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帰宅途中で嫁と娘ができたんだけど、ドラゴンだった。 作者:不確定 ワオン
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がおっと吠える⑥

 
「よし、準備はいいな」

「はい!」

「三隈、良いよな」

『うん。ここまで来たら、私にできる事は無いから』

 起きたばかりで目がめてるのか、寝付かなかったジャジャとナナを連れて巣の入り口に立つ。
 珍しく俺に抱っこして貰いたがったナナを抱き、まっすぐ巣の外を見る。
 そこには腕を組んで仁王立ちの姿勢で俺たちを睨む、ユールが居た。
 親父はその横でしゃがみ込み、ヘラヘラと笑っている。
 ジャジャを抱えたアオイが、体を一回上下して体制を整えた。
 少しだけズレ落ちたジャジャを抱え直したのだろう。
 スマホはアオイの首からストラップで下げて、スピーカーモードにしてある。

「あ、あの三隈さん……」

『何?』

 アオイが神妙な顔で自身の胸元を見ている。

「あ、ありがとう……ございます」

『……気にしないで、って言いたいけど、貸しにしとくね』

「は、はい!」

 明るい口調の三隈の返事に、力強く頷くアオイ。
 男の俺には良く分からない、いや正直わかってんだけど知らない振りをしといた方が俺の精神衛生上に良いやりとりだった。

「っし!」

 気合いを入れて一歩を踏み出した。

 この先に多分、高校入試なんか目じゃ無い難関が待ち構えている。
 いや、俺は恐ろしく苦労した上に、一年も経たずに編入試験をするなんて思っても居なかったから更なる地獄を見たが、多分それより難しい。

「俺たちにできない事は」

「できる人にお願いする、ですね。おじさまが誰に頼むつもりかわからないんですけど、予想はできます」

 そう、現実問題として俺とアオイだけでは充分な戦力とはなり得ない。
 アオイは他を守る戦いに不得手であり、そもそも俺では人や獣人が大きな群れで襲いかかってきたら、何一つ太刀打ち出来ない。
 ならば、強い人に守って貰おう。
 ユールが人や獣人、魔族を認めないなら、龍にすがろう。
 もちろん、俺たちだっておんぶに抱っこでぶら下がるわけじゃ無い。

 俺たちが、愛する我が子だ。
 アオイが望んで産み落とし、俺が守ると決意した、二つの『宝物』だ。
 この先、その輝きを失わせず、磨き上げるのは他でも無い俺たちなのだから。

 俺だって、ジャジャやナナを抱きかかえて逃げる事ができる。
 出来ない時は、なりふり構わず、手段を選ばず、どんな手だって使って見せる。
 それが無理なら、情けなくも他人に縋ろう。
 死にたくない、死なせたくない想いは、確かにここにある。
 だから、ありとあらゆる可能性に、みっともなかろうが縋り続けるんだ。

「それを、母さんに伝える。そうですね。母さんは疲れてたんですね。この三日間、ずっと変でした。何処か焦ってて、すぐ横になろうとしてた。ジャジャとナナが泣くし、おじさまがずっとちょっかいを出してたから、多分まだ疲れたままです。まずは冷静になって貰いましょう」

 ゆっくりとユールと親父へと近づいていく。
 心臓は破裂しそうなほど鼓動を強め、今にも口から出そうな勢いだ。

「そういや、さっきは頭に血が上ってたから、ユールに変な啖呵たんか切っちまったなぁ……」

「え、えっと、私は嬉しかったですよ?」

『薫平くん。昔から頭に血が昇るととんでもない事するよね。私の時も』

「あ、あれは反省してんだよ。最後に腹に蹴り入れる必要は無かったよな」

『多分、反省する所が違うと思うんだけど……カッコよかったから私は良いんだけどね。素敵だったなぁ………』

 え?
 始業式に全校生徒の前で土下座させた事?
 それともその前にボコボコにした事?

『兄ちゃん、夕乃お姉ちゃんが戻ってこない』

『ダメだこりゃ、トリップしてる。風待、帰ってきたら濃厚なキスしてやんなよ』

 翔平と佐伯が呆れた声で報告した。
 どうやら三隈には妄想癖があるらしい。

「それは承認できませんけど。私だってまだなのに」

「いや、するって言ってないじゃん!」

 なんでそんな怖い顔で睨んでくるんですかね!?

『わ、私はいつだって大丈夫だから!』

 三隈さーん!

「私だって、寝てる時でもトイレの時でもお風呂でも!」

『風待、お前そんな悪癖があるのか……』

『兄ちゃん最低。チビ達は起こさないでね』

 お前ら覚えとけよ!
 冤罪ですよ!冤罪!

 そんな巫山戯ふざけたやりとりもすぐに終わり、俺たちはユールの目の前に立った。

「親父、ありがと。大丈夫だったか?」

「んにゃ、問題無し。しかしこの奥様、聞く耳持たないんだもの。待つ事は了承取れたけど」

 右手を振りながら親父が立ち上がる。
 それだけでも、随分助かってる。

「お、お義父とう様。ありがとうございます!」

 あれ?
 三隈と同じイントネーションで呼ばなかったかアオイ。

「良いよー。可愛い孫達の為ですから。実は翔平に内緒でオモチャ買ってあるんだよねー。ネットで」

 何時もの余裕で、頭を下げるアオイを茶化す親父。

『父さん、帰ってきたらちゃんと話聞かせてね?』

「あ、あれ?翔くん。ずっと聞いてました?」

『おじさん。翔平今凄い怖い笑顔です。それでもイケメンなので私にくれません?』

 あーあ。
 翔平怒らせたわー。親父もう無理だわー。
 お小遣い減るわー。

 それと露骨に催促すんな佐伯。
 中学卒業するまで兄ちゃん許しませんからね!

「それで、ちゃんと話しあったか?」

「ああ、充分かどうかはまだ分かんないし、正解かどうかも、ちょっと自信ない」

 なにせ、俺たちには知らない事がいっぱいあるから。

「いや、それで良いさ。お前らは子供を持つにはまだ早すぎた。だけど、チビ達はもうここに生きてる。なら、精一杯やれよ。あとは父ちゃん達に任せろ」

「おう。頼りにしてる」

「はい、宜しくお願いします」

 二人で、軽く頭を下げた。

「ああ、任されました」

 頭を戻して見た親父の顔は、満足そうに笑っていた。

「……なんだこの空気は」

 ユールが、ようやく口を開く。

「頭の中がお花畑かお前ら。アイ、いやアオイ。お前には一人で双子を守る力が無いと、この間分からせた筈なんだけどな」

 ため息を深く吐き、頭を振る。

「……母さん、確かに私には、ジャジャとナナを同時に守れるほどの強さは無いよ。それは分かってる。だから、助けて貰いたい。薫平さんに、お義父とう様に、翔平さんに、他にも沢山の人に、助けて貰いたい」

「……図々しいな。お前が勝手に産んで、お前らが勝手に育てた子供を、他人任せにするって事か?」

 今度はアオイが頭を振った。

「違う。全部を面倒見て貰おうとは思ってない。私の責任、私達の責任は、しっかり果たさなきゃいけない。でも、私達にはその力がどうしても足りない。だから、一生懸命頭を下げるの。みっともなくても、情けなくても、この子達の幸せの為になら、なんだってできる。それに母親だもん。図々しいぐらいが、ちょうど良いんだもん」

 一度俺に微笑み、力強い瞳でアオイはユールを見る。
 その瞳の光はとても強くて、眩しい。

「……なんだそりゃ。それが誇り高き空龍の姿なのか?」

「それは、君にも言えるよね。ユール」

 突然、俺の頭の上で声がした。

「アルバ・ジェルマン……っ! 手前、もう来るなって言っただろうが!」

「はっはー。少し虫の居所が悪いからと言って、追い出す事はないんじゃないかな?風待家ですらまだ追い出されて無いのに」

「いや、追い出したいんだけど」

「可能なら家の敷居を跨がせたく無いんだが」

 俺の言葉に、親父も同意した。

「僕の精神は鋼だから、この程度なんとも無いね! それよりユール、君の方こそ結論は出したのかな? 空の修復で手一杯な君にも、いや君こそ、双子を守る余裕なんて無いよね?」

 この強メンタルネズミ……スルーしやがった!

「……それでも、人間や獣人の側で生活するより、アオイや双子達は自由な筈だ」

「そんな事! 無い!」

 暗い表情で答えるユールに、 アオイが大きな声を出して反論する。

「大切な人がいないんだもん! 大好きなパパがいないんだもん!そんなの絶対に自由じゃない!」

「……らちが、あかねぇか」

 ユールはもう一度深い溜息を吐く。
 それはどこか寂しげで、何処か投げやりな仕草だ。

「親父、ごめん。ジャジャとナナ、預かってくんないか」

「……気をつけろよ」

 親父にジャジャを預けると、ナナを抱いたアオイも近寄る。

「ごめんなさい……母を、なんとか止めてみせます」

「ああ、頑張っといで」

 右腕にジャジャ、左腕にナナ。
 双子を抱いた親父は、優しくアオイに微笑んだ。

「はい!」
 
 強く頷き、親父の頭にスマホのストラップを通すアオイ。

『薫平くん! アオイちゃん! 気をつけてね!』

『やいネズミ!本当にお前の言う通りなんだろうな!』

『兄ちゃん!』

 三隈と佐伯、翔平の心配そうな声。
 心配かけて、ごめんなさい。
 
「ああ、もちろんさ。僕がずっと回復の邪魔をしてたし、そもそも龍が疲労困憊ひろうこんぱいになるほど疲れるなんて余程の事でもない限りありえないんだよ? ユールはまだ回復できてないのは間違いない」

 邪魔させたりキレさせたりなら、こいつほど適任はいないんだろうなぁ。

「と、言う話なので」

 俺は腕を伸ばし、体をほぐす。

「さぁて、頑張りますかぁ!」

「母さんっ!ちゃんと話をしようよ!」

 俺たちは並んでユールの前に立つ。

「アオイ、アンタに恨まれようと、アタシはアタシの家族を守るよ!アタシのやり方でね!」

 空の龍王は、その巨大すぎる翼を広げた。




2018/01/16
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