魔術師の眼
『SSバトル企画』参加作品です。
お題
「毒電波」
ルール
「作者」
・参加者はお題から連想されるSSを2000字前後で作成する。
・それを衆目に晒し、どれがよりお題を連想させる作品だったかを投票してもらう。
「読者」
・参加しているSSを全て読む。
・その中でよりお題を連想させた作品に投票する。
・投票方法は評価欄に「企画概要を知っている旨」と「自分がこの作品に投票する旨」さえ書いてあれば他はどんな内容でもOK。
・もちろん投票しない作品へ評価を残しても大丈夫。むしろ、していただけるとありがたいです。
企画概要はこんな感じです。
お題である「毒電波」に明確な定義がありません。
あくまで主観的に、各作品を読んでどれが一番自分の中の「毒電波」だったかを投票していただけたら幸いです。
エントリー作品
・ガルド 『魔術師の眼』 http://ncode.syosetu.com/n6063g/
・蜻蛉 『四畳半のテーマパーク』 http://ncode.syosetu.com/n6140g/
・黒木猫人 『姫神くんと姫神さん』 http://ncode.syosetu.com/n6134g/
(検索からは「SSバトル」あるいは「毒電波」でご利用ください)
意味のあることに意味なんてない。
無意味こそ真理。無価値こそが現実。
僕の眼はそのことを知っている。
さあ、今日も張り切ってゼンマイを巻こう。
ぎちぎちぎち。
ギチギチギチ。
ぎちぎちぎち。
取っ手が取れたらそれ捨てよう。
ギチギチギチ。
ぎちぎちぎち。
ギチギチギチ。
そろそろ夢が醒めそうだ。
◇◇◇
僕は魔術師の眼を食べた。
まるでプリンのような食感。
放っておいても口の中で蕩ける。
丸くって甘くって臭くって内臓くるり。
喉を通るとけろけろしてももう出てこない。
あーおいしかった。
夢から醒める。
◆◆◆
拾い食いなんてするもんじゃありません。
教訓得てから夢に潜る。
寝ても醒めても夢の中。
夢で眠ると夢の中。
ここが夢なのか、それとも夢なのか、もしかしたら夢なのか。
そんなのとっくに僕にも分からない。
ただただ眼がぐるぐるいっている。
ぐるぐるしてびちびちしてきゅうきゅうしてる。
痛いから止めて欲しい。
身体の中から甘くて臭い匂いがする。
胃の中がきゅるきゅるした。
そうか今日は赤いほうか。
◇◇◇
気がつくと僕は道を歩いていた。
いったいいつの間に家を出たのだろう。
視線を下ろせば制服を着ているし、手には学生鞄もある。
なんというか、昨今の夢遊病はずいぶんと性能がいいらしい。
「あ、斉藤さん。おはようございます!」
なんだか気分が良くなって、僕はいつもよりも元気三割増しに挨拶した。相手は近所に住むお姉さん。大学生らしいのだが、この曜日この時間帯はいつも近所で犬の散歩をしている。この人がまた美人で可愛らしい方なのだ。
「あら、―――くん。うふふ、今日は元気がいいのね」
そう言った斉藤さんの首が取れた。
首はアスファルトの地面を跳ね、ころころと犬の前へと転がっていった。
「そういう斉藤さんも機嫌がよさそうですね」
僕は嬉しくなって言った。
「そうなの、今朝占いで一位になっちゃって」
斉藤さんはそう言ってもうすでにない口元へ、右手を上品に当てて答えた。
大人の色気というか、こういった品のある仕草がたまらなく似合う人だな、なんて、少し増せすぎか。
僕は自分の顔が赤くなっているのが恥ずかしくて、思わずうつむいた。
その視線の先では両目の腐った柴犬が、主の生首をおいしそうにかっ喰らっていた。
◆◆◆
僕は学校につくと友達に挨拶をする。
席に着き、鞄をその横にかけながらまずは金魚の鈴木に挨拶をした。
「よ、おはよ」
「やあ、―――。今日はご機嫌だね」
分かるかい? 朝からいいことがあったんだよ。
そうしてから次に黒板消しの高津に挨拶する。
「宿題やってきた?」
「写させてはやらんぞ?」
ため息をつきながらノートを取り出す君は、やっぱりいい奴だと思うよ。
「また写させてもらってるの? まったく、―――は駄目な子だなぁ」
ノートを写させてもらっていると、シャープペンシルの岬が話しかけてきた。
まったくもって言い返せない僕は眉をひそめながら小さく肩をすくめた。
こういう小言がなければもっと可愛い奴なのに、本当に損をしてるよ君は。
写し自体はものの五分で終了する。
僕は写し終えた自分のノートを眺める。
字は走り書きだが、完璧だ。
出された宿題は数学のものだが、ところどころわざと間違えておいた。自意識過剰かもしれないが、それでも僕が予習部分を全問正解しているのはちょっとうそ臭い。
僕は完成したノートに満足すると、小さくひとつうなずいてから、ノートを黒板の方へと持っていく。
「そんな一仕事終えた職人みたいな顔されてもね」
「いやいや、君のいい黒板消しぶりには負けるよ」
「よせよ、気持ち悪いぜ」
うふふ。
あはは。
予鈴がなった。
◇◇◇
目が醒めると僕は病院のベッドの上にいた。
湿布を薄く引き伸ばしたような臭いが鼻をつく。
状況がよく分からない。
なぜ、僕はこんなところにいるのだろう。
周囲を見渡すと、僕のいるベッドの周囲には漫画や日常品が散乱しており、それはまるで長期入院者のベッドのようだと、虚ろな頭で思った。
「あ、気がついた?」
声がした。
そちらを振り向くと、制服を着た岬が花瓶を持って現れた。
どうやら水を入れ替えてくれていたらしい。
それにしても記憶が曖昧だ。
まるで僕は自分が記憶喪失になってしまったかのような気さえした。
「お、意外に元気そうじゃんか」
そこで、岬の後ろから高津が現れた。
相も変わらずでかい図体だ。
「やあ、お加減はどうだい?」
それに連れられるように、神経質そうな顔にメガネをかけた顔も現れる。鈴木だ。
「どうしたんだよ、みんなして」
僕は靄のかかったような頭で、なんとかそれだけ口に出した。
だけどみんなはにやにやと笑うだけで、僕の言葉に反応してくれない。
ただ、みんななにかプレゼントを隠し持っているかのように、右手を背中に隠していた。
「おいおい、どうしたっているんだよ。はは、まさか今日は僕の命日なのかな?」
あれ? どうして分かっちゃったの?
岬が可愛らしい声でぽつりと呟いた。
同時、三人が背後からメスの握られた右手を取り出した。
なんだ、今日は青いほうか。
END
…今日のことは全部…何もかも演技です。
私のセリフも何一つ本気にしないでください。
私は……
私はあなたごときに理解できるような 浅い人間ではないのです。
(出典『NHKにようこそ』)