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帰宅途中で嫁と娘ができたんだけど、ドラゴンだった。 作者:不確定 ワオン
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風待家の奮闘①

「薫平さん。これ渡辺さんの所のです。お願いしてもいいですか?」

 アオイから大きな洗濯かごを受け取る。

「渡辺さんって、あの小さな女の子とお兄ちゃんの兄妹のいる所だよな?」

「はい。今お外で洗濯物を干すの手伝ってると思うんで、持って行ってあげてくださいね」

「了解。行ってくるな」

「行ってらっしゃい」

 返事を返して両手で洗濯かごを抱え、引き戸を潜って外に出る。
 今日は快晴。洗濯日和だ。
 この公民館を避難所として生活を始めてそろそろ一週間。
 集団生活にも少しだけ慣れてきた。
 アオイは他のお母さん方と一緒に洗濯に精を出しているから、手伝いに来たわけだ。
 何せ全員で二百名を超える避難所生活。
 一家族がちまちまと洗濯なんかしてたらいつ迄経っても終わる訳が無い。
 田舎ならでは連携プレーを駆使して、ある程度まとめて洗濯をしている。
 我が風待家も例外ではなく、女性の下着なんかもあるから男が簡単に手伝う訳にもいかず、我が家からはアオイがメインで洗濯担当を担っている。

 俺の出番は力仕事だ。
 公民館に備え付けられていた全自動洗濯機が一台しかないから、時代遅れにも洗濯板を使った手洗いを強いられている。
 男物と女物をアオイに仕分けしてもらって、俺はたらいに水と洗剤を張ってゴシゴシと二時間近く頑張っている。
 最初は力加減がわからずに苦労したが、我らが町には昔ながらの手法に詳しいお年寄りが沢山いらっしゃるからな。
 手ほどきを受けながらなんとか様になってきた。
 女性の洗い物はデリケートだから、アオイや他のお母様なんか手洗いしたり洗濯機を動かしたりで、忙しそうである。

「渡辺さん。これ持ってきました」

「あ、ありがとうね。薫平君」

「いえいえ。大した事してないっすよ」

 中年女性の渡辺さんは大柄な犬族の人だ。
 肝っ玉母ちゃんと言う言葉がよく似合う人で、少しおしゃべりが過ぎるのが困り物の元気なお母さんだ。

「ウチの子達なんか言われないと手伝わないんだから!風待さんちはみんなお利口さんで羨ましいわぁ」

「ははは」

 うう。こう言う時なんて返事を返すのが正解なんだか。
 ご近所付き合いは翔平とアオイが得意なんだよなぁ。
 元々人当たりの良い翔平は言わずもがなだが、人見知りを我慢しているアオイは本当に偉い。

「じゃあ、まだ洗濯物いっぱいあるんで」

「ええ、お願いしますね」

 頭を軽く下げてその場を離れる。
 二時間近く座りっぱなし力みっぱなしだったから肩が凝ったな。
 背中の傷が癒えたとは言え、あんまり無理するとアオイと翔平がうるさいんだよ。
 右肩を抑えてグルグルと回しながら歩く。
 凝りに凝った肩を解すようにして、今度は逆の腕。
 そんなおっさん臭い事をしていると、炊事場が見えてきた。
 公民館にある給湯室の一口ガスコンロでは、全員分の食事を賄うことができなかったから、室外にテントを張って業務用のガス台を使っている。
 避難所生活三日目に届いた物資の中にあった奴で、男衆総動員で設置した物だ。
 ステンレス製とは言えあれだけの大きさだからな。皆してずいぶん四苦八苦したもんだ。
 アオイやルージュの腕力なら簡単だろうが、ここじゃあいつらはか弱い女の子で通してるからな。俺や親父が頑張らせて貰った。

「翔、今日の昼飯か?」

 炊事場にいるお母さん方の中に、大きな寸胴とにらめっこしている翔平を見つけて声を掛けた。
 声に気づいてキョロキョロと周りを見渡し、やっと俺を見つけた翔平はにっこり笑う。

「兄ちゃん。洗濯終わったの?」

「もう少しかかるかな。それ何だ?」

「豚汁。やっぱり人数が多いと汁物とかカレーが楽なんだよね」

 ああ、全然良い。文句なんか出る筈が無い。
 鼻孔をくすぐる良い匂いに思わず腹の虫が猛烈にアピってきそうだ。

「おうし、ヤル気出てきた。チャチャッと終わらせて昼にしよう」

「うん。頑張って。チビ達はルー姉ちゃんと一緒?」

「おう。ユリーさんと一緒に他の子供達と中で遊んでる。ルージュも楽しそうだ」

 避難してきた家族の人たちの中にも、もちろん小さな子供達は大勢居た。
 元保育士のユリーさんは見事なもので、わんわん騒ぐ子供達を静かにまとめあげて、全員まとめて面倒を見ている。
 おかげでお母さん方の仕事が捗る捗る。
 この避難所にユリーさんが居て本当に助かってる。
 ルージュもユリーさんにくっついて、子供達と戯れている。
 無表情の中にも喜びを隠せないようで、積極的に子供達と接触しては幸せそうにホクホクして居た。

「……たまに僕やチビ達を見るルー姉ちゃんの目が怖いんだけどさ」

「……大丈夫だ。絶対に危害は加えてこない」

「それは分かってるんだけど」

 困った様な笑顔を浮かべて、翔平は首を傾げた。

「よー我が息子ども。ちゃんと人様の役に立ってるか?」

「親父」

「父さん」

 炊事場の入り口に親父の姿があった。
 親父は初日の夜にこの避難所に辿り着いた。
 俺は疲れ果てて寝て居たが、どうやらトレジャーハンター達が連れてきてくれたらしい。
 市街地付近で突如停止した牙岩の樹木。
 警察はそこを規制線にして一般人の侵入を制限した。
 入れるのは中に避難している人の家族のみで、トレジャーハンターと警察がガチガチに護衛した護送車しか許されてない。
 順番待ちが凄かったらしく、親父がここについたのは深夜だ。

「なんだよ。もう終わりか?」

「いや、一度休憩だ。思ったより作業が捗ってるからな」

 よく見ると炊事場の外には避難家族のお父さん方や男衆の姿がある。

「風待さん。お茶入れてきますね」

「ああ田町さん、お気づかいありがとうございます」

「いえいえ、風待さんが一番頑張ってるんですから、ゆっくり休んでください。お孫さんの顔も見たいでしょう?」

「はは、ではお言葉に甘えて、休ませてもらいます」

 田町さんって確か、肉屋のご主人か。ガタイの良い強面の人だけど、声がやたら高い人だ。

 親父達の仕事は、枯れ始めた樹木の撤去作業だ。
 市街地の方から順番に、県や国に雇われた業者が樹木の撤去作業をしているらしいんだけど、どうにもペースが遅すぎる。
 そのため、田舎らしくガテン系が多い避難所の面々が提案し、ハンター達の護衛をつけて内側からも撤去を始めているのだ。
 各家から持ち寄った軽トラや農耕用重機を巧みに使い、公民館の周囲だけで言えばもう事件前と変わらない景色になっている。

「どうよ?進行状況は」

 本当なら俺も手伝いたいんだが、アオイと翔平、それに電話越しに三隈から反対されたからな。
 避難所の中でも力仕事はあるから、そっちを頑張っている。

「捗ってると言っただろうが、もう少しで小学校までの道は完全開通だ。あっちに避難している人達と合流できるな。まあ合流する前に家に戻れる人達も多そうだ」

「電気の復旧って終わってんの?」

 俺たちの家の区画は、伸びてきた樹木のせいで電線が切れてしまっている。
 電力会社の人達もハンター同伴で毎日忙しそうに歩き回ってると聞いた。

「住宅地は概ね終わってるらしいな。切れてる箇所の把握に時間かけた分、復旧は早く終わらせるって息巻いてた人もいたぞ」

 この避難所は色んな業者の休憩地点にもなってるからな。
 生活用水タンクは水道局が持ってきたし、炊事場のガスはガス会社の救援物資だ。
 元々公民館は停電区画じゃなかったし、他の避難所より比較的人が少ない分物資に余裕もあった。

「残念ながら我が家の電気はもう少し先だ。一番牙岩に近いからしゃーない」

「まぁそうだろうな。そういや親父は仕事は大丈夫なのか?」

 もう一週間近く出勤してないけど。我が家の生活費とかどうなるのさ。
 俺たちの場合、学校は休校になっている。
 高校に残った奴らも順次家族の待つ避難所への移送が終わったらしい。
 あれだけの騒ぎがあったのに、怪我人は出ても死者が出なかったのは奇跡だぜ。

「専務やらが気を利かせてくれてらぁ。特例として出勤扱いだよ。こんな状況で出勤しろなんて言うほどブラックな会社じゃねぇよ」

「そりゃそうか」

 家族放って会社来いなんて鬼畜すぎるしな。

「お前の体はどうだ?あのクソ鼠、急に現れて急に消えやがって」

「んー。まぁ大丈夫だろ。最初の2、3日はやけに怠かったけど、今はそうでもない」

 俺が寝てる間に現れた鼠の賢者、アルバ・ジェルマン。
 深夜に他の避難者が寝てる時に急に姿を現し、爆睡してる俺の口にジャジャとナナの卵の殻を放り込んですぐに居なくなったらしい。
 おかげで俺は翔平に叩き起こされ、龍化した体が元に戻るまでトイレに籠る事になった。
 十時間近くトイレに隠れる事を余儀なくされた俺を哀れんでくれよ。
 ドアノックにドアノックで応えるあの申し訳なさと言ったらもう。
 下痢が尋常じゃないって事で無理やり通したんだからな!

「あ、ガサラ兄ちゃんだ」

 寸胴をかき混ぜながら翔平が手を振る。
 ここから見える公民館の入り口で、ガサラ達トレジャーハンター達がミーティングをしている。
 セイジツさんを中心に円を作り、真剣に何かを話し合っているようだ。
 ガサラと言えばつまらなさそうにしているナナイロさんの腕を引っ張って居て、俺たちに気づいたようで苦笑いして手を振り返す。

「ハンター達も大忙しだからな。西日本トレジャーハンター協会の不祥事がリークされちゃったもんだから、全員大騒ぎで仕事してるぞ」

 親父が腕を組んでその円を見つめる。

「あれ、結局協会長の独断だったんだろ?なんでアイツらが大騒ぎする必要があんだよ」

「所属している組織の不祥事だ。現場だって無関係じゃ居られねぇよ。信用問題だからな。むしろ現場が率先して信用回復に努めてるんだろ。護衛や討伐なんてあの人達の本職じゃないだろうに」

 なんか可哀想だな。
 結局アイツラが割を食った形になっちまってる。
 俺たちから見ても凄い頑張ってると思うんだけどな。

「まあハンター達の仕事っぷりは避難者が一番良く知ってるんだ。せめて俺たちだけでも労ってやろうや」

「もう行くの?」

 背を向けた親父に翔平が声をかける。
 兄貴の目から見ても、我が弟はファザコンだからな。
 もう少し親父と一緒に居たいんだろう。
 少し寂しそうな顔だ。

「父ちゃんにお茶ぐらい飲ませてくれよ」

 軽く笑って親父は炊事場を後にした。

「チビ達に少しぐらい顔見せてやれよ!」

「勿論だ!」

 去って行く親父の背中にそう言うと、右腕を上げて返事を返してきた。
 隣を見ると、翔平が口を尖らせて豚汁の入った寸胴を見ている。
 お玉をかき回すスピードが心なしか早い。

「親父は、凄いな」

 翔平の頭をクシャクシャと撫でる。
 ここに来てからの親父は、働きすぎだ。
 比較的若い男手だし、なまじ能力があるもんだから頼られてる節がある。
 翔平としては、もう少し休んで欲しかったんだろうな。

「うん。でも心配」

 素直で宜しい。

「大丈夫だ。いざとなったら兄ちゃんが止めるから」

「……それはそれで心配」

 うん。素直で宜しいなぁおい。
 さて、アオイを随分待たせちまってるな。
 俺も頑張ってきますかね。

「んじゃ洗濯に戻るわ」

「兄ちゃんも、ほどほどにね?」

「おう。お前もな」

 兄弟ならではのアイコンタクトでお互いクスリと笑い、俺は炊事場を後にした。
2018/01/16
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