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男爵令嬢と王子の奮闘記 作者:olive

3章:VS.ザイモン家の御令嬢

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26.アムネシ様は、危険人物…?

2015年5月修正済み
 今、私は幾人ものお嬢様方に包囲されている。

「私シャナ様と一度こうしてお話ししてみたかったんです!」
「なんていったって誰にかかっても落ちなかった、あのレイン殿下のハートをゲットしたお方ですもの!羨ましいです」

 ………きゃぴきゃぴとした声で私に向かって矢継ぎ早に話しかけてくる彼女たち。言わずと知れた、アムネシ様の金魚の糞…もとい取り巻きの少女たちだ。
殿下との結婚式の時には勿論他の女性軍団の例に違わず、私へ呪怨の熱い視線を送ってきた。
その当人が。
 アムネシ様と同じように、私に笑顔で話しかけてくる。

 警戒するなという方がおかしい。そもそも私はあまり同い年の女の子に慣れていない。
前世ではあんなにいい旦那様をゲットした代償に年の近い同性の友人というものはいないに等しかったし、今の世界でもそれは同じ。いや、今の方がひどいかな。
あ、メリダ他数名の、殿下のフェロモンが効かない方々とは交流を深めているけど、(今まで生きてきた年数はともかく)同世代とは言えないしなぁ。

 そんな訳で、不信感と接し方が分からないせいで戸惑っていると、親玉様が小鳥たちの囀りを手で制して止めてくれた。

「もう皆!そんなにいっぺんに質問したら、シャナ様が困ってしまいますわよ!?…ごめんなさいねシャナ様。ですが皆あなたのことが気になって仕方ないんですのよ。許してやってね?」

 小首を傾げてそう言われたので、私は気にしてないよと首を振って示して見せた。

「いえ、大丈夫ですよ。ただ少し驚いてしまったもので」
「まあ!シャナ様は心が広いのね。さすがはあのレイン殿下がお選びになっただけのことはありますわ」
「はははは」

 選んだのはあのただのどうしようもない女好き野郎だけどね。思わず乾いた笑いが出てくるのも致し方ない。

 しかしこれはいったいどういう事なのか。アムネシ様と会話をしながら、私はあらためて自分の置かれた状況をぐるりと見渡す。

 『私を歓迎するための茶会』という名目で公爵邸で設けられているこの茶会の席。
周囲を取り巻くのはなぜか友好的に接近してくる同い年のご令嬢たち。一見和やかな展開だけども。

 私は注意深く、彼女たちの動向を観察し続ける。目の動き、表情の一つ一つを。すると、突然アムネシ様が神妙な面持ちで私の名を呼んだ。

「シャナ様」

 アムネシ様以外にもそっと他のご令嬢の観察をしていた私は、その声に全ての注意をアムネシ様に向けた。
するとそこには、悲しげに目を伏せたしおらしい少女の姿があった。
いつも勝気に強引に周りを振り回し、高飛車なイメージが強い彼女とは程遠いそのなりのアムネシ様は、物悲しい声でぽつりぽつりと語り始めた。

「……やはり、私どものこと、お疑いになられているのですね。考えてみれば私は、いえ、私たちは、あなたと殿下と結婚式の際にひどい嫌悪感を出してしまいましたもの。ですのに、そんな私たちにシャナ様と仲良くなりたい、という理由でこうして茶会に呼ばれたあなたが、警戒してしまうのは無理もありませんわ。ですがっ…!」

 そこで言葉を区切ると、今まで己の膝の上にある握り拳を見つめていたアムネシ様はばっと顔を上げた。
瞳にはうっすら涙まで滲んでいる。彼女はそんな自分の涙に構わずなおも語りかける。

「初めこそ、殿下のお心を奪った方として嫉妬もしましたわ。ですが、殿下をお慕いして数々の嫌がらせをする多くの女性たちの嫉妬をものともせず、堂々と振る舞うシャナ様を見るうちに、私たちは己の浅はかさを自覚致しました。そんなシャナ様だからこそ殿下が惹かれたのだということも。…私たちはそんな、強くてたくましく、あの女たちの欲望蠢く社交界で殿下の隣に立つシャナ様、あなたと仲良くなりたいと、そのお強さに私たちも惹かれた人間の一人なんですのよ?」

 そして私の手をそっと取ると、今まででとびっきりの美しい笑顔で私に微笑みかけた。

「シャナ様。殿下の心を射止めた女性ということで、お辛い立場に立たされていることでしょう。城の使用人も他の貴族の方々も、年の近い女性たちは皆、あなたを敵視していますもの。ですから、私たちはそんなあなたのお力になりたいのです。立場もなにもかも関係ありませんわ。何かあったら遠慮なく吐き出して下さいませ。どうか…私たちと友人になってはいただけませんこと?」

 慈愛に満ちた表情でこちらを優しく見入る。気づけば周りのご令嬢たちもアムネシ様と同様に、うんうんと頷きながらハンカチを噛んでいる。

 そんな彼女たちをこの目で見て、私が出した結論は。

「あ、ありがとうございますアムネシ様。まさかこんな風に思って頂ける人がいるだなんて。…私、殿下の所へ行ってから、同性の人で気が許せる方がほとんどいなくて、実はちょっと心細かったんです。だから今回アムネシ様に呼ばれた時も、何かあるんじゃないかって勘ぐってしまって。でも私の思い違いだったんですね。よかったです。…こんな私でよかったら是非、友達になって下さい」

 アムネシ様の手を握り返し、目から流れた水で濡れた頬を拭いながら私はぺこりと頭を下げた。

「…あら、ごめんなさいね。楽しくするはずのお茶会をしんみりさせてしまいましたわね。私ったらお茶会なのにお客様にお茶をまだお淹れしていませんでしたわ!すぐに用意させますことよ。ジューク!」

 笑顔で涙を拭ったアムネシ様が、パンッと手を叩いて執事の名を呼べば、どこからともなくジュークさんは現れた。
手には見事な大輪の薔薇が描かれたティーポットをトレーに載せている。後ろには様々なお茶菓子を用意したこの屋敷の使用人たちが控えている。
彼らはてきぱきとテーブルの上を茶会使用にセットしていく。次々と広げられる様々な種類のお菓子に、途端にみんなの目が輝いた。

「あちらが今、この国で大人気の洋菓子店の最高級のお砂糖で作られた砂糖菓子、その前にあるのはうちが代々取引をしておりますザイモン家御用達のお店のチョコレートですわ。あとは……」

 なおも続く美味しいお菓子談議に、更に女性陣のテンションは高まっていく。そうこうしているうちに肝心要のティーの用意が出来たようだ。
客人に真っ先に、という指令の元、ジュークさんは私の目の前に真っ先にカップを置いた。

「この茶葉は、はるか南の島国から取り寄せた希少なアッサルと呼ばれるものですの。高貴で特徴的なフレーバーの香りと口に広がるスパイス感が絶妙な、世界最高峰の紅茶ですわ。お飲みになられたことはありまして?」
「ええ。当家でも流通ルートを作り、何とかこの国だけでも販売させていただけないかと交渉しておりますが、なかなか相手様が首を縦にふっていただけなくて。でもさすがですね、まさかこの国でこの茶葉をいただけるなんて、感激の極みです!」

 ポットから注がれる琥珀色の液体からは、得も言われぬ香りが立ち上ってくるのが分かる。う、花の蜜の甘さとハーブの香りを混ぜたような、この茶葉特有の芳醇な香り。

「さあシャナ様。どうぞお召し上がりくださいませ」

 アムネシ様に促されるまま、私はカップを持つと口に付ける。そしてゆっくりと中身を口に含んだ。

「!?……これは」
「お口に合うかしら」
「ええ、とっても!温度調整も難しい品ですのに、ここまで本場と同じ味わいが出せるなんて」
「よかったわ。気に入って頂けたみたいで」

 そう言って私たちは互いに微笑み合った。
それからは和やかな空気の中、色々な話題で盛り上がった。
でも一番多かったのは、私と王子との話か。どういった経緯で結ばれたのか、新婚生活はどうなのか、そしてレイン王子は普段どんなふうに過ごしているのかなどなど。
かなり深いところまで突っ込まれたからさすがの私も困った。いやぁ、女同士の下ネタはえげつない。そのような関係性にない私たちだけど、かといって正直にも話せないからはぐらかしはぐらかしながら、だったけど。
私の華麗なる会話力でなんとか乗り切れたと思う。

 そうして楽しくおしゃべりをして、気が付けば空の向こうがいつの間にか赤く染まりかけてきていた。

「あら、もうこんな時間ですのね。楽しい時間はあっという間に過ぎると言うけれどそれは本当ですわね」
「ええ。…今日は久しぶりに楽しくお喋りが出来て、私も嬉しいです。本当にありがとうございます。貴重なお茶も沢山いただいてしまって」
「気になさらないで。あなたのために取り寄せたようなものですもの」

 そう言って神々しい良い人オーラを体中から放出させるアムネシ嬢。
ああ、なんとアムネシ様はお優しいことか。高級茶葉を惜しげもなく、この日のために差し出してくれるなんて。
そんな思いを込めて、感極まった表情を浮かべてアムネシ様を羨望の眼差しで見つめる。

「シャナ様。もしよろしければ、これからもこうして一緒にお茶会をして交流を深めませんこと?あなたの為でしたらいつも、最高のおもてなしをご用意いたしますわ。もしもご迷惑でなければ…ですけど」
「そんなこと…!私の方こそ、アムネシ様がご迷惑でなければまた是非誘ってください!だってアムネシ様は私にとって……おこがましいことかもしれませんが、親友、ですもの」
「シャナ様……!!」

 互いに感極まった様子で見つめ合い、そして………。

「……と、言えば、アムネシ様は満足ですか?」

 今まで浮かべていた友好的な笑顔を顔から全て消し去ると、私はゆっくりと目の前の令嬢たちから距離をとった。
アムネシの一人称は、『ワタクシ』。カタカナです。
ちなみにメリダさん&護衛兄ちゃんズは常にシャナの後ろにひっそりと控えております。
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