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大きく揺れる船体。更に壁からは水が浸水してくる。空にあった大量の水だ。空に水が大量にあるって時点で誰かの思惑が入ってると思われる。まあエリアを分ける役目のためだけにあるのかもしれないけど……でもやけにあの水、情報量がj多い気がするんだよね。
船体が傾いてからか、水は反対側によってるが、そのうちこっちまで来るだろう。
「早く脱出した方がよろしいですぞ。あなた方のせいでこの船は持ちません」
「あんた、何の為にで出来たのよ?」
ローレが老人にそんな事を聞く。確かにそれは思う。別段この人がいなくても僕たちはきっとあの宝石を壊してたぞ。それは予想できる筈だ。会長なら。ならこの人がいる意味って一体……そこで僕はハッとした。
「お前、会長か?」
「そういうこと。愛おしい人にどうにかして会いに来たって事」
「愛おしいとか、変なこと言うなよ」
何をローレは言うのか。変な空気になるから止めてほしい。でもそれなら納得出来るというか……あいつなら、紙を使って分身とか出来るだろうし、事前にこの船に紙を仕込んでいれば、いいだけだろう。あいつの力は結構万能……というか、祝福を得て結構何でもありになってる。
「ふぉふぉふぉ、何のことやら? 儂はただこの船を任された存在ですよ」
「任されたのに、ただ見てただけじゃん」
任されたのなら、妨害くらいするだろう。それなのにこいつはなにもしてない。こうしてる間にもドバドバと海水が入ってきてて、どんどん迫ってきてる。焦ってないのは僕もローレもその気になれば天井ぶち抜いて逃げる気だからだ。この船と一緒に心中する気なんてさらさらない。
まあけど、この水の中を通らないと、下で戦ってる皆の方へと行けないのがね。僕は普通に泳ぐ位のスキルしか有してないからね……水の中に何かいるとしたら困るって感じ。
「役目なので」
そういって老人はチラリと水をみた。そして行ってくる。
「逃げる自信があるようですが、それは叶わないですぞ」
そう言って老人は手をパンパンとたたく。その瞬間、僕はローレを抱えてその場から離れて反対側の壁の側面に立つ。風体武装なら壁に立つ位できる。
「変態」
「助けてやったんだよ」
失礼な奴だ。こっちはぬれるのを回避してやったというのになんという言い草。助けなければよかった。けどこいつを助けないとエアリーロが五月蠅いからな。精霊達はめっちゃローレに心酔してる。なんで? 召喚獣として契約した場合はそうなるのか……それとも付き合いの長さの違いなのだろうか? 精霊にも親密度とかあるのかな? 召喚獣とならないとなさそうだが……あったらそれで祝福とかも何かが変わったり? でもこっちは精霊を呼び出せる訳じゃないからな。
辺境に毎回行くのは骨が折れるから無理ある。
「助けるなら、もっとかっこよく助けなさいって行ってるのよ。なにこれ?」
「何って……まあ、お前をお姫様抱っこもどうかと思って……」
僕はローレを片手で荷物みたいに持ってる。どうやらそれが気に食わないらしい。助けられたくせに要求が多い奴である。まあ実際、別段ローレならどうにでもしたかもしれないけど……そもそも濡れる程度って感じでもあるし。
「ふぉふぉふぉ、流石ですな。今のを交わしますか」
そういう老人は既に水に浸かってる。逃げる気はない。まあきっとあれは生きてる存在ではない。NPCとかとも違うと思う。
「ですが、この意味がおわかりではないようだ」
「意味?」
「天井から水が出てるって事でしょ」
ローレが冷静にそう言うよ。なるほど……そういうことか。よく考えたら、側面とか底面から水が出てくるならわかるが、天井ってのはおかしい。船が海面に浮かんでる状態なら、天井から水が落ちてくるなんて事はないはずだ。
つまりこの船は今は……海中にあるって事だろう。逃げ場がない。
「おわかりいただいた様で――」
そう言ってこちらを見る老人の目は笑ってる。