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黒獅子物語 作者:黒井ここあ

第一章 眠れる獅子の旅立ち

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八、星夜の邂逅

キャラクターデザイン(外部リンクです)
http://toumorokosi.zero-yen.com/kurosisiframe.html

キャラクター紹介
http://ncode.syosetu.com/n2893cc/
     1

 グラズア達が城内に舞い戻ったのは、夕餉時のことだった。
 それと時を同じくして、場所は港町スキュラ。
 家々の明かりがふんわりと広がり、あたかも街を温めているかのようだ。
 その優しい明かりの中、船旅を終えた乗組員達は疲れを癒す為に夜の街を闊歩していた。
 スキュラが、夜の方が賑やかになるのはこういう訳だった。
 したがって、あちこちのカフェが全てパブに早変わりするのも必然なのだった。
 なにせ、昼間の客は知れているのだから。
 スキュラの船乗りは、日の落ちる前から飲み始めて、陽が上がる頃に船へ帰ってゆくのだ。
「じゃあ、いってくらぁ!」
 港にほど近い家からも、逞しい身体つきの船乗りが今まさに出かけようとするところだった。
「うん。飲みすぎないでよ? 迎えに行かないからね!」
「手前に運ばれるほど、老いぼれちゃいねえよ」
「何遍も運んだ記憶があるな。シグももうお爺ちゃんかな?」
「うっせぇ! 働き盛りだ!」
 出かける父親の背中に、息子がひらひらと手を振った。
 少年は、扉が閉じられるや否や、自室に戻って荷造りを始めた。
 彼の持ち物を全て入れても、頭陀袋は一杯にならなかった。
 彼は、頭陀袋をたすき掛けにすると、その足で家を後にした。

     2

 少年は一人、草を蹴散らしながら草原を駆け抜けていた。
 街道を行っても良かった。
 しかし、誰かに見つかることだけはしたくなかった。
 今日がたとえ新月の日だとしても。
 月光の加護が無い暗闇で、星々がその輝きを競わせているとしても。
 息を切らして走る彼の指先が、秋風によって正常な感覚を奪われはじめる。
 冷え切った末端は、刺すように悴んでいる。
 少年の、すっと通った鼻先が寒さに紅く染まり始めている。
 夏の終わり、秋の始まり。
 この時期に昼夜の寒暖差が確実に広がってゆくのを、ルヴァはその身体に実感していた。
彼は、航海で培った星座の知識を頼りに、方角を見極めながら進む。
 夜が明ける前に、辿りつかねばならないという信念。
 それと隣り合わせの、暗闇への恐怖。
 それらを奇妙に結び付けているのは、衝動にも似た興奮だった。
 これは、彼にとって初めての家出だったのだから。

     3

 森を抜けた先にある、開けた農場。
 目的地は未だ、遠かった。
 うっそうと茂る森の淵にそって、少年は一心不乱に駆け抜けていた。
 狼のものらしい遠吠えが、彼の恐怖心をあおる。
 駆ける足が疲労感でもつれた拍子に、彼は大きく頭から転倒した。
「痛た……。――っ!?」
 立ち上がろうとする彼の周りに、草むらを掻き分ける音、そして複数の足音が聴こえた。
 複数ではあるが、気配はただ一つ。
 金属音もせず、無駄のない足取りから、彼を狙っているのは四本足の獣だと 少年は悟った。
 気がつくと。
 彼の耳に、低い唸り声。
 彼は、一つに束ねた水色の髪をそっと払った。
 後ろだ――!
 命の危機感を感じ、鼓動と呼吸が否応にも速くなる。
 双子くんたちの時見たく。
 呼吸を奪えば――。
 彼は立ち上がって、魔法を放とうとした。
 その瞬間。
 獣が地面を蹴り上げ、彼の横腹めがけてその牙を剥いた。
 だめだ。
 喰われる――……。
 あまりにもあっけなく、少年の冒険と人生に幕が下りる……。
 そう、覚悟を決める余裕も無く、ルヴァの瞳が絶望に見開かれた。
「あ、頭を守っていてください!」
「!?」
 夜にそぐわない少女の声。
 幻聴かと思ったのもつかの間、ルヴァの目前で何かが爆風と共に現れた。
 彼の冷え切った手足を照らしだしたそれは。
 勢いよく燃えさかる火柱だった。
 あまりの驚きに固まってしまった少年の顔が、赤く照りだされる。
 彼を襲おうとしていた獣は、火柱に捕えられたまま、消火せんと辺りに転がっていた。
 しかしその炎は獣の毛皮を、肉を焼き続けた。
 タンパク質の焦げ付いた匂いが辺りに立ち込めるころ、獣はぐったりと四肢を投げて息絶えていた。
 辺りの草むらに、未だ炎が残っているのを見たルヴァは、小さな水球を作り一つずつ当て、消火した。
 乾燥の厳しくなる秋に山火事が起こってしまっては、取り返しのつかないことになる。
 丁寧に残り火を消し終わると、少年は安堵の一息をついた。
「……何処の誰か知らないけど、助かったよ」
 ルヴァは、何処に居るのかわからない少女に礼を言った。
 すると彼の右後ろから、落ち着いた足音が聴こえて来た。
 振り向いた先には、ルヴァと同じくらいの背丈の少女がいた。
 彼女の髪は、星明かりにふんわりと透けていた。
 ルヴァの様な水色ではない。
 すなわち、彼女は古代の民――ワニア民族ではない。
 なのに、なぜ――?
 少年は、驚きを隠せなかった。
「……君は……?」
 目前の少女も、目を丸めていた。
「……あなた、も……?」
 風が、少女の深紅のリボンをはためかせていた。
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