箸休め 鯨偶蹄目について クジラ≒カバ?
再び番外編です。今回はクジラのご先祖様について語っています。
古生物は面白いモチーフなのですが、説明に手間が掛かるのが難点です。
名前を出しただけでは、どんな生き物なのか想像してもらえないので。
『亡霊葬稿ダイホーン』で語った通り、現在ウシとクジラは同じ「鯨偶蹄目」に分類されています。ウシの他にキリンやイノシシが含まれるこのグループの中で、最もクジラに近いのはカバだそうです。
ではクジラとカバの祖先とは、どんな動物なのか?
残念ながら、その正体は未だに判っていません。ただクジラの祖先に関しては、かなり昔まで遡ることが出来ます。
2016年現在までに発見されている中で、一番古いとされているのが「パキケタス」と言う動物です。
彼等は鯨偶蹄目古クジラ亜目パキケタス科に属する哺乳類で、古第三紀――今から約5300万年前に棲息していたと考えられています。「パキケタス」の名は化石が発見された「パキスタン」と、ラテン語でクジラを意味する「cetus」に由来します。
彼等は体長1.8㍍ほどの四足歩行動物で、イヌによく似た体型をしています。細長い顔はワニとバクを合体させたような感じで、正直、子孫には全く似ていません。仮にイラストを見せても、クジラのご先祖様だと思う方はいないでしょう。彼等の脚には立派な蹄があり、主に陸上で生活していたと言われています。
パキケタスが発見されたパキスタン、そしてその隣国であるインドの地層からは、クジラの祖先と考えられる化石が多く発見されています。3㍍もの巨体を誇るアンブロケタス、約4600万年前に棲息していたとされるレミングトノケタスなども、この地域で見付かっています。
約4900万年前に棲息していたとされるアンブロケタスは、パキケタスと違い、多くの時間を水中で過ごしていたと言われています。
事実、彼等は体型も顔付きもワニに瓜二つで、指の間には水掻きを生やしていました。また生態もワニに近く、浅瀬に隠れながら水場に来た獲物を襲っていたと見られています。その証拠に大きく裂けた彼等の口には、獲物を切り刻むのに充分な牙が生えています。
パキケタスたちが生きていた頃、ユーラシア大陸とインドは地続きではありませんでした。現在、インドやパキスタンがある辺りにはテチス海と言う遠浅の海があり、温暖な気候で多種多様な生物を育んでいたと考えられています。クジラの祖先たちは豊富なエサを追う内に、水中への適応を獲得していったそうです。