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第十章 力をなくしたイヴ
第五十二話 イヴと槍
「ちょっと空狐、あそこに寄って」
 学校の帰り道、舞さんと話しながら歩いていたら、頭の上に乗っていたイヴが僕の髪を引っ張ってきた。
「えっ?」
 そっちを見るとポツンと古びた骨董屋が立っていた。
「いいけど、なんで?」
「いいから!」
 グイグイ髪を引っ張られる。地味に痛いんだけどなあ。
「わかったよ」
 髪を抜かれたくないから、その店の中に入る。
 中は昼なのに少し暗く、所狭しと胡散臭い壷や皿が置いてあった。奥には店主らしいおじいさんがチラリとこっちを見るけど、すぐに興味を失ったのか手元の本に視線を落とす。
「うわー、色々あるねー」
 舞さんが興味深げに店内をキョロキョロ見る。
 イヴも周りを見回してるのか頭の上で動いている感触がした。これって頭の上が擦られて少しむずがゆくなるんだよなあ。
 しばらくして、
「あった!」
 なんて言ってイヴが僕の頭を蹴る。彼女が飛びながら向かったのは、いかにも古そうなボロボロの槍だった。
「これよこれ!」
 イヴがその槍を持ち上げてえぇぇぇ!
「ばか!」
 自分が人に見えないの忘れてるのか! 慌てて僕が割り込んで取り上げる。
 あれ? この感じ、天月を持ってるときに似ている。
「これ買って空狐!」
 イヴが槍にぶら下がりながら頼んでくる。値札を見れば、『模造槍 三万九千八百円』まあ、大丈夫かな?
「適正価格の三百九十八億で!」
「無茶言うな」
 思わずツッコムと、舞さんがトントンと肩を叩いてきた。
「おじさん見てるよ」
 まあ、そうだろうな。普通の人間にはイヴは知覚できないから、端から見れば僕は頭がおかしい人間に見えるだろう。
 しかし、イヴはお構いなし。
「いい? 空狐、この槍はね……」
 ごにょごにょと僕に、この槍をさっき言った価格で買って欲しい理由を耳打ちする。
 それで僕は納得すると同時に彼女と同じ気持ちになった。
 だけどね、さっきの金額は無理だから……
 舞さんに、槍を見てもらっている間に銀行に行ってお金を卸す。それから店に戻って、
「この槍を三十八万九千で買います。お釣りはいらないです」
 十倍の値段で購入したのであった。

 家に戻って新聞紙にくるまれた槍を取り出す。
 見た目はファンタジーものに出てきそうな、刀身と柄の間の宝石を中心に装飾がなされた槍。だけど、今は宝石が割れ、装飾が剥げ落ちたボロボロ。しかし、僕らはこれが何なのか知っている。
「あーん、私の槍! こんなにくたびれちゃってえ!」
 イヴが泣きながら槍に抱きつく。
 そう、これはかつて天月とともにイヴが所持していた武具の一つ。神槍『ガングニル』……名前パチモン臭いって言わないでね。
 まあ、今回は彼女に同意だ。あの値段は傷つく。だからと言って三百九十八億は行き過ぎだ。買えるわけがない。(本来なら値段が付けられないほどの価値だから三百億でも安いかもしれないけど)
 スリスリ頬ずりするイヴを舞さんがいつかのかあいい表情で眺めている。
「よかったねイヴちゃん。空狐くんもこれでパワーアップだね」
 確かに。一級クラスの神器を二つも持っているなんて滅多にないだろう。
「ああっ、無理よ。空狐がこれを使うなんて」
 スリスリ頬ずりしながらイヴがキッパリと言い切る。そこまではっきり言い切られると傷つくわ。
「普通なら神器は一人一つがやっとね。空狐は確かに私と相性がいいけど、それでも荷が重いわ」
 あらら。じゃあ宝の持ち腐れ?
「でも、ボロボロよね。自己修復能力もなくなっちゃってるわ」
 イヴが悲しそうに槍の宝玉を撫でる。それはそうだろう。力の中枢であるはずの宝玉が壊れてしまっていは修復なんてできるわけがない。
「槍の意志も死んじゃってるし、仕方ないね。私の力を注ぎ込んで直してあげなくちゃ」
 そう言ってイヴは槍の上で手を広げる。そして、その掌から淡い光が伸び、槍を包み込んで……



 甲高い金属音にも似た音を立ててイヴが弾かれた。



 えっ?
 イヴも尻餅をついたまま困惑した様子で槍を見る。
 僕は槍を持ち上げてみる。変わらずボロボロだけど、先ほどよりも神力を感じる。成功したのかな?
「だめね。久方ぶりに神力を受けたからかわかんないけど、槍が突然与えられた力を拒絶しちゃったみたい」
 なるほど。例えるなら風邪とかで弱った人にスッポン鍋を食べさせるみたいなものか。胃が受け付けずに拒否反応を出すみたいに。
 イヴがパンパンとお尻を払う。
「こういう時はあの子に頼まないとね」
 そう言ってイヴが僕の頭の上に飛び乗ろうとして……
 べちゃっと地面に叩きつけられた。
 ありゃ? 舞さんもキョトンとしているけど、いきなりのことに本人もわかってないみたい。地面に叩きつけられて真っ赤になった顔でこっちを見る。
 すぐに起き上がって、もう一度飛んでみようとする。手を振って、屈伸させた足で思いっ切り地面を蹴って飛ぼうとする。だが、すぐに地面に着地した。見た目は殆ど幅跳びだ。
 むむむっとイヴが顔をしかめる。そして、もう一度飛び上がろうとする。今度は目を強く瞑り顔を真っ赤にて、必死に背中の羽根を羽ばたかせながら。
 おっ? 少しだけ飛んでいるぞ。がんはれイヴ。舞さんも初めて自転車を漕ぐ我が子を見るお母さんのような顔で「がんばれー、がんばれー」と応援している。
 だけど、本来見た目通り飛ぶための機関ではなく、神術を使うための機関である羽根で長時間飛べるわけなくペタンとすぐに地面に着いてしまう。
 しばらくみんな黙っていたけど、イヴがあははと笑う。
「力……使えなくなっちゃったみたい」


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