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男爵令嬢と王子の奮闘記 作者:olive

6章:東の島国ケトレア国

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56.レイン様と二人、初めての外国訪問へ

新章です。
 『薔薇の貴公子』として女性陣から絶大な人気を誇り、レイン様の一番の側近として力を尽くしたディーゼル卿が亡くなってから、早二ヶ月が経った。

 将来はレイン様と共に国を担うはずだった有能なクライシス家の男の死は、もっと政に影響を及ぼすかと思ったけど、彼はその辺もしっかりと準備をしていたようで。
 自身に与えられていた重要な仕事は全て、弟であるラドニア様に引き継いでいた。お陰でそこまで混乱に陥ることなく、次期クライシス家の当主であり宰相でもあるラドニア様が、今は亡き彼の代わりにレイン様の一番の側近として日々奔走している。

 ただ、ディーゼル卿がいなくなったことにより生まれた寂しさは人々の心から消え去っていないみたいで、レイン様をはじめ、多くの人々がいまだに彼の死の悲しみを抱いている感は否めない。
 それは、私も含めて、だけど。私の場合はディーゼル卿の死もそうだけど、レイジさんがこの世から消えてしまったことのショックが大きい。
 でも、レイン様が側にいてくれると言ってくれたから。
 それに彼も、親友だった彼の死を悼みながらも、まっすぐ前を向いて歩いている。それなのに、私も俯いて過去を嘆いている訳にはいかない。
 だから、私もレイン様と同じように、サツキではない、シャナとしての人生を、手探りだけど必死で歩いていた。

 そんな最中だった。

 レイン様と私に、ある話が持ち上がったのは。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 それは月に一度開かれる国王夫妻との昼食会で、陛下の口から出たものだった。

「レイン、シャナよ。二人には再来週末にケトレア国で行われる戴冠式に、我が国を代表して行ってもらおうと思っている」

 食事も終わり、私達四人以外誰もいない部屋で突如告げられたその言葉に、名前を呼ばれた私とレイン様はまず驚き、次にはたと顔を見合わせる。

 ケトレア国とは、シェルビニアから四日程船に揺られていった先にある、海に浮かぶ島国だ。この国とは国交を結んでおり、親交も深い。
 確か、現在のあの国の国王陛下はかなりのご高齢で、歳をかなりめされてからやっとできた息子に王位を譲るという話は私も以前耳にした。その為に行う戴冠式の日程がどうやら二週間後に決まったらしい。

 別に私達が国の代表として、ケトレアを訪問するのはおかしなことではない。だってレイン様は次期国王陛下なんだし、私は次期王妃なのだから。
 でも、これまでレイン様は一度も国外へと出られたことはなかった。理由は当然、彼の持つ強力なフェロモンのせいだ。彼のその厄介な体質がもしも国外で何かしらの影響力を及ぼしてしまった場合、面倒な事態に発展する可能性はある。そんなことになれば、両国の関係がこじれる――――なんてことになるかもしれない。
 外交が絡むので、レイン様を外へ出すのはリスクが高いのだ。
 後は、外交だと異性にはなるべく会わないようにする、なんて無茶もきかないからだろう。

 けれど陛下は、御自身での参加ではなくレイン様を外交の場へと出す決意をされた。

「レイン。最近のお前の話はラドニアからも聞いておる。今のレインならば、問題はないだろうとな……シャナよ、一番近くでレインを見てきたお主の目から見てどうだ?」
「そう、ですね……。私もラドニア様に同意見です。体質が治られた訳ではありませんが、今のレイン様でしたら外交の場に参加されても何も問題はないかと思います」

 陛下から投げかけられた質問に、私は肯定の返事をする。

 そう、確かにレイン様のフェロモン放出体質は、全くと言っていい程改善されていない。ダルモロ国のアナン姫のことも調べたり、体質改善の道は常に模索しているんだけど、今のところ解決の糸口は見つかっていないし。

 変わったのは、レイン様自身だ。

 私と結婚してから二人で貴族達の集まりに参加する機会は増えていたけど、それでもどこか怯えていたり、緊張していたりしてるのが手に取るように分かったレイン様。
 私が離れると、フェロモンに引き寄せられた女性達が一斉に群がって、結果レイン様が恐怖のあまり倒れてしまうのが予想されたから、そのような場では私がぴったりと寄り添い、彼をガードするのが常だったんだけど……。

 最近の彼は、異性が多くいる場でも顔をひきつらせたり体を震わせることなく、常に堂々としているのだ。勿論、部屋に戻ると疲れた顔でため息を吐く辺りからして、本当の意味で恐怖症が治った訳ではないんだろうけど。
 それでも、これは今までからしたらものすごく大きな変化だと思う。

「ケトレア国は少し距離があるけれど、それでも初めてレインが訪れるのにはちょうどいい国だと思うの。本当は隣国のダルモロの方が、距離も近いし一番長く同盟を結んでいる国だから、そちらを優先すべきなんだけど……」

 今日も今日とてお美しいミッシェル様が、ほうっと物憂げに溜息を吐く。
 みなまで言われなくても分かる。あの国にはアナン姫がいる。
 彼女の事は、二人にも報告済みだ。危険人物であるアナン姫が何を企んでいるのか分からないのに、迂闊にあの国に入国するなんて、自殺行為もいいところだ。

「私も、ケトレアをレイン様の最初の訪問国に選ばれるのは賛成です。なにしろ今度戴冠式にて正式に国王夫妻となられるお二方はまだお若いですが、特に王妃様は非常に夫である陛下を慕っておられると聞いたことがあります。そんなお方ですから、おそらくレイン様のこの体質も彼女には効かないでしょうし」
「ええ、その通りよ。それにね、向こうの次期国王陛下――ダンベルト様とレインは割と親しい間柄だから、それもあってあの国をレインとあなたの外交デビューの場にするのがいいかしらと陛下と二人で話し合って決めたの」
「レイン。親しき友でもあったディーゼルが亡くなって辛かっただろうが、お前はそれにもめげず、自身の体質と向き合い続けていることは知っている。お前のその努力が、今回のケトレア行きをわしに決めさせた。不安もあるだろうが、我がシェルビニア国の次期国王としての責務をしっかりと果たし、彼の国との親交をますます深めることを期待しているぞ」
「父上――いえ、陛下。そう言って頂けると、私も嬉しいです。ありがとうございます。期待に添えるよう、国の代表として粗相のないよう、しっかりと務めさせて頂きます」

 陛下のお言葉に、レイン様は真面目な面持ちで、だけど嬉しそうな顔で頭を軽く下げた。
 ずっと自身の体質のせいで、色々と王子としての執務が制限されていたみたいだから、そんな彼が陛下から、シェルビニアの代表として戴冠式に参加するという大仕事を任されるのは、その厄介な体質があっても未来を担う国王としてきちんと認めてもらっていると言われているようなものだ。それはもう、喜ぶ気持ちもわかる。

「シャナさん、大変かとは思うけど、レインのこと、よろしくね?」
「勿論です。私もレイン様の妻として、この国の代表として、同じくしっかりと務めさせて頂きます」

 ミッシェル様のお願いに、私もレイン様と同様軽く首を垂れてみせる。
 あちらの王妃様がいくらレイン様のフェロモンが効かないだろうとはいえ、その他の参加者の女性にまったく影響がない……なんてことはないだろうから。いくらレイン様が今のところ上手に異性をあしらえてるとはいえ、何か不測の事態が起こらないとも限らないし。その辺もしっかりと気を引き締めないといけない。

 そんな感じで緊張感をみなぎらせていると、陛下がそれを緩めるようににこりと笑った。

「まあ、レインもシャナも、国の代表として、とは言ったものの、そう固く構えなくても良い。戴冠式とその後に開かれる社交の場さえ乗り切れば問題はないだろう。あの国はわしも何度か訪れたことはあるが、我が国とはまた違った良さがある。ちなみにシャナは訪問したことはあるのか?」
「いいえ、実は私も初めてなんです」
「あそこはいいところだ。お前達は結婚してからというもの、色々と心休まる時間もなかっただろう。この機会に、この国を離れ、少し二人で羽を伸ばしてきたらいい」

 そう、前に商売をしに行く父様にくっついて色んな国を回った時には、ケトレアには滞在しなかったんだけど、実は密かに行ってみたかったのだ。

 ケトレア国は四方向全て海に囲まれている点や、はっきりとした四季があること、そして国の性質からして、前世で言うところの日本に近い国なのだ。
 そして今の季節は秋。
 日本で秋と言えば……そう、紅葉の季節。
 ケトレアでは何を隠そう、赤く色づく紅葉がこの世界で唯一見られる地域なのだ。前世ではお花見よりも紅葉狩り派だった私からしてみれば、こんなにも心ときめくことはない。時期もぴったりで、まさしくベストなタイミング。

 なのでレイン様とは別の意味で顔を綻ばせていると、ふと隣から視線を感じた。何事かと思ってそちらに目を向けると、ガラス細工のように綺麗な紫の瞳がこちらをじっと見ていた。

「? どうされましたか、レイン様」
「いや、やけに嬉しそうな顔をしているなと。……もしかして、ケトレアの紅葉か?」
「!? なんで分かったんですか?」

 すると彼は優しげな微笑みを浮かべると、

「あれだけの巨大な温室に、薬草を含めた色々な植物を育てるのが趣味のシャナが、ケトレアの有名な紅葉に興味がない訳がないと思ってな。しかも時期的にも、俺達が入国する二週間後はちょうど見頃だろう。ダンベルトは……戴冠式の準備で忙しいだろうが、美しい紅葉が見られる穴場も聞けばいくつか教えてくれるだろう。式典が終わったら、一緒に見に行こうか」
「いいんですか!? 嬉しいです!」

 陛下と王妃様の御前だってことも忘れて思わずはしゃいだ声を上げた後、私ははっとなって慌てて口をつぐむ。
 だけど、お二人とも不快には思われなかったようで、むしろどことなくにやにやした感じで私たち二人を見ていた。

「す、すみません、ついはしゃいでしまって……」
「いいのよシャナさん。気にしないで」
「ああ、わしらの事は空気のような存在だと思っててくれていいんだぞ?」

 いや、さすがに、こんなお二人を空気として扱うなんて高等なテクニックは、私には使えない。
 それからも、私とレイン様が何か会話をする度に二人が生温かい視線を送ってくるのは気になったけど、理由を聞いても教えてもらえなかった。
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