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 僕達はようやくサン・ジェルクへと降り立てた。そこは人の国ともアルテミナスとも違う匂いと、姿をした場所だった。ある意味一番ゲームっぽい。そこで知るのはノーヴィスと言う国の姿。
 そしてクリエを包み込む陰謀の一端だ。
神の泣いた地 『サン・ジェルク』

 朝日が昇る。空が次第に青になり、紫になり、そして橙を帯びていき、白へとなった。何となくだけど、LROを初めてから、こんな朝日を見る機会が良くある気がする。
 普通に生活してたんじゃ、部活もやってない僕は、こんな空を見上げる事なんてない。LROは何気ない日常で、見逃してる物を時々気付かせてくれるよ。
 まあ、こっちが一日経ったって、リアルでもそうかと言うと、決してそうじゃないんだけど。でもだからこそ、こういう物を見ることが出来る。

 朝日に照らされて、ようやく眼前に初めて見る『ノーヴィス』と言う国が広がりだした。いや、正確にはずっと前から眼前はノーヴィスだった筈なんだ。
 けどただの大地じゃ実感が沸かなかっただけ。

「おお~~あれがノーヴィスか、スゴいな」

 目の前に広がる街の姿は、リアルでは絶対にあり得ない感じに成ってる。アルテミナスや人の国の町並みは、まだあり得なくもなかったけど、これは絶対に無いよ。
 だって目の前の街は、なんと言うか水の上にあるような……しかも周りは滝で囲まれてる。用は滝壺に街が広がってるんだ。
 円形状の滝壺の中に、複雑に建物と通路が張り巡らされてる。それも日本家屋……なんか貴族的な感じだな。中央にある、徐々に盛り上がる様に建てられてる建物も城と言うよりは宮殿? いや、貴族的には御殿? かな。
 まあそんな感じだ。すると僕の感動の横から、小さなモブリであるテッケンさんが船の縁に立ってこう言った。

「あれはノーヴィスの二大都市の一つ『サン・ジェルク』だよ。ノーヴィスはシスカ教の聖院と、星の信託を告げる星羅側、その二つで成り立ってる国だからね」
「へぇー、それって上手くやってるんですか?」

 そういう二つの大きな権威が混ざりあうなんて、厄介以外の何者でもない様な気がするんだけど……国の主権とか争ってそうだよね。勝手なイメージだけど。
 するとテッケンさんは近づきつつあるサン・ジェルクを眺めながら、ちょっと厳しく頷いた。

「う~んまあそうだね。仲が良いかと言われれば、簡単には頷けないかな。だけど二つは切っても切れない関係に成ってるから、国が分裂する……なんて事は無いよ」
「切っても切れないってどういう事ですか?」

 まあ当然、そこが気になるよ。だってその星のなんとかもある意味宗教っぽくないか? 二つの宗教が混ざりあっちゃダメだろう。
 けどテッケンさんは流石自分の国の事、饒舌に語ってくれる。

「それは聖院と星羅、二つが根強く絡みあってるって言うのかな? 離れたくても、今更それは無理って事だよ。用はお互い、一緒に居ることで今の立場を固定させてる訳だ。
 聖院はシスカと言う神、星羅は星の予言者という象徴でね」
「つまりは片方が離れれば、共倒れって事ですか?」

 なんかそんな感じだよな、今の話だと。そんな薄っぺらい物なのか? LROの最大宗教だろ? 星羅の方は知らないけど、信者が世界中に行る聖院はそんな簡単に倒れそうもないと思うのは、楽観的なのかな。

「まあそうだね。でも実際は星羅の方が下に見られてる……って部分はあるよ。星羅も元は聖院。その派生系って感じなんだ。
 まあだけど星の予言者の人気が凄くて、今ではサン・ジェルクと肩を並べる程に大きく成ったって訳だ。元々予言者は特別だったしね」
「へえ~凄いですねその予言者って。そのもう一つの都市に居るんですよね? 予言なら一度見てもらいたいかも」

 だって未来とかをちょっとは知りたいって気持ちは拭えないよ。これからも不安は沢山あるだろうし、色々と大変だと何となくわかる。
 だから少しでも安心できる未来を教えて欲しい。

「凄いよ。彼女はアイリ様にだって引けを取らない。その予言者様が、ノーヴィスの『バランス崩し』を持ってるからね」
「ええ!? 予言者ってNPCじゃなくて、プレイヤーですか?」
「ああ、そうだよ」

 爽やかにそう言うテッケンさん。いやいや、それはびっくりだよ。だって何? プレイヤーが予言とかしちゃうの? それはどうやって? てか、いいの?
 なんかLROってプレイヤーを凄い所までかつぎ上げるよな。アイリの時も思ったけど、なんて立場を普通の一般人にやらせるんだよ。
 まあその人が一般人かは知らないけど、少なくともアイリは普通の女の子だったよ。まあちょっとはお嬢様だったけど……それでもやっぱりあんな所に立っちゃうなんて事はない普通の人だった。

 ゲームだから、リアルで出来ない事を体験してる……そう思えば有りなのかも知れないけど、僕にはきっと出来そうも無いと思う。
 僕が驚愕してると、テッケンさんの隣に居るシルクちゃんが更に説明してくれた。

「ノーヴィスのバランス崩しと言えば、知らない人がいない位に有名な力です。先の領土争いの時に、一回だけ振るわれただけなんですけど、それが衝撃だったんです」
「一回? たったそれだけ?」

 まあそうそうバランス崩しなんて使う物じゃないんだろうけど……一回だけでそこまでって……気になる。てか興味がある。
 だってカーテナも凄かったもん! あの圧倒的な力の別タイプって事だろ? LROを始めたのなら、一度は拝んで見たいよ。
 まあ、敵として振るわれるのはまっぴら御免だけど……シルクちゃんは僕の言葉を受け取るなり「フフフ」と含みのある笑いを漏らした。なんだか言いたくて堪らないって感じだ。

「一回で十分だったんですよ。なにせその力は『召還』です。この世界を支える聖獣達を表し行使する力。誰もがこんな世界に来たなら、一度は憧れる力じゃないですか!」
「おおーー確かに!!」

 なんだか珍しく興奮してるシルクちゃんに釣られて僕も興奮してきた。てか召還だと!? それは確かに誰もが憧れるよ。
 だって召還士って格好いい。まず召還獣も格好良い。召還されて出てくるまでの演出――あれは燃えたな。興奮したよ。ゲームで良くある。
 あ、あれが自分で出来るなんて成れば……さいっこうじゃん! そりゃあ、有名になるよ。だって誰もが憧れるもん。

「召還って、魔法を使える者として、一度はやってみたい事です」
「魔法が使えなくても僕はやってみたい。なんでも良いから大声で召還獣を呼んでみたい」

 僕とシルクちゃんは、自分の妄想の中で、そんな光景を描いてる。するとそこでポツリと鍛冶屋が物騒な事を言いやがった。

「大きな力にはそれ相応のリスクがある。カーテナがそうだったように、召還にだって何かしらのリスクがあるかもしれんぞ」
「リスク……ですか」

 確かに鍛冶屋の言うことも尤もだな。それは有るだろう。一度しか見せてないのもそこら辺が関係してるのかも知れない。
 でもそれでも……

「いいな~召還」
「いいですよね~」

 僕とシルクちゃんは遠い夢に思いを馳せる。


 そうこうしてる合間に、飛空挺は水を切って着水してた。最初はまじめに話してたのに、話題が横にズレてしまったな。まあ、まだ話を聞く時間くらい取れるだろう。
 いきなり問題が起きなければ……だけど。

 僕達は僧兵に促されて飛空挺から降りる。そして新しい街の空気が鼻から目一杯入って来た。なんだか花の香りがするな。人の国の雑多な感じとも、アルテミナスの整った感じとも違う、不思議な臭いだ。
 まあでも、周りが滝なだけあって、空気が美味しいけどね。それに空を見上げると、そこには様々な大きさ向きの虹が架かってるんだ。
 これには僕も感激だ。

「おおおおおおーーー虹!!」

 と思わず言っちゃったよ。いやさ、虹って見つけるとテンションあがるじゃん。なんか得した気分なると言うか……それが一杯なら、もうテンションもおかしく成るって。

「サン・ジェルクは周りが滝だからね。そのせいか、良く虹は出てるよ。滝と虹に包まれた街だね」

 テッケンさんのそんな言葉は、だけど結構しっくりくるよ。確かに滝と虹に包まれてる。

「あわっ……とっと……」
「大丈夫かいシルク?」
「はい、やっぱりここの揺れる道は怖いですね」

 テッケンさんに支えられながら、シルクちゃんは足場を見る。ここの発着上はアルテミナスと違って、かなりお粗末だ。細い木の板を繋げた様な足場が浮いてるだけだもん。
 だからこの足場、少しの風でゆらゆら揺れる。まあ身長が低いモブリは問題無いだろうけど、僕達普通サイズにとっては、かなり不安だよ。
 まず、乗って持つのか一瞬怖かったしね。だけど、別に木の板は沈む事は無かった。揺れはするけど、砕ける事もなさそうだ。案外頑丈らしい。
 それかモブリの街だし、やっぱり魔法とかが使われてるのかも知れない。周りをみると、他にも飛空挺が見えた。多分、僕達が最初に使った定期船だよな後のは。
 用は今、僕達が降りた奴が特別に使用した船って事なんだろう。なんだか視線が集まってるしね。僕が周りを物珍しげに見てると、飛空挺の方からうるさい声が聞こえてきた。

「やあだーーーー!! 人権侵害だあああああ!! 訴えてやるーーー!!」
「失礼ですね。クリューエル様を私達は守ってるのですよ」

 そんな声と共に、最後に飛空挺から降りてきたのはクリエとミセス・アンダーソンだ。クリエは相変わらず嫌がってるみたいだな。

「守るなんてそんなのありがた迷惑だよ! 大人の戯れ言だよ! クリエはクリエは、自由を訴えるね!」
「子供は、大人に守られるのが普通ですよ。でないと生きていけない。まあ子供の頃はわからなくて当然です。
 だから駄々もワガママも言う。けれどだからといって、私達大人は投げ出す事は出来ないんですよ」

 ギャーギャー言いながら、二人も僕達と同じ場所に降り立つ。流石にここまで来てしまったら、逃げようもないから、言葉とは裏腹にクリエの奴は結構素直に着いてきてた。

「投げ出してくれて結構だよ。私には守ってくれる人が――」
「居るのでしょうか?」
「――うぐ……」

 言葉に詰まるクリエ。そしてそこで丁度僕と目があった。するとかなり陰険そうな目で、クリエの奴は僕を睨む。そして一声――

「うそつき」

 とだけ言った。どうやら、僕に対しても怒ってるようだ。まあ飛空挺じゃ、あれから一度も話さなかったからな。機嫌を損ねたままなんだ。
 確かに連れていってやるって言ったけど、まだ諦めた訳じゃないっての。言うなればここからが出発みたいなものだと考えてるね僕は。だから嘘つき呼ばわりされるいわれはない。
 たく、ちゃんと助けに行ってやるっても言った筈だけど。どうやら信じれないようだな。しょうがないから、機嫌をとっておいてやろう。

「ほらほら見てみろよクリエ。虹が一杯架かってるぞ」
「ふっ……そんなの見飽きた」

 ズガガ――――ンだよ。ああ、可愛くないガキだな全く。まあよくよく考えれば確かにそうなのかも知れないけどさ、最初の「ふっ」がなんかイラッと来たよ。
 なんだか暗にバカにされてる気がした。

「お前な、もっといつもみたいに喜べよ! 面白く無いだろ!」
「面白くなんか無いよ! だってクリエはもうおしまいだもん!」
「おしまいってお前……大袈裟な……」
「お兄ちゃんは分かってない。神の名の下に行う事は正義だとこじつける人達が一杯だよここは。宗教関係の上の方なんか大抵腐ってるんだから!!」
「それは言い過ぎだろ!?」

 こんな宗教の街でんな事堂々と言ったらやばいだろ。そりゃまあ少しはそうも思うけど、思うだけじゃ言わないよ。と、いうかミセス・アンダーソンがそこに居るのにその発言は不味いだろ。怒られるぞ。

「クリューエル様、そんな偏見をどこで覚えてしまわれたのですか? 私という手本がみじかに有るのに信じられない暴言ですね」
「だってアンダーソンだって猫かぶり……イタタタ! 痛いよ!」

 柔らかそうな頬を抓られるクリエ。ほらね、言わんこっちゃない。

「取り合えずこんな所ではお礼も出来ません。奥に用意させてありますから、行きましょうか」
「だ~か~ら~無視するな~~! クリエはクリエは怒ってるんだぞーー!!」

 ジタバタしてるクリエを余所に、ミセス・アンダーソンは進み出す。そして僕達もその後に続いた。まずは入国をするために、この道が続いてる建物を目指すみたいだな。そこを通らないと、本格的な街の中へはいけないみたいだしね。
 そして入国審査建物、まあ飛空挺のチケットとかが売ってあるそんな建物に入ると、いきなり目を疑ったよ。だってそこには、ひざまずいてる聖院の人達がいたんだ。

「「「お帰りなさいませクリューエル様。ご無事で何よりです」」」

 なんて言葉が一斉に紡がれる。なんて大々的に歓迎してるんだ。こんなの見せつけられたら、やっぱり特別なんだな……って思う。

「あらら、元老院のお一人がわざわざ出迎えるなんて、私は聴いておりませんが?」

 ん? なんだかミセス・アンダーソンはちょっと怒ってるような、苛立ってるような……そんな声をだす。元老員が気に入らないのかな? 仲悪そうだったし。
 すると指摘されたその元老院の人だろうその人が頭を上げて立ち上がる。まあ立ち上がっても、全然僕達は見下ろす状態な訳だけど……やっぱり元老院言うだけあって、一人だけその服は豪華に成ってる。
 なんだか細工が細かいというか……帽子も長いしね。

「ふっふ、サプライズと言う奴じゃよ、ミセス・アンダーソン。最初失敗したと聴いた時はどうなる事かと、不安じゃたが流石じゃの。
 まああれだけ大口を叩いたのじゃから、これくらいは当然じゃがの」
「なるほど……ええ、まあそれはそうですね。私は私の役目を全うしたわけです。それでいいですよね?」
「勿論じゃ」

 なんだか二人の間には、火花が散ってる様に見えるのは僕だけだろうか? 色々とこの国も厄介そうだな。変な権力争いに巻き込まれなきゃいいけど……僕達は豪華な馬車? みたいな物で街を抜ける事になった。
 どうやら元老院の人が用意した移動手段らしい。まああれだよ……平安時代に貴族が使ってた感じの物だよ。お姫様とかが良く乗ってる様な……まあこれを引いてるのは実際の馬じゃないんだけど。

 それはやっぱり魔法の国、青い光で出来た様な馬が僕達を引っ張ってくれてる。街の方の道は案外大きくて広い。まあ木造に変わりはないけど、発着場なんかよりも、ずっとしっかりとした作りに成ってた。しかも天井には無数の提灯が……あれが夜の光源なんだろう。
 やっぱり日本的な所を滲ませてる街だな。

「クリエの奴、大丈夫かな?」

 僕は視界を遮ってる布と言うかゴザというかそれをめくりあげて違う馬車を見る。用意されてたのは三台で、しかもそれほど広く無いから、僕達は別々に乗り込む事に成ったんだ。
 僕と鍛冶屋とノウイとテッケンさんで一台。シルクちゃん(+ピク)とセラがもう一台で、最後が元老院の爺さんと、ミセス・アンダーソン、それとクリエだ。
 なんだか男が理不尽な扱いに成ってるけど、まあテッケンさんは小さいから、そんな問題無かったよ。

「まあ楽しくは無いだろうけど、仕方ないさ。彼女は重要人物だし、他の種族の中に放り込む事は出来ないんだよ」
「それはそうですけど……」
「大丈夫、同じ場所に向かってるんだし、直ぐにあえるよ」

 テッケンさんの言うことは尤もだ。まあ気にし過ぎる事もないよな。そう、同じ場所に向かってるんだし……同じ場所に……

「あれ? クリエが乗ってる馬車、道を外れて行くんですけど」

 というか横道にそれちゃったぞ。これって……ええ~と、どう言うことだ?

「はめられた……かもね」
「それってつまり、このままあいつを箱庭まで連れていくってことですか!?」
「その可能性はたか――――スオウ君!!」

 僕はテッケンさんの言葉の途中で、馬車から飛び出した。木の床を転がる様に回って上手く態勢を前の方に向ける。そしてそのまま追いかけようとしたところで、複数の杖を向けられた。
 それは付いてきてた僧兵達が向けている。なんだか護衛にしては大層だと思ってたけど、もしかしてこの為か? 

「馬車にお戻りください。貴方は客人、その立場を壊さないで貰いたい。望むならばですが。どこへ行こうとしてるのかは存じませんが、客人を行方不明にしたとあっては、たまりませんから」
「――ちっ」

 こいつら、あくまでこういう態度なんだな。僕は一応聴いてみた。

「クリエが乗ってる馬車が道から外れたよな。同じ所に向かうんじゃないのか? おもてなししてくれるんだろう?」
「ええ、あなた方はそうですよ。ですがクリューエル様が疲れたから先に休みたいと申されて、お二方は先にクリューエル様を送り届けるそうです」
「へえー」

 なんて見え透いた嘘を堂々と言う奴だ。初めてモブリの可愛らしさに苛ついたぜ。クリエがそんな事言うはず無い。
 もしも別れるなら、幾ら怒ってたって挨拶位するだろう。いや、そもそもアイツの諦めの悪さは異常だから、自分から諦めるわけないんだ。
 そんな申し出あり得ない。

(どうする? 行くか?)

 そんな思いが頭に浮かぶ。この制止を振り切って馬車を追うって事は、客人ではいられなくなるって事だよな。しかも今度の相手は二大都市の一つ。小さな辺境の村とは訳が違う。

「スオウ君!」
「何々? どうしたの?」

 止まった馬車からテッケンさんが降りてきて、もう一台からは、シルクちゃんとセラが顔を覗かせる。二人は状況が分かってないみたいだな。

「えっえ? 何があったんですかテッケンさん?」
「クリエ様の乗った馬車が別ルートに行った。多分、僕達と会わせない気だね」
「そんな!」

 慌てるシルクちゃんは駆け出そうとする。けどそこにも僧兵の杖が向けられる。

「んっ!」
「シルク様……今、その選択は分が悪いです。私達は何も分かってないんですから」

 そう言ってシルク様を止めたのはセラ。そして僕にも視線を向けてこう言った。

「スオウも聞いてたでしょ。お追うなんてバカな真似はやめてよね」
「お前は、箱庭がどこにあるのか分かってるのか?」
「少なくともこの街のどこかにはあるわよ」

 確かにそうだけど……そうじゃないだろう。何やってんだ僕は……と思う。いや、一端こうなるとは思ってたけど、もっとちゃんとクリエには伝えて起きたかったんだ。
 こんな風に引き裂かれるとは思ってなかった。けど、それが甘かったんだ。

「馬車にお戻りください」

 リーダー格のそんな言葉に、テッケンさん達は従う様だ。まあそれが賢明なんだろう。殺される訳でもないし、少し前の状態に戻るだけ……まだチャンスは有るはずだし……今は引くことも大事。
 僕は剣に伸びかけてた腕を握りしめて引っ込めた。そして背中を向けて、馬車を目指す。けどその時だった。

「――――カアーー」

 何かが耳に引っかかる。街の喧噪とは違う声。僕は振り返りその声だけに意識を集中する。

「お兄ちゃんの……ううんスオウのブアアアアカアアアアア!!」

 聞こえたのはクリエの声。鳴き声みたいに聞こえたその文句に、僕の目頭が一気に熱くなった気がした。そして次の瞬間、僕は考えなしに床を蹴ってた。

「貴様!!」
「どけえええええええええええええ!!」

 セラ・シルフィングの雷撃が僧兵に降り注ぐ。そして風が弾ける如く、僕は駆け出した。真っ直ぐに、それこそ救いの声を目指して。みんなが頭を抱える光景が僅かに見えた。けどごめん、僕は行かなくちゃいけない!!
 新たな地『サン・ジェルク』での戦いの幕開けだ。
 第二百九話です。
 ようやく再び激しい戦いの幕が上がりそうな感じです。だけど何も知らずに、分からずに突っ走るスオウもどうなのか……みんなが頭を抱えるのもわかります。まあだけど、スオウらしいとは思いますけど。
 そしてきっとそう思ってるでしょうみんなも。さあクリエを取り戻す事は出来るのか? 
 てな訳で、次回は日曜日に上げます。ではでは~。


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