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第一章 始まりの日
第三話 新たな家
 二人で騒いでいたら、いつの間にか舞さんの家に着いていた。
 むむ。いつの間に……にしても、
「久しぶりだなあ」
 僕は家を見上げる。なんせ、舞さんの家はお屋敷なのだ。
 うちの方が山奥だから、庭はずっと広いけど家の方は負けている。たぶん、うち三つ建ててもお釣りが来る。
 そして、庭には色とりどりの花が咲いていて舞さんの性格も現してよく手入れされているみたいだ。
 家に上がる。うん、やっぱり掃除が行き届いている。
 ためしに指で靴箱の上を擦ってみたけど、埃はほとんどついていない。って、姑か僕は!
「空狐くん」
 いつの間にか、舞さんが先に家に上がって、僕の前に立っていた。そして、満面の笑みで
「おかえりなさい!」
 僕は少しの間きょとんとしていたけど、すぐに言ったことの意味が分かった。
「ただいま。舞さん」
 それを言った時、本当に新しい生活が始まった気がしたのだった。





「はい、ここが空狐くんの部屋」
 舞さんに案内されて入った部屋は昔から僕と母さんが泊まりに来るたびに使わせてもらっていた部屋で、すぐ隣が舞さんの部屋だ。
「やっぱ変わってないね、ここも」
「当たり前だよ。増改築とか必要ないもの」
 まあ、そうだね。こんだけ広いし立派だし。
 部屋は畳の張ってある六畳の和室。日当たりがよくてぽかぽかして、懐かしいにおいがする。うーん、久しぶりにここでごろごろしたい。
 ただベッドとタンスにが置いてあって、その二つは微妙に相性が悪いなあ。
「あっ」
 柱を見る。
「まだ残ってたんだ」
 それは、僕が来るたびに背の高さを記録するために付けられた傷だった。つつっと指でなぞる。六歳から九歳の時の傷が団子って言うのが悲しいような懐かしいような気分になる。
「あの時は本当に小さかったもんね」
 懐かしそうに舞さんが笑う。ちょっと複雑。
 次に窓を開けてみる。お?
「お隣の柿の木まだ残ってたんだ」
 よく二人で柿とって怒られてたっけ。甘くておいしかったなあ。
 とそこで、
 グ〜
 腹の虫が鳴った。うーむ、けっこう大きくてちょっと恥ずかしいぞ……
「ねえ、空狐くん、そういえばお昼食べた?」
「いえ、まだです」
 うん。忘れてたけど、思い出すといきなりお腹が減ってきた。
「じゃあ、今からご飯作るから待ってて」






 そして、リビング。
 とんとんとんと、小気味いい包丁の音が聞こえてくる。
 なんだかそれを聞いているだけで食欲が湧いてくる気がしてきた。 
 程なくして、二枚のお皿が持って舞さんが来る。
「はい。できたから食べよ」
 置かれた皿に盛り付けてあったのは焼きそばだ。むむ、具はにんじん、ピーマン、モヤシとキャベツにメンマやナルト、それに豚肉盛りだくさん。そして、上には青海苔、鰹節に紅しょうががトッピング。なかなかゴージャスだ。ちょっと、色が濃い気もする。
 かぐわしいソースの匂いがさらに食欲をそそる。
「いただきま〜す」
「いただきます」
 さっそく一口。こ、これは……
「おいしい!」
 野菜はしゃきしゃきで、肉も中まで火が通ってるけど硬くならず柔らかい。僕は硬くなっちゃうんだよなあ。そして、ソースとコショウの味付けもちょうどいい濃さだ。
 ドンドン箸が進む。
「おいしいよ。舞さん!」
「本当?」
「うん。僕や、母さんより上手じゃないの?」
 お世辞抜きでそう思う。
「お世辞でも嬉しいな」
「そんなことないよ」
 くうう、やっぱ嫁に欲しい!



「明日からうちの学園に通うんだよね?」
「うん」
 常磐学園。そこが僕が通うことになる学校だ。予定では舞さんと同じクラスになるはずである。
「驚かないでね。上の学年にまりもさんいるんだよ」
「え? まりもさんが?」
 まりもさんとは、僕らが子供の頃一緒に遊んでくれたお姉さんだ。懐かしいな。
 そんな風に、しばらく二人で食べながら雑談を続けると
「へへ、嬉しいな」
 んっ? 何か声色が違うような?
「うわ!」
 舞さん、涙ぐんでる! どうして?
「ど、どうしたの?」
「わたしね嬉しいの。また、誰かと一緒にご飯食べられて……すごく嬉しいの」
 舞さんが目尻を拭く。
 そっか、今まで明るかったからおじさんとおばさんのこともう大丈夫だと思ってたけど、やっぱり寂しかったんだ。
「ねえ、お姉ちゃん」
「なに?」
「僕でよかったらいつでも一緒にご飯食べるよ」
 舞さんの目からポロポロと涙がこぼれ落ちる。
「ありがとうクーちゃん……ありがとう」
 しばらくの間、舞さんのすすり泣きが部屋に流れる。その間、僕はずっと黙って焼きそばを食べていたのだった。



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