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帰宅途中で嫁と娘ができたんだけど、ドラゴンだった。 作者:不確定 ワオン
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バトル・オブ・プリンス⑥

※R15タグ先生が少しお仕事をします。閲覧注意です。
 
 いつの間にやら空は夕暮れ。
 遠くの空でカラスが気持ちよさそうにカァカァ鳴いている。

「あ、あの、粗茶ですが」

 翔平がおずおずと湯呑みをテーブルに置いた。

「この国の民は、粗茶なんぞを他国の王族に差し出すのか?」

「うっせぇな。ウチで一番高ぇ茶っ葉だよそれ。黙って飲んで洗いざらい喋ったらさっさと帰れ」

 謙遜って奴だよ。日本文化だこの野郎。
 あーイライラする。
 なんでこの野郎を家に招き入れなきゃならんのだ。
 それもこれもあの灰色鼠のせいだ。

「風待様、本日はお招き頂いてありがとうございます」

「薫平の家!おっきいね!殿下のお屋敷に比べたらすっごいちっさいけど!」

 カヨーネは深々と頭を下げ、ウタイは目を爛々と輝かせてリビングを見渡す。
 ウタイの声でリビングの窓ガラスがビリビリと揺れた。

「ウタイ、すまねぇが赤ん坊も居るんだ。もうちょい声の音量下げてくれ」

「っ!」

 慌てて口を両手で塞ぐウタイ。
 そう、しばらくはそうしてくれたら、俺達の耳にも優しい。

 あの場でアオイ達の事を長々と喋らせる訳にもいかないので、王子殿下御一行を我が家へと招き入れた。
 本当にクソ鼠と顔見知りなのかどうか怪しんだが、今俺の手に握られている物が保証している。

龍牙(りゅうげ)の剣と、手紙ねぇ」

 驚くほどの白さと切れ味を誇る龍牙剣。
 柄の部分を持ってジロジロと見る。
 確かにこれは、俺が以前牙岩で使ったあの龍牙剣だ。
 あのクソ鼠の宝物。
 いつも大事そうに、不思議空間にしまっている。
 おいそれと知らない奴に渡す物じゃ無いだろう。
 そして手紙。
 なんだか不気味な真っ赤な封筒に入っていて、豆粒みたいな蜜蝋で封されていた。
 俺が封筒に触れた途端に溶けてなくなった蜜蝋。
 あれは決められた人物しか読めないようにされた魔法らしい。
 中の手紙を開けば、前にルージュを迎えに行く際に置いていった手紙と、字の癖が一致している。
 下手くそな日本語で書かれた文字。

 文末にはあの鼠の足跡まで付いている。
 もう一度手紙を開いて、確かめる。

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆
 やあ、不器用くん。元気してる?
 この手紙を開く事ができるのは不器用くんだけだから、手元にある時点で魔族の王子と会ってるって事でいいかな?
 本当に急なんだけどさ。
 海龍族の方で急患が出ちゃったもんだから、しばらくは顔を出せないんだ。
 なので色々と下準備を済ませて、この手紙を書いている。
 ああ、準備っていうのは、双子達の事についてさ。
 ジャジャとナナの特殊能力の件だよ。
 僕の方でも色々と思考実験と考察を繰り返してみたんだけど、どうやらあの精霊自体は波長的には魔力とそう変わらないみたいなんだ。
 球大陸でかつて生活を営んでいたある部族は、幼い頃に有り余る力が暴走しないようにと、魔力を『食べる』装飾を用いていてね?
 それをヒントに僕も作ろうとしたんだけど、その部族はとっくに知識と技術を失っていたんだ。
 一から調べて作るのはちょっと時間がかかりそうな上に、材料自体も今ではとても希少な鉱石が使われていて難航している。
 なんで君のお友達の力をお借りして調べて貰っているよ。
 あの眼鏡の女の子さ。
 あの子は君と違って賢そうだから、きっと探してくれるだろう。
 その鉱石が取れるのは魔族の生活領域である球大陸に限定されるから、僕も先手を打っておいたよ。
 その説明はちょっと長くなるから、王族の子達に聞いて欲しい。
 なんだか交換条件みたいなの出されたけど、君なら平気でしょ?
 僕の伝言だという証明に、あの剣を渡してある。絶対に受け取ってよね。
 さてしばらく僕とは会えないけど、気をつけるんだよ?
 なんせ僕も手が離せないほどの大手術だ。
 幸運を祈っておいてくれ。
 双子達は大丈夫。順調に育っているよ。

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 長いよ。
 そして文章ですら人をイラつかせるのやめてくれないかな?
 一々俺を小馬鹿にしないと生きて行けないの?
 それならほんっとにギリギリ許してやるよ!

「賢者様のふみには、なんと書いておるのだ?」

 俺の目の前の椅子に座るアトル王子が、相変わらず偉そうに聞いてくる。
 なんでこいつ、こんなに偉そうなんだろう。
 あ、王子様だからか。
 だからカヨーネもウタイも座らずに後ろで待ってるのな。

「詳しい話はお前らに聞けって。まぁ、間違いなくあのネズ公の手紙だな」

 俺をここまでイラつかせるのは、アイツだけだ。

「賢者様をネズ公など、正気か平民」

 お前こそ正気か。
 見ず知らずの他人にいきなり決闘なんぞ申し出やがって。

「殿下ではおそらく説明できないと思われますので、わたくしから説明させて頂いても宜しいですか?」

「……昼休みの時みたいに、また途中でイチャイチャしなければ、いいぞ」

「い、イチャイチャなどしておりません!」

 顔を真っ赤に染めて、カヨーネは視線を逸らした。
 わっかりやっすぅーい。

「に、兄ちゃん。アオイ姉ちゃん呼んでこようか?」

 翔平が小声で耳打ちをしてきた。
 んー。どうすっかな。
 なんだかあんまりいい予感しないんだよなぁ。
 いざという時の為に、ルージュと二人でジャジャとナナを守って貰おう。

「いや、とりあえず話を聞いてからにしようか」

「わ、わかった。僕はどうする?部屋に行ってようか?」

 いや、ここに居て貰いたい。
 あんまりにも難しい話だったら、俺に理解できない可能性がある。

「居てくれ」

「う、うん。でも僕、王子様とお喋りなんかできないよ?」

 大丈夫だって。
 目の前で踏ん反り返ってる馬鹿王子は多分俺と同じタイプの馬鹿だ。
 翔平なら簡単にあしらえる。

「平気だよ。兄ちゃんに任せとけ」

「心配だぁ」

 おい弟よ。
 そんな怪訝そうな顔をするなよ。
 俺だってやる時はやるんだぜ?
 多分。

「最初に賢者様にお会いしたのは、例の『牙岩ダンジョン拡張事件』の時です」

 俺に茶化されて動揺してしまったカヨーネは、目を閉じて自分を落ち着かせるようにゆっくり口を開いた。
 アイツ、どこに消えたかと思ったらこいつらの所に行ってたのか。

「あの災害時に私達の様な外交的要因が現地に居ては、日本国の方も困るだろうと祖国に戻る準備をしておりました」

「戻る準備?」

 荷造りか?

「はい。私達魔族には転移魔法がありますから。祖国に戻るのに1分もかかりません」

 いや、いやいやいや。

「馬鹿言うなよ。球大陸ってあれだろ?オーストラリアの横にあるんだろ?どれだけ離れてると思ってんだ」

 確かニュースで見たぞ?
 転移魔法って今は1キロぐらいが限界で、しかも馬鹿みたいな魔力を必要とするって。
 その距離がちょっと伸びたと、日本のどっかの研究機関が発表して大騒ぎになったじゃないか。

「はい。通常の転移魔法なら不可能です。しかし何事も、特例と言うものが存在します」

「特例?」

「ダイラン王家秘伝の転移魔法は、到着先を限定すれば世界中どこからでも転移する事が可能です。他の魔族国家も恐らくですが似たような手段を持っていると思われます」

 ほうら、出だしから話が難しくなった。
 俺はちらりと翔平を見る。

「えっと、帰る場所が固定されてる一方通行の魔法って事?」

 さすが俺の弟。
 兄より賢いぜ!

「はい。そしてその帰る場所というのが、かなり特殊なのです」

 なんだか重い空気を醸し出すカヨーネ。

「特殊って?」

「王家の墓です」

 墓?
 ご先祖様の遺体を埋葬する、あの墓?

「かつての魔族の王家とは、神と同等と称えられるほどの権威と権力と威光を有しておりました。なので王家所縁(ゆかり)の者が死去した場合、天に昇った王家の者に仕える為に相応の家臣も一緒に埋葬するしきたりがあったのです」

「一緒に?」

 え?
 なに?ちょっと怖いんだけど。

「一緒です。忠義に厚い者は自ら自死し、その家系に連なる年老いた者も共に死ぬ。さらにはその家の抱える奴隷階級や、仕立て屋、料理人、湯浴み係、毒味役、ありとあらゆる側仕そばつかえを殺して、王家の墓の周辺に埋葬するのです。これは長い間守られてきたしきたりで、その数は数え切れないと言われています。もちろん今では途絶えた悪習ですが」

「兄ちゃん……なんだか嫌な事知っちゃたみたいだよ」

 翔平は顔をしかめて不安そうに俺の腕を掴んだ。

「言うな弟よ。兄ちゃんがオカルト系苦手なの知ってんだろお前」

 ホラー映画とか絶対見ないんだぞ俺!
 余計な知識植え付けやがって!
 馬鹿の脳みその容量は貴重なんだからな!

「特徴的なのが、その埋葬方法です。魔族の体に内包する魔力は、死しても消えません。かつての王家はそれすらも利用して王家の墓を作りました。死体を利用した魔法陣。魔法的な模様に死体を埋葬し、その中央に王家の者の亡骸を据える事で、墓を墓荒らしから守る為の魔法防壁陣を作ったのです」

「そ、それが特殊な理由ですか?」

 俺の代わりに翔平がカヨーネに問いかける。

「はい。この魔法陣は持続性に優れていて、現在に至るまで効果は続いています。そして重要なのが、余剰魔力です」

 余ってる、魔力?
 もう俺は大分付いていけてないぞ。
 ここに三隈とかいたら大喜びで根掘り葉掘り聞き出すんだろうなぁ。

「防壁自体に必要とされる魔力は、全体から見てごく少量です。ですが王家の墓という事で、魔法陣は常に最大の魔力を発しています。王家秘伝の転移魔法はこの余剰分を活用する事で起動します。地下に眠る数えきれない程の遺体の魔力を用いることで、本来有りえない長距離転移を可能としてるんです。こんな方法、普通の魔法士にできると思いますか?」

 えっと、つまり?

「それだけの魔力を用意しないと、長距離魔法は使えないって事だよ兄ちゃん」

 ああ、なるほど。
 ニュースとかでやってた転移魔法は、あくまでも『一般的』な範囲の魔法だもんな。
 少ないエネルギーで効率よく、より高性能に。
 日本のお家芸って奴だ。

「賢者様は、この転移魔法を使わせて貰いたいと、わたくしどもに仰られました」

「ん?でもあの鼠。龍が居る場所なら距離は関係ないって言ってたぞ?アイツにそんなの要らないだろ」

 どうせ龍の所にしか用事ないんだし。

「いえ、利用するのは風待様。貴方方あなたがただと、賢者様はご説明なされてました。転移するのは今から一月後、夏休みに入った頃になるとも」

「俺達、か」

 そういえば、手紙にも『球大陸で会おう』とか書いてあったな。
 つまり、俺達に行けと。
 なんでアイツはそんな大事な事を言わないんだよ。
 説明しろよ!
 報連相!
 報告・連絡・相談だろ!?

「何せ伝説の鼠の賢者様からの申し出です。わたくし達に断るつもりはございませんでした。我が国家は海龍様を信仰する国家。龍と縁の深い賢者様の頼みなら、可能な限りお応えするつもりです。しかし、このゴミ虫が」

 カヨーネは苦々しい顔で、目の前の椅子に偉そうに座るアトル王子を見た。

オレが、賢者様に頼み混んだのだ。使ってもいいが条件を飲んでくれと」

 フンッと鼻息荒く踏ん反り返るアトル王子。

「条件?」

 そういやそれも手紙に書いてあったような。
 どうせ余計な事なんだろうなとわかりつつも、聞かざるを得ない。

「賢者様は我々に説明して下さった。この町には龍に選ばれた男が居て、そいつとその家族に転移魔法を使わせたい、と」

 選ばれたっていうか、なんていうか。

「我がダイランは海龍様の加護によって栄えた国。そしてダイランの男から選ばれた者は、海龍様のしもべを名乗り全てを守る戦士となる。オレは留学前に選ばれ、戦士となった」

 あぁ。
 ちょっと読めてきた。
 これ、筋肉思考系のお話だな?

「龍に選ばれた者は、互いに競い合い、切磋琢磨しなければならない!なので、オレと決闘をするのだ平民よ!それが転移魔法を使う条件だ!」

 マッスル言語って面倒臭いなぁ。もぉ。
2018/01/16
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