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アルミ缶リサイクルマーク方式に無限強化される魔王~経験値の時代は終わった。戦わなくても自分を食べて倍々レベルアップ~ 作者:あかまろ

ツキカゲ編

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第7話:生える魔王

 人間の賊は勇者ミューレットの目にも止まらぬ剣戟(けんげき)に何が起こったかすら理解できず言葉を失っている。俺もツキカゲ様の凡庸な動体視力にある意味で絶句しているのだが今は事を済ませるのが先決だ。俺は目を(つむ)り鼻に意識を集中させる。
 ……奥にある大きな廃屋の中に大勢の人間の匂いがするな。動く気配もないし賊の仲間ではなさそうだ。まだ売られる前だったか、ラッキーだったな人間共。
 拉致された村人の居所に見当をつけた俺は大声で勇者ミューレットに向かって叫ぶ。

「ミューレット様、どうやらこいつらがローグ村を襲っていた盗賊です!」

「えぇ!? まさかこの人達が!? だってモヒカンだよ? 何かの間違いじゃあ……」

 予想外とばかりに驚きを隠せない勇者ミューレット。
 この勇者はモヒカンにどんなポジティブイメージを持っているのだろうか。

「いいえ間違いありません。よく見て下さい、手に斧や剣を持って友好的に近づいて来る人間がいると思いますか?」

「きこり……とか? あっ、あと剣聖!」

 剣聖はお前だろうがぁぁ! 
 思いついたように手を叩き回答する馬鹿勇者。俺は苛立ちを抑えながら勇者ミューレットに指示を出す。

「とにかくミューレット様は村人達を助けに行ってください! ここから真っ直ぐ行った一番大きな廃屋に村人達は囚われているはずです」

「なっ!? てめぇ、何故それを!?」

 動揺する人間の賊。
 残念だったなお前らとは嗅覚が違うんだよ。

「え……でもこの人達が盗賊ならツキ君もヒルポチさんも危ないよ」

 その言葉に敏感に反応したのはツキカゲ様だった。勇者ミューレットと盗賊との間に立ち凛として言い放つ。

「大丈夫さミューレット、俺は必ずお前の元に駆けつける。だから決して一人で相手を片づけずできれば賊に捕らわれてピンチになって待っていてくれ。その際には人間の女達に俺の事をアピールしておいてくれると尚嬉しい……頼んだぞ」

 カッコをつけながら下心丸出しの要求をするツキカゲ様。ここまでオブラートに包む気がないのならもういっそ清々しいな。

 その言葉を聞いた勇者ミューレットは少し困惑したような表情を浮かべながらも人間達が囚われている廃屋へと走り出す。そのスピードは流石の一言であっという間に豆粒ほどに小さくなっていく。

「ま、待ちやがれ! 誰が勝手に動いていいと言ったぁ!」

「おっと、実験体が勝手に動くんじゃあない」

 勇者ミューレットを追おうとする賊の前に今度は俺が立ち塞がる。

「じ、実験体だぁ!? 何を言ってやがる」

「言葉通りの意味さ。生きる価値もない下等な種族、お前達人間の有効な活用方法を考えてやったんだ、感謝して貰いたいくらいだな」

 俺は目の前の賊に対して微笑を浮かべる。

「あ、兄貴ぃ……なんだか寒気が……」

 賊の数人が足をガタガタと震えさせている。
 おっと、威嚇したつもりもなかったのだがな。このまま戦意を喪失させてツキカゲ様の実戦相手を減らすのも愚策だ。従者は従者なりにさっさとツキカゲ様に道を譲るとするか。

「さぁ、ツキカゲ様! 劣等種である人間に王の裁きを!」


 ザンッ!

 手を広げてツキカゲ様の方向を振り向くとそこには息を荒げるモヒカンの賊と仁王立ちで首から上を失った魔王の次男の姿があった。

「へ、へへ……舐めやがって。ざ、ざまぁみやがれ」


 へ……?

 ポタリ、ポタリと賊の首領の斧からは赤い血がしたたり落ち地面にはツキカゲ様の首がゴロンと転がる。首を失った胴体からは大量の血が噴き出し辺りを真っ赤に染める。その光景はジゴック様の最後をフラッシュバックさせ俺は一瞬目の前が真っ暗になる。

(ば、馬鹿な、馬鹿な馬鹿な馬鹿な!! 確かに後ろから賊が来ているのは知っていた、だが魔王の息子だぞ? 人間の片手斧で落とされるようなヤワな首ではない、逆に斧が砕けるか相手の腕がへし折れるかの二択だったはず……それが何故、何故なんだ……)

 俺はその場で倒れ込むように膝をつく。
 ……偉大なるジゴック様の血よりも人間の脆弱なる血が勝っていたというのか、ツキカゲ様は所詮人間の血を引く劣等な生物だったという事なのか、俺はジゴック様の最後の楽しみすら全うできない愚かな従者だというのか……ならば俺は一体……!
 絶望し、絶望し、絶望し……視界からは光が消え、景色が歪んで見える。俺はジゴック様に報いる事は一生できないのだと、成すべき目的は目の前で呆気なく消えてしまった事を頭が理解してしまったから。
 ……俺は色のない空を見上げゆっくりと立ち上がり小さく息を吐く。


「もういい……」

「あっ? お仲間が殺られてビビってんのかぁ? へへ、残念だったな。俺達ゃ女子供にも容赦はしねぇんだよ」

 ……ジゴック様の血を引く者はジゴック様本人ではない。そんな事は分かっていたのにな。少し時間は経ったが今初めて実感した、あぁ……ジゴック様は死んだのだと。
 それがたまらなく寂しく、そんな世界を憎まずにはいられなかった。

「いや、それももういい……もう考えるのはやめだ……この廃墟ごと消し飛ばしてやろう」

 もう想いを巡らせる事も無い。エルローシュ様でもルナプリ様でも後はどちらでも好きに後を継げばいいさ。どうせどちらも我が主君、ジゴック様ではないのだから。
 俺は人間の賊共に向かって右手を突きだし魔力を込める。

 その時だった……
 メキュメキュッ! どこかから肉が軋む音が聞こえて来る。聞き慣れないその音の方に目をやるとそこにはツキカゲ様の首、そして次の瞬間俺は目を疑う。

「!」

 にょきにょきにょきにょき!!
 ツキカゲ様の首の根から何かが盛り上がったかと思うとにょきにょきとタケノコのように体が生えてくる。それは形だけでなく色も、衣服さえも元通りにツキカゲ様の形体をかたどって行く。

(ば、馬鹿な!? まさか超再生!? だがジゴック様でさえ首だけの状態では生命を保つ事はできなかったんだぞ!? それを、まさか……こんな……!!)

 あっという間に体を復元させたツキカゲ様は何事もなかったかのように首をコキコキと鳴らしながら胸に手を当てる。

「ふぅ~びっくりした。急に斧で切りかかって来るんだもんなぁ」

「ツ、ツキカゲ様……よくぞご無事で」

 俺はつい唇を震わせ歓喜に打ち震える。
 見たか人間! これが崇高なる魔王の血だ! これがツキカゲ様だ! 俺は血が滲むほどに自分の拳を強く握りこむ。

「ぎゃ、ぎゃあぁぁぁぁぁ化け物っ! 化け物だぁぁぁぁぁ!!」

 慌てふためいて叫び声を上げながら方々へ散る人間の賊共。俺は再度賊の方へと向き直し声高らかに言い放つ。

「ふはは、恐れるがいい人間よ。そしてあの世で悔いるがいいわ、魔王の世継ぎたるツキカゲ様に牙を向いた事をな! さぁツキカゲ様、この無礼な人間共に王の鉄槌を!」

「「おっけー!」」

 ……ん?
 なんだかツキカゲ様の声が二重に、ステレオ調に聞こえて来るのは気のせいだろうか。

「「よーし、びっくりさせてくれたお礼にとっておきのヤツを見せちゃおうかなぁ!」」

 ……やっぱりだ。なんだこれ、幻聴か?
 不思議に思いもう一度ツキカゲ様の方を振り返る。

「!!」

 俺はその光景に思わず口を開けたまま硬直する。
 そこにはまったく同じ姿のツキカゲ様が二人……! 二人で仲良く肩を組んでOKマークを作っていたのだから。

「な、なんじゃこりゃぁぁぁぁ!」

「「ん? どうしたポチ」」

「ツキカゲ様が、ふ、ふ、二人にぃぃぃぃ!」

「「あぁ俺が首から再生した俺で、こっちが胴体から再生した俺な」」

「な、な、な、なんですかそれぇぇ! それはもう再生じゃなくて分裂じゃないですかぁぁ!!」

 互いに指をさしあって丁寧に説明する二人のツキカゲ様にさしもの俺も絶叫する。
 し、信じられん……! こいつアメーバの親戚か何かか!? 人間の血なんて微塵も感じさせない変態生命体じゃないか!
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