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男爵令嬢と王子の奮闘記 作者:olive

1章:始まりは突然に

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13.最低男には、怒りの鉄拳を!

2015年4月修正済み
 悔しい、自分ではどうしようもないことが。
 だけど私が一番憤りを感じているのは…。

 この男…ディーゼル卿は確かに酷い。追い込み方もえげつないし、悪質。
 そもそも殿下がそんな厄介なフェロモン体質ではなかったら、私はおそらく順風満帆に平凡な生活を過ごせていられたのに。
 だけどこんな事態を引き起こしてしまった一番の要因はやはり私なのだ。私の運の悪さ。それに尽きるから。

 あの時私があの部屋で休まなければ。鍵をかけていれば。絶対にこんなことにはならなかったのに…!!
 タイムマシンというものがあるのなら今すぐあの時に引き返して鍵だけカチャリと回してくるのに。
 いっそ今が夢だったらよかった。そう甘い期待を胸に「目覚めろ私!」って念じながら手の甲をギュッとつねってみたけど、感じるのは確かな痛覚のみ。
 つまりはこれが現実ってこと。

 分かってる。私だって伊達に歳は食っていない(前世分も加味すればね)。
 今更ダダをこねたって、文句を言ったって、もうどうにもならないってことくらい。

 正直このディーゼル卿の手腕は素晴らしいと思う。瞬時に殿下の介抱をした最も地味な私の存在を嗅ぎつけ、パーソナルデータを調べ上げ、それらからわずか数日で結婚の話を固め、情報を即座に国内外へ蔓延させる。
 傍観者だったら、すごいなぁって呆けた顔で見ながらその敏腕さに拍手喝さいだったはずだ。こんな男が未来の国王を支える右腕なら、我が国も安泰だって言いながら。
 ただ如何せん、私は被害者なのだ。呑気にすごいなって褒めてる場合じゃない。 これからの私に訪れるのは、安定も安泰も平穏もない苦渋の道なんだから。
 まあ生活の面では王族なんだから金銭的苦労はしなくて済むが、それ以外は問題山積みの状態だ。

 旦那は王子様だけど女性嫌いで仲良くできそうな気しないし、そんなフェロモン自然放出タイプの旦那にほとんどの少女たちがヤラレテしまうっていうんだから、同世代のお友達なんてまず期待できない。
 周囲にいる女性は、まず間違いなく敵だ。
 そんな過酷な現実が待っていると分かっていて、妹を盾に取られた私はどうすることもできないのだ。
 なんて無力なんだろう。

 本音を言えば、今だって事情を知らされて尚嫌なもんは嫌だ。
 誰か代わってくれるのなら是非とも代わってほしい。これから身の上に振りかかる苦労を思えば、先行きの暗い未来に進むと分かっていて気持ちが弾むはずもない。
 ディーゼル卿のしていることは、確かにレイン殿下を守るという使命があるとしても、それ以外の、主に私という人間の気持ちをまるっと無視してて褒められたものでもない。
 許せないとも思う。

 だけどどう足掻いたって私は殿下の元に嫁ぐしかない。

 なんだかこの状況………昔を思いだす。

 その昔、この世界に来る前に私の愛した旦那様。彼もまた殿下と似たような境遇だった。さすがにここまで強烈な設定ではなかったけど、大まかな部分は一緒かも。
 彼は日々女性たちからの重すぎる行為に戸惑い、疲弊していた。金持ちの御曹司・ルックス、そういったもので覆われていた彼の本当の中身を、女性たちは誰も見ようとはしていなかった。
 自分にはそれしか価値がないんだと、出会ったばかりのあの人はそう悲しい瞳で言ってたっけ。

 今殿下のおかれているのは、それと全く同じような状況だろう。
 フェロモンという物質により惑わされ、誰も本当の殿下なんて見ず己の欲望をぶつけてくるだけ。それが純粋に不憫に思った。あの人には私がいたけど、殿下にはまだ誰もいない。

 …………だから私がありのままの殿下を愛するの!…的な訳ではないから別に。

「どうやったって逃れられないのなら、全力でやらせて頂きます」

 とはいっても、私はあの夢を諦めた訳ではない。
 好いていない男を悪漢のごとき女性達から身を呈して守り抜くなんて真似、一生とか無理だから。なので私はとある計画を立てたのだ。
 それは別にこの場で言う必要はないので、黙って心の中でとどめておく。

 すると。

「そうか、いやぁ、シャナ嬢ならきっとそう言ってくれると思ってたよ!」

 するとさっきまでのおちゃらけに戻るディーゼル卿。
 ははははと軽快な笑い声を立て、よろしく、と挨拶代わりに私の肩をポンと軽く叩いた。

 しかし苛立ちが収まらないのには変わりはない。理由に納得し、状況を受け入れたからと言って、この赤毛頭になんとかぎゃふんと言わせたい。
 どうにかしてこの男に復讐できないものか…。
 しかし何したって私じゃ何のダメージも与えられなさそうだし…。

 と。

 つらつら考えていた私の目に、とても綺麗なご自慢のお顔が目に入った。ご夫人方を夢中にさせる、美しき芸術品のごとく整った顔立ち。
 これまでの様子からして絶対に、相当なナルシスト野郎であることは間違いない。なんせ女の子に対する決め顔まで作っちゃってるくらいだから。
 そんな一級品のお顔に、文字通りダメージを喰らわせたい。

「ディーゼル卿。その前に一つだけ、私のわがままを聞いてはいただけないでしょうか?」

 あんな脅迫まがいなことに、不可抗力とはいえ返事をしたのだ。お願いごとの一つや二つくらい聞いてくれたって罰は当たらないでしょ?てかそこは聞けよ…てな感じで小首を傾げてみれば。
 さすがは女心が分かると噂のディーゼル卿。にっこりとほほ笑むと

「勿論!あんたには無茶なお願いを振ったんだ。俺でできる範囲なら叶えてやるよ」

 やったね!
 だがしかし、そんな無茶なお願い聞いてくれるかな。ほらナルシストって顔が命でしょ?いやいや、でもあれかも。俺の顔は傷がついても美しい、そしてその傷で更にこの顔が引き立つ…的な正真正銘ド級のナルちゃんかもしれない。
 そうであればいいなという願いを込めつつ、私はきっぱりと願いを口にした。

「一発顔を殴らせて下さい」

 しかしこのお願いになんと、

「ああ、勿論、そのくらいで気が済むのなら」

 まさかの承諾。そして彼はわざわざ殴りやすいようにと私の背の高さまでかがむと、にゅっと左頬を差し出してくれるではないか。

 無論、この程度で私のこのもやもやする気持ちが晴れる訳ではないが、とりあえず元凶を作ったこの男がダメージを受けるところを見たいのだ!そしたら少しは愉快な気持ちになれる。

 私はにやりと笑った。どうせ女の力だろうと、大した痛みも予想していないだろう。せいぜい頬が赤く腫れるくらいだと。じゃなかったらこんな気軽に差し出してこないって。
 だが甘い。火事場の馬鹿力、女の怒りのパワーをなめるなよ!
 私は、では遠慮なくと一声かけて、その場から立ち上がると一歩下がる。そして右手の指輪をディーゼル卿の顔に当たるよう装着し直すと、その手で拳を作り腕を後ろに引く。

 それから足を大きく一歩踏み出すと、渾身の力を振り絞って一気に拳をディーゼル卿の顔にぶち込んだ。
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