九十九探偵事務所の事件簿〜ファイル3縦書き表示RDF


九十九探偵事務所の事件簿第一弾から読む事をオススメします。
九十九探偵事務所の事件簿〜ファイル3
作:山里 渓一


日本のピラミッドと言う、言葉を聞いた事があるだろうか?昭和初期の大詐欺師、竹内巨麿が広めた言葉だが、確かに日本中には円錐形やら正三角形の山が存在する。
自然の物とは思えぬ造形に、古代の人々は神として奉り様々な伝説を生んだ。

だが…更に時間を遡り、記録や文献すらない超古代に龍脈に沿ってその山を築い文明があった。


人々から忘れ去られた、昔々の話し…







事務所の机の上で電話がなっている。
Qは応接セットのソファーで雑誌を読んでいる晶子をちらり、と見た。
何時もなら、Qより先に電話に出る筈なのに…

今の晶子は、雑誌にかじり付き、電話の音が耳に届いていない。


仕方なくQは、電話に出た

「はい、九十九探偵事務所です。…はい、そうです。はい…えっ?…広島ですか?…えぇ…行けなくもないのですが…」


電話対応中のQを後目に晶子が部屋から出ていく。


電話を切ったQは、頭を掻きながら、広島か〜、と嫌な顔をした。
その時、両手に旅行用の大きなボストンバックを抱えた晶子が戻って来た。


「危険な妖気を感じるわ…あなた一人には任せられない。今回は同行するから」

危機迫る顔で晶子はQに迫って来た。
が、急に思い出したのか、あれも、持ってかなきゃ、と踵を返しバタバタと部屋から出ていった。


…?、一体なんなんだ?

Qがソファーに腰を下ろし、ハイライトメンソールに火を付け、灰皿を引き寄せようとした時、先程まで晶子が夢中で読んでいた雑誌が目に入った。


『特集!冬の味覚満載!
旬の牡蠣を食べ尽くす、安芸の宮島、一泊の旅』


「これか…?」


Qは、急に可笑しくなって笑いだした。
はっ!と気付くとドアの隙間から晶子が凄い表情で睨んでいた。







翌朝、Qと晶子は広島へ向かった。
最寄りの恵比寿駅から山手線に乗り、品川駅で東京モノレールの空港快速に乗り換える。

移動中、晶子は子供の様に飽きずに外を眺めていた。

「なんだ?モノレールは初めてか?」


「初めてよ。凄いね」


晶子は眼を輝かせ、満面の笑みで答える。


「まるで小学生の遠足だな」

「遠足って、モノレールでいくの?」


「どうだろう?俺がガキの頃はバスだけだったけど…晶子位の年代はわからん」

「私…遠足って行ったことないんだ…」


晶子は外を眺めたまま、ポツリ、ポツリと話し始めた

「私の家で、賢者の石の力をコントロール出きるのは私だけだった…祖母はかなりの力を持った人だったけど父も母も残念ながら賢者の石をコントロールするには及ばなかった…」


「そうか…」


「賢者の石を使って龍脈を抑えるには、ある程度の距離を離れる訳には行かないの…だから、今は気楽なもの、賢者の石はQに入ってるし、守るべき龍脈点も無いしね」


晶子は笑顔で振り向いたが、Qには寂しそうに見えた

Qと晶子を乗せたモノレールは15分足らずで羽田空港へ到着した。
そこから国内線に乗り、90分で広島空港に到着した
広島空港の到着ロビーで依頼人の羽山が二人を出迎えた。


「わざわざ遠くまで来ていただき有り難う御座います。あの…車を用意してますので、詳しい話しは車の中で…」







Q達を載せたリムジンは広島空港を出ると直ぐに高速道路に入り北西へと進む。
羽山は、改めまして、と名刺を出した。


羽山エンタープライズ
CEO 羽山 貢


「依頼の内容なのですが…九十九さんは日本ピラミッドをご存知でしょうか?」

「えっと…たしか、酒井勝軍の…」


「そうです!流石は博識でいらっしゃる。分からないと言われたらどうしようかと思いました」

羽山は、仕切りに感心しながら、うん、うん、と何度も頷いている


「あの…日本ピラミッドがなにか?」


「あっ!これは申し訳にない。実は、私の会社、羽山エンタープライズは日本ピラミッド…いや、正確には葦嶽山と言うんですけど、そこを発掘調査する為に立ち上げた会社なんです。ようやく許可も下りまして、さあ、始めようとした矢先にトラブルがありましてね…私どもと致しましても今回の事業にかなりのお金と時間をかけているものですから…何とかならないものかと、その筋の方にお願いしましたら、九十九先生が適任だとおしゃるもんで」


「ですから…依頼内容をまず話して頂かない事には」

「これは失礼。依頼内容はズバリ、ある人物を説得して頂きたい」


「はい?」







羽山は、Qと晶子を庄原市内のホテルの前で降ろすと、明日の朝10時頃に伺います、と言って去って行った。


「ねぇ、さっきの話し…私にはサッパリ理解出来ないんだけど」


ホテルのロビーでコーヒーを飲みながら晶子はQに聞く。


「依頼内容か?それとも日本ピラミッド?依頼内容なら俺も理解出来ないよ。何でわざわざ東京から…」


Qは羽山の言葉を思い出し、首を捻る。


「どっちも理解不能よ…」


「依頼はさて置いて、日本ピラミッドってのはな、昭和の始めに竹内巨麿と言う人物が言い始めた事で、その事を真に受けた酒井勝軍って言う金持ちが全財産を投げ打って発掘調査したんだけど、結局何も出ずに竹内のホラと言う事で終わっちまったんだ」


「それって完全に騙されてない?」


「そうだな、酒井は破産するし、竹内も散々ホラを吹いて最後は不敬罪で刑務所送りさ」


「それなのに、羽山さんは酒井勝軍と同じ事をしようとしているの?」


「まぁ、葦嶽山自体にも竹内以前に財宝伝説はあった訳だし、同じ例は世界中にあるからな」


「男のロマンって奴かしら、いつの時代も男ってどうしようもないわね」


まぁ、男のロマンと女の食欲は…と言おうとしたが辞めといた。


「何か言いたそうね?」


「いや、何にもない」







翌日、羽山はきっかり10時にホテルへやって来た。

「一応、資料の方を用意してきました」


差し出された資料に添付された一枚の写真にQの目が釘付けになる。


「これは…」


「やはり、お知り合いでしたか…実は、この人物を調査していて、九十九先生にたどり着いたんです」


「それじゃ、説得して欲しいと言うのは…」


「その人物です。いかがですか?」

羽山は足を組み、穏やかな表情でQに訪ねているが、その目は笑っていない。


「いや…たしかに、私が適任かもしれませんね」


「有り難う御座います。それでは、今からご案内いたしますよ」


二人のやり取りを見ていた晶子がQに訪ねる。


「そのおじさん、だれ?」


「ダートマス大学考古学教室の名誉教授、榊 八雲…」

「なんで、そんな人が?」


「俺の…親父だ…」







Q達を乗せたリムジンは一路、葦嶽山に向かった。

葦嶽山は庄原市の北部に位置する815mの山で、日本ピラミッドの名の通り、中腹から山頂にかけて人工的に積み上げたかのような巨石が大量に存在し、その山容も美しいピラミッド型をしている。


羽山は運転手に、ここで良い、と言って廃れた登山道の入り口に車を止めさせた。


「良い結果をお待ちしています」


二人を登山口に降ろし、羽山は帰って行った。


「Q、あなたのお父様がこんな所で何をやってるのよ?」


二人は登山道を山頂に向けて歩き出した。


「親父の考えていることはわからん…昔からそうなんだ、世界中を飛び回り家には何年も帰って来ない」


「お母様は?」


「母親は妹を生んで直ぐに亡くなった。親父と最後に会ったのは15年以上まえだ」


「妹…さんは?」


Qはきつく眼を閉じると、絞り出す様に行った。


「消えた…俺の目の前で。だから、俺は妹を探す為に探偵になったんだ…」


「ごめん…なさい。辛い事訊いちゃった…」


「いや、良いんだ。晶子には話すつもりだった。あと、そこ気を付けて」


晶子が一歩足を前に出した途端、急に何かに足を取られ逆さまに吊り上げられた

「きゃぁぁぁ!」


「だから、気を付けろといったろ?」


「早く降ろして!」


その時、頭上の岩陰から、やれやれ、と男の声が聞こえた。


「今日の獲物は仔猫ちゃんか…おや?珍しい猿もオマケで付いてやがる」


「親父、隠れてないで出てこいよ」


よっ!と岩から飛び降りた男は擦りきれたジーンズを履き、ネイティブ柄のジャケットを着けた壮年の男だった。


「隠れていたんじゃない、身を潜めていたんだ。何度も教えたろボーイ?」


全く悪びれた様子を見せず八雲は葉巻に火を付けた。

「あの…どっちでも良いので降ろしてもらえません?」







「久しぶりだな九十九…寝小便は治ったか?」


「あぁ、とっくに治ったよ、それよりなんだ?その禿げ頭は?流行ってんのか」

「ほう?随分とでかい口を叩くじゃないかね?泣き虫九十九」


「なんだと…この…」


「Q!止めなさい!」


晶子はこのやり取りを見て急に不安になった。
まるで、子供の喧嘩だ…


「Q、今日はお父様と喧嘩しに来たんじゃないでしょう」


「まぁ、そうだな…」


Qは、ちらり、と父親を見ると、父親は勝ち誇った顔をしていた。


「くっ!晶子、今日は帰るぞ!」


「なんだ?お前等、羽山のボンボンに頼まれて来たのか?」


「そうだよ!親父が発掘事業の邪魔してるんだろ?」

「発掘事業?あいつはそんな事言ってお前を連れてきたのか?」


ふぅ、と八雲は溜め息をつくと、やれやれ、と踵を返し山頂に向かって歩き出した。


「九十九…付いて来い、お前等に話しがある…」


先程のふざけた態度とは違い、八雲は真面目な顔で九十九に言った。







三人は山の山頂に程近い場所に建っている小屋の中で向かい合っていた。


「凄い…この家はお父様が建てたの?」


晶子は物珍しげに中を見渡している。


「そうだ。私はネイティブアメリカンの血を引いてる、自然の物を使って生活する知恵がある。残念ながら不肖の息子には、受け継がれ無かったが…」


二人が、ちらり、とQを見る。


「そんな事はどうでもいい、早く用件を話せよ」


「時に、息子よ。太陽石を知っているかな?」


「いや、知らない」


「ならば、教えてやろう…太陽石とはな、超古代文明に置いて一種のエネルギー制御装置の役割を果たした物だ。そうだな…例えれば、核融合炉の制御棒の様な物かな」


大学で教壇に立つように八雲は身振り手振りを加えて説明する。


「超古代文明でわ、大地に眠る莫大なエネルギーを使う技術を持っていた。東洋でわ龍脈、西洋でわレイラインと呼んでいる」


「龍脈ですって!」


思わず晶子が立ち上がる。

「ほう、お嬢さん…龍脈をご存知か?」


「私は白道衆の守り巫女よ、我が家は代々、賢者の石を使って龍脈を守ってきたの…太陽石何て聞いた事ないわ」


「賢者の石に白道衆か…また懐かしい響きだな。まぁ、知らんのも無理はない。陰陽道以前…今の人類以前の文明だからな」


「それって…どう言う意味ですか?」


Qは晶子のジャケットを引っ張り座らせた。


「人類は一度滅びて、再興したのが今の文明って事だ。親父はその超古代文明の専門家だ」


「そう、九十九の言った通り人類は一度滅びている。世界的な戦争でね」


「そんな…」


「だが、事実なんだよ。カッパドキアに始まりモヘンジョダロ…世界中にその古代戦争の痕跡が遺されている。その古代戦争で人類滅亡のきっかけを作ったのが太陽石だ。そして、龍脈エネルギーの増幅装置として使ったのがこの山だ」


「じゃあ、羽山の目的は…」
「やっと気が付いたか…羽山エンタープライズのバックに居るのはアメリカ合衆国だ」


「うそ…私、あの人から何も感じなかった」


黒道衆の気配を感じる事の出来なかった晶子は俯いた

「お嬢さん、今や世界はとても複雑になっている。裏に居るのは黒道衆だけじゃない。我々の敵はもっと巨大なものだ」







晶子は、ちょっと外の空気を吸って来る、と言って小屋から出て行った。


「随分と危険な子をアシスタントに使っているな?」

Qは、まぁ色々あってな、と答えをはぐらかした。


ところで、と言いかけ八雲は急に耳を澄ます。


「九十九…」


「あぁ…下から10、上から10人だ」


二人が立ち上がろとした時、小屋の外から晶子の悲鳴が聞こえた。


「くそっ!晶子!」


Qが小屋から飛び出すと、M4カービンを持った兵士が10人程小屋を取り囲んでいた。
その背後から羽山が前に進み出る。


「お手数お掛けしました、九十九先生。ご覧の通り、私共の親会社が予想以上に早く動いてくれまして…」

「晶子はどこだ!」


「まぁまぁ、落ち着いて下さいよ。我々もこれ以上事を荒立てたくない。私の評価も下がりますから」


「なんだと…」


Qが踏み出そうとした瞬間、足元の土が弾け飛んだ。

「動かない方が良いですよ、スナイパーが狙ってますから。ところで、お父上はどちらに?」


「そんな事より晶子を離せ」


チッチッチッ、と羽山は指を口の前で振る。


「いけませね…九十九先生、状況を解っていらっしゃない。焦りは死を招きますよ?」


「目的はなんだ?」


「そうこなくちゃ。我々の目的は太陽石と貴方のお父上だ。八雲教授の知識は必ず世界の為になる」


その時、九十九の目にキラリ、と何かが光った様に見えた。

羽山に気付かれない様に光った方向をちらり、と伺うと、また、キラリと光った。


「世界の為じゃないだろ?合衆国の為だ」


「おやおや、随分な言い方だ。貴方は我々を誤解している…ロシアや中国ならいざ知らず我々は…」


羽山が話し始めた時、頭上から小石が降って来た。

カービン銃を持った兵士が気を取られた瞬間をQは見逃さなかった。

するり、と間合いを詰めると手前にいた兵士の懐に潜り込む。
勢いを殺さず下段から兵士の下顎に強烈な掌底を浴びせ、伸び上がった兵士のカービン銃を掴み取ると気絶した兵士の体を盾にフルオートで残りの兵士に弾丸を浴びせた。


羽山は素早い動きで身を翻すと山の麓に向け走り出した。

Qは羽山に向けカービン銃の引き金を絞るが、カチリ、と音がして弾丸が出る事は無かった。

Qは盾にした兵士の頸をボキリ、と折り、止めを刺し、
空になったマガジンを捨て新しいマガジンに替えると羽山の跡を追って山を駆け降りて行った。







登山道の入り口まで戻った時、スキール音と共にリムジンが走り出すのが見えた。


「くそっ!」


九十九はリムジンのタイヤに狙いを付けるが、距離が離れているので諦めた。

その時、近くの藪から一台のジープが飛び出して来た。


「九十九!乗れ!」

八雲の運転するジープは羽山のリムジンを猛スピードで追いかける。


「親父、晶子は?」


「何処にも居ない、おそらく車に乗ってる」


リムジンは巨体を左右に揺らしながら山道を降りて行く。


「くそっ!市街地に出られたら厄介だ。何とかなんねーか!」


「もう少し行くと、長い直線道路になる。そこで仕掛ける!絶対外すなよ!」


八雲はアクセルを更に踏み込み、ジープを加速させリムジンの真後ろに付ける。
羽山は前に出られないように、蛇行運転を繰り返した。

直線でスピードが乗るにつれ、リムジンは慣性の法則で蛇行が大きくなる。

その瞬間を逃さず、リムジンが右に大きく振られた時、八雲はハンドルに付いてる赤いボタンを押した。


ニトロガスを吹き込まれたエンジンは一気にレッドゾーンまで吹け上がる。

Qはリムジンを追い越す刹那、運転席にいる羽山の頭部を狙い、引き金を絞った。
リムジンのフロントガラスは羽山の血と脳獎にまみれ真っ赤に染まる。


「親父、頼む!」


「はいよ!」


八雲はそのままリムジンを追い越すと前に出て、ブレーキをかける。


「止まれ!止まれー!」


リムジンの重い車体はジープを押し退けるが如く進んで行く。
八雲は巧みに車をコントロールして、ピタリ、とリムジンの前に付けたまま、ブレーキを踏み続けた。


「ヤバい!親父、崖だ!」


直線道路の先に崖に面した右カーブが迫って来る。


「今畜生、九十九、しっかり掴まれ!」


八雲はサイドブレーキを一気にあげ、ギアをファーストに叩き込む。
ジープのエンジンは唸りを上げ、4輪からは白煙が立ち上る。


絡み付く様に直線を進んで来た、二台はカーブのぎりぎり手前でようやく止まった。

Qが、リムジンの後部座席に走り寄ると中から晶子が飛び出して来た。


「晶子、怪我はないか?」


「怪我どころじゃないわよ!危うく死ぬ所だった」


Qは、良かった、本当に良かった、と言って晶子をきつく抱き締めた。


「離さないで…Q…」


抱き合うQと晶子を尻目に八雲はジープの傍らにしゃがみ込みんだ。


「あーあ、せっかくのカスタムジープが台無しだ…」






翌日、三人は広島駅にいた。


「アメリカに帰るのか?」


「あぁ、俺の武勇伝を聴きたがる学生が沢山待ってるからな」


八雲はニヤリ、と答える。

「じゃあな、九十九。また、何処かで…それと、晶子さん、こいつの事宜しくお願いします」


八雲は晶子に深く頭を下げると、颯爽と人混みの中に消えて行った。


「宜しくって、どう言う意味かしら?」


晶子が赤い顔で振り向くとQは既に駅に向かって歩いていた。


「置いてくぞ。宮島行きの電車に乗り遅れる」


なによ、と頬を膨らませ晶子はQの跡を追いかけた。



・・・・・終了!














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