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赤い帽子
作:坂田火魯志



第六章


「聖書のか」
「邪悪な妖精は魔物と同じです。聖書の言葉を嫌います」
 これは昔からよく言われていることである。邪な存在は聖書や信仰を嫌う。キリスト教の世界においては広く信じられている話である。
「そのうえで銀の十字架を溶かしまして」
「ああ、そこから先はわかる」
 署長もここまで聞けば後はわかった。
「それを銃弾に使ったのだな」
「そうです、それで妖精を倒しました。こうでなくては倒せませんので」
「狼男と同じだな」
 副署長はその話を聞いてふと呟いた。
「魔物はどれも同じだということか。それにしても」
「何でしょうか」
「うむ、私も知りたいことがあるのだがね」
 副署長はここで怪訝な目で彼に問うてきた。
「このレッドキャップだが」
「はい」
「何故人を殺すのかね。ただの快楽殺人からかね?」
「生きがいの為です」
 男の返答はこうであった。
「生きがい!?」
「はい、この帽子を御覧下さい」
 そうしてレッドキャップの帽子を指差す。その奇麗に赤く染まった帽子を。
「レッドキャップの生きがいはこの帽子を赤くすることなのです」
「帽子をか」
「そうです。この赤ですが」
「血か」
 副署長はその赤を見て言った。その赤は確かに血の赤であった。
「それで帽子を染め上げているのか」
「レッドキャップにとって帽子をより赤くすることが生きがいなのです」
 それを今副署長に述べる。
「だから人を殺し」
「そうしてその血で帽子を赤く染めるのか」
「これでおわかりでしょうか」
 ここまで話したうえで副署長に対して問うた。
「どうして彼が人を殺すのか。その斧で」
「ああ、よくな」
 副署長もそこまで聞いて納得した顔で頷いた。
「気持ちのいい話ではないがな」
「それは我々が人だからです」
 ここでの男の言葉はあえて人であることを強調するものであった。
「妖精は妖精で違う考えをするものです」
「特に邪な妖精はか」
「そうなります」
 署長にも述べる。
「おわかりになって頂けたでしょうか」
「わかった。しかしだ」
 署長は顔を少し上げて溜息をついた。溜息はすぐに白い息となって出た。
「殺された犠牲者にとっては納得できない話だな」
「全くです」
 副署長も署長の言葉に応えて頷く。
「ただ帽子を赤く染める為だけに殺されるというのは。しかも千年も前からそれが続いていたとは」
「レッドキャップはそもそも血を好みます」
 男はまたレッドキャップについて言及した。
「過去に事故や事件のあった場所に現われます。そして犠牲者を狙うのです」
「ではそこに立ち寄った者にも責任があるというのかね」
「そうは言いません」
 男はそれは否定する。
「それはあまりにも理不尽です。過去に何があったとはいえ今には関係がないのですから」
「そうだな。しかし」
「はい、それも妖精にとっては関係のないこと」
 男が言いたいのはそれであった。
「妖精には妖精の決まりがありますし」
「それもまた理不尽だな」
 副署長はその言葉を聞いて顔を顰めさせた。
「それで殺されるのもまた」
「確かにそうですがそもそも世の中とは理不尽なもの」
 男の言葉は今度は哲学的になった。
「ですからそうしたこともあるのです」
「理不尽な中での事件か」
 署長はそこまで聞いてまた白い息と共に呟いた。
「何かな。それを言うと」
「はい、どうしようもありませんが」
「しかし事件は解決されねばなりません」
 副署長も言ったところで男が述べた。
「その理不尽をできる限りなくさなければ」
「それが我々の仕事か」
「その通りです。少しでも」
 男はそう呟く。彼の呟きもまた白い息になっていた。その息の下でレッドキャップの躯は崩れていき最後には白い砂になって乾いた風により消し去られた。
 一連の殺人事件は終わった。表向きには犯人は自殺し死体は川の中に流れて発見されなかったと発表された。しかし真実は限られたものしか知らなかった。公表しても誰も信じないものだったからだ。だからこそありのままには公表されなかった。そうした事件であった。


赤い帽子   完



                 2007・12・1







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