くなくて人目がないっつーと、カラオケとかか」
 簡単に目星を付けると、改はハンカチを出し、小春の鼻水を拭った。とりあえずライダースジャケットを脱ぎ、ブレザーをしまったせいで肩を震わせていた彼女に着せておく。
「……ありがと」
 長すぎる袖で赤い顔を隠し、小春は不本意そうにお礼を言う。
「いっそ桃色の不夜城にでもしけ込んじまったらどうだ♪」
 ラヴコメ的なやり取りを見たミケランジェロさんは、はやし立てるように野次を飛ばす。けらけら笑うあの顔、彼女は完全にこの状況を面白がっている。

 元々、正体がバレようがバレまいがどうでもいい人だ。そう、世間の目なんてアウトオブ眼中。と言うか人目を気にしていたら、醜態をさらすことに耐えかねて、とっくの昔にオホーツク海に入水じゅすいしている。
 他人の発言によって自分が決定的な不利益をこうむると判断すれば、バタフライナイフとクローズラインのコンビネーションで、言論の自由にスリーカウントを聞かせてしまう。
 改にしてみれば、変に口を挟まれないのは幸いだ。とがめられたりすれば言い返せないし、鬱陶しい。
 そのはずなのに、忠告一つしない彼女の姿勢が、少し苛立たしいのはなぜだろう? 大分この団体に染まったつもりだったが、根っこはまだまだマジメ君だ。

 爆炎を見た誰かが通報したのか、けたたましくサイレンが響き、大量の赤色灯が冬の大三角形を照らす。あっという間に、オリオンの頬がミケランジェロさんと同じ色になってしまった。
 潮時を察した改は、足取りのおぼつかない酔っ払いをかつぎ上げ、すたこら歩み出す。小春を見た後だと暴力性すら感じるF乳(えふちち)が、改の背中に圧迫されてふにっと潰れた。
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