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Space Professor

作者: DIVER_RYU

生物可住惑星05。突如現れた一隻の宇宙船。乗組員の二人は何をしに来たのだろうか……。

「先生、間もなく“生物可住惑星05”にたどり着きます」


「ふむ、星の状況を調べたまえ」


 生物可住惑星05。この青い星の近辺に、ある時一隻の宇宙船が訪れた。船の中には二人のヒューマノイド型宇宙人が乗っており、二人とも昆虫を思わせる殻と大きな複眼、特徴的な触角を持っている。


「先生、大変です! この星は恐ろしいことにかの悪名高き猛毒、“酸素”に覆われております。更にこの星の重力は我々の星の約20倍、このまま近付けば我々は……」


「うむ、仕方ない。ここに留まって観察をすることにしよう。何せこの星、こちらから入りこまなくとも……」


 先生と呼ばれた個体は、あるスイッチに手をかけた。途端に、モニターには様々な映像が映し出されて行く。


「見たまえ。こちらから何か発信したワケでもないのに、あちらの方から様々な情報を発信してくれているではないか。これならサンプル採集の手間が省けるというモノ。早速、分析して行こうではないか!」


 彼らは研究者である。生物の生息が確認された星を見つけては入り込み、サンプルを採集しては研究所に持ち帰り、体の構造等を調べているのだ。

 彼らの住む星は大量の硫化水素に覆われており、それを分解することで得られるエネルギーを使って彼らは生きている。しかしそんな環境に適応した彼らは酸素に弱く、極めて有毒の物質として恐れ嫌っているのだ。


「何ということだ……。先生、この星は、こんな酸素に覆われた死の星にも関わらず、大量の生物種が確認できます。しかしおかしいことに、電波を使う生物種はわずか1種類しか確認できません!」


「これは何とも奇妙な現象だ。そして同時に非常に興味深い。ではこの生物について、徹底的に調べ上げて行こうではないか」


 二人は改めてモニターに向かう。二人は電波を積極的に受信しているある個体を突きとめ、その住みかに小型観察機を送り込んだ。


「楽しみですね、先生」


「うむ。この猛毒の星の落とし子は、一体どのような生態をしているのだろうか? ……お、早速何かを捉えたようだぞ?」


 モニターを覗き込む二人。興味に輝くその目に写った光景、それは……


「ハァハァ……可愛いよぉ。あ○にゃんペロペロしたいお……」


 恰幅の良い個体が、二人の使う装置とよく似たモノを覗き込みながら息を荒げている。


「先生、この個体はあまり健康状態が良くないようです」


「うむ。しかし待ちたまえ、私がこの星の言語アルゴリズムを解析した所によると、この個体はとても幸福な状態にあるようだが……。しかしこの個体、一体何を見ているのだ?」


 二人は更に観察を続けた。この個体は相変わらず多幸感に満ちた言語を放ちつつ、モニターに齧りついている。観察機の存在には微塵も気付いていないらしい。


「先生、この個体が見ているモノはどうやら、特定の形に記号化された情報のようです」


「うむ、その情報で多幸感が得られるのか。これは興味深い。更に観察を続けようではないか」


 自分が何者かに見られているとも知らず、この個体は画面を見続けてはうわ言を発している。この奇妙かつ興味深い行動を、二人はまじまじと観察し続けた。


「先生。この個体の肉体にはますます負荷がかかっているようです。その証拠にほら、心拍数が急上昇しています! このままでは危険な……」


「いや待て、何か来るぞ!?」


 ガタン、とモニターの奥で音がする。見ると、更に恰幅の良い別個体が、この星の重力では考えられないほどの速さで入り込んできた。踏みつぶされないよう、観察機を住みかの角に移動させ、なおも彼らは観察を続けた。


「うわ、母ちゃん! 入ってくる時はノックくらいしてお!」


「や○夫! 昼間っからまたそんなモノを見て! 少しは外に出て、彼女でも作ろうとは思わないの!?」


 別個体の甲高い声が、モニター越しの船内にまで響き渡る。二人は耳を押さえてモニターからのけ反った。


「うわ、なんてデカい声だ! 先生、これは、他の同性個体による音声攻撃でしょうか!?」


「違う! 訳した所、この個体は親だ! しかし我が子を攻撃するなど、これまで見て来たどの星でも見られなかった行動なのだが……」


「そうですね。攻撃を受けたにしてはこの子個体、反撃も防御もしている様子が見られません。それどころか、心拍数等が正常化している模様です……」


 分析しつつ、二人はモニターの向こうの奇妙な行動を観察し続けた。


「彼女ならここにいるお! 今いいとこだったのに……」


「アンタねぇ……。良い? あ○にゃんなんて娘は本当はいないのよ、もっと現実に目を……!? ちょっと何このデカいゴキブリ!!」


 プツッ、という音を残して、モニターの画面は真っ暗になった。


「先生、途絶えました」


「うむ。巣の中の異物は排除する、子を持つ親としては当然の行動だ。だがしかし、一個体のデータとしてはかなり有意義なモノが取れたといえよう。お次はこの、積極的に発信しているこの個体を観察してみようではないか」


 再び観察機が送り込まれる。しばらくして、モニターにはまた違った様子の住み家が映し出された。


「先生、今度の個体は随分と細身ですね。亜種でしょうか?」


「いや、遺伝的差異はほとんどない。問題は栄養状態だろう」


 モニターに映し出された細身の個体。やはりあの装置に齧りつき、一心不乱に何かを発信し続けている。


「先生、こちらは先程の個体とは対照的なようですが……」


「うむ。よし、君には観察機の操縦を任せよう。私は、この個体の発し続けている言語情報を解析する。良いね?」


 早速二人はそれぞれの作業に集中した。十分後。


「先生、こちらは特に変化はありません。そちらはどうでしょうか?」


「どうも何も見てくれたまえ。これはひどいとしか言いようがないだろう」


 教授は助手にモニターを見せた。そこに写っていたモノ、それは……


『この厨房が。半年ROMってろって言っただろ、お前の半年とは一体どれくらいなんだ? あ?』


『シッタカ乙^^ 二度とくんなし』

 

『スイーツ(笑)UZEEEEEEE! タヒね、氏ねじゃなくてタヒね』


『このゴキ腐りが。湧くんじゃねーよ黙ってろ』


 次々に浮かび上がる文字の並び。これがこの個体が発信していた情報である。


「一体この個体は何が言いたいのでしょうか……。先生、私にはイマイチ分かりませんが……」


「私にも読解出来ない。何かの暗号だろうか? 支離滅裂な上に何というか……見てると心がすさむんだが」


 頭をひねり、モニターの前で立ち尽くす二人。その間にもこの痩せた個体は、次々にこの謎を秘めた情報を放ってゆく。


「受信した個所を調べてみたのだが、これはどうも攻撃のようだな。困っている様子が伺えるよ」


「しかし先生、この個体の住み家と受信先の住み家の距離は実に数十キロも離れています。一体何故攻撃をしているのでしょうか? 縄張り争いにしてはあまりに離れ過ぎ、国家間の戦争にしてはあまりに小規模だと思うのですが……」 


 理解の出来ぬ行動にますます考え込む二人。しかしその五分後、この沈黙は突如として破られた。


「にゃー」


 観察機の映すモニターから突如声が響く。異常事態に気付いた二人はすぐさまモニターに駆け寄った。


「先生、この毛だらけの生物は一体……うわっ!」


 モニターに映ったモノ。それは全身に毛を生やした四つ足の生物で、頭には特徴的な三角の耳が付いていた。好奇心にあふれた眼がこちらを捉えている。直後、生物の前足がモニター目がけて突っ込んできた。


「馬鹿な、他の生物を住み家に住まわせるのは嫌がるのではなかったのか!? いかん、とにかく今は逃げなければ!」


 助手の操作により、観察機はこの毛だらけの生物から逃避を企てた。しかし生物の動きもまた速く、観察機はたちまち壁の角へと追いやられてしまった。そしてよりにもよって、装置に向かっていた痩せた個体が動き出したのである。


「ん、ミケ? 急にどうしたんだ……うわ!? こら、こんな汚いモノを触っちゃ駄目だろ常識的に考えて!!」


 プツッ。またもモニターの画面は真っ暗になった。


「今の生物は一体……」


「駄目だ、これまでにない勢いで観察機が破壊されてゆく……。今回は一旦切り上げよう。しかし……観察機の形状は、この電波を使う生物の住み家に最もよく現れる小型生物を模したモノだ。まず警戒されることはないと思ったのだがな……。まだまだ研究の余地がありそうだ。これは良い論文が書ける、今度の学会で発表しようではないか!」


 船は星から離れると、再び宇宙の彼方へと飛び去って行った。果たしてこの二人はこの星の生物を学会でどう発表したのか、そしてどんな反応が返ってきたのか、それはこの青い星の者に分かる者は誰一人いないだろう。


『……星は一面酸素に覆われた、まさに死の星である。この過酷な環境に住む生物の一種に、我々と同じく電波を用いたコミュニケーションを取ることが確認された。ある時は記号化された情報から多幸感を得られ、またある時は支離滅裂な情報を大量に送り込んで攻撃することも可能である』


『……このように、この星の生物は非常に高度な電波社会を築いていることが証明されるだろう。しかしこの生物の生態には多くの疑問が残る。何故彼らは記号化された情報を、健康を損ねてまで求めるのか。何故彼らは遠く離れた縄張りに執拗に攻撃を仕掛けるのか。確認された行動だけでも非常に多くの謎が含まれている』


『……しかし最大の疑問は、何故彼らは殻の薄い、もしくは殻の全くない個体の情報を大量に受発信するのかということである。更に、この生物の性別の比率はほぼ1:1にも関わらず、この情報における個体の大半は雌で、雄の個体は比較すれば非常に少ないのである。この現象の裏には一体何があるのか、疑問と興味は尽きることがない。今後更に詳しい調査が必要とされるだろう……』


突如思いついた短編です。ブランク解消の肩慣らしのため、書かせていただきました。一気に書いたので変なところもあるかもしれませんが、感想&レビューお願い致します。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 2ちゃんねるをテーマにあげたショートショートは初めて読みました! とても新鮮でした。また風刺も程よく効いていて、すんなりと読めました!
[良い点] 文章、ストーリーともに読み易く、小説を書き慣れている作者さんだと思いました。 さりげなく忍ばせる設定もお見事です。違和感なく世界観を理解できました。 [一言] 二つのエピソードですが、…
2012/03/20 12:39 退会済み
管理
[良い点] 受けるっ!お腹を抱えて笑いました!こういう小説大好物です! [気になる点] でも私、ゴキブリだけは苦手です、はい。 [一言] あずにゃんは私も好きだけど、ペロペロしたら駄目だぞ!でも面白か…
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