最終話
新帝国暦二二年一月一〇日、惑星ウルヴァシーの補給基地で最終調整を行ったサターンは惑星ガレスの警備艦隊基地に向けて離陸しようとしていた。
「卿には世話になった。ありがとう。クリス」
ヴェルナーはクリスに手を差し出した。
「お前のためだ。ヴェルナー。最高の艦に仕上がったろう? それから、結婚は取りやめにしよう、ヴェルナー。どうやらお前には別に相応しい女がいるようだからな」
クリスはそう言うとナオを見た。ヴェルナーは頬を赤らめた。
「私はコンピュータの専門家だぞ。お前たちの様子なんか、私に筒抜けだ」
「見ていたのか!?」
ヴェルナーはうわずった声をあげた。クリスはヴェルナーの耳元に口を寄せた。
「だから、早くナオに想いを伝えてやれ。でないと、私がお前を押し倒してやるぞ」
クリスの一言にヴェルナーは吹き出した。
クリスはナオに握手を求めた。ナオは笑ってクリスと握手を交わした。そこに初対面の時のような険悪な様子はなく親愛に満ちた握手だった。
クリスはヴェルナーの時と同じようにナオの耳に唇を近づけると、何かささやいた。ナオは耳まで真っ赤になるとクリスは笑い、再びヴェルナーのところにやって来た。
「また、私の力を必要とする時はいつでも来い。力になってやるぞ。ヴェルナー」
「あぁ。その時はよろしく頼むよ、クリス」
新帝国暦二二年一月一〇日午後五時、ヴェルナー・テンシュテット大佐率いる戦艦サターン以下二〇隻は惑星ウルヴァシーの帝国軍補給基地を離陸した。
「ねぇ、ヴェルナー。さっきクリスになにを言われたの?」
ナオはヴェルナーに言った。指揮シートに腰掛けたヴェルナーはサターンの全天周モニターが映し出す星の海を見ながら返した。
「秘密……かな。ナオさんは?」
ヴェルナーがナオの方に顔を向けるとナオはあわてて前を向いて言った。
「私も秘密よ! ……それより、ヴェルナー。……ちょっと」
ナオは指で手招きした。ヴェルナーは怪訝そうに身体をナオの方にのばすと、ナオから鉄拳が飛んで来た。
「痛いな! ナオさん。なにをするんだ!?」
いきなりのげんこつにヴェルナーは抗議した。
「私の唇を奪った罰よ。これだけで済んだのだから良かったと思いなさい」
痛そうに頭をさするヴェルナーにナオは小さくつぶやいた。
「今度はちゃんと気持ちを打ち明けてから奪いなさい。そうしたら、私は……」
「ナオさん? 何か言ったか?」
涙目のヴェルナーがナオに尋ねた。
「ううん! 何でもないわ。何でも……」
ナオはひと際大きな声でごまかした。二人の眼前には幾万の星が輝いていた。この星の下、ナオとヴェルナー、二人は戦い続けていくであろう。金色の獅子の旗を掲げて。
銀河の歴史がまた一つ紡ぎあげられていく……
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