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男爵令嬢と王子の奮闘記 作者:olive

3章:VS.ザイモン家の御令嬢

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30.☆跳ねる鼓動の意味

重大かつ重要なネタバレかも、です。

2015年5月修正済み
「………そうか、なるほどね」

 クライシス家の自室で、一足先にザイモン家から戻って来た密偵の男からの報告を受け、ディーゼルはにやりと笑みを浮かべた。

「しかしあの女はまあなんというか…」
「アムネシ様ですか?」

 しかし男の問いかけを、ディーゼルは一蹴する。

「いや、シャナ嬢の方だよ」

 普通に考えればシャナの洞察力や緊張場面においての冷静さは目を見張るものがあるが、それ以上にアムネシの異常さは異彩を放っていた。男が勘違いするのも無理はない。
 しかしそれ以上説明をするつもりはないようで、ディーゼルは取り繕ったような笑顔を男に向けると、

「シャナ嬢の護衛、並びに報告ご苦労だった。戻っていいぞ」

 これ以上は聞くなという牽制の笑顔。
 空気を呼んだ男はそのまま無言で部屋から文字通り、姿を消した。

 彼らは、ディーゼルが裏社会で拾った私有の部下である。
 音もなく現れ音もなく消え、人の背後に立ち暗殺することも可能な、黒ずくめという変わった服装を身につける闇の集団。
 彼らをそういう風に育てたディーゼルは、この世を忍ぶ部隊という意味を込め『シノビ』と名付けている。

 誰もいなくなり静寂が支配する部屋に残されたディーゼルは、後ろの寝台にその身を預けるように倒れこんだ。

 ディーゼルには、アムネシがシャナを亡き者にしようと卑劣且つ稚拙な手段をとることを、その内容まで既に読んでいた。
 そしてその計画が失敗し、長年レインのフェロモンに耐えてきた彼女がシャナへの狂おしい程の嫉妬と殺意からついに壊れてしまうことも。
 そしてシャナが、どんなに危機的な局面であろうと、アムネシに媚びず屈せず、己を貫くことも。

 そもそもアムネシは昔から、レインに好意を持つ令嬢たちを呼びだしては、この度のシャナに対するような仕打ちを人知れず行っていた。
 それが表沙汰にならなかったのは、ひとえに彼女がザイモン家のご令嬢、というある種の免罪符を持っていたからに他ならない。

 また彼女の父でありザイモン家当主であるヴェルフォートは、後年になってできた可愛い娘の悪行を叱るどころか、むしろ推奨していたほどだ。
 彼女が並みいるライバルを蹴散らしレインの妃になれば、因縁の敵であるクライシス家の一歩先を行くことができるからだ。

 そのことはディーゼルも随分前から知っていたが、特に何かすることはなかった。彼女のやったことは世間的には悪行かもしれないが、その分レインのフェロモンに取り込まれる被害者の数を減らしてくれていたからだ。
 自身の将来使える君主であり親友でもあるレインの事を思えば、彼には有難くもあった。

 だがこの度は相手が悪い。
 いくら生まれが男爵家という貴族の最下層の地位とはいえ、彼女は今や王族の妃である。余りある悪意をギリギリのオブラートで包んで彼女を侮辱するような言動を行う(晩餐会での出来事のような)、程度までなら、まだなんとか言い逃れができる部類だろうが。
 今回のこれは当然、極刑に処されてもおかしくない事案だ。そしてアムネシ一人の命だけでは償えない程に、重い。

なお且つ相手はあの、コキニロ家の娘である。

 ザイモン家は近年、深刻な資金不足に悩まされていた。なんでも事業に失敗したからだと言うが、その額はもはや数十年かかっても払いきれない額らしい。これが知られれば公爵家として長年築き上げてきた地位も名声も全て失う…。
 そこに現れた救世主が、コキニロ家である。
その上、かわいい娘の嫁ぎ先に、レイン以上の条件のいい縁を紹介してくれるかもしれない状況でもあった。

 つまり普通に考えれば、二重、いや、三重の意味でザイモン家はシャナには手を出せないはずなのである。 

 それなのにアムネシは、取り返しのつかない程恐ろしい罪を犯してしまったのだ。
今までのように何かあっても父親がもみ消してくれるだろうという甘い考えで。

 まったく、馬鹿な女だ。

 ふっと短く息を吐くと、ディーゼルは嘲笑する。

 ここは過去の例に倣って、王族へ手を出した反逆罪とみなし一家郎党極刑を言い渡すのが一般的だろう。そうすれば、シャナに手を出そうとする不遜な輩ももっと減るに違いない。
 ディーゼルとしては、あの一族の行く末がどうなろうとどうでもよかった。
もはや随分前よりクライシス家は優位に立っているのだ。返せる見込みのない莫大な借金を背負っていることで、放っておいても堕ちていくのは火を見るより明らか、だったのだから。

 ただ、彼女は、シャナはこの決定にどう思うだろうか、と考える。

 アムネシの元の性格がまあ高慢ちきなお嬢様だとしても、彼女があそこまで狂ってしまったのは、間違いなくレインの発するフェロモンという名の毒のせいだ。
 だからこそ、考えなしにあの足りない頭の中で精いっぱい知恵を絞ってシャナを陥れようとしたのだ。そしてこれが原因で名家が消滅。
 これほど哀れな末路はない。

 彼女がアムネシに対して不憫だ、と漏らしそのような瞳で見つめていたのは、何も彼女の思考回路の残念さだけが理由ではないだろう。

 フェロモンによって振りまわされた彼女の人生が、心の底から、本当に不憫だったのだ。
 ドライなようで、相手に対して意外と慈悲深かったりするのだ、彼女は。
 そうでなければ最後のあの場面で、あのような突拍子もない行動はとらないはずだ。
 おそらくレインに一切話をもっていかないということは無理だったろうが、それでもシャナは本気でどうにか彼女の心に寄り添いたいと思ったのだろう。

 しかし彼女がどうこう言ったところで、罪は軽くならない。
ザイモン家の処罰の決定権は陛下だ。彼は間違いなく極刑を言い渡す。
 それでこの事件は終わりだ。とりあえず一つ、憂いは取り除けた。
さて、そうなった今、彼にとって重要なのは、アムネシを全く寄せ付けず圧倒した、シャナ自身である。

 フェロモンが効かないだけでなく、敵となるはずのレインを慕う女性すらも軽くあしらうことは、なんとなく分かってはいたが実際に聞くと驚きを隠せない。

 相手を理解しようと心を砕くあまり情に流されやすいところはあるが、頭は悪くないので考えなしには動かないだろう。
今回の件だって、近くにディーゼルの雇った彼らがいなければ迂闊には近寄らなかったはずだ。

 むしろそういうところさえ面白いと思う。
 彼女ならレインをこれから先も隣で守っていけるだろう。例えこの先、ディーゼルがいなくなっても。

 伊達に前世で何十年も、そういった女たちと戦ってきただけのことはある。

 今の名は、シャナ・コキニロ。
 前世の名はサカガミ・サツキ。 

「なあ、お前もそう思うだろう?レイジ?」

 そう言って己の心臓の上をそっと撫でれば、返事とばかりにどくんと一際強く、鼓動が鳴った気がした。
詳しくはまだ書きません。
ディーゼルの最後の一言が、彼という人物を解き明かすカギであります。
…最近思うのですが、私はレインよりディーさんが好きかもしれません。
しかし、やっと、ようやく!レインのターンです。
やっと一区切り。
更新は、その、あの、気長にお待ち頂けると嬉しいです。
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