第百四十九話
第百四十九話 珍しく穏やかに
小田切君と今田先生は本当に穏やかに話をはじめた。まずそのことに声をあげたのは小田切君だった。
「何といいますかね」
「どうかしました?」
「いえ、毎日何かと騒がしいじゃないですか」
こう言うのである。そうさせているのが誰なのかは言うまでもない。
「それが。珍しく」
「そうですね。穏やかですね」
「そうですよね。何かそれが」
「どんな感じですか?」
「忘れていました」
そんなことは完全に忘れてしまっていた小田切君なのだった。
「正直言って」
「そうだったんですか」
「博士と一緒にいるとですね」
その騒がしくしている張本人についてごく自然に話がいく。
「朝起きて研究所に行くと」
「そういえばですね」
先生はふとした漢字で話を変えてきた。
「研究所にはいつもどうやって行かれているんですか?」
「研究所にですか」
「はい、どうやって通ってるんですか?」
「自転車です」
意外と平和な方法での通勤である。
「雨だと歩いてです」
「そうだったんですか」
「自転車は身体にいいですし移動に楽ですし」
その理由はごく自然である。
「ですから」
「そうなのですか」
「別におかしな理由じゃないですよね」
話をしているうちに何かそれではまずいのかとも思い先生に問い返す。
「自転車でも」
「ええ、それは」
先生もそれにはこだわらないのだった。
「私も自転車は好きですし」
「あっ、そうなんですか」
「はい。意外ですか?」
まるで天女の様な優しい笑みで言う先生だった。
「それは」
「いえ、それは」
だが小田切君はそれについて特に思うことなくこう答えるのだった。
「別に」
「おかしくないですか」
「いいじゃないですか。自転車は身体にいいですから」
「そうですよね。私も健康に気をつけていますから」
「そうなんですか」
「これでも。何かと大変なんですよ」
その天女の笑みのまままた小田切君に話す。
「魔女の先生も」
「そうだったんですか」
話は面白い方向に進んできた。今度は今田先生の日常についてだ。思えば謎の多い先生だが遂にそのヴェールを脱ぐ時が来たのかも知れない。
第百四十九話 完
2008・11・19
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