島のダンス
ズンタというダンスをご存知でしょうか。あなたが知らなくても別に不思議はないのですが、私が生まれて育った島ではよく踊られていました。音楽に合わせてズンタッタ、ズンタッタとにぎやかなものです。島の人ならみな踊ることができるでしょう。6人が組になってくるくると互いのまわりを回りつつ、かつ全体が花びらか風車のように回転するというもので、踊るに楽しく、見物するにもなかなか美しいものでした。あんなに素敵なダンスが島の外へ一歩出るとまったく知られていないというのは、なんだか不思議な気持ちまでします。
第二次世界大戦が始まると、もちろん私の島もその中に巻き込まれることになりました。私を含めて20人ほどが兵隊に取られ、軍隊に加わるために島を離れました。島の産業は漁業と林業が半々で、漁師は船のエンジンを扱い、林業者はエンジンつきノコギリを手足のように使うことができました。つまり機械やエンジンの構造にとても詳しいということです。そこに目をつけたのか、島の若者たちはひとかたまりにされ、全員がそろって一つの部隊に送り込まれました。戦車に乗って戦う男たち、つまり戦車兵になったのです。
もちろん私もその一人だったわけですが、その後私たちは激しい戦いをいくつも経験することになりました。でも私たちの団結は強く、それらをくぐり抜けていったのです。ところが運命の女神はいつまでも微笑み続けてくれるわけではありません。あるとき非常に強力な敵と遭遇し、苦戦どころか私たちの戦車部隊はほとんど全滅と言っていいような目にあってしまったのです。
新型戦車を持つ敵軍は強く、私たちの戦力ではとても太刀打ちできませんでした。燃料や弾薬も底をつき、戦車を捨てて、私たちは自分の足で敗走せざるを得なくなったのです。でも敵は非情で、飢えた野犬の群れのように追ってくるのです。戦車や装甲車、はては飛行機まで用いて追撃してきます。私たちの半数は、とうとう捕虜としてつかまってしまいました。
幸いにも私自身は捕虜にされることなく、味方の陣地へとたどり着くことができました。でも休息しているひまなどなかったのです。勢いに乗って敵がさらに攻撃をかけてくることは十分に予測できました。代わりの戦車などもちろん用意できず、バズーカ砲だけをいくらか与えられ、私たちは陣地の一部に配置されたのです。地面に穴を掘って身を隠し、敵を待ちました。
敵は、翌朝の夜明けとともに姿を見せました。6台の戦車がこちらめがけて突進してくるのです。本当にそれだけで、それ以外にはジープ一台目に付きませんでしたが、戦車の性能に自信があることのあらわれかもしれないと、肝が冷えたことを思い出します。長い砲がグイと前に突き出し、クサビのようにとがった車体をして、いかにも強そうな戦車ではありました。半分壊れかけたような我々の陣地を攻めるには、たった6台でも十分な戦力といえたかもしれません。
私たちはバズーカ砲を肩にかまえました。ところが結局、一発も発射する必要はなかったのです。その直後に歓声を上げ拍手をし、私たちは6台を自分たちの陣地へと引き入れたのですから。部下たちの行動の意味がわからず、最初、部隊長は呆然としていましたが、私が理由を説明するとすぐに笑顔に変わりました。これが戦闘には発展しないことがわかってほっとしたからでしょうが、敵の新型戦車を6台も無傷で手に入れたという手柄と、それにともなう勲章の輝きに思い至ったせいかもしれません。実際、このあと部隊長は表彰され、勲章を受けたのです。
そうです。この6台はなんと、捕虜になってしまった私の仲間たちが脱走をくわだて、そのときに敵の陣地から盗み出してきたものだったのです。1台に一人ずつ、私と同郷の6人の仲間たちだったのですが、この6台はすぐに研究所へ送られ、徹底的に分析されました。そうやって得られたデータが、この後のわが国の戦車設計に生かされたのはいうまでもありません。そのことがこの戦争に勝利する最大のきっかけとなったと分析する歴史家もいるほど重要な事件だったのです。
でも私たちは、突撃してくる6台を、なぜ味方が操縦するものだと見抜くことができたのでしょうか。普通の自動車と違って、戦車には窓などありません。潜望鏡の小さな穴を通して運転手は前を見、運転するのです。陣地にいる私たちから、車内にいる男たちの顔が見えるはずはありません。
それでも私たちは、彼らが味方であるとすぐに理解することができたのです。不思議なことでしょう? なぜだと思います?
だけど本当は、不思議でもなんでもないのです。私たちの陣地のすぐ手前までやってきて、6台の戦車は突然ズンタを踊り始めたのです。6つの巨大な鉄の塊の意外な動きに、私たちも一瞬はあっけにとられたものでした。でも島の住人なら誰だってよく知っているあのダンスです。すぐに意図を見抜くことができました。
人生というのは奇妙なものですね。いつどこで、どんな経験や知識がどう役に立つか、まったく予測などできません。何でもかんでも、どれほど無価値に思えるようなことでも、忘れずに覚えておいたほうがいいのかもしれません。おかげで6人は命拾いをし、我々は敵の戦車を手に入れ、戦争に勝つことができたわけですから。それにしても、砂ぼこりを立てながら6台の戦車が所せましとクルクル回るさまは、あなたにも見せてあげたかったですよ。
(終)
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