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第百七十九話
第百七十九話  ボートで進みながら
 赤音を入れて三人になった。しかもボートを手に入れたので移動はかなり楽になった。少なくとももう水の中に直接入らなくてもよくなったのだった。
「ああ、もうこれだけでね」
 美奈子はボートの上で満面の笑みを浮かべていた。
「満足したって感じかしら」
「まだ赤音しか見つかってないのに?」
「もう泳がなくていいから」
 だからだというのである。
「もうそれだけでね。最高よ」
「そんなに泳ぐの嫌なの」
「水自体は嫌いじゃないわ」
 実は美奈子はかなりの奇麗好きだ。お風呂も毎日入っている。入る時はいつも華奈子と一緒で二人仲良く入っているのである。何だかんだで仲のいい姉妹である。
「それはね」
「泳げないからなのね」
「そういうこと」
 バツの悪い顔で双子の相方に答える。
「だからよ。泳げないからよ」
「浮き輪がないとそれこそなのね」
「沈んでもうそこから」
 そういうことであった。
「浮かんでこれないから。だから泳ぐのは嫌なのよ」
「仕方ないわね。もうそれはね」
「納得してて。私とにかく身体動かすのは駄目だから」
「美奈子まだ泳げないの」
 横で話を聞いていた赤音がその美奈子に対して言ってきた。見れば彼女は自分の色とも言える黄色の水着だ。どういうわけか彼女も半ズボンタイプの水着である。
「学校でも泳げてなかったわよね」
「ずっと泳げてないわよ」
 赤音に対してもバツの悪い顔で返す美奈子だった。
「それはね。恥ずかしいけれど」
「別に恥ずかしいことじゃないけれどね」
 赤音は泳げないこと自体はいいとしたのだった。
「それ自体はね」
「泳げないことはいいの」
「だから。誰だって得手不得手があるじゃない」
 こう美奈子に言うのだった。オールをこぎながら。今は華奈子と彼女がこいでいる。美奈子は舵取りをしている。その状態で三人役割分担をしているのだった。
「だから。いいのよ」
「そうなの」
「ただ。それを恥ずかしがらないことね」
 だが赤音はこうも美奈子に言った。
「それをね。恥ずかしがらないの」
「恥ずかしがったらいけないの?」
「そうよ。だから誰にだって得手不得手があるのよ」
 このことをまた美奈子に話す。
「それは仕方ないからね。恥ずかしがっても」
「そういうものなの」
「だからよ。ちゃんと胸を張って」
 実際にここで胸を張ってみせる赤音だった。
「前を向きましょう。いいわね」
「そうね。やっぱりね」
 赤音のその言葉に微笑む美奈子だった。今華奈子も入れて三人は温かく微笑んで先に進んでいた。


第百七十九話   完


                  2009・3・29
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