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亡霊葬稿ダイホーン だれが変温の哺乳類を操っているのか/コリカンチャとカト●チャはインカに違うのか 作者:烏田かあ

第四章『闘牛入門』

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どーでもいい知識その⑨ 口封じには写真撮影(性的な意味で)

 見た目美少女、中身マッドマックスなミケランジェロさん。
「劇場版仮面ライダーゴースト」に採用されたことを記念して命名したように思えますが、実は無関係です。
 ミケランジェロ眼魂アイコンが採用される前から、彼女の名前はミケランジェロさんでした。
「で、どう記憶を味付けしちゃいます?」
 改はスマホをしまい、ミケランジェロさんにお伺いを立てる。
競艇場きょうていじょう帰りにしこたま呑んで、気付いたらゴミ捨て場で寝てたっつーのは?」
「そんな雑な真似するJK、この地球上にアンタだけです」

 特別製のフラッシュを浴びた被写体は、ショックで記憶を失う。どの程度忘れるかは、光源の出力や文章量次第。スマホなら平均三、四時間と言ったところだ。
 意識を失っている間に言い聞かせれば、偽の記憶を植え付けることも可能だ。
 朦朧もうろうとしているところに暗示を掛けると言う原理は、催眠術に近い。ただし威力は段違いだ。別の証拠隠滅と併用すれば、誰かとの思い出をそっくり消すことも出来る。
 とは言え、あまりに突拍子もない記憶だと違和感を生む。何かの拍子に真実を思い出すとも限らない。小春のキャラ、日常の振る舞いを考慮し、慎重に決める必要がある。

 後々余計な波風を立たせないように、改はひとまず小春を観察してみる。
 ツっていると言うか、意図的に吊り上げている目――。
 制服にパーカーとハーフパンツを合わせた活動的な服装――。
 図書室に日参にっさんするタイプではなさそうだ――が、馬券だの舟券を紙吹雪にするレベルの荒くれものではない。絶対ない。
 改めて考えると、改は悩んでしまう。
 小春のように活発そうな女子ほど、実はウブだ。九時過ぎに家族以外と出掛けた経験がなかったりする。男絡みのネタは使えない。

「意識を取り戻す前に、近所の本屋にでも運んじゃいましょうか」
 九時過ぎでも、本屋くらいには行くはずだ。「お父さんは心配症」に没頭していれば、半日くらいすぐに経つ。意識が戻った時に時間が経っていても、不自然には思わない。
 それなりにうまい方法を見付けた改は、善は急げと小春の背後に回り込む。運び出すために脇の下へ手を差し込むと、だらしなく開いた彼女の口がうめき声を漏らし始めた。あ……あ……と途切れ気味に漏れ出す音は、事切れる寸前の老人にそっくりだ。

「あにすんだ!」

 火の粉のぜる音を掻き消したのは、絶対に聞くはずのない金切り声だった。
 力なく垂れていた小春の手足が、急転直下、水揚げされた魚のように暴れ狂う。
「うえっ!?」
 予想外の事態に瀕した改は、世にも奇妙なガラモンソングを聞いたような悲鳴を上げ、大きく飛び退く。

「な、なに普通に喋っちゃってんの!?」
 驚愕のあまり声を上擦らせ、改は意味もなく小春の顔を指す。スマホのフラッシュを浴びたなら、最低一〇分は脳のブレーカーが上がらないはずだ。
「喋れるに決まってんだろ! いきなりフラッシュ焚きやがって! しょーぞーけんのしんがいだ! びーぴーおーに訴えてやる!」
 眩しそうに目を擦った小春は、改に掴み掛かる。

 ま・さ・か……。

 嫌な予感に駆られた改は、恐る恐る小春に質問してみる。
「小春ちゃん、さっき何見ちゃった?」
「アンタがレインボー造型企画的なスーツ着て、怪人と戦ってた」
「最近はブレンドマスターさんだったり……」
 最悪な予想が的中した落胆に脱力が加勢し、改を項垂うなだれさせていく。

「テメェ、何しくじってんだ♪」
 改を叱責し、ミケランジェロさんは首のない仏像をバットのように構える。返答には細心の注意を払わなければならない。目付きがガルベスだ。
「違っちゃいます! この子耐性があるんです、『ピカッ!』に」
「耐性だァ?」
 弁明を聞いたガルベスは怪訝そうに返し、逆さまの仏像を地面に叩き付けた。悪鬼もおののく毘沙門天びしゃもんてんに、ツームストーンパイルドライバーだ。

まれにそういう人がいちゃうらしいんです。いや~、本当に実在しちゃうとはなあ~」
 解説と言う名の保身を終えると、改は小春の頭を両手で挟み込み、鼻先まで引き寄せた。右、左と整体師のように彼女の首を動かし、肌つやから耳たぶのほくろまで観察する。
「じ、じろじろ見るな!」
 息を乱しながら叫ぶと、小春は改を突き飛ばした。男に接近されただけで酸素が薄くなるとは、やっぱり九時には帰る女子だ。
「……『ピカッ!』が効かねぇ、か♪」
 甘酸っぱい反応を見せる小春とは裏腹、ミケランジェロさんは釣り鐘の破片を拾い、すぐ捨てる。流石さすがに青銅で素人を殴るほどハードコアではない。記憶の前に脳味噌が飛んでしまう。

「ちっ、しょーがねーな♪」
 ――とか何とか口では面倒そうに言いながら、少女の精神を蹂躙する快感にほくそ笑んだミケランジェロさんは、慣れた様子で小春の両手首を引き絞る。状況を理解出来ずにきょとんとした小春が、足の浮く高さまで釣り上げられていく。
「ほら、さっさと済ませちまいな、アタイが押さえとくから♪ 写真の一枚でも撮っときゃ、金輪際こんりんざい話そうなんて気は起こさないはずだぜ♪」
 ハードコアどころか前科者の発想を聞いた小春は、声帯がどこかの誰かと混信したように、文脈の繋がらない悲鳴を上げ始めた。コサックダンスばりに空を蹴り、オークのように笑う前科者を振り払おうとしている。

「静かにしろ♪ 何も獲って喰おうってんじゃねぇんだ♪ 少し楽しませてもらうだけだよ♪ ほら、お前も早くシャバドゥビタッチして、このお嬢ちゃんをヒーヒー言わせちまいな♪」
 共犯者をチラ見したミケランジェロさんは、小春の太ももから足の付け根までをルパッチマジックタッチゴーする。
 恐怖が限界に達したのか、小春はぞわっとうなじを震わせたのを最後に、一切の抵抗をやめる。ぎゅっと目をつぶり、唇を噛み締める様子が痛々しい。

「割と取り返しの付かないことを勧める」
「今さらいい子ぶるなよ♪ 同じようなことをしてるじゃねぇか、常習的に♪」
 意味ありげに笑うミケランジェロさんを目にした小春は、慌ててがに股っぽく開いていた足を閉じる。過呼吸気味に白い息を乱射しながら、改を凝視する彼女の目は、今にも泣き出さんばかりに怯えきっていた。

「イヤっ! そんな目で見ないで!」
 いわれのない嫌疑を掛けられた改は、裏声で叫び、右手で胸を左手で股間を隠す。
「何らかの誤解があっちゃうみたいだけど、ちゃんと同意があったからね? 人妻の時も女教師の時も声優さんの時も。XVideosとか知らないよ」
 正当な釈明を行うほど、今までとは別のベクトルで小春の表情が歪んでいく。
 思春期の娘が、お父さんの入った後のお風呂を見る感じ――気のせいだと思いたい。

「脱がせ方が判らないとでも言うつもりか♪」
 ぎゃはは♪ と夜のお寺に轟いたのは、飯場はんばのオッサン的な爆笑。
 口を開いているのは、現役女子高生のミケランジェロさんだ。
「そりゃ片手でボタン外せちゃいますけどね。着付けも出来ちゃいますけどね、成人の日とか夏祭り対策に」
 清潔感一二〇㌫の自慢話で更に小春の顔を険しくしながら、改はミケランジェロさんに歩み寄る。囚われの小春を解放すると、彼女は迅速にウェットティッシュを出し、改の触れた手首を気が狂ったように拭き始めた。
「わあ懐かしい。バイ菌扱いされるのなんて、中学の時以来だったり」

「乙女のてーそーを奪おうとしやがって……!」
 羞恥からか興奮からか、小春は顔面を真っ赤にし、肩を震わせる。
「決めた! 月曜日、みんなに話してやる!」
 やっぱり不幸になる道を選んだ。
 頭に血が上るあまり、客観を見失っている。
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