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黒獅子物語 作者:黒井ここあ

第三章 マリオネットの憂鬱

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十、Dear,My Hidden Doll

     1

 五月二二日。湖水地方ヴェデン・ヴァリの戦火は消えていた。
 先日までの濁り空が嘘のように、水色が空を、そして大地を明るく染めあげている。
 雨が洗いあげた大地に、三つの人影がどこからともなく姿を現した。
「ココ。この座標で合っているのか?」
「うん」
 三人組の中で最も背が高く眼鏡をかけた男が、肩に乗せた幼児に向かって問う。幼児は猫に似た小さな鼻をひくつかせながらうなずいた。横に長く伸びたふかふかの耳が揺れる。人の子ではないことは人目に明らかだ。
 《英知の書》の使い手エイノは、風の来るほう行くほうを体ごとぐるりと見渡した。
 あたりには、人間が、そして馬が時を止めた姿に変わり果てている。鎧を見て、すぐにわかった。彼らは騎士ラインの指揮下にあった男たちだ。だが雨降る一夜を経て水を吸った遺体は鉄くずと化した鎧から溢れんばかりにふやけた、異臭を放つ肉塊になっていた。故郷の土に連れて帰ってやりたい気持ちはあった。だが、虫にたかられている今、それは歓迎されないだろう。エイノは息をついた。遺恨のため息は数えきれない。そしてこれが、最後ではないだろう。
「……ひどいな……」
 エイノの脳裏に、精悍な少年王の姿がよぎる。年相応の屈託のない笑顔を見せる若き国王――現在はラミナスの登場と偽装で追われる身だが――も、伏した兵士たちと同じく、アマネセールに戻らなかった。先に戦地へ赴いた彼の右腕アルラインも、義憤に駆られて飛び出した彼を追った恋人のテュミルもだ。
「この中の、どこに……?」
 エイノはいやな想像を、首と一緒に振り払った。
 彼のつぶやきを聞いてか、彼の両脇にいた二人の子供がそれぞれ握る手を強めた。不安がっている。エイノはそう思った。
「……キライな臭い」
「血の、臭いです」
 双子の片割れ、クロが言うのを、弟が引き継ぐ。彼らはエイノと繋ぐ手と反対のほうで、自分の鼻をつまんでいた。
「しいっ。二人とも、慎重になってくれ。まだ残党がいるかもしれない」
 眼鏡の軍師が言葉どおりに歩むのを、子どもたちが真似する。
 心苦しいが、仕方がないことだ。そう思えど、進む足は重たい。
 書架に生きる青年なれども、人間、そして生物の死は幾度となく直面してきた。けれどもエイノの二四年の人生で、こんなことは初めてだった。
 死体の中から、死体を探すのは。
 まただ、とエイノは自分を戒めた。そんなことは、信じたくない。だが、願ってもいないのに、昨夜からずっと絶望がささやき続ける。僕の信じたまことの王は倒れた。
「エイノ!」
 甲高い少年の声に、軍師は気を取り戻した。
 いけない。希望を捨てては。
「どうかしたのか、クロ?」
 軍師が呼びかけたとたん、黒い頭頂をもつ少年がくるりと宙返りをして変化した。黒豹の姿になった彼は、傍目からも不快そうに目元をしかめながら大きな鼻をひくつかせた。それだけに飽き足らず、湿った大地に頭をかがめ、匂いを嗅ぐ。弟も何かに気付いたのか、同様に変身し、兄とは別の方向へと鼻を利かせはじめた。
 二頭の四肢が音を立てずに死人の合間を行くのに、エイノも続く。
 双子は時折、舌を出しながら口で呼吸をしては、咳き込んだ。きつい死臭がえがらっぽさを誘うのだろう。エイノはやるせなさに二頭の背中を撫でてやる。
「がんばります」
 青年の手に頭をすりつけてきたシロの黄金の瞳には涙がにじむ。そしてみるみるうちに滴が溜まって、しまいにはぽろりと零れ落ちた。
 そして双子は、生臭さに満ちた大地を蹴りあげて駆けだした。
 走れる彼らを、エイノは羨ましく思いながら見送った。

 文字通り息苦しい時間を、どれほど過ごしただろう。
「こんなのがお別れって、やだよ。やだよ……!」
 アマネセールの中でも、そうだ。彼ら三人を送り出してくれた薬師の少女の目元から、とめどなく溢れた涙の意味を、幼い子供たちはどう受け取っただろうか。
「あの二人は死を受け止めてゆけるのだろうか……」
 二頭の豹に残されたエイノが、腐食の始まった人や馬の遺体をずらし、どかしても、あの人目を引く純黒の髪は見当たらなかった。銀色の乙女や、灰色の青年もだ。大将として首を取られたことも危惧し、首のないむくろも探したが、それもなかった。
 死臭と汗が粘つく不快感に、エイノは幻覚を見るほどのめまいを覚えた。時間の感覚さえおかされるようだ。まるで自分が死人狩りをしているような錯覚も生まれてくる。乾いた笑いが青年の喉をかすめた。
「今後、テュミル君を盗人とは呼べたものじゃないな」
 そのときだった。
 腰をもたげた青年の視界に、黒豹が駆け寄ってくるのが見えた。湿気た大地に砂埃が立たないので、その姿はくっきりと映った。その表情はわからないが、勢いの良さから何かを見つけたのは確かだと思えた。
 一分もたたずしてクロがエイノの足元にたどり着いた。そして彼のローブを噛んで引っ張る。
「来て! 来て!」
「見つかったか? グラズアどのか!?」
「いいから!」
 二人は吠えあうと、各々駆けだした。
 元来、運動は苦手なエイノだったが、この時ばかりは気が急くままに足が動いた。気持ちに余裕があれば、その速さに自信を高めるところだ。だが、胡桃色の髪を額に貼りつかせながら急ぐ司書の心は、友人の安否で占められていた。
 死体を避け、喉を枯らしながら駆けると、シロの頭が見えてきた。先だけが黒い耳が、ぴょこぴょこと蝿を追い払っているのがわかるぐらいに近づくと、エイノの足がだんだんとゆるんだ。ぴちゃぴちゃと靴が濡れ、泥がつく。
「これは……」
 三人がたどり着いたのは、広くすり鉢状に削られた台地の、その真ん中だった。何かの力が隣にある湖までも削ったようで、その境目から水がこぼれて侵入している。その浅い水たまりに、黒い鉄の塊が頭を出しているのを、シロが鼻先でつついた。
「これ。父上の匂いがするです」
 白豹の喉が悲しそうにくるる、と鳴るのを耳にしながら、エイノはそれを持ちあげた。泥水がこぼれ落ちる鉄板は、ゆるく山なりに鍛え上げられていた。
「肩当て……、金縁の……!」
 司書の血相が変わる。それは、開戦直前に彼が触れたものに相違なかった。傷一つなく黒々としていた表面は削られて、見る影もなくなっていた。
「これも」
 クロが、唖然とするエイノの足元に次々と黒獅子の鎧の破片を持ち寄っては、置いていく。そのすべてが、パーツごとにバラバラにされていた。
 見るからに頑丈そうだったフルプレートが、こうも無残に散らされるとは。
 鎧は、剣で一枚ずつはがされたのとは異なり、一瞬で爆散したようだった。その証拠に、破片には剣戟で付けられるはずの筋張ったへこみが見当たらない。
 エイノは何度目かわからない絶望を心に描いた。
「魔法の爆発、だろうか。さすがのグラズアどのとて、無事では……」
 思わず口を衝いて出た思いに、彼ははたと疑問を覚えた。矛盾があるのではないか?
「ココ! ココ!」
 司書がショルダーバッグの上から〈英知の書〉を叩くと、本の精霊がどこからともなく姿を現した。そして、身をひるがえして司書の足元に降り立った。後ろ足――鹿の蹄が水たまりに波紋を作る。
 エイノは膝が濡れるのもかまわず、精霊の長い耳に齧りつかんばかりに詰め寄った。
「魔法だ! 魔法の一撃に違いないな?」
「うん。でも、らみなすだから、まじゅつ」
 幼児は耳をぎゅうっとオオカミの両手で押さえた。小さな鼻が、上下に動き震える。
「こわい。らみなす、ここにいた」
「やはり! では、では、グラズアどのは――!」
 森を揺らす風の音が、エイノの耳にやっと届いた。それは、生命の音だった。風が運んでくる命の儚い臭いの奥に、青々とした草花の香りがあるのにも気付いた。
 その瞬間、エイノの瞳の奥がツンと痛み、熱いものがあふれ出した。
「エイノ、泣くのか」
「泣くです、悲しいです」
 流れる涙に呆けてしまった青年の頬を、いつの間にか戻ってきていた二頭の豹が厚い舌で易しく舐めていた。エイノは言葉なく、その頭を優しく撫でさすった。
「父上、死んじゃった?」
「母上も、です?」
 エイノが撫でていた短毛の頭は、いつしか人のものになっていた。そして双子はまだ短い両腕を青年に回し、頭ごと抱きついた。服に温かいものが染みているのを、エイノは努めて無視した。幼い養子たちは、彼らなりに愛する者を失う悲しみと向き合っているのだ。
 失う? エイノの顎が思わず力む。そうとは決まっていない!
「シロ、クロ。まだ望みはある」
 少年たちは顔を上げない。エイノは思った。そのまま聞いてくれ。
「グラズアどのは――君たちの父は、魔法制御マジックキャンセラがある。まだ――」
「でも、父上の、血の臭い、たくさんした!」
「父上も母上、どこにもいなかったです!」
「ラインも。みんな、死んじゃったんだ!」
 二人は涙と鼻水をこすりつけるように、いやいやをしながら言う。言っていることと望んでいることは全く正反対なことに、彼らは気付けていないだろう。それほどまでに冷たい現実を突き付けられているのだ。エイノは辛抱強く重ねる。
「いや。まだだ。確かに、傷ついたに違いない。そして、二人が生きていてここで僕らが待っていても、連絡はずっとこない」
 シロがはっとして、顔を上げた。真っ赤になった目からは、とめどなく涙が流れ出ている。
「約束……。待ち合わせ!」
 少年の鼻声に、エイノがうなずく。
「そうだ。テュミル君には、グラズアどのにもしものことがあったら、身を隠すよう言ってある。そして、こちらからの迎えを待てと。そういう約束をしてある。だから、だから……」
「お迎え……!」
 次に顔を上げたのは、クロだった。
 エイノは深くうなずく。ぬか喜びをさせるような罪悪感は拭えない。けれども、可能性はまだあると己に言い聞かせながら、彼は言葉を重ねた。
「君たちにしか、出来ないことだ。鼻のよく利く君たちにしか。辛く長い旅を強いることになるだろう。だが、僕たちではできない」
「エイノさんに、できなくて……」
「オレたちにできること……!」
 軍師はうなずいた。そして、そっと二人を抱き寄せた。
「……お願いだ。みんなを見つけ出してくれ」
 喘ぐような乾いたひとことは、エイノの心からの願いだった。
 少年たちの細い四本の腕が、それぞれにエイノに触れる。
「オレ、行くよ。行きたい。父上を迎えに」
 クロが間をおかず言うのに、シロは追随しなかった。エイノが訝しみながら双子の弟を見やると、彼は少し思案したのち、口を開いた。
「僕も行きます。兄上だけじゃ、心配でしょ?」

 明星を望むアマネセール城に戻った三人を出迎えたのは、泣きはらした顔のウェンディだった。それを見て、双子と精霊が再びもらい泣きして抱きついているのを横目に、エイノは奥歯をかみしめながら入城した。
 ウィリアムの徒弟やシグルドの部下たちが、声を掛け合いながら荷を船へ運んでいる。古城では、粛々と引き上げの支度が整い始めていた。それを監督する男たちの背は真っ直ぐ天に向かって伸びている。だが、軍師とかちあった瞳には物憂げな色が必ずあった。それは、誰の瞳にもあると軍師は思った。まともに受け止めてしまえば、また涙してしまいかねない。エイノは眼鏡を盾にしながら、まっすぐ大将軍の部屋を訪ねた。ノックもなおざりに扉を開けると、青白い顔に白髭を乗せた見慣れた顔が飛び込んできた。
「見つかったか?」
 主語を省き、質問をあえて重ねない物言いが、かえって重たさを感じさせる。
「いえ」
「……そうか……」
 落ちる日か、あるいは心労のせいか、アルバトロスのたるんだ目元がいつもより落ちくぼんで見える。
 無理もない、とエイノは思った。彼とて、孫のように可愛がってきた三人を一度に失くした気持ちと向き合っているのだ。
「しかし、希望はあります」
「その顔で言われてもな」
 エイノはそう言われて、頬を手の甲でこすった。知らず知らずのうち、心の血ともいえる涙が流れていた。二、三度拭ってもおさまらないので、腕を垂らした。
「魔法の痕跡があり、遺体はありませんでした」
「大方、エフゲニーが持ち帰ったのだろう」
 アルバトロスの声には、いつもの明朗さがなかった。バスバリトンは、その語気同様、押さえつけて固く引き締められていた。
「……そうだとしても、行かせます」
「双子をか。年端も行かぬ子らをか」
「はい」
「死体を探させるために、養子にしたわけではなかろうて」
 沈黙が二人を隔てる。
 静けさの奥で時折、誰とも知れぬ心やさしき仲間の慟哭が混じるのが耳と心に痛い。
 青年が鼻をすすりながら口を開いた。くちびるの端から侵入した涙と鼻水とが塩辛かった。
「僕は、信じたい」
「らしくない。何を根拠に、そこまで?」
「……僕の希望まで、根こそぎ奪おうとしなくたっていいじゃないですか」
「絶望の味を共有したくてな」
 辛辣な老騎士の鳶色の瞳が濡れているのに、エイノは気付いた。思わず、口元が上がる。皮肉な頬笑みは、すぐにアルバトロスに移った。
「いいですとも。まずは、希望の星を散らすことから、始めましょうか」
「おうとも」
 大将軍は軍師に背を向け、落日に向かってうなずいた。
「解放軍は、本日限りで解散じゃ」

     2

 紛争の終わりを告げられるよりも先に、ヴァニアス王家の離宮に来客があった。
 それは、国王グラジルアスと国王近衛騎士アルライン・アルバトロス、その副官ミラー・シールの三人だった。グラジルアスは執事長を見つけるなりすぐに言いつけた。
「私はご覧の通り、無事だよ。だが、すぐにリシュナ・ティリアを呼んでくれ。鬼神とミレニア・フォーシュルンドを癒してもらいたいのだよ」
 彼らが一体どのようにして山を越えてきたのかを尋ねる者はいなかった。不思議なことに使用人や衛兵を含めた誰も、彼らが到着するところを見なかったのだ。それよりも、アルラインがひん死の重傷を負っていたことに注目が集まり、離宮は一瞬で騒然とした。ミラーも意識が無かったが、目立った外傷は見られなかった。なぜかグラジルアスだけが、埃にまみれていただけでぴんぴんしていた。騎士たちの体に障らぬよう、患者めがけて簡易ベッドの代わりにソファが運ばれた。
「フィナ、ラヤをお願いね。部屋から絶対に出てこないで」
 その不幸なニュースを聞いたリシュナ・ティリアは、妹とそのメイドを置いてすぐさま二人が寝かされている玄関ホールに向かった。
「やあ。リシュナ・ティリア」
 すると、階段の手すりに背を預けていた兄と目が合った。彼は短い黒髪の下からぐるりと真っ赤な瞳を動かしてリシュナの顔を認め、口元に柔らかな頬笑みを浮かべた。
 刹那、少女の背中に、冷たいものが走った。違う。本能が否定している。姿かたちはそっくりでも、この人はにいさまじゃない。熾火おきびのように赤く燃える瞳だけが、その理由ではなかった。心ときめく心地よい夢の足元が一瞬で闇に染められて、どこまでも追われるかのような、リシュナの光の部分が侵される感覚があったのだ。
「リシュナさま! お早く!」
 メイド長が声を上げたのに、リシュナは気を取り戻した。
 少女は深呼吸をした。いずれにしても、怪我人が最優先だ。そう、リシュナ・ティリアは思うことにした。でも、あの優しい海の色をした瞳の、本物のにいさまはどこ?
 少女の気分の悪さに輪をかけるように、ラインの傷は深刻だった。傷口に押し込まれていた布が不潔だったせいか、すでに白く化膿し始めていたのだ。黒っぽい砂利まで巻き込んでいるそれを、メイド長が酒でよく洗い、拭う。青年に意識は無いものの、脂汗を滲ませて顔をしかめ、うなされている。眉根に刻まれた皺の深さが、彼の苦しみを可視化しているようだ。騎士の色白の肌が真っ赤にも土気色にも見える。
「ラインさま……!」
 メイド長が乾き貼りついた当て布をはがして患部から取り出すと、むっと血の臭いが立ち上った。切り口が広がった奥に、赤黒く脈打つ内臓が見え隠れしている。
「姫さま。お願いいたします」
「……ええ」
 胃がひっくりかえりそうになるのを押さえながら、少女は膝をついた。そして、もっとも深い傷に手をあてがった。ぬるりと生温かい感触が嬉しくないが、そうも言っていられない。助けなくては。
 浅く早い呼吸をなんとか整えて、少女は祝詞のりとを紡ぎ出した。
「精霊の御名みなの元、神子の祈りを捧ぐ。精霊の花嫁たる神子の名はリシュナ・ティリア。我が名において祈りを聞き届けたもう、かしこみかしこみ申す」
 リシュナの静謐な語りかけに合わせて、彼女が騎士に触れた手のひらから、淡い光が漏れだす。それは木漏れ日のような暖かさがある青白い光だ。
 よかった。応じてくれたんだわ。少女は安堵の息をついた。しかし、深い傷を治癒するために魔力を多量に消費し、それに合わせて体力を消耗したせいで、頭痛や吐き気が彼女を襲いかかってきた。休みなく駆け続けたあとのような激しい息切れが起こり、リシュナの気管がぜえぜえと音を立てる。気を抜けば、意識を手放してしまいそうだ。額と喉元に流れ始めた冷や汗が、寒気を呼び寄せる。
 しかし神子姫は粟立つ肌を無視しながら、あえぐ口から言葉を取り出した。
「……この者の命、灯火を繋がんとて、火よ、彼の者を呼びさましたまへ。この者の命、息吹を吹き込まんとて、風よ、彼の者を満たしたまへ。この者の命、血潮を満たさんとて、水よ、彼の者を包みたまへ。この者の命、肉体を再生せんとて、土よ、彼の者の血肉を繋ぎたまへ」
 祝詞を言葉として声に乗せ、そして癒しの力として差し出すたびに、リシュナの身体は疲弊し、ラインの傷口は時が戻るように修復されていった。光に包まれるその様を、人々は手を組み畏怖のまなざしで見守る。視線は彼女の一身に刺さるばかりだった。だがリシュナには見守られているのか、はたまた恐れられているのか、わからなくなっていた。
「我……光の神子、なりて……汝の、花嫁、なり。……光よ、の者に、祝福を……」
 少女の声がか細く収束していくとともに、癒しの光も徐々に弱まり、ついには消えた。
 それと同時に、彼女の意識が一気に遠のき始めた。意識を手放す前、リシュナが最後に見たのは彼女を優しく抱きとめてくれた男の深紅の瞳だった。

 今思えば、あれがきっかけだったのかもしれない。と、リシュナ・ティリアが思ったのは、離宮が病院と化したあとだった。
 騎士ラインを癒す最中に気を失った少女は、その夜、何かに追われるようにして目覚めたのち、敬愛する師でもあるミラーを目覚めさせるために、ふらつきながら玄関へ向かった。廊下の途中で力尽きているところをメイドのシアが見つけてくれなければ、リシュナは固い床での寝覚めを生まれて初めて経験したかもしれなかった。
 赤い瞳のグラジルアスが連れてきた二人の騎士が回復したところに、叔父で兄王の摂政であるエフゲニー・リンデン伯爵が配下の騎士たちとともに湖水地方ヴェデン・ヴァリから戻った。
 彼が正式に〈反逆者グレイ・シール掃討戦〉の終結を発布したのが、つい一週間前、五月二四日のことだった。
 誰ひとりとして、敵の大将を見なかったという。だが、リンデン伯はきっぱりと言い切った。
「陛下を騙る偽物だったが、なんということはない小物よ。アルライン卿はきやつの魔術にはまっていたのだ。術は解け、深く反省を示し、きやつを切り裂いてくれた。そしてこれからも我々と志をともにする」
 そんなに似ているのならひと目相まみえたかったと、騎士たちは口をそろえた。グレイ・シールという男が果たして何者かという謎は、いまだに囁かれていた。
 そうして引き揚げてきた軍勢には怪我人も多く、彼らはリシュナ・ティリアの奇跡の癒しを求めて離宮へとやってきた。騎士ラインのように失血が多かった者は、山を越える道中で息絶えていったと聞き、神子姫の心が痛んだ。
 だがそれ以上に、癒しの術を重ねたリシュナ本人の肉体が、限界を迎えていた。
 元来、離宮に軟禁されていた身の上で、レイピアを学び始めたのもここ数年のこと。十四歳の少女の肉体は、日を追うごとにどんどんやつれていった。
 過労の自覚はあった。だが、一時いっときは呪い、捨て去りたいとさえ思った力を必要とされることで、麻薬じみた正義感が彼女の中に生まれていたのも、確かだった。
 さらに、リンデン伯爵の手前、《光の神子》としての役目を示しておかねばならなかった。彼の部下を癒すのを怠れば、きっと再び鞭が鳴るだろう。そして、自ら消すことのできない赤い呪いが背中を覆うのだ。いまのところ、かろうじてそれは避けられていたが、それも時間の問題だった。
 少しの時間、自室で軽食を取りながら休めるのが、ここしばらくの癒しだった。だが、自ら課した使命が、いつまでも脳裏にこびりついて彼女を奮わせていた。
「……わたし、行かなきゃ。助けなきゃ……」
「だめ!」
 五月三一日。ふらふらしながら立ちあがろうとしたリシュナ・ティリアの手をひっぱったのは、彼女の妹セレス・フィナだった。彼女はつやつやしたほっぺたを膨らませ、彼女なりに怒りを表現していた。
「ボク、わかるよ。けがしてる人よりも、ねーさまのほうが辛いってこと」
 突き出たくちびるは、かつてたどたどしく拙さを体現していたはずだった。だが今は、果敢に姉を責め立てている。あと三カ月で十歳になることもあり、その達者ぶりは日に日に磨かれていた。
「……そんなことは、ないのよ――」
「ある!」
 妹姫は、ぐいっと力任せに姉の腕を引っ張り、そのまま彼女を寝台の上に放り投げた。姉姫はされるがままに、ころりと横たえられてしまった。身長も体重も差のある妹にだ。
 明るい金髪を結びあげているセレスは腰に手を当て、姉を見下ろした。
「いたいのは、いたい。けがだからしかたがない。でも、いたいまんまじゃないよ。ちゃんとお手当したら、ちゃんと治るんだ!」
「そうね。でも――」
「でも、じゃないよ! なんでねーさまばっかり――!」
「フィナ。わたしが頑張れば、いたい、いたいって苦しむ時間を、少しでも短くしてあげられるの。だから、そうやって、助けてあげたいの」
 姉は、そう言いながら起き上った。いや、起き上がるつもりだった。だが、彼女の意志に反して、体は重く持ち上がらなかった。ショックを覚えながら、ゆっくりと時間をかけてベッドに腰かけなおす。
 それを、つりあがったエメラルドの瞳が睨みつけている。
「……わかんない。なんか、変だよ、ねーさま! たすけるって、何? にーさまがたすけにきてくれるのを待ってるボクたちが、ホントにだれかをたすけてあげられるの?」
「にいさまは、必ず来てくれるわ! それに、わたしは《光の神子》だから!」
 セレスは、ぐいっと姉の顔を覗き込んできた。
「神子だから、たすけるの? じゃあ、神子じゃなかったら、たすけないの? 変だよ。変。たすける、たすけるって! 一番たすけてほしそうにしてるのは、ねーさまなのにさ!」
 妹のまっさらな瞳に映り込んだ自分を見て、リシュナは絶句した。
 笑顔が貼り付けられている相貌には、いつか誰かがほめそやしてくれたような愛らしさも華やかさもない。青白くこけはじめている頬の上に、虚ろな瞳が載っているだけだ。
 やつれるばかりではない、一国の姫にあるまじきみすぼらしさがにじみ出ていた。
 これは、わたしの心の顔なの?
「ねーさまは、ボクが知らないっておもってるだろうけど――」
 セレスはきびすを返し、彼女のお気に入りであるシアに一つ二つ指示を出すと、扉に手をかけた。
「ボク、明後日が何の日か、知ってるから」
 姉ははっとして口を塞いだ。
 妹姫とそのメイドが退室すると、リシュナ・ティリアは体の力をすべて抜いて横たわった。受け止めてくれるベッドのぬくもりでは足りなくて、自らを抱きしめる。そこに、白い小さな友達のラヤが物音をたてずによりそうが、それでも足りなかった。
「あ……ああ……!」
 それは、少女の生まれた日に交わした大切な約束だった。
 にわかに全身が震えだした。戦の終わった今は、初夏だ。寒さはない。でも、どうしてか全身が凍えてしまいそうにがたがたとわななく。
「ルヴァ……」
 ぼろりと目じりからこぼれて耳に入った涙は、熱かった。
「ルヴァ……!」
 心をずっと占めていたはずの、あの恋しい清らかな水色の髪のことを、どうして忘れていたのだろう。
「つらいよぉ……!」
 神子姫は細い両足を折りたたんで抱えた。
「助けて、ルヴァ……!」
 少女の脳裏で、恋人はほほ笑むだけだった。

     3

 スキュラの街を、海からやってきた初夏の風が撫でていく。
「ルヴァ……」
 潮騒に懐かしい声を聞いた気がして、甲板で仕事をしていた若い水夫はデッキブラシを動かす手を止めた。首を回した拍子に、真っ赤なバンダナが風のあおりを受けて彼の目元を覆った。それを癖のない前髪ごとどかす。空と海の境界に目を凝らしてみるが、そこには永遠のような青が幽玄に続くだけだった。いや、と少年は考え直した。あの海の色は、僕の憬れた人の髪色にそっくりだ。
「……グレイさん……」
 喉をかすめていった大切な名前は、すぐにウミネコの鳴き声に食べられてしまった。泣き盛りの赤ん坊よりもけたたましい白い鳥たちは、帆をたたんだ黒竜丸のマストの上に腰を落ち着けている。ルヴァはせっかく磨いた甲板を汚されやしないかと睨みつけてみた。
「じゃあ、僕たちはここで」
 ふと耳に飛び込んできた男の声に、少年は体を一八〇度回転させた。手すりに体ごと乗せて港を見下ろすと、コロボックルの商人と二人の青年が幌馬車とともに出発するところだった。彼らが最後だった。サンデルから道連れだった仲間を見送るため、ルヴァは急いで梯子を降りた。
「エイノさん!」
 胡桃色の髪の男が振り返る。彼はいつもの装いの上から薄手のマントをはおっていた。それは街の黄土色と溶け込むようなすすけた色をした織物だった。
「……ルヴァ」
 髪と同じ色をした瞳が、眼鏡の奥で凍りついているのを察知して、少年は少しひるんだ。でも、と彼は思いなおす。さよならは、言えるときに言わなくちゃ、ずっと言えないままになるんだ。少年は乾いた皮手袋ごとこぶしを握る。
「エイノさんたちは、どこへ行くんですか?」
「どこと言われて、答える間抜けだと思ったのかい?」
「いじわるだな」
 かつて解放軍の頭脳だった男は、乾いた笑いをもらして眼鏡の位置をなおした。
「君も、気を付けたまえよ」
「……」
 温かい言葉だ、と少年は思った。そして、その優しさの奥で二人に共通の無念がくすぶっているのに気付いた。僕たちは大切な人を失くしたのだ。そう思うと、自然にじわりと視界が滲みだす。
「何を、とは問わないのか?」
「……その質問も、いじわるだ」
 ルヴァはたまらなくなって、むき出しの腕でこぼれる前の涙をぬぐった。
「君には、あの人の持たなかった《海の契約》がある。だからといって、不用意なまねは絶対にしてくれるなよ――」
「エイノ! ちみっころが呼んでるぜ!」
 すると、桃色の髪をひっつめた男がエイノめがけて駆けより、背中をどんと押した。眼鏡の青年よりも少し小柄で筋肉質な彼は、ルヴァにむかって白い歯をみせびらかした。
 誰だろう? ルヴァは少し首をひねったが、すぐにわかった。
「ユッシさんか」
「おう! 男前だろ?」
 桃色に染められ強く自己主張をつづけていたツンツン頭が一転、すべて後ろになでつけられて結びきられている。ただ、くせ毛なのか、額周りからはこぼれ毛がぴんぴんはみ出していた。
彼もエイノ同様、髪以外に目立った色を身につけていなかった。警戒の強さを目の当たりにして、ルヴァは生唾を飲み込んだ。本当にみんな、ばらばらに逃げるんだ。
 少しの立ち話の間も、その場にいた全員があちこちに目を配っていた。
 スキュラ市街にリンデン家の手の者がいないとは限らない。
「シグルドどのに、迷惑をかけるなよ」
 エイノの手のひらがルヴァの頭を撫でる。それが合図だった。
「あーあ。マスターのメシも喰い納めだったんだなぁー」
 二人は、幌馬車の御者席でにんまりと待っているコロボックルにつま先を向けた。
「さよなら……!」
 二人の男は、背を向けたまま手を挙げてくれた。
 小さくなる背中が名残惜しくて、少年の手は宙に浮いたままだ。
「ちゃんと、言えましたね」
「……マスター」
 ルヴァの後ろには、いつのまにか黒ずくめの男が立っていた。物音を立てずにやってきた彼の声は、聞きなれた優しいものだった。
「マスターはよかったの、きちんとお別れをしなくって?」
 振り向いた少年に、男がうなずく。
「ええ。旅人を目立たせてはいけませんから」
「それって?」
「これからは知らない人のふりをしたほうが、お互いのためなんです」
「そんな……! 冷たいよ、仲間だったのに!」
 ドーガスは、ルヴァが噛みつくのをひらりとかわした。
「わたしたちは残されたんです。その意味を、よく考えて行動しましょう」
「マスター! 僕とマスターも、もう他人なのかい? そんなの、嫌だよ!」
「……船長に迷惑をかけたくないですからね……」
 少年が真っ直ぐに見上げた黒い瞳には、有無を言わさぬ気迫があった。
 彼の髪を梳く潮風の匂いは、よく知ったものだった。けれども風が新しい何かを運んで懐かしい何かを持ち去っていったかのように、ルヴァには感じられた。
 彼の背中にそっと触れ、撫でていったドーガスもまた、振り返らずに帰路についた。
 五月三一日の仕事を終えた太陽が、山のかなたで赤く燃え始めた。
 みんな、同じ空を見ているんだろうか。ルヴァは、散り散りになった仲間の顔を心の中に並べた。亡きがらのなかった三人との思い出が、涙とともに押し寄せる。
 僕は、何もできなかった。
 にわかに鼻が詰まり、すすりきれなかった分がだらだらとこぼれて口に入る。塩辛いのは涙か鼻水か、あるいは海風なのか、彼にはもうよくわからなくなっていた。
 たまらず、波止場の先まで駆けた。
 夜闇を予感させる青紫が、海と空をじわりと濁らせ、浸食しはじめている。
 深く高く清い空の青は彼の、青空の名残の紫は彼女の瞳のよう。そしてその空で何食わぬ顔をして漂う雲の灰色はあの騎士の色と同じだ。ルヴァはそこに三人を重ねてしまった。涙が歪ませる景色のその向こうへ、少年は腕を伸ばした。慕っていた友人たちの無垢な色が、夕陽の照りかえしで赤く染まり出す。それはまるで、彼らの命を奪っていった戦火そのもののようだった。
「う……、ああ……」
 最後に交わした言葉は何だっけ。
 もっと、言いたいことがあったはずじゃないのか?
 ラインさんみたく、強くなるには?
 テュミルさんみたく、自由でいるには?
 グレイさんみたく――。
「うわあああああああ!」
 少年の腹の底から、慟哭が突き上げて喉を貫いた。
「ああぁ、うぁああああああ!」
 火のように熱い涙が、ぼろぼろと彼の頬を転がり落ちる。いくつもできた筋を伝って、あまたの滴が首を、服を冷たく濡らす。吹き付ける潮風にも乾かすことができない。
 シグルドの言ったとおり「甘いもの」ではなかったのだ。
 少年の張りつめていた膝が、かっくりと折れる。
 大人になりきれない心に、失った命の重たさがのしかかる。
 そうだ、僕はなんて、ちっぽけなんだ。
 等身大の自分を思うと情けなく、憬れた友人を思えば無念で、頭の中に真っ黒な嵐が巻き起こっている。それがまた悔しくてやるせなくて仕方がなかった。
 どれぐらいそうしていたのかわからなくなったころ、涙はだんだんとひいてきて、ルヴァはようやく夜風の冷たさに気付いた。こすり続けた目元や鼻がひりひりする。
 少年の瞳に映ったのは煌めく闇空だ。それを見て、また涙が滲みだす。あの人の色だ。
「グレイさん……」
 その漆黒が優しく包み込んでいるのは、黄金色の月だった。
「ナティア……」
 少年は、涙ながらに思った。僕は、あの子になんて言えばいいんだろう。お兄さんを守れなかった僕に、会う資格なんかあるんだろうか。
 そう考えて、はっとした。
「約束……! 海を、見に……!」
 それは恋人の誕生日に、拙いくちづけとともに贈った約束だった。
 地に落ちてくしゃくしゃになっていたルヴァの心が、少しだけ色を取り戻す感覚があった。
「明日の夜だ。会いに、迎えに行かなきゃ……!」

     4

 使用人たちがあわただしく行き交う足音が、扉をしっかり閉めていても聞こえてくる。集中がそがれ、六月一日と日記に記した手がにわかに止まる。
「ふう……」
 アレクセイ・リンデンは羽ペンを置き、じわりと黒いインクが文字に染みていくのを他人事のように見た。左側には、先日の出来事が綴ってある。めくればその前をさかのぼることもできたが、しなかった。グラジルアスになりすましたラミナスたちが離宮で神子の癒しを求めてからというもの、年若い貴人たちに約束されていた静寂が全て踏みにじられてしまった。それに関する憂鬱な報告ばかりが書かれているのを、彼はよく知っていた。
「リシュナさま……」
 昨日はとうとう、姫神子リシュナ・ティリアが床にふせってしまった。寝食以外のすべての時間を使って、騎士や兵士のため精霊に癒しを乞うてきたのだ。そして、魔法の源は術者本人の生命力に由来している。リシュナの華奢な体に、一兵隊の命を救う力や使命は、あまりにも重すぎた。だが、不幸中の幸いか、湖水地方ヴェデン・ヴァリからの山道を越えられずに息絶えた人間を含め、重症の患者は百にも満たなかったという。
 アレクセイは記憶をそっとたどってみた。
 父リンデン伯爵は、彼の臣下に与えられる《三本の薔薇》のお仕着せをまとった騎士や兵士を数千の単位で連れて行ったはずだ。しかしどうだろう。戻ってきたのは、五百人ほどだった。
 記憶違いだったらと、彼は思案を深めながら新聞を手にした。日付は五月二五日。リンデン卿を含めた全員が帰還した翌日のものだ。そこには確かに、五三八という文字があった。
「少なくとも二千人を編成し、戻ったのは五三八人……。それで重傷者が百もいかないことなんて、ありえるのだろうか……?」
 アレクセイの新聞を持つ手が、にわかに湿り出す。
 父に真っ先に問うのが答えへの近道と、少年はよくわかっていた。彼が反逆者を処分する名目として宣戦布告したのは、想像に易かったからだ。
 なぜの気持ちと言葉は、アレクセイがもっとも口にしてはいけないものだった。
 それは、彼の母が若くして亡くなってからずっとそうだったように。
 だが、彼を守ってくれる箱、すなわち自室にいる今だけは別だった。
「父上はなぜ、しかも早々にグレイ・シールという男を殺めたかったんだろう?」
 千年の過去から蘇らせた魔術師ラミナスは、いつのまにかグラジルアスになりかわってしまった。
「本物のグラズアさまは、今どこに? それから、まことの王……。なにをして、ラミナスをそういわしめるんだろう?」
 そこまで呟いて、アレクセイはとっさに口をつぐんだ。
 アレクセイが心臓を口にしてしまったあの日から、魔術師は自在に少年の精神へ干渉してくるようになったのだ。今とて例外ではないはずだ。
 ぴりりと緊張が走る。
 だが、部屋を支配する沈黙は何も答えてくれない。神経質に目をまわした先、暖炉の上で時計が晩餐の時間を告げていた。アレクセイは音が立つのもかまわず新聞を畳み、部屋を後にした。

 まだ子どもであるアレクセイと、リシュナ・ティリア、セレス・フィナは、成人貴族たちとは別の部屋で食事を採るようになっていた。だが、その場にリシュナは現れず、セレス姫一人が憤然としながら椅子に座った。彼女の不満は手に取るようにわかった。姉のことで文句があるのだろう。
「セレスさま。リシュナさまのご加減は――」
「知らない。寝てるんじゃない?」
 だが、その話題は結構とばかりに、セレスはそっけなかった。彼女だけが、アレクセイの情報源だというのに。十三歳でまだ成人していないといえど、アレクセイには男性であるという自覚があったので、リシュナをすすんで見舞うことはためらわれた。非協力的な従妹に、少年は思いあぐねた。
「まだ、かんばしくないのですね」
「さあ?」
 血縁者の食卓だというのに、目立って明るい会話のない晩餐が終わると、二人はそれぞれ薄暗い廊下を歩いた。廊下を照らす蜀台の背が高いため、彼らの視界はさほど明るくないのだ。晩餐がまずかったわけでも不幸が訪れたわけでもないのに、一歩一歩出すアレクセイの足は重たい。
「あっ」
 先を行くセレスのメイドが懐から何かを落とした。アレクセイはそっと拾い渡してやる。
「君の手紙か」
「は、はい。申し訳ありません」
 メイドはすぐに顔をそらし、膝を折った。だがそれだけで、手紙は受け取らない。
「アレクセイさまにお届けするのをすっかり失念しておりました。どうぞ、お持ちくださいませ」
 やけに早口でよく瞬きをする娘だと思いながら、アレクセイは自室に戻った。
 先ほどよりも気分が軽い。手紙をもらうことなど、ほとんどないからだ。前女王アナシフィアが健在のころ、グラジルアスとリシュナがしたためたものをグラスリンデンで受け取ったのが、最後の記憶だ。従兄弟たちの何気ない言葉が嬉しくて、それからリシュナ・ティリアが一所懸命に綴ったであろう文章がいとおしくて、あの手紙は彼の宝物だった。
 封蝋はされているものの、印璽いんじがない。しかも蝋は赤ではなく濁った黄色だ。まるで、蜀台のものを使ったみたいだ。アレクセイはそう思いながら、表を見た。きちんとアレクセイ・フェブル・リンデンと宛てられている。
 遠慮なく開くと、誰かのメモ用紙だったものが出てきた。真面目に目を通すと、それはただのレシピだとわかった。誰とも知れぬ差出人の無礼に、一瞬怒りがこみ上げるも、少年は深呼吸して考え直した。
「期待させるようないたずら……。セレスさまの新しいお遊びかな」
 そう思いなおすと、何でも許せるような気がしてくるから、不思議だった。お転婆をその身で体現しているセレス・フィナの好奇心ならば、ありえることだった。
 二つに折りたたまれていたレシピの紙を開くと、そこには見たことのない流麗な筆致があった。セレスではないと、アレクセイは直感的に分かった。彼女はまだ、筆記体が書けない。
「リシュナさまについて、お伝えしなければいけないことがございます。これをお読みになりましたら、シアを呼びつけ、蝋燭を持たせてください。お早く」
 リシュナの名を読むだけで、心がどきどきした。しかしそれは、あこがれといとおしさのときめきではないと、彼はわかっていた。不安が夜風のように心を覚ましてゆく。
 シア? 少年は頭をひねったが、その手は呼び鈴に伸びていた。ベルが鳴ると、アレクセイのメイドが扉を開け、膝を折った。
「蝋燭を。読書には暗くて」
「今すぐ、お持ちいたします――」
「アリー、君ももう休め。シアに持たせてくれればいい」
 彼女はそっと眉を上げたが、すぐに深く膝を折って扉を閉じた。
 夜ということもあり、待ち時間は恐ろしく長く感じられた。
 だがほどなくして、扉が三回叩かれた。
 たまらずアレクセイから開けてやると、先ほど手紙を落とした娘がそこにいた。
「シアです」
「入って」
 すぐに戸を閉めると、少女はほうっと大きな息をついた。
「セレスさまのメイドだろう? ついていて差し上げなくていいのかい?」
 思えば、顔はよく知っている娘だったので、少年は遠慮なく問うた。
 彼女は少しまごついたものの、顔を上げた。暗がりでも緑の瞳がきらりと光った。
「セレスさまは今晩、ミラーのところでお休みになります」
 シアの静かなソプラノは夜闇に似合っていた。
「それから、リシュナさまはこれから、馬でスキュラの街に向かわれます」
 少年は息を飲んだ。そしてそれはそのまま声となって飛び出した。
「スキュラ! こんな遅くに? お体も万全ではないのに? なぜ? そもそもどうして君が知っているんだ?」
 アレクセイは、自分が感情に任せて言葉を並べているのに気付くとすぐに口を閉じた。ばつが悪いのもあった。だが、目の前の少女が怯えてしまえば、答えを引き出すことができないとすぐに判断したのだ。
 少年の想像通り、シアはアレクセイの剣幕に一瞬怯んだ。だが小さなこぶしを握り直すと口を開いてくれた。
「……リシュナさまから、馬を用意するように頼まれたのが、わたしなのです。水の魔法使いに会うため、これからお一人で出かけられます……九時に」
 淡々と語られるのが、余計真実めいていて少年は胸が締め付けられた。
「そんな……!」
 アレクセイはよろめいて、テーブルに手をついた。
 あの日、誕生日に贈った心からの願いとくちづけは、彼女に届いていなかったのか。
「あの男に、会いに……。僕との婚約を捨てて、駆け落ちを……」
 頭皮に、首筋に、胸元に、冷たい汗が滲んで伝ってゆくのを感じる。
「嘘だ……」
 まるで余命を宣告されたかのような息苦しさが彼をむしばみはじめ、呼吸がどんどん浅くなる。
「どう、なさいますか」
「どうって……」
 アレクセイの喉は、意に反して乾いた笑いを出した。
「僕に何ができるんだ? 愛する人の心が、瞳が、いままでもこれからも僕を見ていないことを受け止めろと?」
「っ!」
 少年の手は、知らず知らずのうちにメイドの両肩をがっしりと掴んでいた。彼の腕の勢いで、近くにあった蝋燭の炎が消えたが、アレクセイは気に留めなかった。
「そもそも、僕たちの問題になぜメイドの君が立ち入ろうとした? たとえリシュナさまが僕の前から消えても、そのあとに真実を知りたいと思っても、今みたいに知りながら見送るよりはずっとましだったはずだ! それを君は――!」
「違います!」
「違わない! 現に僕は、心が張り裂けそうなんだ! 聞きたくなかった!」
 気付けばアレクセイは、少女に顔を近づけていた。頭が痛い。脈打つ鼓動が痛みそのものとなって、目を見開かずにはいられない。
 シアは体を固くしていたが、鼻息を荒くしながらも己を御すことをあきらめていない少年から、視線をそらさなかった。しかしその瞳からは、滴がひとつふたつ、こぼれた。
「……よく。よく、存じております……!」
 娘のくちびるは震えている。
「アレクセイさまが、リシュナさまを何より大切に思われていること……。わたしは、シアはよく存じております」
「それならば、なぜ――?」
「ひどいんですもの……」
 少年は、呆気にとられた。
「アレクセイさまのお気持ちを無碍にして、リシュナさまはひどいお方です……」
 シアの涙につられたわけではない。
 だけれど、アレクセイの瞳にも涙が浮かんだ。
 そうだ。僕だけを見ていてほしいのに。僕は何度も愛を告げているのに。答えはまだもらえたことがない。
 ぼうっとそう思うと、さらりと滴が頬を伝った。それと同時に、両腕から力が抜けた。だらんと垂れた右手を、メイドがその手で恭しく包み込んだ。
「アレクセイさま。わたし、リシュナさまをできる限りお引き留めします……! どうか、お心のままになさってくださいませ……!」
 メイドは涙ながらに言うと、すぐに踵を返して扉を開いた。
「ひっ」
 シアが去ろうと扉を開けると、そこには男がいた。少女は素早く膝を折って廊下へ退散した。
 漆黒に似た深い音色の声に、アレクセイは背筋を凍らせた。ラミナスだ。
 扉を後ろ手に閉めたグラジルアスそっくりの男は、嬉しそうに口を開いた。
「アレクセイ。わたしからも話があるよ」
 貴公子は警戒しながら、国王に扮する魔術師を迎えた。ラミナスは肩口を軽く振りかえった。
「あの子は、良い子だね。己が思いに従い、君の心に寄り添った」
「そんな話をしに来たのですか、ラミナスさま?」
 少年は彼の神経を逆なでしないよう努めた。ヴァニアスの神子であるリシュナ・ティリアをして一瞬で眠らせてしまうような男だ。強大な力を持つに違いなかった。
「そんな、とは。心外だよ。君の大切な恋を実らせたいと思うのは、何も君だけじゃないと伝えたかったのだよ」
「なっ――!」
 ラミナスの穏やかな頬笑みは、どこかどんよりと陰っている感じがした。それは夜の帳のせいではなく、彼の内側から滲みだしているように、アレクセイには感じられた。
「リシュナ・ティリアがルヴァ・アルタイネに会いに行くのだろう。いいのかね。みすみす彼女を行かせて? 今夜は満天の星空だ。草花が彼らの褥になるのを、君は見過ごすのかね――?」
「そんなの!」
 思わず声を荒げた自分を恥じるのではなく、本音を誰にも聞かせないために、彼はトーンを落とした。
「嫌に、決まっている!」
 だから、今から引き留めに行くんだ!
 少年の心は、今までになく燃えたぎっていた。その炎は嫉妬の色を宿していた。
「リシュナさまは、ずっと、ずっと、これまでも、これからも僕のものだ!」
「やっとだ。よく言えたね、アレクセイ」
 ラミナスはアレクセイの両手をとって、その上に短剣を乗せた。リンデン家の鷲の紋章が彫り込まれている、護身用のナイフだ。
「これは……?」
 少年はラミナスを見上げると、そのままの姿で固まってしまった。血のように赤い瞳から、視線をそらせない。
「さあ、あのかわいらしいメイドがリシュナ・ティリア引き留めてくれているうちに、スキュラへ先回りしなさい」
 魔術師のささやきは呪文のように甘やかだ。白い歯がぬらりと光った。
「そして、彼女を永遠に手に入れておいで」

     5

 少年は息を詰め、刻々と時を刻む針の音に耳をすませる。今は八時二四分だ。
 スキュラの港から離宮までは三レウカ。歩けば日付をまたぐことになるが、馬ならば行って帰ってくることもたやすい。宿屋に繋がれている一頭を拝借し、明け方までに返せばいいと彼は考えていた。
 だから、彼は数か月ぶりに戻った自室で、その時が訪れるのを待っていたのだ。約束は、果たさなきゃいけない。それが残された僕のやるべきこと……。
 無遠慮にノックもなく扉が開かれて、大きな影がぬっと現れた。養父のシグルドだ。
「じゃあ、行ってくるぁ」
 彼が片手をあげたのを、息子は背中越しに見た。いつも通りを装えているはずだ。
「うん。行ってらっしゃい」
 扉もそのままに、シグルドはランタンのオレンジごと平屋から出て行った。ドーガスのカフェ・ポルトに向うことは、間違いなかった。外の戸の鍵を乱雑に閉めていく音が消えると、そこにはルヴァと静寂だけが残された。
「……」
 少年はそれからぴったり十分後に、おもむろに立ち上がった。
 そして夜にまぎれるためのマントを体にきつく巻きつけると、玄関ではなく台所の通用口に手をかけた。あらかじめ、鍵を開けておいた薄い戸はかちゃりと軽い音をたてて開いた。そこから体を滑り出させ、そうっと錠をかけた、そのときだった。
「どこに行くつもりだ?」
「うわあ!」
 体ごと驚いたルヴァがおそるおそる振り向くと、そこには先ほどでかけたはずの男が腕を組んで立っていた。
「シグ、なんで――!」
「わかったんだよ。何年おまえの親父やってると思ってんだ」
 暗がりで見上げる大男からは、いつもに増して圧迫感を感じる。だが、少年は引かなかった。
「……行かせて。明日の朝までには帰るから」
「ダメだな」
 たったの一言だったが、ルヴァには絶対的な存在から拒否されたように聞こえた。吹き付ける風もシグルドの態度同様、厳しく、冷たい。しかし少年も負けるつもりはない。
「行くから」
 低くきっぱりと言い放ち、養父の横を通りすがろうとした。しかしそれはすぐに、強靭な二本の腕に阻まれてしまった。抗うこともできず、ルヴァは正面を向かされた。両の肩に分厚い手のひらから生えた指ががっちりと食い込んでいる。
「行くな! 夜だからじゃあ、ねえ。物騒なんだ。たとえ昼間だっておまえ一人じゃあ行かせねえよ!」
「この期に及んで、僕を子ども扱いしないでよ!」
「十分子どもだろうが! 死なずにすんだありがたさをもう忘れたのか!」
「!」
 売り言葉に買い言葉だと、少年はうっすらと理解していた。だが、努めて忘れようとしていたのも事実だ。忘れたくない大切な思い出を、心の奥底の鍵付きの宝箱につめて、悲しい思い出だけを排除することで、永遠と安寧を得ようとしたことも、そうだった。
「……」
 だが、シグルドの言葉は簡単にその鍵を破壊してしまった。ルヴァの瞳に、せき止めていた涙が一気に溢れだす。しかし、それを拭うことはできなかった。シグルドの両手が、彼の肩を力強くつかんで離さないから、腕を上げられなかった。おまけに、強く揺さぶられる。ルヴァはされるがまま声もなくぼろぼろと泣いていた。
「オレはな、ぐー坊が何者か、最初からわかってたんだ。だからよぉ、最初から、断っておけばこんなことにはならなかったんじゃねえかってよぉ!」
 父の声がくぐもるのに驚いてルヴァが見上げると、その頬に滴が落ちてきた。雨ではない。その証拠に、空には雲ひとつない星空が広がっていた。
「みんなして、何も言わずいなくなってよぉ。おかげで誰ひとりとして、見送れた試しが、ねえ。リリアでさえ……! そんなのはもうご免なんだ!」
 シグルドがありったけの力で抱きしめてくるのを、ルヴァは黙って受け入れた。
 ああ。置いていかれる気持ちは、わかっていたはずなのに。
 そう、ぼんやり思うとともに、いとしい少女の面影が脳裏によぎってゆく。最愛の兄を永遠に失った姫君に、僕がしてあげられること……。
「……シグ……ごめん……」
 ルヴァは、やんわりと父親の腕を解いた。
「でも、僕、どうしても行かなくちゃいけないんだ……!」
 少年は、泣きぬれた顔をごしごしと思い切りマントで拭った。
 そして視線をそらさぬままじりじりと後じさり、触れられない距離をとった途端、駆けだした。
「ルヴァ!」
 悲痛な叫びが、少年の背中に刺さる。
 けれどもルヴァはそれから逃げるようにして、全速力で走った。

 星々が照らすだけの街道を、離宮へとひた走る。
 今が何時かは、もう定かではない。でも、と少年は冴えわたる頭で考えた。きっとナティアは僕を待っていてくれる。
 わき腹や踵の痛みを無視しながら走り続けたが、それもすぐに限界が来た。焼けつくような喉はヒューヒューと鳴り、空気を満足に送ってはくれない。涼風に向かって走っていたものの、汗はとどまるところを知らず、全身から噴き出ては滴になって垂れて、あるいは濡らしてゆく。
 すると、少年の耳に蹄の音が聞こえてきた。それは、黒い影としてだんだんと近づいてきた。
魔物が現れる夜に馬を出すような無謀な旅人など、そうはいないので、ルヴァは怪しんだ。だが、馬上の人物がゆったりとしたローブ姿なのに気付いて、ドキドキと脈打っていた心臓がさらに跳ね上がった。
「嘘だろ……ナティアなのか……?」
 少年が驚きと疲労でその場に尻もちを着くと、離宮のほうから現れた人物は、優雅に馬から降りてくれた。目深にかぶったフードで顔は見えない。だが、黙ってうなずいてくれた。
 こんな、すぐ会えるだなんて思ってもみなかった。ルヴァの心が焦りに真っ白になる。最初に、なんて言えばいいんだろう。久しぶり? 違うな。それよりもっと大切なことが……。
 少年が言葉を用意している間に、なんと相手は膝をついて、手を差し伸べてくれた。
「……ナティア……!」
 綯い交ぜになった気持ちから、喜びが頭一つ抜きんでる。それに任せて、彼女の手袋に包まれた手をとった。相手は、ぐいと力を入れて、ルヴァを引きよせてくれた。一瞬、瞳が見えた。
「会いたかっ――!」
 刹那、ルヴァの腹部に何かが当たった。次の瞬間には燃えるような痛みが襲いかかる。しかもそれは、体の奥深くまで入りこんでいる。
 少年が自分の身に起きたことを理解する間に、ローブの人物はさっと身を引いた。そのせいで、ルヴァは地面に倒れ込んだ。
 彼は痛みの原因に手を伸ばした。なにか固いものが突き刺さり、その周りがべたべたしたもので暖かく湿っている。指のぶつかった衝撃が、傷に響く。より広がった傷口からは、心臓のリズムに合わせて液体があふれ出す。血だ。真実を悟った瞬間から、呼吸がどんどん浅くなる。生の証明である呼吸が、苦しみにしかならない。苦しい。体が腹から半分に千切れそうだ。
「ぐぁ……っ! な、てぃあ、なん、で……!」
「……」
 ルヴァが腹部の刺し傷になすすべもなくあえいでいるうちに、犯人は血に汚れたマントと手袋を素早く脱ぎ捨て、振り返った。細身だから気付かなかったが、男だった。ふわりと夜風に遊ばれる髪の色は、わからない。ただ、月明かりに透けてはいなかった。しかしそれを見られたのは一瞬のことだった。今のルヴァには、頭をもたげることすら、苦痛にしかならない。
「ナティア、か。リシュナさまの尊いお名前をぞんざいに省略するなんて、許されない。ましてや触れるだなんて……!」
 呟いた男の声の青々しさに、ルヴァは相手の年齢を察知した。僕と、変わらないぐらいだ。
「はっ……。が……!」
 だが、ルヴァの言葉は声にならなかった。口の呼吸だけが命綱なのに、時折痰が絡む。それでいて痰はからからに乾き、喉に張り付いて呼吸を邪魔する。ふせっている今、しゃべれはしない。
「リシュナさまは、君のものにはならない。永遠にだ」
 ルヴァを刺した少年はそう吐き捨てると、軽い身のこなしで馬にまたがり、手綱を引いた。
 頭のくらくらする痛みの中で、ルヴァはぼんやりと蹄が遠ざかっていくのを聞いた。
 呪詛を吐きたい気持ちはあったが、何よりも刺し傷が痛烈に彼の思考をむしばむ。
「あ……、あ……!」
 胃がひっくりかえって吐きそうなのに、腹の中は空っぽで、むしろ外へと血が溢れ出ている。
 僕は、僕も。ルヴァは遠のきそうな意識を逃がすまいとしながら、思った。死んでしまうのか。
 シグが止めてくれたのに。泣いてくれたのに。後悔の言葉は、涙になって溢れてくる。ごめん。グレイさんに、会えるのかなぁ。
 大好きだった人たちの顔を思い浮かべると、ぼんやりとどこか幸せな気分がしてきた。不思議なことに、その気持ちとともに痛みが引いていく。ああ、眠たい。瞼を上げ続けていることすら億劫に感じる。死ぬのって、眠るのに似ているのかな。
 そして、ルヴァの世界に暗闇が訪れた。星は無い。個人の思いも、そこには無い。ただただ、夢見るように浮かんでは消える思い出をなぞるだけだ。悲しいことも、さみしいことも、嬉しいことも楽しいことも全てが過去になって、自分もその過去と一体になるのだ。そう思うと、何も怖くない気持ちがしてきた。
 死ぬのって、自由になることなのかな。そう思った瞬間に、つい先月出会ったばかりのワニアの仲間たちが現れた。悠久の時を海の花嫁として生きながらえさせられてきた老女エルミタルヤの、ふわふわした手指の感触をありありと思い出す。それから、誰がいただろう。すると、濃青をしたアクアマリンが、鋭くルヴァを貫いた。神子イルマリだ。
「ルヴァ、忘れるな。《海の契約》とはワニアを守るもの。海のご加護だ。露命は海にて孵る」
 落ちかけていた意識が、急に浮き上がった。同時に焼けつく痛みも鮮明に蘇る。
 少年はあらん力を振り絞って瞼を持ちあげた。星のまたたく、明るい夜が彼を冷たく見下ろしている。風が肌を撫でていくのが寒い。手足も凍ってしまったかのように冷たく感じる。
「まだ、だ……!」
 ルヴァは、腹に刺さりっぱなしだったナイフを思いっきり引きぬいた。
「ふぐうううっ!」
 思い切り噛みしめた歯列の隙間から、逆流してきた血とうめきが漏れる。息をするたびに口の中一杯に鉄っぽい味が広がっては、喉にべったりと張り付いて呼吸を妨げる。
「まだ、ま、だ……!」
 立ち上がれない。だからといって、と少年は強く思った。立ち止まる理由にはならない。
 ルヴァは左腕でマントを強く腹部に当てながら、右の肩と腕を使って、じりじりとスキュラへの道を戻り始めた。
 死ぬわけには、いかない。

     6

「急がなくちゃ……!」
 少女は着の身着のままで馬を蹴りあげていた。幸い、星空を覆う雲はなく、視界は明瞭だった。離宮から出てしまえば、あとは道の果てにある明かり――スキュラの街めがけてひた走るだけだ。あと少し、あと少しで会える。
 予定していた時間よりも大幅に遅れをとってしまったのを、リシュナ・ティリアは苦々しく思っていた。あそこで、フィナがだだをこねなければ。彼女の妹姫セレス・フィナは昨日の剣幕はどこへやら、リシュナの部屋へ訪れ一緒に寝てもいいかと頼みに来たのだ。しかし、晩餐の前に連れて行ったラヤは一緒ではなかった。
 ボクと自称を変えてから、姉は妹をわかりかねていた。年が離れているといっても、生まれてこの方同じ空間で寝食を共にしてきた姉妹だ。腹のうちに、あるいは言葉の裏に何があるかくらいは、わかっていた。なのに、どうして、とリシュナは思った。今日は、全く読めなかった。
 おかげで出発時間が三〇分も押してしまった。したがって、乗馬用のブーツでもなんでもないルームシューズのまま出てきてしまった。拍車のつもりで馬のわき腹を蹴っても、薄い靴底では効果はさほど望めない。
 じれったい思いをしながらゆるゆると、しかし出来る限り早く馬を走らせていると、一人の旅人とすれ違った。肌寒い真夜中にマントも身につけない人物は、リシュナの横をすうっと通り抜けただけだった。そのあと、馬の汗とは異なる柔らかく甘い香りがしたのに、リシュナは気付いた。覚えのある香りに一瞬気をとられるものの、なにかの花だろうと無視を決め込んだ。
 どれほど走ったろうか、馬だけでなくリシュナの体がじっとりと汗ばんできたころ、道に黒く大きなものが落ちているのを見つけた。気味悪く思いながら、視線を注いでいると、それが動いた。
「きゃっ!」
 少女が思わず上げた声は、開けた街道に少しこだました。驚いた拍子に手綱を引いてしまったので、馬は前足を上げて急にとまらざるを得なかった。起こった土煙に、黒い塊がごほごほと湿った咳をする。
「人……! 大丈夫ですか!」
 リシュナはそうと気付くやすぐに馬から降りた。そして、行き倒れている人の肩に、そっと手をあてがった。骨ばった体は少年のもので、闇色に染まりながら月明かりを吸いこんでいる美しい長髪は一本に結びきられていた。少女はすぐにわかり、息を飲んだ。
「ルヴァ!」
 少女は細い腕で、なんとかこんとか少年の体を起こした。だが、ルヴァの焦点はあわず、リシュナの向こうの星空ばかりを彷徨っている。体の前面は泥と砂利、引きずった草でどろどろだった。それだけではない。浅い呼吸の理由が、腹部を黒々と汚している。
「血……! ルヴァ、何があったの! ルヴァ!」
 リシュナが泣き叫ぶと、少年の瞳がにわかに引き締まった。
「……ナティ、ア……? 本当に、きみ……?」
 少年が嘔吐にも似た濁った咳をくりかえすたび、口の端から鮮血がさらりと線を描く。
「今、治すわ! 精霊の御名みなの元、神子の祈りを捧ぐ。精霊の花嫁たる神子の名はリシュナ・ティリア……」
 ヴァニアスの神子たる力を引き出そうと、少女はここ一週間口を満たしてきた祝詞のりとを紡ぐ。ルヴァのマントを避けたところ、傷口に触れた手の下に薄ぼんやりとした光が集まるが、それは高まることなくすぐに消えてしまった。
 焦りながら確認すると、傷はふさがることなくそこにあった。少年の生きているリズムに合わせて、血が流れるのも変わらない。自分に術をかけるのならまだしも、第二者にかけているのに。少女は動揺した。
「どうして! どうして治らないの! このままじゃ、死んじゃう……!」
 口にしてはじめて、危機感を覚えた。癒しの姫神子である力を過信したせい? それとも、これまで使いすぎたから? いずれにせよ、このようなことは初めてで、何の解決策も思いつかない。どうしよう。どうしよう。ルヴァが死んじゃう。
「……ティア……」
 乾いた声が、涙する少女を呼んでいる。
「海へ……」
 恋人がけなげに彼女との約束を守ろうとしてくれている。その思いやりの深さに、リシュナの涙は止まるところを知らない。
「いいの、いいの! 海なんか、どうでもいい! ルヴァ、ルヴァが死んじゃうのが嫌なの!」
「だから、海へ……!」
「嫌ぁ!」
「お願いだ!」
 少年の叫びは、体に大きな負担だったようで、彼はまた喀血した。
 リシュナの混乱は、極まるばかりだ。神子のくせに、大切な人を癒せないなんて。セレスの言葉が、今になって心をえぐる。神子だからたすけるの? 変だよ。
「……」
 少女は馬の足を折らせると、恋人の肩に腕をまわしてその上に何とかして載せた。
 医者を訪ねるにせよ、スキュラに向かうのが一番の得策だ。
「行きましょう」

 それから約一時間、ほとんど歩く速さでスキュラに向かった。ルヴァの傷に障らないよう、馬をゆったり歩かせながらだったので、随分と時間がかかってしまった。この短い旅路のうちに、少年の体は急激に冷え、震えだしていた。
 リシュナが何度も回復術を施しても、少年の傷はふさがらなかった。それならば、医術に頼るほかないと、医者を探そうとしても、ルヴァは首を振るばかりだった。
「海へ……」
 彼のたっての願いどおり、二人はスキュラの外れの浜辺にたどり着いた。
 星と月が見下ろす砂浜と白波は、清らかな色をしていた。こんなときでなければ美しいと思えたはずなのに。リシュナは頬の裏を噛みながら思った。どうして、こんなことに。
 馬の上から引きずり落とすようにして少年を下す。
「……このまま、海の中へ……」
 ルヴァがそう言うのに、少女はとんでもないと反論した。
「嫌! ルヴァは助かりたくないの? 血が溶けて、本当に、本当に……!」
「いいから……」
 恋人の顔色は、暗くてよくわからない。だが、その体から生きているぬくもりがどんどん損なわれているのは、リシュナにもよくわかった。繋ぐ手をにぎりかえしてもくれない。力がほとんど出せないのだ。
 肩に腕を回し二人で歩く。だが、ルヴァの足はほとんど突っ張ることしかできず、引きずられているだけだった。
「どうして、そんなに、海に……」
「《約束》だから……」
「だからって! いいの、わたしはいつでも見られるから、だから――!」
「《約束》を、果たす、んだ……」
 少年は力なく首を振った。
「わたしとの……?」
「……の、……と……」
 波が打ち付ける音のせいで、ルヴァが何と言ったか、わからなかった。
 何度も聞き返すが、彼の耳はもう聞こえないのか、高くなり始めている鼻は水平線のかなたを向いたままだ。
 リシュナは切り立った岩場の陰に、少年を座らせた。彼は少女の肩に首を預けている。いつもなら暖かいときめきで心が満たされるはずなのに、と少女はまた涙をにじませた。これが、最後かと思うと。たまらず鼻をすする。
「……ナティア……」
 恋人が名を呼んでくれている。少女は、深い悲しみと喜びとを同時に感じていた。
「うん……」
「僕の、スカーフの、下……」
「苦しいの?」
 少女はルヴァの言うまま、彼のスカーフをとってやり、首元を露わにしてやった。日焼けを免れた色白の首筋は、少女のとは異なり筋張っており、太くなろうとしているところだ。そこに、銀色のチェーンが光っている。
「……それ……とって……」
 少年の声は、夢を見ているかのように穏やかで、儚い。命のともし火が消えかかっているのを、リシュナはひしひしと感じた。再び首に手を回す。チェーンをとってみると、その先端には月のように輝く石がついていた。少年はうっすらと瞳を開けた。アクアマリンブルーの瞳は、くらい海を映していて色濃い。
「……持ってて……」
 少女は首をいやいやと振った。
「形見なんて、いらない! ルヴァさえ生きていてくれたら、わたし――!」
 嫌がる彼女に対し、ルヴァはゆっくりと、ネックレスを持つ手をリシュナに押しつけた。
「……母さんの……。ナティアに、つけてて、ほし……」
 そのとき、スキュラ全体の明かりが増え、騒がしくなった。それは二人が寄りそう浜辺も例外ではなかった。
「リシュナさま!」
「お姫さま、どこだー!」
「リシュナさまぁ!」
 気付かれた。少女は身を固くした。少年はまだ、力ない手を少女の首に回してくれている。それを手伝って、ネックレスを付けた。少年のプレゼントは小さく美しかったが、リシュナのこころにずっしりと大きな闇を乗せた。
「ルヴァ。ルヴァが死ぬというのなら、わたしも死にます」
 少女は腹をくくった。
 そして髪を結っていた真紅のリボンをほどき、二人の腕にしっかりと巻きつけ、結んだ。
「一緒に、いきましょう」
 二人が潜んでいた岩場は、海が打ちつけられる小さな水たまりのようなところだった。思い切って、砂浜に出る。ランタンを持つ人影が、あちこち遠くに見える。
「ナティ、ア……。きみは、だめ、だよ……」
 リシュナは聞く耳を持たず、肩と肩、手と手を支え合って入水しだした。
 最初足首を洗っていた波はどんどんと高さを増し、進む足を阻みだす。脚、腰、胸と海の濃紺に浸したあたりで、ルヴァの体に重さが無くなってきた。
「そうか……」
 そして、あたかも魔法が発動したかのように、彼の体が青白い光に包まれだした。
「……ありがとう、ナティア。ここまで連れてきてくれて」
 先ほどの血が絡んだ喉も、いつしか潤っている。
「あったかい。忘れないよ」
 ルヴァは、リシュナに向き直りそっといつくしむように抱きしめた。少女もたまらなくなって、彼の背に思い切り腕を回す。最後にこうしたのは、いつだろう。ぼんやりと彼女は思った。いつまでもこうしていたいのに。しかし打ち付ける波と少年の体の冷たさが、別れを受け入れよと、リシュナに迫っていた。
「ここからは、僕一人で行く。君は戻るんだ」
 そして少年は、少女を突き放した。
 リボンで繋がっているのに気付いた少年は、それをほどこうとする。
 その手を、リシュナは思い切り掴んで止めた。
「どうして! わかんないよ、ルヴァ!」
「大丈夫。生きていれば、きっと、また会えるから」
 くるりと背を向ける恋人は、いままでになくそっけなかった。
「どうしてそう言えるの? 死んじゃったら、終わりなんだよ!」
「僕を信じて」
 少女は、手でこぐようにして恋人を追いすがった。
「ルヴァ! いかないで! わたしを一人にしないで! おいてかないで!」
 リシュナ・ティリアの叫びに応じたのか、突如高波が襲いかかり、二人を飲み込んだ。

     7

 静かな夜闇の奥で、何かがざわつき始めた。セレス・フィナの沈み込んでいた意識がふわりと浮きあがったとき、頭に触れるものの柔らかさに安心した。それは温かで、まるまるとしてしっとりとしている。少女の小さな友達は、姉のように慕う騎士に寄りそいながら、青白い光を放っている。ラヤ、お願い。ミラーの中の苦しいをとってあげて。
「お風邪を召されますよ」
 優しい声とともに薄明るい蝋燭が少女の瞼を照らした。高貴なる末姫には、ベッドに上体だけを預けうたたねをしていた自分に、薄手の毛布をかけてくれたのが誰か、すぐにわかった。
「……シア?」
「はい、ここにおります」
 彼女のお気に入りは、影の中でそっとほほ笑んだ。
「あっ、ボクはいいから。ランタンは、遠くに置いてあげて」
 メイドは膝を軽く折ると、セレス・フィナの言いつけどおりにした。彼女から、なじみのある匂いがしたので、セレスは少し訝った。誰の、何の匂いだろ?
「う……」
「ミ……!」
 この部屋にいる誰よりも年嵩で、勇敢な騎士が小さく呻いた。セレスは喜びに声をあげそうになったが、とっさに口に手の戸を立ててそれを防いだ。
「……ミラーはいつ起きるのでしょう」
 メイドの少女は、小さな主君の肩を優しく抱き寄せてくれた。二人は一緒になって、ベッドに横たわるミラー・シールを見守った。聡明で優しい少女の相貌で眉間がくっきりと寄り、苦悶の汗が滲んでは落ち行く。
「苦しそう……」
「うん。怖いもの、見てる。ねーさまは『癒した』って言ってたけど、それは体の傷だけだったからさ」
「お分かりになるのですか、フィナさま?」
「わかるよ。だって、あんなに強いミラーが、こんなにつらそうにしてる。きっと、すごくいやなことがあったんだ」
 セレス・フィナは両手のなかに小さく息を込め、それをつぶさぬようふわりと丸く形作ると、ミラーの横たわるベッドの上に軽く放り投げた。風の球はその場で渦巻きながら、冷涼なそよ風を少女たちに送りだす。セレスは騎士の額をそっとハンカチでぬぐい、前髪をそっとのけてやる。
「シア。いやな感じがするんだ。本物のにーさまがいない。ラインもミラーもずっと起きない。おまけに、ねーさまは変だ。ボクは、いつまで『お姫さま』をやってなきゃいけないんだろう? 自分で、にーさまを探しにいけたらいいのに……」
 セレスは、自分の言葉が気持ち通りに紡がれるのを聞いて、改めて自覚した。
「ボクは、助けてもらうのをただ待ってるのは、いやだ」
 そのとき、にわかに離宮中が騒がしくなった。喧騒が高まるのに、二人の少女は身を寄せた。
 だが、セレスはすぐに気を取り直して、窓辺に身を寄せた。空けておいた隙間から、騎士たちが馬を走らせていくのが見えた。

     8

   アマネセール紛争(仮)はグラジルアス率いる王国軍が辛くも勝利した。
   戦火の中で反逆者グレイ・シールとセルゲイ・アルバトロスは行方不明に、騎士アルライン・アルバトロスは懲戒をうけたものの国王に赦されて王国に戻った。
   また、辛い戦争の後すぐに、リシュナ・ティリア姫が誘拐された。
   海にのまれそうなところをアレクセイ・フェブル・リンデン卿とその騎士が救ったという。
   ドレスは血まみれの状態でで発見されたものの怪我は無かった。
   われわれは王家に仇なす者を決して許しはしない。
   水色の髪をした少年の誘拐犯を探している。心当たりのある者には……。


 王都から数レウカ西に離れた町イリットのカフェは、今日も盛況だった。その証拠に、太陽光を楽しめるテラス席も、屋内も満席だった。
 陰った一角でテーブルを一人で占拠し新聞を読んでいる老人に、眼鏡の青年が腰を折った。青年からは、新聞に隠れて彼の顔は見えない。
「相席、よろしいですか?」
「お、おお? ここに孫が来るんじゃが……」
「それまで、是非に」
 短く切りそろえた胡桃色の髪を全て手前にくしけずった青年は、見えていないのをわかりながら、愛想良い笑顔を取り出して見せた。
「これ、よければどうぞ」
 彼は眼鏡を曇らせながら、両手に持っていたマグカップの片方を差し出した。
「おお! 細いのに、太っ腹じゃのぉ! ありがたく……」
 老人は新聞を左手に持ったまま、ぷるぷると小刻みに震える右手でマグを受け取った。それがちょっと溢れて、新聞に濃い染みを作る。
「……読んだか? 今度はルヴァが……」
 老人は、マグに口を付けながら言った。先ほどの耄碌もうろくした感じはどこかに消えた。
 眼鏡の青年は口元に頬笑みを絶やさずに小声で言う。
「ええ。ですが、まだ、そうとは。……ですが、これほどのゴシップ。却って動きやすくなるというもの」
「おまえは冷たいな」
「友としての僕は、泣きたくて仕方がありませんよ。ですが――」
 青年は目頭を押さえるのを止め、眼鏡を戻す。
「今の僕は、軍師だ。僕が見つめるべきは起きてしまった悲劇ではなく、悲劇が起こらない未来だ。そうでしょう」
「参謀が孤軍奮闘とはの」
「あなたもね」
 揶揄された老人は新聞を畳み、顔を露わにした。深くかぶった皮の帽子の下で、以前、彼を象徴していた口元を覆う白い髭は、すっかり剃り落とされている。くっきりと見えている輪郭に、青年は若かりし日の相貌を想像した。
「遁走の間違いだ」
 かつて好々爺を演じていた枯れたバスバリトンは、差し込む陽気を受けてさえほぐれない。
「なぜ、ラインどのがラミナスの傍にいると思います?」
「ミラーがいるからじゃろ」
 老人はくちびるを突き出し、むちむちと音を立ててふざけた。
「それは一理あります。……もしくは、彼の中の鬼神が目覚めたのかも……」
 青年の言葉に、老人の片眉がグイッと持ちあがった。それは疑問でもあり、気付きでもあった。
「そうか。アイツが……。ならば、奴の狙いはわしじゃ」
 青年は首を振った。
「それが、あなたがセウラに向かう理由なんですね?」
「おう」
 そのとき、少女が金色のお団子を揺らしながらやってきた。
「ああ、おじーちゃん! こんなところにいたんだね! 旅の方に相手してもらってたんだ。すみません、うちのボケじーちゃんが。おじーちゃん、先生へのお土産、ばっちり買ったからねぇ」
「おお。ウェンディ。先生に腰を見てもらわんとのぉ」
 薬師の娘の登場により、アルバトロスは突然しなびた声を取り出した。
「そうだよ。だからセウラに行くんだよ」
 エイノはくすりとしながら、彼らの意図に乗った。
「いえ。お話できて、楽しかったですよ」
「そうですか? お詫びといっちゃなんですが、あたし特製の薬でも持ってってください」
 少女はにっこりと籠をエイノに向かって差し出した。
「全部回復薬ですよっ」
 ウェンディのにまにました顔が以前と変わらなくて、司書は少し気持ちがほぐれる気がした。
 籠の中には、たくさんの小瓶と何やら手紙らしきもの、そして少しの食べ物が入っていた。おそらく、彼女の気持ちもふんだんに詰め込まれているだろう。
「……僕にはそうみえないな。だが、ありがたく受け取ろう」
 そう言ってエイノが立ち上がると、ウェンディもアルバトロスをまるで足腰の立たぬ老人のように扱いながら、立たせてやった。
「それじゃあ」
「お兄さんも、良い旅をの」
「バイバイ、またね」
 少女は一粒だけ涙をこぼすと、ウインクで別れを告げてくれた。

     9

 青年はひとり、もくもくと畑を視察していた。
 夏とはいえ、ヴァニアス島の北部だ。ポフヨイスの日照時間は短く、気温もさほど高くならない。冷害はままある。だが、このキトの畑は木材と薄い麻で作った温室が功を奏しているようで、葉の緑が濃く、照りがある。触れて肉厚、はじいてはかえる生き生きとした様子を見て、若い男の口の端が持ちあがる。
「今日もありがとうございました。魔術師さま」
 彼は膝を土につけていたが、中年の農婦の感謝に答えるために立ち上がった。短い前髪がひさしにならず、彼は金色の瞳を細めた。
「いいや。よく手入れしてあるから、オレが来なくてもよかったぐらいだ。麦畑のほうも根も張っていた。しっかり踏んだからだな。再来月には必要なだけ収穫が見込めるはずだから、安心するといい」
「ああ……」
 男の声を聞いて、農婦の表情が緩む。だが、曇った瞳の色は拭えなかった。魔術師はすぐにその理由がわかった。
「ネブルは、まだなんだな」
「……ええ……。戦が終わってもう、半月になるんですけどね……」
 その声同様、エプロンを握るキトの手が震えた。
「あの馬鹿。なんで解放軍になんか……」
 青年は、涙する農婦――ともすれば自分の母親と同じくらいの女性に対し慰めはないかと、さっと頭をまわした。ふと、自身のフードに入れ込んである占星球のことを思い出し、背中に手をまわした。左手の杖を勢いよく大地に突き刺す。
 抑えきれなかった感情と涙、嗚咽をこぼすキトに、なにか吉報はないだろうか。魔術師は占星球を両手で持ち、瞳を閉じてそっと額に押しあてた。
 水よ、答えてくれ。
 ほどなくして、瞼に光を感じたので、そっと覗きこむ。
 すると、さざ波が遠くから打ちよせるような優しい囁きがあった。
 運命が訪れる。
「……大丈夫。きっと、いい知らせがある」
 魔術師の青年は、占星球の示唆をキトにあてはめて慰めてやると、彼らの農地を後にした。羊たちが首をもたげ、牛が鳴くのを背中で受け止めながら、柔らかい土を踏む。先日、嵐が来たので泥炭が緩んでいるのだ。青空は高く、男の朽葉色くちはいろの短髪を右へ左へとかき乱している風も強気だが、大地までは乾かしてくれていなかった。
「戦、か……」
 魔術師の主人であるポフヨイス辺境伯レオポルト・アーデルベルト・サンデルの父サンデル公爵と、彼の庇護下にあった反逆者に対して王家が掃討作戦を行ったのは、記憶に新しかった。
「グレイ・シールなあ……。黒髪なのに、グレイ? そんなやつ、シール孤児院にいたっけ? オレが奉公に出てから入ったとか? うーん……」
 男は杖で肩を叩く。リズムが答えをくれるとは限らないが、何かをせずにはいられなかった。
 魔術師にとって不可解なのはそれだけではない。彼が面倒を見ているサンデル領以北のポフヨイスの農夫たちが、こぞってグレイ・シールに加担し、解放軍に参加したのだ。キトに聞く限りでは、時の英雄の一人で解放軍を作ったというセルゲイ・アルバトロスの呼びかけに答えたらしい。ネブルも例外じゃなかったんだな。
「アルバトロスって、あのアルバトロスのおっさんだよな……王国の騎士団長の……。なんでまた、国賊の側についたんだか。飲みすぎがたたって、ついにボケたか?」
 しかし結果は悲惨なものだった。自称解放軍を名乗った反逆者たちは敗走し、グラジルアス王の手で反逆者は戦地に倒れたという。サンデル公の国家転覆共謀疑惑がすっかりぬぐわれたので、息子レオポルトは心底安心したようだった。
 靴の裏に貼りつく土を無視しながらイデアン城への帰路についていると、ずんぐりと大きな男が向こうからやってくるのが見えた。少し焦っているらしく、黒い頭が上下している。何事かと思って立ち止まり見守ると、やがてそれが見知ったものだとわかった。
「ネブル! 無事だったんだな!」
「ああ! 魔術師さま! よかった!」
 農夫にして元解放軍のネブルは、目に見えて安堵し、息を荒げながら膝に両手をついた。分厚い体が膨らんでは縮みを繰り返している。
「お前が無事でよかったよ。キトが心配していた。急いで帰ってやんな――」
「まずは、来てください!」

 ネブルがきょろきょろと神経質にみまわしながらゆくのを、魔術師は首をかしげながらついていった。目立たないようにしたいのだろうか、と彼は考えた。でもネブルみたいな巨漢はどこにいたって目立つはずだけど。
 ぼんやりそう思っているうちに、陽光が陰った。気を取り直すと、森の中にいた。レヴェリンと呼ばれている、深い森だ。ポフヨイスの子どもがだだをこねたとき、捨てると脅されるのがこの鬱蒼とした森だった。その実、南下するポフヨイスの民のために大きな道が一本とおされており、この道を真っ直ぐに行けば、いずれ森を抜け、サンデル公爵領に入ることができた。
「魔術師さま、誰もいませんか?」
 大男が小声で言うのが面白くて、魔術師は吹き出しながら答える。
「人っ子ひとりも」
「よかった……。こちらです」
 そう言いながら、ネブルは道からそれた。
 妙に慎重だな。男は怪訝に思いながらついていく。しかし、はた、と思いついた。こうやって人気のないところへ連れ出されて、されることと言えば。少々背筋が寒くなったのを、男は笑い飛ばそうとした。
「ネブル。おまえ、山賊にでもなって――」
「動かないで」
 刹那、女の声とともに魔術師の首元に冷たいものがあてがわれていた。振り向くに振り向けない。彼は杖を地面に真っ直ぐ突き立てて、両腕を上げた。
「当たりか。金に困ってるならそうと、先に言ってくれよな、ネブル」
 だが、その態度は不遜なものだった。馬鹿だな。わざわざ森で俺に刃向かうなんて。
 正面で、名を呼ばれた農夫があわてる。
「ああっ、お嬢さん、その人は――!」
「ネブルさんは悪くないわ。困ってるのはあたし。助けてくれたら、命は保証する」
 刺々しくて、強気な物言いをする女だと、魔術師は思った。盗賊らしいといえばそうだった。
「それが人にものを頼む態度かよ」
「きゃあっ!」
 口元を緩めた魔術師の首から、ナイフが弾き飛ばされる。そして、しゅるしゅるとこすれる音がしばらく続いた。首にぴりりと走った痛みは、ナイフが引っ掻いたものだろう。それを押さえながら、くるりと振り向いた。
 さて。どんな顔かじっくり見てやるとするか。まじまじと、尻もちをついて蔦に縛られている女の顔をみた。これが彼の土の魔法だった。杖から魔力を供給し、近くのアイビーを魔法の力で急成長させたのだ。
「おまえなぁ。反省しろよ。このオレが――」
「……ウェイン……?」
「おう。土の魔術師ル=ウェイン・アースガルさんだとも知らず、よく森で……」
 つらつらと名乗るつもりが遮られて、ウェインは口ごもった。
 サンデル家に召し抱えられてから呼ばれることの減った真実の名を、なぜ初対面の女が知っているんだ?
 ウェインが丸めた瞳で観察すると、泥や埃でくすんで固まっている長い灰色の髪の下で燦然と輝くアメジストの瞳が三角になった。噛んでいるくちびるも肌もくすんでぼろぼろ、しばらく洗っていない様子だ。でも、美人だ。思わず手を伸ばして、下ろしたままの髪の先をこする。泥が落ちたとたん、髪が白銀色に輝いた。ウェインは顎を下げた。
「おまえ……、オレのこと知ってるんだよな……?」
「ええ」
 針のようなまつ毛に縁取られた紫の瞳をした、白銀の髪の乙女がくちびるを動かさずに言う。
 その何事にも動じない肝の据わり具合にも、覚えがあった。
 五年前から見違えるほどくっきりとした目鼻立ちに、顔ごと引き寄せられてしまう。
「シールの、テュミル……?」
「そうよ」
 魔術師の戦意喪失を感じたのか、魔法の蔦はみるみるうちに彼女からほどけて、どこかへ姿を消した。
 ぼろぼろになったキルトの少女――テュミルは、シール孤児院で暮らした幼馴染だった。過ぎた歳月を、ウェインは目の当たりにした。五年前ほんの子どもだった彼女の面影は見当たらず、目の前には美しい娘がいた。
「どうしたんだよ、こんなところで――!」
「ウェイン、お願い。かくまって! どこでもいい、人目につかない所なら!」
「な、なんだよ! 夜逃げでもしてきたみたいな!」
「そうよ!」
 幼馴染の腕にすがる彼女は、いつだかと変わらない決然とした声音をしていた。
 しかし次の瞬間、テュミルの顔は歪んで、涙が溢れた。
「あたしの、あたしの王を助けて!」
 叫びにも似た言葉が、ウェインの心と耳にぐさりと刺さった。
次回、第四章 お伽話を君に『匂い立つ蘭』
ご期待ください。毎月末更新です。

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  • 完結済(全415部分)
  • 6 user
  • 最終掲載日:2017/06/30 09:00
異世界食堂

しばらく不定期連載にします。活動自体は続ける予定です。 洋食のねこや。 オフィス街に程近いちんけな商店街の一角にある、雑居ビルの地下1階。 午前11時から15//

  • ローファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全119部分)
  • 6 user
  • 最終掲載日:2017/06/10 00:00
金色の文字使い ~勇者四人に巻き込まれたユニークチート~

『金色の文字使い』は「コンジキのワードマスター」と読んで下さい。 あらすじ  ある日、主人公である丘村日色は異世界へと飛ばされた。四人の勇者に巻き込まれて召喚//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全824部分)
  • 6 user
  • 最終掲載日:2017/12/24 00:00
甘く優しい世界で生きるには

 勇者や聖女、魔王や魔獣、スキルや魔法が存在する王道ファンタジーな世界に、【炎槍の勇者の孫】、【雷槍の勇者の息子】、【聖女の息子】、【公爵家継嗣】、【王太子の幼//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 完結済(全255部分)
  • 9 user
  • 最終掲載日:2017/12/22 12:00
フレイム王国興亡記

 通勤途上で買ったコーヒー片手に、気付いたら異世界トリップしていました。 『えっと……私、別に勇者でもなんでもないんですけど……』  ただのリーマンだった主//

  • ノンジャンル〔ノンジャンル〕
  • 連載(全204部分)
  • 6 user
  • 最終掲載日:2018/01/14 00:00
弓と剣

ヴィジャヤン伯爵家三男サダは稀代の剣士リイ・タケオに憧れ、弓を片手に北軍へ入隊する。ちょっと世間知らずなサダが、いろいろな出来事と出会いにより北の大地で成長して//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全408部分)
  • 8 user
  • 最終掲載日:2017/12/29 01:00
Re:ゼロから始める異世界生活

突如、コンビニ帰りに異世界へ召喚されたひきこもり学生の菜月昴。知識も技術も武力もコミュ能力もない、ないない尽くしの凡人が、チートボーナスを与えられることもなく放//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全443部分)
  • 6 user
  • 最終掲載日:2017/06/13 01:00
ディンの紋章 ~魔法師レジスの転生譚~

どこに出しても恥ずかしい就職浪人の主人公は、ある日不運にも事故死してしまう。 目を覚ますと、彼は異世界に転生していた。 もう二度と怠惰な生活なんて送らない。 そ//

  • ノンジャンル〔ノンジャンル〕
  • 連載(全169部分)
  • 6 user
  • 最終掲載日:2016/02/27 22:36
ウォルテニア戦記【Web投稿版】

 青年が召喚された異世界は乱世だった。  絶対王政の世界。  選民意識に凝り固まった特権階級と世俗にまみれた宗教。  青年は自分の正義を胸に行動を起こす。  

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全194部分)
  • 7 user
  • 最終掲載日:2017/12/26 22:39
男なら一国一城の主を目指さなきゃね

 列車事故で死亡した主人公(45歳サラリーマン)は異世界に生まれたばかりの赤ん坊として転生した。なぜか特殊なスキルも持っていた。自身の才能について検証を行い、そ//

  • ヒューマンドラマ〔文芸〕
  • 連載(全526部分)
  • 7 user
  • 最終掲載日:2018/01/14 19:00
詰みかけ転生領主の改革(旧:詰みかけ転生領主の奮闘記)

享年29歳の男――人生をドロップアウトするには早すぎる死だったが、気が付けば領地を持つ上級貴族の息子、ソラ・クラインセルトとして転生していた。 ――主人公の両親//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 完結済(全243部分)
  • 6 user
  • 最終掲載日:2015/04/10 23:00
火刑戦旗を掲げよ!

勇者は戦死し、1人の男が火刑に処された。窮地の王国を救い大陸に平和をもたらしたのはその男だったというのに。時が流れ辺境に1人の不思議な子が生まれる。名をマルコ。//

  • ローファンタジー〔ファンタジー〕
  • 完結済(全148部分)
  • 6 user
  • 最終掲載日:2015/06/27 10:33
異世界人の手引き書

※カドカワBOOKS様より9月10日書籍版一巻発売いたします! 皆様の応援のおかげです! 本当にありがとうございます! WEB版の削除・ダイジェスト化等はしませ//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全218部分)
  • 6 user
  • 最終掲載日:2017/06/23 00:29
魔導師は平凡を望む

ある日、唐突に異世界トリップを体験した香坂御月。彼女はオタク故に順応も早かった。仕方が無いので魔導師として生活中。 本来の世界の知識と言語の自動翻訳という恩恵を//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全352部分)
  • 6 user
  • 最終掲載日:2018/01/17 07:00
マイバイブルは『異世界召喚物語』

 エルネストはヴィオネッティー伯爵家の三男である。成人した彼は家を継げないため、生きるために冒険者の道を選ぶ。  頼りになるのは満足に使えないユニークスキル『魔//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全1072部分)
  • 6 user
  • 最終掲載日:2017/02/04 00:51
Vermillion;朱き強弓のエトランジェ

【DEMONDAL】――硬派すぎるゲームシステムの北欧産VRMMO。スキルもレベルもインベントリも便利なギルドも存在しない、その無駄なリアリティは最早VR生活シ//

  • ローファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全84部分)
  • 6 user
  • 最終掲載日:2017/11/05 11:55
薔薇姫は支配者として君臨する

気付けば巷で流行りの異世界転生というものをしておりました。しかも側室ではありますが、王族の子ども。王女ですね。前世ではそれなりに平凡な人生だったとは思うのですが//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全58部分)
  • 6 user
  • 最終掲載日:2017/12/13 13:48
精霊幻想記(Web版)

主人公のリオは異世界のスラム街で最底辺の孤児として暮らしていた。だが、日本で暮らしていたとある青年の記憶と人格が、七歳のリオの身に宿る。その後、王女誘拐事件に巻//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全194部分)
  • 6 user
  • 最終掲載日:2017/12/26 21:00
デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )

◆カドカワBOOKSより、書籍版12巻、コミカライズ版6巻発売中! アニメ放送は2018年1月11日より放映開始です。【【【アニメ版の感想は活動報告の方にお願い//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全562部分)
  • 10 user
  • 最終掲載日:2018/01/14 20:42
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