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天国からのおくりもの
作:烏



第6話 天国にいっても元気でね


7月10日 午前10時 葬儀場

お母さんは昨日からずっと元気がない。お父さんが死んだからだ。
黒いふちに囲まれたお父さんの写真をずっと見ている。

警察官の制服を着たお父さんはいつも以上にかっこよく見えた。
でもぼくの好きなお父さんじゃない。写真はすごく厳しい顔をしている。
ぼくが好きなお父さんは太陽みたいに明るく、眩しい笑顔のお父さんだ。

でも・・・・もう、そんなお父さんには・・・会えない・・・・。

「母さん。」

支度を終えた誠司兄ちゃんが大人の人と同じ格好でやってきた。
すると突然、にいちゃんの胸にお母さんが飛び込んだ。誠司にいちゃんはお母さんを抱きしめている。

・・・お母さんは泣いていた。顔が隠れて表情は分からなかったが、声で鳴いているのが分かった。誠司にいちゃんは泣いていない。でも悲しそうな顔をしていた。

「母さん・・・もう泣くなよ。誠が見ているぞ。」

そういうと母さんは泣くのをやめた。

「誠・・・ごめんね。ちょっとお母さん疲れてて・・・。」

そういって休憩室にあったテレビをつけた。

するとタイミングよくお父さんの事件のニュースを読み始めた。

「こちら亡くなった牟田巡査部長の自宅です。警察によると牟田巡査部長は屋上にいたスナイパーを発見し、狙われていた子供の盾となって自らの命を犠牲にしました。えぇ・・・と今、入ったニュースです。県警は先ほど牟田巡査部長の二階級特進を発表しました。これにより牟田巡査部長は警部に昇進します・・・・」

お母さんはそれを聞くとまた声を上げて泣き始めた。

「二階級特進なんていいからあの人を生き返らせて!!」

『にかいきゅうとくしん』とはなんのことだろう。お父さんがどうなったのだろう。お母さんに聞こうと思ったけれど、泣き崩れていて話をかける隙も無かった。
だから、誠司にいちゃんに聞こうと思ったけれど、誠司にいちゃんは、瞬きもしないでこっちを見ているお父さんを、ずっと立ったまま見ていた。

結局、だれにも聞けなかった。


お母さんが泣く姿を見たのは3年ぶりだ。昨日の涙を見るまでほとんどなかった。


3年前、ぼくが小学1年になった入学式にお父さんは来なかった。本当は休みだったが、急に仕事が入ったそうだった。その日の深夜、ぼくがトイレに行こうと一階へ下りている時に、お父さんとお母さんが言い争っているのが聞こえた。お父さんとお母さんがケンカをするなんてその日まで思いもしなかった。いつも仲が良かった。
ケンカの原因は今日のお父さんがぼくの入学式に来なかったことらしい。

「あなたそれでも父親!?誠司と裕美の入学式には行ったのに、なんで誠だけ。」

「商店街で事件が起きたんだからしょうがないだろ!?」

「あなたは今日休みなのよ!?それなのになんであなたが行くわけ!?」

「今日は、まだ交番についてからあまり経っていないやつが当番だったから心配だったんだよ!!それに上からの命令でもあった。俺は警察官だ!上司の命令は絶対なんだよ!」

「あなた・・・・・誠が嫌いなのね。」

ぼくはその言葉が胸に刺さった。その言葉は胸から引き抜こうとしても抜けない。むしろどんどん体の中へ入っていく。

「自分の子供を大切に出来ないなんて・・・・そんなバカな職業すぐにやめたら。」

軽い音が響いた。軽いが痛々しい音だ。ぼくはゆっくりノブを回し、現場へ入った。
そこには床に倒れて泣く、お母さんがいた。ほほを押さえている。きっとぶたれたんだ。

すると、お父さんがぼくの方をすごい目で見てきた。

「誠・・・・・寝ぼけてんのか。トイレはあっちだぞ!」

ぼくはその部屋を後にした。

お母さんを泣かしたお父さんの目は、一生忘れられなかった。

そして今日。またお父さんはお母さんを泣かした。



今日はたくさんの人が来た。お母さんの姿を見るなり、泣きすがってくる人。大抵、女の人だ。それとは間逆で表情を一切変えない人。たぶんおまわりさんだ。おまわりさんの中でも泣いている人がいた。そしてお父さんの部下、大方巡査も来た。ぼくは大方巡査のことは知らなかったけど、となりにいた誠司にいちゃんが教えてくれた。

はじめにお母さんにあいさつすると、大方さんは泣き始めた。
そして次に、ぼくたちのところへ来た。

「本当に・・・すいません!!!私がもっとしっかりしていれば、このようなことには・・・」

大方巡査は泣きながら何度も頭を下げた。

「大方さんのせいじゃないですよ・・・。あの人は自分の意思で子供を守るため、死を選んだ。立派な父親です。」

大方巡査はもう一度、深深と頭を下げた。そしてぼくに話しかけてきた。

「君が・・・・誠君?」

「うん・・・」

「お父さんを奪ってしまって本当にすまない!キャッチボールの約束していたんだよな。おまわりさんお父さんから聞いたよ・・・・・・・本当に・・・・」

大方巡査は泣き崩れしゃべれなくなった。
ぼくはあることを思いついた。

「じゃあ・・・おまわりさん。」

「・・・・今度ぼくと・・・キャッチボールしてくれる・・・・・?」

一瞬戸惑っていたが、涙しながら俺を抱きしめてこういった。

「・・・・・もちろんさ」

お父さんが死んだというのに涙が出てこない。ぼくはお父さんのこと嫌いだったのか?



午後11時

家には、父さんが寝ている箱の前に誠司にいちゃんがぽつんと、一人いた。母さんは今違うところで、明日の打ち合わせをしている。今家には、ぼくと誠司にいちゃん二人だけだ。
ぼくは気づかれないように寄っていった。

「警察学校本当につらいよな〜。毎日逃げ出したくなるような場面ばっかりで。もう3人もやめたんだぜ。俺もやめようかな〜。」

「て、嘘だよ。辞めるわけないだろ・・・・・なあ、父さん・・・起きてくれよ!なんでさっきから黙っているんだよ!!お願いだから・・・・・・父・・・さ・・ん!!・・・・・・・・・・・」

「こんなことになるんなら、あの時メールじゃなくて電話すればよかった・・・・。なんで父さんと喧嘩してお別れしなきゃならないんだよ!!明日、仲直りしようと思っていたんだぞ!!!それなのに・・・・」

誠司にいちゃんは泣いていた。ぼくもつられて涙が出てきた。

それに気づいたにいちゃんが言ってきた。

「・・・誠・・・いたのか・・・お前もこい・・・・」

ぼくは泣きじゃくりながら、走って誠司にいちゃんの胸に飛び込んだ。誠司にいちゃんはぼくの頭をやさしくなでてくれた。
その手は温かくておおきかった。誠司にいちゃんの手から僕の頭へ、全身へ温もりが伝わってくる。

「おとうさん・・・おきてよ!!!ねぇ・・・おとうさん!!!おとうさん!!!!!!」

ぼくは思いっきり叫んだけれど、お父さんは何一つ変わらなかった。

「拓也・・・神様って本当にいると思うか?いるわけねぇよな。こんな何も悪いことをしていない人間が死んでしまうんだもんな。・・・・神様・・・お願いだから・・・父さんを生き返らせてくれよ!!!なぁ・・・もうあんたしか頼めるやついないんだよ!!だから・・・・・お願いだから・・・・」

「父さん・・・・・」

お父さんのまぶたに誠司にいちゃんの涙が落ちた。まるでお父さんが涙を流しているようだった。

「誠も大きくなったら・・・・・・」

誠司にいちゃんは感情が一気に沸き起こり、言葉に詰まった。

「大きくなったら、父さんみたいな人間になるんだぞ!!」

ぼくは頷いた。そして白いお父さんの顔を見た。

「天国にいっても元気でね。ぼくたちのことわすれないでね・・・おとうさん・・・」

そのとき、お父さんの顔が一瞬、笑っているように見えた。












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