水遊び
こういう暑い夏の日というと、いつも思い出す事件があります。子供のころ、家の近所に大きな川があって、よく泳いで遊んだものでした。男の子ばかりですから素っ裸になって、なんの遠慮もありませんでした。
そうやって夏の日は過ぎていったのですが、あるとびっきり日差しの強い日のことでしたが、三郎という悪ガキが突然あることを思いついたのです。
「なあ、次の電車が来たとき、水死体のマネをしてみないか」
私たちの水場は鉄橋のそばにあり、何十分かに一度、ゴウゴウと大きな音を立てて電車が通過してゆくのです。当然乗客が乗っているのですが、それが頭の上を通過してゆく瞬間を見計らって水面にぷかりと浮かび、どざえもんのマネをしてやろうというのでした。上品な遊びとはとてもいえませんが、子供の考えることなどそんなものです。
水死体を実際に見たことがある者は一人もいませんでしたが、想像力を働かせたのです。息をいっぱいに吸い込んでうつぶせになり、手足はダラリとさせて流れに身をまかせればよかろうということになりました。まず一人が土手にはい上がり、見張りになりました。電車が近寄ってくると合図をし、死体役の者が急いで水に入り、演技をするのです。
これはとてもいい思いつきに思えました。少なくとも私たちは愉快でした。クスクス笑いあい、電車が通過するたびに乗客たちの顔を想像して腹を抱えたものでした。誰かが通報して警察がやってくるかもしれないとは、私たちも予想していました。でも、そうなると本気で思っていたわけではないのです。だから突然、遠くにパトカーのサイレンが聞こえ、しかもしだいに近づいてくるとわかったとき、私たちがどれだけ青ざめ、互いに顔を見合わせたことか。
ちょうど同じころ、ある列車が線路上を高速で突っ走っていました。そしてその車内では異常な出来事が起こっていたのです。刑務所を脱走した殺人犯がもぐりこみ、普通の乗客のような顔をしてここまでは座っていたのですが、キップを持っていないことから車掌に怪しまれ、ついに脱走犯の正体を現し、乗客だった小さな女の子にナイフを突きつけて人質にし、車内の一角に立てこもってしまったのです。
「何があっても絶対にこの列車は停車させるな」と男は命令しました。だから他の乗客たちを避難させることも、警察官たちを乗り込ませることもできないまま、いくつも駅を通過しつつ列車は走り続けるしかなかったのです。
犯人が列車をどこまで走らせるつもりでいるのか、誰にも見当がつきませんでした。こうなると列車は一つの密室です。犯人がこの先どうやって逃亡を続ける気でいるのかも不明でした。でも男は落ち着き、ときどき窓の外に目を走らせて景色を確かめている様子でしたが、女の子を押さえている腕もナイフを持っている手も、力を弱める気配はまったくありませんでした。
後になってわかったことですが、この男は以前、私の村の隣村に住んでいたことがありました。ならば、私たちが水遊びをしていた川や鉄橋のことだってよく知っていたに違いありません。
その鉄橋のことですが、すでにパトカーは停車してエンジンを止め、警察官たちはボートを川に降ろし始めていました。魚を取るのに使う巨大な網や、長い竹ざおまで何本も用意していましたから、これはもう水死体の捜索に違いありません。パトカーがそのハンドルをこちらめがけて切るのが見えた瞬間に私たちは急いで水から上がり、脱いで散らかしてあった服を抱えて近くの草むらへと身を隠していました。私たちの心の中は罪悪感でいっぱいでしたが、興味を感じ、面白がっていなかったといえばウソになるでしょう。息を殺し、草の葉の間からのぞき見ていたのです。
ボートに乗り、警察官たちは仕事を始めました。いくら水の上といっても、あの日差しです。網や竹ざおを使い始めると、とたんに額の上に汗の玉が光り始めるのがわかりました。そのご苦労ぶりに、私たちの心はさらに痛みを感じ始めました。じんじんというあの感じです。私たちは何度か互いに顔を見合わせていましたが、身を隠していることができたのも長い間のことではありませんでした。不用意に踏んだ草の茎が折れる音が耳に届いたのか、不意に吹いた風のせいで葉が揺らぎ、私たちの姿が見えたのかは知りません。とにかく私たちは見つかってしまったのです。
全員がすぐさま草むらから引っ張り出されたのはいうまでもありません。水死体の目撃通報と髪までびっしょりの悪ガキたち、しかも草むらに隠れて様子を見ていたという事実をつき合わせると、何が起こっているのかを正しく推測するのは難しいことではありません。警察官たちが顔を赤くして怒り始めたのも当然かもしれません。私たちは川原に正座させられてしまいました。
私たちは5人いたのですが、体が大きく頭のはげた巡査部長が目の前を行ったり来たりしつつ、すさまじい眼光でにらみつけ、お説教を始めたのです。私たちはうんざりしてしまいましたが、それも長くは続きませんでした。なぜって、突然鋭い汽笛が聞こえ、列車が鉄橋へと近づいてくる姿が目に入ったからです。
ところが奇妙なのは、駅でもなんでもない場所なのにこの列車がブレーキをかけ、どんどんスピードを落としていることでした。ズズズズとブレーキの大きな音が聞こえてきます。そしてついに、ちょうど鉄橋の真上で停車してしまったのです。それだけではありません。予告もなくドアの一つが突然大きく開いたかと思うと、そこから一人の男が飛び出してきたではありませんか。空中に身をおどらせ、男が明らかに川へ向かって飛び降りようとしているのを見て、私たちがどれほど目を丸くしたことか。警察官たちでさえ、何が起こっているのかわからずキョトンとしていたのです。
水に落ち、男の体は大きな水しぶきを上げました。開いたままになっているドアのそばには車掌の制服を着た男が立ち、小さな女の子の体をしっかりと抱きしめているではありませんか。口をぽかんと開けたまま見上げている私たちに向かって、車掌は叫んだのです。
「その男は脱獄犯だ。すぐに捕まえてくれ」
このあと起こったことはもう想像がつくでしょう? ボートや網を持った警察官の一隊が真下で待機していたようなものです。夕方前には男が刑務所に逆戻りしていたのはいうまでもありません。
そして私たち悪ガキのことです。この大手柄に私たちのいたずらは多めに見られ、怒られずにすんだどころかご褒美までもらうことができたのですが、自慢してよいことなのかどうなのか、今でもあまり自信がありません。それでもまあ、一種のハッピーエンドだということにしておきましょう。
(終)
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