挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
アルミ缶リサイクルマーク方式に無限強化される魔王~経験値の時代は終わった。戦わなくても自分を食べて倍々レベルアップ~ 作者:あかまろ
7/35

第6話:勇者の力

 盗賊がねぐらにしている場所はローグ村から歩いて数刻の廃墟だった。領地を囲うようにして立っていたであろう木の柵の残骸はすでに腐っており踏むとパリッと乾いた音をさせ脆く崩れる。そういえば見覚えがあるな、ここは以前に村があった場所。何年か前に我らが魔王軍に滅ぼされたはずだが、それでもかつて人間が住んでいた形跡は残っておりボロボロではあるが雨露くらいは凌げそうな民家跡がいくつも残っている。
 確かここからもう少し行くと商業の盛んな町があったな……なるほど、ここを拠点に闇商に人身売買を行っているといったところか、浅はかな人間の思いつきそうな事だ。。
 脆弱な人間の陳腐な考えに呆れ果てて溜息が漏れる。

「ツキ君ツキ君! この木の棒とか剣っぽくない?」

「ミューレット、早くも新たな聖剣を見つけるなんて君は天才か!?」

 地面に転がった1メートル程の棒をぶんぶんと振りまわし幼稚な遊びで楽しそうにはしゃぐ魔王の子と剣聖。あぁ、そうだった溜息を漏らすべきはこちらの阿呆共にだったな……
 同じ馬鹿同士だから気を使わないのか、血のなせる適応力なのかは分からないが先ほどまでモジモジとしていたツキカゲ様もすっかりと持ち前の元気を取り戻しており、お蔭でこちらの疲れは溜まる一方だ。

「隙あり! 食らえポチ、魔王滅殺剣(まおうめっさつけん)~~!!」

 朽ちた木の杭を俺の頭に叩きつけるツキカゲ様。砕け散った白い木屑が俺の銀髪にパラパラと降り注ぐ。

「はっはっはーー! ポチ、お前は今日から白髪だ! や~いや~いポチ爺ちゃん!」

「黙れ、殺すぞ」

「ひ、ひぃぃぃ!!」

 ツキカゲ様を睨みつけてドスの聞いた声で威嚇する。両手をあげてガタガタと震えるツキカゲ様。ちょっと言い過ぎだったか? まあいいか。厳しくしつけないと魔王どころかただの頭が弱いガキになってしまうからな。
 俺は怯えるツキカゲ様の頭をガシッと掴んで自分の顔の方へと近づけ小声で話す。

「ツキカゲ様、忘れていないでしょうね。今回の目的の事を」

「ぶ、無礼な事を言うな、キチンと分かっておるわ。賊から人間の女を救い出しうっかり惚れさせてしまう大作戦であろう? ピンチを演出する為にポチにはやられ役をやってもらう予定だからな、頼んだぞ!」

 ……おっと危ない。うっかりこの馬鹿を殴りそうになってしまった。握った拳の力を緩め冷静にと自分を戒めながら話を続ける。

「違います。今日は演習日なのですよ、一日でローグ村を支配して下さいと伝えましたよね? やっている事がまるで真逆じゃないですか」

 俺の言葉にツキカゲ様は不敵な笑みを浮かべる。

「ふふ、そうであったな。だがポチよ、お前はこうも言ったのだぞ。やり方は俺に任せる、口出しはしない、とな」

「ぐっ……それはそうですが」

 思いもよらぬツキカゲ様の反撃につい言葉を詰まらせる。

「ポチよ、真の支配とはなんだと思う? それは制圧ではない、心を奪う事なのだ。そしてそれは何よりも難しい……だが! 俺はこの困難に立ち向かって見せる! たとえ茨の道であろうとも!」

 珍しくキリッとした表情を見せるツキカゲ様は少しだけ魔王としての風格が漂っているようにも見えた。しかし次の瞬間、地面に落ちていた木の板を見つけると嬉しそうに勇者ミューレットの方へと向け駆け出す。

「ミューレット! 見て見て~この戸板、盾っぽくね?」

 くっそ! こいつただ女と遊びたいだけのくせにそれっぽい事を言いやがって! キャッキャッと勇者と戯れるツキカゲ様を見ながら湧いて来る殺意を必死で抑える。
 ちっ、まあいい。どちらにしてもあの女勇者は生かしてはおけない、手の内が分かったらさっさと始末しよう。そして絆を深めた人間を殺すという役をツキカゲ様にさせる事ができれば……あるいは眠っていた魔王の血が目覚める可能性もある。そう考えると今のこの状況、あながち悪手とも言い切れないか。
 ツキカゲ様にカンフル剤が必要なのは間違いない、そして時間もないのだ。望む望まないに関わらずそれが魔王を目指す責務を負った血の宿命なのだから。


「おい、兄ちゃん、姉ちゃん。誰に断ってここに入って来てんだぁ!?」

 やぶからぼうに廃屋の中から声がする。ぬっと奥から現れたのは手に片手斧を持った人間だった。それに端を発したようにそこいらの廃屋からも次々と人間が出て来る。その数はざっと20人といったところか。にやにやと笑みを浮かべながら四方を囲み俺達ににじり寄って来る。

(あぁ、そう言えばずっと廃屋からドブネズミの匂いがしていたな。こいつらが人間の賊か)

 バレバレだったがあれで隠れていたつもりなのか? あまりに稚拙すぎて逆にこいつらが賊だと気付かなかったくらいだ。とにかくこれでこの賊を一掃して終わりだな、ツキカゲ様の初実戦の相手としてはあまりにレベルが低いがまあいいだろう。

(ツキカゲ様……人間の賊に魔王の血筋であるその力を見せつけてやれ……!)

「あ、すいません。ここって入るのに許可とかいる場所だったんですね、すぐに出て行きます。ほんとすいません」

 へ?
 ペコペコと頭を下げながらその場を立ち去ろうとするツキカゲ様。
相手が賊だと気付いてねぇぇぇ!

「ごめんなさい。あの……この木の棒って持って帰って大丈夫なヤツですか? それとも地面に落ちていた棒でもやっぱり所有権は地主さんにあるんでしょうか? でも風に飛ばされてここまで辿り着いた木かもしれないですよね、そこの判断は誰がするんでしょうか?」

 そして執拗に木の棒に拘り交渉を始める勇者ミューレット。
 おい、お前俺の事を悪人顔だからって賊と疑っていたよな……どう見ても顔だけならこいつ等の方が悪人だろうが。

「ふざけるなっ! てめぇ等今のこの状況が分かってねぇのか!?」

 首領と思われるモヒカンの賊が斧をちらつかせて威嚇してくる。まったくこのモヒカンの言う事には同意せざるを得ない、だから早くツキカゲ様の首に斧でも振り下ろして敵意を明確にしてくれ。じゃないと気付かないんだこの馬鹿達は。

「おっ? へへ……御頭ぁ、随分と上玉が交じっていやすぜぃ」

 賊の一人が勇者ミューレットの顔を見ながらゆっくりと近づいてくる。そして舐めまわすように全身を見て下衆な表情を浮かべる。

「ほう、青髪の女か。まだまだ乳臭いガキだが確かに上玉だ。まだこんな女があの村に隠れていやがったとはな、こいつは高く売れそうだ。くく……わざわざこんな場所までやって来てくれて手間が省けるぜ」

「兄貴ぃ、売る前に俺達で楽しみましょうよ。傷は残さないようにしやすからさぁ」

 そう言って賊の一人がゆっくりと勇者ミューレットの胸に手を掛けようとしたその時……

 バキボキバキボキバキィィ!!
 勇者にちょっかいを出した賊は凄い音を立ててその場でスローモーションのように倒れ込む。当の勇者ミューレットは涼しい顔で倒れた賊に向けて言葉を発する。

「すいません。ちょっと身の危険を感じたので自己防衛を」

「な、な、何をしやがったぁ!」

 突然の事に驚く賊達。しかしそれも無理からぬ事だった。
 おいおい……72連撃かよ、あんな棒切れで凄い速度の剣戟(けんげき)だな。あれでは並み人間は何が起こったのかすら分からないだろう。しかもあれだけの打撃を与えながら棒には傷一つつけない繊細な剣捌(けんさば)きは流石剣聖といったところか。ふっ、しかしこんなものを見せられてはツキカゲ様の魔王の血もさぞ湧いている事だろう。
 俺は勇者の横に居たツキカゲ様へと目線を映す。

「す、凄えぇぇぇミューレット! なになに!? 今何やったの!? 手品? 手品ぁ!?」

 ……駄目だ、見えてない。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ