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ローレ視点です。
上空に視線をむけると何が何だかわかってなくておかしな行動をとってるアホが見える。誰かって? スオウだよ。あれは花の蕾を模した簡易小屋というかカプセルというかそんなもの。
それを私の魔法で上空に浮かしたのだ。
「さて、奴は来るかな?」
あれの中はマジックミラーなんだよね。だからスオウはあれが浮いてることも、勿論外も見えてないでしょう。剣とか使われたら一瞬で壊れるけど、スオウは多分使わない。そこまで考えなしでもないだろうしね。
「別に騙す気はなかったんだけどねー」
目隠ししてるスオウをひっ張ってると変ないたずら心が湧いちゃったよ。それに私も一度見ておきたかった。スオウの力を振るう存在ってやつを。そして見極めたい。それはもしかしたら……
(くるぞ)
頭に響く深遠なる声。それに私は力を少量渡して目に宿す。エリアの向こうが見える。亜空間というか異空間というか、そんな場所に不自然な揺らぎ……そして溢れる質量が私のエリアに波長を一瞬で合わせる。
「来た」
私は自身の杖を異次元から取り出す。それは五色の宝石が散りばめられて、全体は白銀に光る美しい杖だ。その杖をスオウを閉じ込めたカプセルに向けて振るう。するとその瞬間−−ガン!! −−と云う音が大気を響かせて鳴り響く。
同時に左右の山がうがかれる。立ち上る砂埃……危ない危ない、後一瞬遅かったらスオウが真っ二つになってたかもしれない。あいつ今見えてないからね。守ることはしてあげる。
「あれが……」
見覚えのある剣を握った黒いマントの存在。顔は見えない。けどこちらを見てるのはわかる。それから奴は何回かスオウに攻撃を試みてた。けどそれは防がせてもらった。こっちを無視してあいつをやらせはしないよ。
「さて、こっちに意識を向けてくれるようだし、頼める?」
(任せろ)
そう言って現れるのは白い狼。大型犬くらいの大きさの白銀の獣。戦闘体制をとったのがわかったのか奴はこちらに風の刃を飛ばしてくる。けどそれを叩き落とす白い獣。あの程度なら今の彼でも大丈夫。
こっちはあいつが本気になる前に仕込んどきましょう。それまでは粘ってよリ……まあまだいいよね。
(あんな奴にやられはしない……が、早く頼む〕
「そんなこと言ってたらまた役立たず言われるわよ。あいつに……」
そう言って上で気楽に座ってるスオウを見る。どうやら叫ぶのは諦めたらしい。まあもうしばらくそうしてなさい。用が終わったら解放してあげるから。
「さて、どの程度か見せてもらおうかな」
べろっと唇を舐めて詠唱をなめらかに紡ぎだす。それは唄うように、届けるように……世界に私の意思を沁み渡らせる。