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「合わせなさい!」
そういうローレがシャリンと杖をならして魔法を放った。それはこの見える範囲全てに影響を及ぼす魔法だった。ズン! と自信の体が重くなったのを感じる。重力魔法か……本当になんでも使える奴である。でもなんでこの場面でそれを選択してのか。
重力魔法なんてピンポイントでやってくれないと、僕やエアリーロのスピードを殺すじゃん。
(いや、合わせろってあいついったな――なるほど)
ローレの言いたいことがわかった。僕は重い体を動かして風を集めて空中を蹴る。これが上に向かうとした、重力魔法の影響でスピードがだだ下がりだっただろう。けど、僕の位置よりもあの三姉妹は下にいる。つまりはこの魔法自体が加速装置になる。奴らは動きも鈍ってる。これはチャンスだ。だからこそ、合わせろっていったんだろう。それにどうやら、三姉妹よりも下にいるエアリーロはローレが乗ってるからか、重力魔法の影響を受けてないみたいだ。
これなら今度こそ届くかも。更に加速して、一気に三姉妹へと近づく。けど奴らの杖は一つの魔法を放つ事に特化した作りで、その出し方も簡単だ。
「ううーん! この!!」
右団子奴がなんとか杖を振るう。冷気が周囲に立ちこめる。確かに防御という面では一番氷が適してるだろう。でも――僕は札を取り出してその札から出た炎を風で上手く増幅させてフラングランに纏わせる。それを振ってわずかだけど、冷気の隙間を作る。これでもいつもなら間に合わないんだが……今は重力加速も更に乗ってる。いける筈だ。冷気と熱気が混ざる中を僕は一瞬で通り抜ける。目の前には三姉妹の姿がある。
(いける!!)
この距離は僕の間合いだ。でもその時、三人の姿が一瞬で消えてわずかに遠くなる。それは数メートルだ。一足で届く。なんで? なんて疑問は後だ。ちらっと見えた紙が鍵だろうが、既に中央団子の奴が杖を振ってる。炎が来る。でもここで更に距離を開けるなんてできない。僕は突っ込むよ。こうなったらダメージ覚悟だ。
でも流石にまともに食らうわけにはいかない。僕は風を使って進路に穴を開ける。穴と言うか風が空っぽの場所だ。魔法には関係ないかもしれない。けど、やるだけやっても良いだろう。炎の燃焼には酸素とかいるじゃん。それを風を操ってどかしたんだ。
狙いは案外当たったのか。僕が進む場所だけは炎が弱い。実際よけれるならよけた方が確実に良いが、この距離では物理的に不可能だ。僕は炎に焼かれながらもフラングランをふるった。
「つっ!?」
そんな声が炎の向こうから聞こえた。しかもちゃんと手応えがあった。当たった筈だ。でもまだ安心なんてしない。炎から顔をだし、回転しながら、更にフラングランを振るう。けどまた、三姉妹が目の前からきえる。うざったい。けど、どうやら氷の杖をぶっ壊せたみたいだ。たまたまだったが、よかった。これで奴らの連携は崩れる。
しかも……だ。
「ごきげんよう、逃がしはしないわよ」
そういうローレには強者の雰囲気があった。エアリーロと共に、三姉妹に突っ込んでいく。