挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
男爵令嬢と王子の奮闘記 作者:olive

3章:VS.ザイモン家の御令嬢

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

27/61

27.一気に剥がれた、お嬢様の化けの皮

2015年5月修正済み
 長年培ってきた私の観察眼をなめないでほしい。彼女たちの浅はかな考えなどお見通しである。

 確かに皆私へとても好意的な笑顔を向けてくれた。
だけど心の奥底にくすぶるどす黒い感情までは、完全に消し去ることはできていなかった。
時折覗かせる嫉妬の情念が私へと向けられていたのは感じ取れたから。それに笑顔もまだまだ甘い。無理しているのが丸分かり。ぴくぴくと痙攣しているかのように引きつる表情筋の動きからして、彼女たちが以前と同じように私に対して敵対心を持っているのは明らかだった。

「シャナ様、そのお言葉は一体どういう意味ですの?あなたの仰ってることが、私たちにはよく分かりませんわ」
「この期に及んでまだ生ぬるい友情ごっこを続けようとなさるのですか、アムネシ様」

 尚も食い下がるアムネシ様の瞳から目を逸らさず、私の口は動く。

「考えてみれば分かることです。あんなに殿下の事を妄信的にお慕いし、そんな殿下を奪ったたかが男爵家の何の取り柄もない娘に煮えたぎるほどの激しい憎悪を抱いていたあなた方が。手の平を返したかのように親しくなりたいと近付いてきて、どうしてそれを素直に信じられましょうか」
「心外ですわ!!私たちは本当に…」
「私が何も気付いていないとお思いですか?」

 そう言った後、私は目の前に置かれていたティーカップを手に取った。
中には冷めきってしまった茶色い液体が揺らめいている。皆が何も言えずこちらを見つめる中、私はごくりと一口喉の奥に流し込む。

「………例えばこの液体。見た目はただの紅茶。香りも味も勿論一級品。けれどそれだけではないですよね?カップのふちにわずかに付着しているのは、オリギリ草。そう言えばお分かりになられるかと」

 この質問を投げかけると、アムネシは明らかに動揺したように大きく目を見開いた。ちなみに彼女だけでなく、周りの人々も同様にぎょっとした顔をしている。
 …その反応だけで、私の言ったことは間違っていないと確信する。全く揃いも揃って素直なお人だ。

 まあ普通に考えて、使用している毒を言い当てられるのは予想外だろう。

 オリギリ草。根の方に微量ながら毒が含まれる、この世界ではメジャーからちょっと外れたラインにある毒草。
そんなに強い毒性ではないので一口二口では死なないが、継続して摂り続ければやがて体内に蓄積された毒が溜まって致死量に至る。味も香りもほとんどしないけど、かすかに、ほんのわずかに香ばしいナッツ臭とビリビリとした刺激を舌に感じるのが特徴だ。

 毒は紅茶の中…ではなく、私が口をつけたカップのふち全体を薄く覆っていた。これなら同じ紅茶を皆で飲んでいても、私一人にしか毒は回らない。
 今回出された茶葉は、珍しい普段飲み慣れないものなので、カップに付いた微量の毒物の存在にまず気付くことはない。

 ではなぜそんなことを知っていてなおかつ気付けたのかというと、それは前世から引き継いだ記憶と経験と体質、と、この世界での知識があるから。

 前の世界でも私はよくピンチに陥った。そのため自分の身は極力自分で守ろうと始めたのが毒物の勉強だった。
護身術もそこそこ操れるけど、やっぱりそれを生業にするものには敵わない。だけど、毒なら、勉強すれば知識として身に付くし対策も練りやすい。
お陰でそこに関しては誰にも負けない知識を手に入れて、毒殺を目論む敵の罠も見破れるようになったし、その上毒に対する耐性もついた。

ちなみに殿下と住んでる屋敷の庭の一角に、この前から私専用の植物研究のための温室があり、現在も勉強中である。そしてそのなかに、このオリギリ草もいらっしゃいます。
 お陰様でこのマイナーな存在の毒にも一発で気が付くことができた。

 さてさて、何で彼女たちがこのようなことを仕組んだのか。まあ考えるまでもなく彼女たちの魂胆は明らかだけど。

 同性から妬まれ寂しい毎日を送っている私に優しくして、弱っているであろう心につけこむ。
人恋しかった私はその演技にころっと騙されて、アムネシ様たちを親しい友人のように錯覚する。
そうなれば、なんだかんだと理由をつけて茶会などの催しに呼び出しやすい。
そうしてその度にオリギリ草の毒を密かに摂取させる。そのうちに体内に毒が蓄積されて倒れた頃にはもう手遅れってわけ。
 オリギリ草は毒が回ると風邪を悪化させたような症状を発症するので、他の毒物と違ってそれが毒によって引き起こされたものだと判別されにくい。じわりじわり、自然な病死に持っていくにはもってこいの品なのだ。

「残念ですが、アムネシ様達のお考えは筒抜けです。毒に関しては、私は誰よりも知識がありますから。リサーチ不足でしたね。それに、とってつけたような友情の押し売りは私にはききませんから。大方私を味方だと油断させて毒を与えこの世から葬り去り、妃の後釜にアムネシ様が収まろうという腹づもりだったんでしょうが、そう簡単に私はだませませんよ」

 こういったことは嫌というほど見てきた。表面上は仲良くする振りをして、裏では蹴落とそうと策を練る。
あざとい女の行動パターンは万国共通らしい。むしろあまりにもいつも同じような策がありすぎてうんざりする。

 今や皆無言となり、シーンと静まって私に注目が集まるなか、その沈黙を破ったのは縦ロールお嬢様だった。

「………そのまま大人しくしておけば可愛げもありましたのに」

 ぼそりと小さな呟きを洩らした彼女は、それを皮切りに一気に化けの皮を剥がした。

「地味でブスで同じ空気を吸うことすらおこがましい虫けらにも劣る汚らわしいものにも、一つくらい取り柄があるんですのね」

 そう言って私を見つめる顔は、まさしく私のよく知るアムネシ嬢の姿だった。
もう取り繕う気はさらさらないのだろう。彼女は側にいた者からハンカチを受けとると、これ見よがしにごしごしと手を拭く。

「あー、雑菌に触れてしまったから私の美しい手が汚れてしまいましたわ!生理的な嫌悪感を押さえてアレの信用を手にいれる為に何度も手まで握った私の苦労が意味をなさなかっただなんて、私って本当にかわいそうですわ」
「アムネシ様!妃殿下に向かってなんという物言いを…」

 後ろでメリダが、咎めるような口調でそう叫ぶが。言われた当の本人は、小首を傾げながらかすかに眉をひそめて、

「妃殿下?一体どんな卑劣な手を使ってあのお方の横に立つ立場を手に入れたのか分かりませんけど、私たちは認めていませんわよ。地位も権威もない、ついこの前貴族の爵位を与えられた平民出身のそれにどんな言葉をかけようと私の勝手でしょう?むしろ語りかけてあげているだけでも感謝してほしいくらいですわ」

 平然と言ってのけた。

「っ…、アムネシ様、これはシャナ様だけではなく、王家への侮辱でもありますよ!!このことは即刻陛下にも報告させて頂きます。戻りましょうシャナ様。このような場所にいつまでもいる理由はありません」

 人の人権を認めないあまりの非道な物言いに、私よりも先にメリダさんの方が切れたみたいだ。
怒り心頭、鼻息も荒くそう息巻くと、私を連れてこの屋敷を出ようとその場から動こうとした。しかし、

「行かせませんわよ。そこの獲物を横取りした泥棒猫も、あなた達も」

 アムネシ嬢は指を軽くぱちりと鳴らす。
小気味のいい音が部屋中に響き渡ったかと思うと、次の瞬間私たちの動きは、突如現れた黒尽くめの男たちによって阻まれた。
私の両隣にはがたいのいい男が二人。両腕を後ろに回され、がしりと固定される。動かそうともがくけど男の力はたかが小娘の腕力ではびくとも緩まない。

 それでも首は動くので、メリダたちの無事を確認しようと後ろを振り向けば、視界の端に私と同じように屈強な男たちに拘束されたメリダと護衛達の姿があった。

…………ていうか、おい、なんであの人たちも普通に捕まってるのよ。護衛のくせに、私の身どころか自分のことすら守れていないじゃない。

「卑怯ですよ!一体ご自分が何をなさっているか分かっておいでなのですか!?未来の王妃となるお方へこのような仕打ちをして、ただで済むとでも…」
「そうですわね。このことが陛下や殿下の耳に入るのはあまり都合がよろしくないですわ。万が一にも知られてしまったら、殿下に嫌われてしまいますもの。けれど、ここにいるあなたたちを消せば問題ないとは思いませんこと?そうすればここでの出来事が表に出る事も有りませんし、ついでに虫けらを一掃できて妃殿下の椅子も空く…一石二鳥ですわ!そしてその椅子に座るのは、もちろんこの私、ですわ。うふふふ」

 その言葉に、ほかのご令嬢方も口々に賛同の意を示す。

「殿下の隣に立つのは、御美しいアムネシ様こそふさわしいです」
「そうですとも!そこの成り上がり貴族の娘よりもよっぽど。だってアムネシ様は、殿下の妻になるべく幼いころから英才教育を受けてきたのですから」

 皆がアムネシ様を褒め称える言葉を次々と唱える。そして言われた本人は、称賛の台詞を身体中に浴び、恍惚の表情を浮かべていた。
 やがて満足したのか、悠然と周囲のとりまき達に微笑むと私の前までゆっくりと進み、優しい声色で囁きかけた。

「ふふ、さぞ悔しいでしょう。身の程知らずの身の上で殿下の寵愛を受ける立ち位置まで来たのに、こうしてその地位を追われることになるとは。所詮貴方ごときが妃殿下になるというのが間違いだったのですわ。いい夢が少しでも見られて良かったとお思いなさい」
「………」
「あぁ、でも私を恨むのはお門違いですわよ?だって殿下の横に並ぶのは、あのお方をこの世で最も愛している私だと運命付けられていたのですもの。だからそういう星の元に生まれたあなたの運の悪さを恨むのね」
「………」
「あら、あまりのショックに口も聞けないのかしら?」

 ショック、ねえ?

運の悪さは否定しない。あの男に嵌められた時点で私の人生設計は狂わされているんだから。
あの時点でこのような女の足の引っ張り合いに強制参加させられるのは目に見えていたから、大してダメージはない。
私への物言いも、右から左に聞き流せるから問題ない。昔こそへこんだけど、こんな悪口や中傷は前世で耳にタコができるほど言われ過ぎてもはや雑音としか捉えられないくらいになった。こんなことでいちいち傷ついてたら身が持たないっての。

 私が言葉を発さず身動き一つしなかったのは、ただただ呆れ果てていたのだ。それはもう言葉を失うほどに。
 目の前のこのお方は、何にも分かっていない。ここで私を葬り去ればどのようなことになるか。
その単純すぎる頭の思考回路は理解しがたい。
自分の生まれと美貌と金があれば何でも思い通りになると思う、格式の高いお家柄の方には非常に多いタイプだけど、アムネシ様はその中でも群を抜いている。

 そして呆れると同時に、私は心底このお方が哀れだった。
 だからだろう。

「……この私が最期に優しい言葉をかけてあげているのだから、顔くらいお上げなさいな!」

 一向も反応を示さずうつむき加減の私に業を煮やしたアムネシ様が、持っていた扇子を顎にかけ強引に上を向かせた時、こんな言葉がぽろりとこぼれてしまったのは。

「………アムネシ様、私はあなたが不憫でなりません」

 と。
アムネシ嬢は完全なる悪役です。もう少し彼女のターンが続きますが、ご容赦くださいませ。そしてメリダさんは頭から煙が出そうなくらい激怒していますが、当の本人はしれっとしているという…。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ