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男爵令嬢と王子の奮闘記 作者:olive

3章:VS.ザイモン家の御令嬢

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28.☆アムネシの歪んだ心

2015年5月修正済み
初め、確かに彼女は焦っていた。
まさか毒の名前まで言い当てられるとは露とも思っていなかったからだ。実家がやり手の商売人とはいえ、わざわざ他国から高値で取り寄せた希少で市場に滅多に出回らない、しかも『毒』であったから余計にだ。

 しかし、だからどうだというのか。このまま帰せば己の働こうとした悪事はバレ、愛しい殿下を手にいれるどころかますます遠い存在になってしまう。
だが逆にここで口を封じてしまえば、問題はない。

 私ってなんて頭がいいのかしら!
自身の頭に浮かんだ考えの素晴らしさに恍惚とした表情を浮かべながら、密かに待機させていた男達を呼び出せば、あっさり捕らえることに成功した。
 最初から回りくどいことをせずこうしておけばよかったと、アムネシは若干後悔していた。
そうすれば要らぬ苦労をせずともよかったのに。

 彼らは高い報酬で雇った人間である。
裏の世界ではその名を知られており、彼らに敵うものはそうそういないと評判だ。シャナの連れてきた護衛の人間が心配だったが、彼らもまた簡単に押さえつけられたので不安は消えた。
アムネシはもう勝利は自分の手にあると確信していた。この状況から逃げ出せるはずがない。

 今、捕らえられ身動きの取れない少女の顔は、少しうつむき加減で表情ははっきりと伺いとれない。しかし先程からピクリとも動かないことから、ショックを受けているのは間違いない。
当然だ。自分の身に降りかかった陰謀を言い当てたのに、結果的には窮地に立たされているのだから。おまけに連れてきた護衛がなんの役にも立たないとなれば、そのダメージはひとしおだろう。

 アムネシは見たかった。絶望の縁に立たされた彼女がどんな表情をしているのか。
 素手で触るのは汚らわしいので扇子で無理矢理顔を上げさせた。負けが確定した相手を上から見るのはなんとも言えない恍惚感を味わわせてくれる。
さあ、悲しみに沈んだ顔をしている?それとも怒りをにじませている?
 しかしアムネシの予想は裏切られた。

 シャナは泣きもしなければ怒りもしていなかった。
ただ静かにアムネシの顔を見る。
そして、そんな彼女の口からは更に予想外の言葉が発せられた。

「………アムネシ様、私はあなたが不憫でなりません」

 フビン?言われた本人は、初めその意味が分からなかった。シャナが自分に発するにはあまりにも場違いな台詞。そして言葉の意味を理解したところで、やはりアムネシには分からなかった。
何を、一体何を言っているのか、目の前の彼女は。誰が?なんだって?
 思わずアムネシは聞き返した。

「…ごめんなさい、私耳がおかしくなったみたいですわ。何か、とてつもなくとんちんかんな言葉が聞こえてきたのですけれど。気のせいですわよね?」

 するとシャナはご丁寧にも、ゆっくりとした口調で同じ言葉をアムネシに放った。

「ではもう一度申し上げましょうか。私は、あなたが、とても不憫でなりませんと。そう申し上げました」

その瞬間、アムネシは手にしていた金属製の扇子を思いっきり振り上げた。
それはシャナの顔へとまっすぐに振り落とされる。キーンという空気を切り裂く、耳をつんざく音が辺りに響いた。

「シャナ様っ!!」

悲鳴にも似た金切り声がメリダから上がる。
今の衝撃でシャナの頬は切れ、一筋の血がすぅーっとこぼれ落ちる。

「あなたはなんてことを…!」
「不快な羽音を響かせるハエは叩き落とすのが定石、と言うでしょう?目の前に大きな大きな害虫がいたから、私はそれに倣って黙らせようとしただけですわ。…あぁ、扇子に虫の血がベッタリ。これお気に入りでしたのに」

アムネシは悲しみに暮れた様子で血が滴る扇子を見つめ、そうしながらシャナの顔を盗み見る。これで少しは堪えただろうという期待を込めて。
しかしシャナの表情は変わることはなかった。暴力を振るったアムネシに臆することなく、まっすぐと彼女を見据える。
何も言わない。けれどアムネシの身が心なしか震える。

 動けない非力な相手、絶対的優位に立っているはずなのに、視線の強さにアムネシは気押されたのか、思わず一歩後ずさる。

 なんなの、なぜこの女は、私を恐れないの…?

 どうして?

 今まで私に楯突こうとした人間は山ほどいたわ。
 それでも最後には私のことを、恐怖に満ちた瞳で目に涙をためて許してと懇願してきたわ。

 それなのにこの女は…。

「違う……違いますわ。私が見たいのは、そんな顔じゃありませんことよ!あなたはこの私に、敗北したのですわよ?あなたの命は風前の灯火ですのよ?」
「それがどうしましたか?」
「だったら、この私に跪き、地面を舐めるように頭を床までこすりつけて、『お許しくださいアムネシ様』と言って、命乞いの一つでもするところでしょう!?」
「……」
「みっともなく涙と鼻水にまみれた汚らしい顔で、懇願しなさいよ!私があなたの命の手綱を握っていますのよ!?」
「……」
「それとも何かしら?女の命とも言える髪を全て切り落として、その絢爛な衣服を全て剥ぎとって好奇の視線に晒してあげたらあなたも少しは素直になるのかしら?ああ、精神的な屈辱がきかないならいっそ肉体的に訴えてもいいわね。爪の一つ一つ、丁寧に剥ぎ取って、次は指を一本ずつ折って、それでも駄目なら殿下を見つめてきた濁って汚らしい瞳をくり抜いて…ふふ、その後は不愉快なことを言えないように舌を引き千切ってもいいわね……」

 相手の命を掌で弄ぶ、という立場にいるこの瞬間が、アムネシはたまらなく好きだった。こういう台詞を吐けば、相手はますます恐怖に支配され、更にみっともない格好で助けを乞う。
 これで少しは効いたかしら、と、アムネシはシャナへと視線を向ける。

 だが。

 うっとりと声をあげ熱を帯びるアムネシとは対照的に、シャナは全く動じない。
ただ静かに目の前にいる気位の高い令嬢の様を見ていた。何の感情も読みとれない、恐怖も不快感も悲壮感もない顔で…。

 否、強いて言うなら、先ほどと変わらない、アムネシが最も厭う『憐れみ』の感情をわずかに滲ませながら、ふっとシャナは口を開いた。  

「……残念ながら私はアムネシ様のご期待には添えそうにもありません。なぜなら、例え嬲られようとも手足がもげようとも、どれだけ苦痛に満ちた拷問がこの身に受けようとも、………この命が奪われようとも。魂まで屈するつもりはありませんから。この魂は、私だけのものです」

 そうきっぱりと言い切るシャナの姿は凛と気高く、むしろ美しささえ感じられた。

 捕らえられ無様な姿だということを、忘れさせるほどに。

「っ、もういいですわ!!拷問なんてまどろっこしい!」

 自分に屈しない、ならば、さっさと視界から消すまでだ。
 アムネシはシャナを捕らえている男たちに向けて顎をくいっとやる。
 そして一言、短く、簡潔に命じた。

「殺しなさい」

 と。
再開しょっぱなからあまり気持ちのいい場面ではなくてすみません!
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